「さてと。人が掃けたわね」
仮の魔術協会、今回の聖杯戦争での魔術師達の拠点。既に人が殆ど居なくなった会議室を見回しながら絡果は缶コーヒーを開ける。
プシュりという水音をが響いた。
「んっんっんっ⋯⋯。あら、欲しい?」
「要らん。お前の飲み物など何が入っているか分からんからな」
「これに関してはエルメロイ氏に同意だな。化け物からの贈り物などろくなものでは無い」
「心外ねぇ⋯⋯」
この場に残っているのは絡果の他にウェイバーと呉島、そして外でタバコを吸っているグリムロックのみ。
「さてと。やっとホントにホントの本題に入れそうね」
「嫌な予感しかしないが⋯⋯」
付き合いがそれなりにあるウェイバーは苦い顔をする。
「安心して、今貴方が動く場面じゃないの。呉島さんへの提案、というよりも貴方の部下に有益な情報と、提案かしら?」
「ほう? 聞かせてもらおう」
あまり乗り気ではなかった呉島が絡果の一声で表情を変える。
「今、セイバーが落ちたわ。と言ってもただ落ちた訳では無いの。セイバーの霊基を元にキャスター、アジ・ダハーカが聖杯を作成、そしてそのままサーヴァントを七基召喚した」
「ちょっと待ったぁ!? あっ⋯⋯、今サラッと凄いこと言わなかったか?」
慌てて取り繕うウェイバーだが、他のふたりは気にもせず続ける。
「ええ、サーヴァントが聖杯を作成する、この時点でそもそも聖杯戦争の趣旨が破綻してもおかしくないもの。それにそのまま自身の魔力で英霊を七騎召喚した。それをたった1人、マスター無しで行うサーヴァント。明らかなバランスブレイカーよ」
「聖杯大戦のシステムはどうした? ⋯⋯いや、機能しないのか。キャスター自身が作成した聖杯だ、そのシステムを書き換えていてもおかしくはない」
「当たり、流石は元ロード。冴えは衰えていないのね」
「余計なお世話だ」
「⋯⋯俺は全く話に入れないな。要はなんだ?」
魔術談義に花を咲かせる絡果とウェイバーだが、その界隈にはあまり馴染みの無い呉島にはさっぱりなのだ。
「ただ1人で聖杯を創り、英霊を召喚できるサーヴァントはあまりにも危険過ぎる。まだ2日目だけど、他のマスターにはキャスターアジ・ダハーカ討伐に乗り出して貰いたいのよ」
例外的な同盟関係、それは第四次聖杯戦争におけるキャスター討伐と同じような感覚だ。
しかし、中身は違う。たった一基で他のサーヴァントを圧倒出来る戦力と、世界を滅ぼす危険性。そして何より⋯⋯。
「彼の目的、これだけのことが出来て聖杯に何を望むのか。世界の滅びなんてちゃっちいものじゃなくて、もっと本質的な"悪"なる願い⋯⋯大体は予想が着くけど、流石に見過ごせないわ」
「ルーラーは何をしている? 二騎も召喚されているのだ、審判としての役割を果たして欲しいものだが」
「無理。彼、令呪そのものを弾くのよ? こちらの言う事を聞くわけないじゃない。それにルーラーの干渉は最低限に抑えろというのが聖杯からの要望」
「会議の時からそうだが⋯⋯聖杯からの要望なんて聞いた事が⋯⋯んむ⋯⋯」
まくし立てるウェイバーの口を人差し指で塞ぐ絡果。
「冬木の聖杯、覚えてるかしら?」
「⋯⋯ああ。汚染された願望器、第五次聖杯戦争の後に遠坂氏と私で解体した聖杯だが⋯⋯まさか、この聖杯も汚染されていると?」
「似ているようで少し違うの、この聖杯の自我はあまりにも強い、まるでひとつの大いなる意思みたい」
その含みのある笑みを見れば大体の魔術師ならば何を伝えたいかが分かる。が、やはりその方面に疎い呉島は難しい顔をする。
「⋯⋯俺も別に忙しくない訳では無いからその辺の話は後でゆっくりやってくれ。⋯⋯で、俺の役割は天音に同盟の事を持ちかければいいんだな?」
「そうよ、まあ横浜の住民の避難が終わり次第聖杯戦争を再開、そこから他のマスターに呼びかけていくつもり。アジ・ダハーカは⋯⋯私に任せておいて」
二日目にして死者を18万近く出した異例の聖杯戦争。早くも動き出した彼らだったが、既に世界を蝕む悪意は着々と進行している事に気付く者はいなかったようだ。
ーーー
「うわぁ、アタシの家粉々なんだけど⋯⋯」
『仕方ねぇだろ、あんだけアイツらが派手にやったんだ』
「でもさー、服とか回収したいなぁとか思うじゃん? あのコスメ高かったのに⋯⋯」
自身の家へと戻った輝愛だったが、案の定マンションは崩れ、瓦礫の山と化していた。
俊介と共に千衣寓の工房を出た後、阪東から撤退の報告と滅びの領域が解除されているという情報があり、2人は家に戻っていたのだ。
「もー、どーしょ、川崎にじーじいるしそっちに行こっかなぁ、でもじーじ厳しいしなぁー」
『マスター親戚居たのかよ。なんでマンションなんかに⋯⋯』
「両親が他界した後、色々あってじーじに言われてさぁ⋯⋯『金はあるのだろう、いつまでもここにおるな!』ってさー」
『なんつーか、不思議な家だな』
「元々殺しの技術を伝える家系でもあったからさ。こんなもんっしょ」
ヘラヘラと笑いながらスマホを取り出す輝愛。電波が通じているといいなぁ、と思いながら開く。
「⋯⋯、そっか」
輝愛の腕が力無く垂れる。その手からはスマホが零れ、カランカランと虚しく響いた。何か思い耽ること数十秒。
「行かないとね」
輝愛はスマホを拾い、転移を使用。向かった先は⋯⋯。
『オイ、ここ何処だよ』
「ここはね、めぐちの家」
先程の景色とさほど変わらない瓦礫の山、そこには元々1軒の家があったかのような面影があった。
『めぐちっつーと、アイツか。マスターの友達』
「そそ。友達だった、が正しいけどさ」
悲しそうに小さく笑う輝愛は表札の「涼宮」という看板を拾う。
そして瓦礫の隙間の山を進んでいくと、リビングだったと思われる場所を見つけることが出来た。
そこには屋根の残骸の隙間から2人の女の子の死体が微かに見えている。
顔や身体の殆どが見えないものの、付き合いの長い輝愛には分かる、その死体が恵と澪のものだということに。
『さっき、スマホを見た時真っ先にここに来たよな。あれって⋯』
「あれ、視覚も共有されてるんじゃなかったっけ? ⋯⋯まあいいや。そうそう、コレコレ」
そう言って輝愛はもう一度スマホを取り出す。そこには15時頃のグループRUNE。
『今日の夜めぐん家行ってもいい?』
『いいよー! 輝愛は?』
『アレ? 輝愛寝てるのかな?』
『ま、後で気がつくっしょ!』
というもの。
「アタシらの家って学校から近いからさ、巻き込まれてるかなって薄々思ってた」
と、輝愛はヘラヘラと笑いながら大福に向けて呟いた。
アジ・ダハーカによって時間が飛んだのは輝愛や俊介含む魔術師のみ。一般人の時は通常通り進んでいるのだ。
『⋯⋯悲しいんだろ。強がんなって』
その感情の波は同化している大福には分かる。彼女にしては珍しく悲しみの感情があった。
「⋯⋯はは。分かってはいたよ。でもさ⋯⋯」
自然と頬を伝う涙。それはそれ程までな2人の事を慕っていた証拠。
『お前も泣いたりするんだな。っつーか、そんくらい仲良かったのか』
「うん。アタシさ、小学校行ってなくて。ずっと外国にいたんだよね」
珍しく輝愛の口から生い立ちが語られる。
「日本に帰国して、中学校に通い始めたはいいんだけど、全然友達いなくて。ずーっと1人だった。でもめぐちとみゃおが話しかけてくれたんだ」
何気ない一言、彼女達からすればなんともない日常の中。
そんな些細な出来事で輝愛は2人に救われていた。
「別に友達なんていなくてもいいし、とか思ってたけどさ。1人とか寂し過ぎだし」
『それで、か。俺はこの世界に疎いからあんまし分かんねぇがな。ただそれだけってのはちょっと拍子抜けだな』
「ははっ、それ言われちゃおしまいかなぁ、大福人の心ないわ」
『元々人じゃねぇから』
大福は輝愛の気を紛らわせようという意図の軽口のつもりだったが、輝愛の心は収まらない。
「⋯⋯ごめん」
『別にお前が悪いわけじゃねぇだろ』
「アタシが生き残ってるって事は救えたって事」
輝愛はナイフを袖から取り出し、2人の死体に小さく刃を入れる。
すると2人はそのまま塵へと帰り、虚空へと消えた。
「墓とか立ててあげたいけど⋯⋯今はこうして弔わせて」
手を合わせ、黙祷。
「今までありがとね、2人とも」
そう言って輝愛は振り返り、大福へと言葉を向けた。
「行こう、大福」
『もういいのか?』
「うん、聖杯戦争、続くんでしょ」
『そうだけどさ⋯⋯』
「とっとと終わらせて、平和にしよ?」
『⋯⋯』
輝愛は静かに涙を流しながら大福に命令する。
「大福、アタシをこの戦いで勝たせて」
輝愛の舌がチリチリと燃える。令呪の一角が消費されたのだ。
『任せろよ、マスター』
輝愛と大福の能力が変わった訳では無い。
これはただの決意である。
平和のために支配し、死ぬ。それを成し遂げようとする少女がその過程を超えるためだけのもの。
そして一匹の番狼は知りたいと思った。別の世界、別の理に支配された曲面の世界に住むひとりの少女、世界に平和を齎そうとするマスターの事を。
いかがでしたか? 最後に挿絵、入れたかったなぁ…。再来月辺りにしれっと追加されてるかと思います。
次回はキャラ解説になります。ステータスやスキル等公開できる範囲で載せていこうと思いますので是非ともご覧くださると嬉しいです。
これにて一章終了になります。よろしければ感想やコメント、評価等してくださるとモチベーションにつながりますのでお願いします。