「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
藤丸が特異点に到着したはいいものの、いつも通りそこは上空1000m程の位置。恒例行事である。
「先輩!」
と、マシュが手を伸ばすが、藤丸がその手を掴む前にその姿が消える。
「えっ!」
「全く、僕がここに居るんだ。マスターにそんな危ない事はさせないよ」
颯爽と現れて藤丸を回収したランスロットは、藤丸の意識が飛ばない程度の速度で着陸、そのまま瓦礫だらけの地面を吹き飛ばし、平にする。
「マシュは自分で降りてこれるよね?」
「はいっ、ランスロットさん!」
ドン! という衝撃と共に着地したマシュ。
「2人とも大丈夫?」
藤丸はマシュとランスロットを心配するように声をかけるが、2人はサーヴァント。この程度ではビクともしない。
「大丈夫です。先輩こそお怪我は?」
「無いよ、ランスロットのおかげだね」
「サーヴァントとして、騎士として当然の事をしただけさ」
普段の可愛らしく、少し幼げなメリュジーヌとは違い、今は妖精騎士。対応が少し違うのだ。
そしてピピーという電子音が藤丸の手首から鳴る。
『⋯⋯おっと、繋がったね。周りの様子はどうだい?』
カルデアにいるダ・ヴィンチである。普段はこうして連絡を取り合い、作戦や知識面でのサポートを行っているのだ。
「ええっと⋯⋯」
藤丸は辺りを見回してみると、そこは元市街地だったと思われる場所。一面コンクリートの瓦礫だらけであり、壊滅状態である。
人気はなく、明らかに何かがあった後という状況に3人は唖然とした。
「何も無い、というより何かがあった後です」
『ふむ⋯⋯、なるほど。よし、こちらでも確認したよ。その場に留まるのは状況的にもまずいかもしれない』
「ただ、移動しようにも⋯⋯行くあてがありませんね」
マシュと藤丸、そして無線のダ・ヴィンチが相談していると、ランスロットが離陸体勢に入っていた。
「誰か探してくるよ。待ってて、マスター!」
ドン、という空気を揺らすような音と共にランスロットは空へと消えてしまった。
「⋯⋯行っちゃいましたね」
「大丈夫⋯⋯かな?」
『状況次第さ。最悪の場合令呪を使って呼び戻せば問題無い。幸い周辺に適性反応は無い。霊脈を探すのもいいかも⋯⋯』
「マスター! 待ってください!」
マシュが盾をかまえ、瓦礫が山になっている所を向く。
そこには一匹の黒い猟犬が居た。
四足歩行の獣ではあるが、明らかに既存の生物では無いナニカ。その口からはチロチロと長い舌が見え、炎のような揺らめく瞳をしている。醜悪な肉体と、青みがかった不浄の液体を垂れ流すその姿はマシュと藤丸の方へと歩みを進める度に姿形を変えていた。
「敵! 敵です! 魔獣⋯⋯とは何か違いますが⋯⋯とても心がざわつきます」
「うん、俺も見ていて気味が悪い⋯⋯」
盾を構えて攻撃に備えているものの、猟犬は襲いかかる素振りは無く、何故かマシュを凝視している。
『嘘! こっちから見ても何も無いよ! 周辺に生命反応は無い!』
ダ・ヴィンチの観測には映らない猟犬は、ダ・ヴィンチが叫んだ瞬間にマシュへと飛びかかる。
「!」
猟犬の爪をマシュは盾で弾き、そのままシールドバッシュ。逆に大きく猟犬を跳ね返した。
「マシュ!」
藤丸は礼装に込められた魔術を放ち、さらに猟犬の動きを止める。
「アレは、危険です。今すぐメリュジーヌさんを⋯⋯」
そうマシュが藤丸に伝えようとしたところで⋯⋯。
「こーんな所で何してんの? 流石にアタシも気になって出てきちゃったし」
はぁ、とため息と活気のある声が藤丸とマシュの後ろから聞こえてくる。
「ど、どなたですか?」
2人が振り向くとそこには黒のポンチョコートを着た金髪の女の子。
「アタシ? まあ、名乗るのは殺し屋としてどうかなーって思うけど、まいっか! アタシは神崎輝愛。横浜聖杯戦争のマスター、アサシン担当でーす!」
何故かひたすらにテンションが高い輝愛がそこに居た。
「せ、聖杯戦争!?」
『なんで! 生命反応は無かったはずなのに⋯⋯』
「ど、どうしましょう? 敵意はなさそうですが⋯⋯」
「出来れば⋯⋯その⋯⋯自己紹介して欲しいなって。あとアタシのペット吹っ飛ばした件について釈明を」
ちょっとムスッと腕を組んで視線を向ける輝愛。
「えっ? ペット⋯⋯さっきの!?」
藤丸が驚いて輝愛の反対側、視線の方向を向くと、そこにはちょこんと座っている猟犬が居た。
「うりうりうり、痛かったかー? ごめんねアタシがちょっと離れてる間にー、お勤めありがとねー」
そして輝愛がどこからともなく現れ、ひとしきり撫でると猟犬はどこかへ消えてしまった。
『なぁオイ、絶対これ相手が困惑してるぞ』
「大丈夫だって。アタシもよく分かってないし」
大福の声が輝愛の身体から聞こえてくるものの、それがなんなのか藤丸達には分からない。
「えっ、ええっと⋯⋯?」
「ああごめんごめん。でも必要な事は話したと思うんだよねー、て事で自己紹介よろ?」
「あ、ああうん。俺は藤丸立香、こっちは⋯⋯」
「マシュ・キリエライト、先輩のサーヴァントです」
「あーね、サーヴァント⋯⋯げっ! マジ?」
輝愛は1歩後ろに下がり、袖からナイフを取り出す。
「助けちゃダメな感じだった? マスターとサーヴァントならアタシらの敵だよね?」
『普通ならそうだけどな。ただマスターが薄々感じてる通り、アイツら敵意がねぇ。話のひとつを聞くのも悪くないと思うぜ。大体、残りのマスターってライダーだろ? あの盾の女、絶対違う気がするんだよ』
「それはそうなんだけどさ⋯⋯。まあ何とかなるっしょ。で、藤丸くんとマシュちゃんはどうしてここに? 言っとくけど、説明で魔術の用語使ってきたら速攻で帰るからね」
「え、えぇ⋯⋯?」
「なんだか⋯⋯すごい人ですね⋯⋯」
藤丸とマシュが苦笑いを浮かべながらどう話そうか考えていると、ダ・ヴィンチ真面目な顔で乗り出す。
『初めまして、私はレオナルド・ダ・ヴィンチ、カルデアという組織で作戦や指揮を担当している』
「えっマジ? ダ・ヴィンチってあの? ヤッバ、今めっちゃ凄い人と話してんじゃん!」
『私達はこの特異点、歴史の修正を行うために2017年からやって来たんだ。ここには来たばかりだから今ここで何が起きているのか、さっき君が口にした聖杯戦争の全容を聞かせてくれるとこちらとしても嬉しいんだけど⋯⋯』
その問いかけに反応したのは意外にも輝愛では無く大福だった。
『待った。ダ・ヴィンチとやら、今時間を超えてって言ったな?』
「大福? そのまま喋っても説明増えるだけじゃない?」
『あ、ああそうだそうだ。俺は⋯⋯まあマスターの中に現界してるサーヴァント、マスターからは大福って呼ばれてる。で、ダ・ヴィンチ。時間を超えたら俺の眷属が襲ってくる筈なんだが、どうやって克服してんだ?』
『⋯⋯、大福くんの状況について後で改めて聞くとしよう。時間を超えたら君の眷属が襲ってくる、というのは? 少なくとも我々は一度もその状況に出くわしたことは無いよ?』
『そのままの意味だ。俺の眷属は時間の角に住み着く猟犬だ。時間を飛び越えた時点で観測されて、死ぬまで一生追い回す。そういう特性があんだけどよ⋯⋯えっ? マジで無いの?』
「そうですね、私と先輩は何度もレイシフトを経験しましたが、そういったことは有りませんでした。強いて言うなら先程襲われましたが⋯⋯」
マシュがこれまでの出来事を思い出すように言う。
「それはここがあの子の監視範囲だったからノーカン。流石に違うでしょ」
「「「『『⋯⋯』』」」」
沈黙。
「コラー! 大福がダ・ヴィンチの話の腰を折るから会話が変な方向に行っちゃったじゃん!」
『わ、悪かった悪かったってマスター! あんまり怒らないでくれよ!』
「今はなんかよくわからないけど、困ってる藤丸達の話を聞くのが優先。で、 色々聞き終わったらこっちから質問する! 質疑応答の基本! 一応王様なんだからさ!」
『分かったって⋯⋯ったく、人間っつーのは難しいぜ』
いつもの実質1人コントが始まり、なんだかんだそれが二、三分ほど続く。
「で、2人はどうするの? さっき飛んで行ったあの子待ち?」
急に輝愛がマシュと藤丸の方へと向く。
「そうですね、ランスロットさんが⋯⋯あ! 来ましたよ!」
空を見ると戦闘機のように青い光を放つ存在が勢い良く降りてくる。
辺りを衝撃と閃光で満たしながら、着陸するランスロット。
「マスター、現地のマスターを見つけたよ。すぐに来るはずだ」
「うおっ、凄いね人類にはこんな速さで動く偉人が居たなんて⋯⋯」
『いや、流石に人じゃないだろ⋯⋯』
「む、ところでキミは?」
そんなこんなで妖精騎士ランスロットと輝愛が自己紹介していると、俊介がエルキドゥに抱えられながら走ってくる。
「お、お待たせ⋯⋯って神崎さん!?」
「うっちゃんお久ー、元気してた?」
「まあ、してた。⋯⋯雰囲気変わったか?」
「お? 何々? わかるー? ちょっと変わったかもねー?」
久々の再開に喜ぶ2人。
「この2人が妖精騎士ランスロットのマスター、という事でいいのかな? 僕はエルキドゥ、そして彼がマスターの宇都宮俊介」
「エルキドゥ、僕抜きで紹介を⋯⋯」
「だってマスター、再開して嬉しそうだったからついね」
エルキドゥなりの気遣いという事である。
「立ち話もなんだし、ゆっくり休める所に行こっか。あれ、大福ー、『門の創造』ってみんなまとめて飛ばせるっけ?」
『あぁー? ⋯⋯行けるはずだぜ』
「さんきゅっ」
そう言って輝愛が指を鳴らすと⋯⋯。
「じゃあ場所移すよー」
その瞬間、その場にいる全員の視界が暗転した。
いかがでしたか。今回は割と茶番多めな回になってます。ずっと戦闘パートなのも流石に息が詰まりそうになると思いますので。お茶でも飲んでゆっくりしていってね。