「チンタラしてんな! 早く設置しろ!」
横浜市郊外。横浜市民全員を各地に運んだ後、陸上自衛隊特殊作戦群数名が路上に一定間隔でモノリスを置いていた。
自衛隊車両での設置だが、特別障害となるものはなく、順調である。
「へぇ、流石は盤外遊撃部隊。この調子なら今日中には終わるんじゃないかしら?」
「⋯⋯チッ、なんだよ絡果」
「少しは見ててもいいじゃない。私と貴女達の付き合いでしょう、グリムロック?」
絡果が転移でグリムロックが運転している車両の助手席に乗っていた。
白髪と白衣がトレードマークの女性、陸上自衛隊特殊作戦群盤外遊撃部隊特別技術顧問のグリムロック・クイン・グラフ。
彼女は地球上で最も優れた医師であり、最も優れた武器商人と言われている天才だ。紛争地帯をその身と己で改造した銃で乗り切った猛者であり、現在は陸将の呉島に雇われている。
「今回はてめぇの差し金だったよな? 何を企んでんだよ?」
「心外ねぇ。私が主犯の証拠はないじゃない。それに私はただ人間を見ていたいだけ、何を考えてどう行動するのか。そのための監督役よ」
「うるっせぇ、てめぇがいる時点で一気にきな臭くなんだよ。大体この作戦自体お前の主導してんだろ?」
ゆったりと、箔のある声で問い詰めるグリムロック。
「少し調べさせてもらったぜ。てめぇの魔術協会所属中に関してな」
「よくこの短時間で。あれから5日しか経っていないのに」
「ついでに言えば、聖堂教会にも居たらしいな。今はフリーの魔術師として幅を聞かせてるとか。で、問題はそこだ。魔術協会と聖堂教会は犬猿の仲、よく受け入れられたよな。お得意の『変装』か?」
「ふーん⋯⋯ふわぁ⋯⋯」
絡果は意味深な笑みを浮かべると小さく欠伸をひとつ。
「ここ、少し暖かすぎないかしら?」
「話を逸らすんじゃねぇよ。⋯⋯まあいいけどな。アタシらはそっちの魔術事情は知らねぇ、勝手にやってろ」
「貴女達とは完全に系統が違うもの。この大規模な結界魔術もそのひとつ。よくもまあここまでの規模で『ナーク=ティトの障壁』と『平凡な見せかけ』を展開出来るわね」
助手席のシートを下げ、完全におやすみ状態の絡果である。
「本来の『平凡な見せかけ』は実質的に言えば内部を異界化させる魔術だが、これは外見だけのハリボテ。別に大したことじゃねぇ。それに『ナーク=ティトの障壁』も完全なものじゃねぇ」
「それでも規模は大したものよ。魔力はどう賄っているの?」
「別に教える義理は無い、って言いたいけどな。東京にある駅全部に魔力供給装置が取り付けてある」
「駅⋯⋯ああ、電子決済かしら?」
「よく分かったな」
改札口にあるICカード乗車券は性質上、その手でカードを近付けて利用する。その時に魔力を改札口から1部徴収、地下にある人口の魔力流にのせて横浜基地へと送っているのだ。
「国家権力の有効利用ね。魔術協会でもここまではしないわよ?」
「んむんむ⋯⋯。やれることは全部やる。別に大したことにはなりゃしねぇしな。精々少し疲れるくらいだ」
コンビニのソーセージパンを頬張り、それをお茶で流し込むグリムロック。
「術式の維持に関してはもう人工の地脈を作ったから問題無い。ただ、内部からの衝撃には気をつけてくれよ? 流石にレーザーやミサイルなんざ撃ち込まれたらぶっ壊れるからな?」
「それはまあ、成り行きよ。⋯⋯眠くなってきたわ」
「死ね。寝るなら外で寝ろ。そもそもてめぇは寝ないだろ」
そんな軽口を叩き合いながら、2人は作業が終わるのを見届けたのだった。
ーーー
俊介が目を覚ますとそこはソファーの上。起き上がると私服のエルキドゥが朝食を作っていた。結ばれたポニーテールの髪と部屋着っぽいカジュアルな服装である。
「お目覚めかな、マスター?」
「ああ。周辺の状況は?」
「相変わらず何も動きは無いね。あと、寝る時はちゃんとベッドで寝るべきだ。疲れが取れないよ」
「分かってはいるんだけどな。でも僕はこれで十分」
千衣寓の拠点襲撃から5日。聖杯戦争が開始して一週間だが、5日前とは状況はだいぶ変わっていた。
俊介が輝愛と別れた後、すぐに絡果が合流。監督役の権限でアジ・ダハーカ討伐の依頼と、そして横浜封鎖の件を伝えてすぐに姿を消す。
魔術師であった両親とは連絡が取れたため無事を確認。巻き込まないために近くのホテルで一泊した所で陸上自衛隊を名乗る者達が特殊なテントを俊介に渡したのだ。
技術者曰く⋯⋯。
『中の間取りは2LDK。周囲の魔力で電力、水、火力を賄ってるからその辺注意して使えよな。あと迷彩機能付き。アタシらの技術の結晶だ、丁寧に扱えよ?』
アジ・ダハーカの件での協力代との事。横浜が封鎖すれば外に出ることは出来ないため俊介にとっては普通に有難い。
魔術的な発振器はなく、また機械的なものも無いため使っているが結構快適で便利だと感じている俊介。
「食料は自主調達とはいえ、本当に便利だな。自衛隊はよくこんなものを⋯⋯」
そう思い耽ていると、エルキドゥがテーブルに催促する。
「早く食べなよ。簡単なものだけどね」
「ありがとう、助かる。とりあえず簡単に3日後からの追加ルールについて改めて打ち合わせをしたい」
「いいとも。微力ながら力を貸そう」
微力じゃない、と心の中で呟く俊介。
「まず、横浜から出ることは出来なくなる。これは既に確認したはずだが⋯⋯」
「横浜郊外で衛兵が監視の目を向けているね。でも別にこれくらいなら抜けられないことは無いけど?」
「あれは魔術師じゃないからな。どうしてこの命令を受けたのかも理解していないらしいし」
実際に俊介とエルキドゥは横浜郊外で多数の自衛隊員が徘徊しているのを確認している。
「ただ、これは内側からの視点であって外側からは僕達がいないように見えているらしい。これは荒島さんが言っていたことだ術式名は確か⋯⋯」
「ナーク=ティト、彼女はそう言っていた。この術式はマスターの記憶にはある?」
「無い。でもこの横浜を囲えるくらいには大きい術式だし、自衛隊が秘匿していたのなら納得だ」
俊介は少し気に入らないな、と呟いた。
「それと未確認サーヴァントが七騎、アジ・ダハーカに召喚されたとか。それらの討伐一騎につき一角の令呪を報酬とし、アジ・ダハーカ討伐の翌日に反映するとの事」
令呪は単純な魔力リソースになる他、サーヴァントに対する絶対命令権がある。戦力補強にはもってこいの措置だ。
「やりがいがあるのはいいね。でもそのサーヴァントに関する情報は無いと」
「それに関しては荒島さんとの交渉次第。そんな雰囲気あったしな」
ズズズ、とコーヒーを口にしたところで目を丸くする。
「エルキドゥ、コーヒー入れるの上手くなったね」
「そうかい? それなら嬉しいよ。少し練習したからね」
実は俊介はコーヒーが好きでよくカフェ巡りをしているのだ。
「⋯⋯話が逸れた。協力者は今のところ僕と恐らく神崎さん。阪東に関しても多分乗ってくる」
「その根拠は?」
「そこに戦いがあるから」
「納得」
戦いを求める彼は必然的に荒島絡果の魔術協会陣営とアジ・ダハーカ陣営の抗争は絡んでくる。
「今回の聖杯戦争に関係無いサーヴァントと戦えば戦闘回数が多くなる時点で参戦するのは確定。他は未定だが⋯⋯協会側からはウェイバー・ヴェルベット氏が補佐を行うらしい」
「最低限のメンバーは集まっているようだね。それで、まだ彼女と連絡は取れていないのかな?」
輝愛とは2日目の夜に別れて以降連絡がついていない。どこかに潜伏している可能性は高いが、同盟関係にある俊介とも連絡を取れないとなると流石に不安になってくる。
「一応は聖杯戦争に参加しているマスター、敵が減るのは喜ばしい事だと思うけど」
「形式的にはな。でも、彼女は
「⋯⋯その話はまた後での方がいいかもね。他には⋯⋯アジ・ダハーカを倒した後も同じく令呪?」
「いや、それは無いらしい。ただトドメを指したマスターは監督役に対して何か一つ要望が出せる」
「令呪は監督役が持っているからね。何個か融通してもらう事も出来るし、自陣に有利なルールをひとつ追加するのもいい」
監督役への要望という権限は思っている以上にできることが多いのだ。
「あと戦闘していい時間は24時間。つまりは深夜縛りが無くなった。ルールの背景的には納得だが」
「人目につくつかない以前に人がいないからね」
空模様が嫌味なくらいに澄み渡る青色で満ちている今ですら、外に出れば戦闘の危険性があるということ。
「重要なのはこの辺りだな。ルールではないがこのテントはこの後の横浜封鎖中ずっと使える。なんなら聖杯戦争後も好きにしていいとか」
「これ便利だよね。魔術の力って凄いや」
外見は手狭なテントだが2LDKで健全な生活空間と魔力によるエネルギー供給。おまけに収納時は手のひらサイズの箱に早変わり。魔術の力は偉大なのだ。
「現在地は赤レンガ倉庫、人は居ないから少し食料を拝借しておこう」
「うわぁ、マスター⋯⋯」
「食料確保は必須だし⋯⋯大目に見て欲しい」
お土産コーナーで幾つか物色し、テントの中にある冷蔵庫へと放り込む。中にあるものは全て小型化されるためある種の異界だと言ってもいい。
俊介はテントを縮小させ、回収すると今後の方針を確認する。この場所はちょっとした公園になっており、普段であれば子供が駆け回っていたような場所だ。
「まずは誰かと合流だな。一人でいると確実に狩られる。神崎さんか阪東⋯⋯出来れば神崎さんの方が⋯⋯」
突如、キーン、という耳を劈くような音と強い風が巻き起こった。
「ジェット機? いや、今ここは飛行禁止空域のはず⋯⋯」
「マスター!」
エルキドゥは天空から彗星の如く飛来する蒼色の物体から俊介を守るために、地面を変形させ土で簡易シェルターを形成する。
その彗星は速度を低下させないままシェルターの目の前に落ちてくる。
「ぐっ!」
その衝撃で簡易シェルターは吹き飛ぶものの、俊介は障壁を張りなんとか持ちこたえる。
「誰だ!」
土埃を巻き上げた物体、いや存在は着地の直前に作られたクレーターの上で滞空しており、俊介とエルキドゥの頭1つ上の高さに居た。
「現地民、発見」
身長は150cmよりも小さい長い銀髪の少女。全身青色のスーツのような鎧を着ており、腕には武装パーツらしきものを装着しているものの、パッと見だと使用用途は不明。
魔法陣のような奇怪な紋様が描かれた仮面を付けているため素顔は分からないが、大人しく、流麗なその声だけで人々を魅了するような美しさがその人物にはあった。
「⋯⋯未確認サーヴァント」
空からの襲撃は想定していなかったものの、即座にアジ・ダハーカが召喚したサーヴァントだと推測。
「そっちからやってくるとはね。随分と自信があるようだ」
エルキドゥは既にやる気で満ち溢れていた。
「おや、どうやら敵視されているらしい。それがこの地の流儀というのなら吝かじゃないけどね」
そう言って少女は俊介とは反対側の平地に着地する。
「僕は妖精國ブリテン最強の騎士、妖精騎士ランスロット! そちらが手合わせを望むなら、いいとも! 相手をしてあげるよ!」
妖精騎士ランスロット可愛いですよね。決して作者が好みで、出したいから出した訳ではなくちゃんと理由があるから出しました。