Fate/The Fatal Error   作:紅赫

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ようやく輝愛が出てきましたが⋯⋯まあ、ここから少しずつ変わっていきます。どう変わるかは、お楽しみにということで。


会談

 

 

 

 景色が戻った時、そこは森の中だった。

「うーん! 戻ってくるのは久々だねー!」

 周囲は木々で覆われ視界が狭まる中、正面にあるのは昔ながらの古民家。築100年は下らないであろうその家は、何故かその周囲だけ整備されており、人が住んでいるのを感じさせている。

 

『藤丸君、大丈夫かい?』

 ピッピーという音とともにダ・ヴィンチとの回線が繋がる。

「は、はい。ここは⋯⋯?」

『位置情報的に川崎市だね。横浜の隣さ。ただ、正確な場所までは分からないように細工されている⋯⋯』

 

「一応ここがじーじの家かな。久々にゆっくり出来るー!」

 思いっきり背中を伸ばし、その古民家の扉を開ける輝愛。ガラガラと古めかしい家によくあるスライドした時の音が鳴り響く。ちなみに結構うるさい。

「ねぇー早く来いしー! 玄関入って右が居間だから適当に座ってちょー」

 

 そう言って輝愛はそそくさと入っていく。

「え、ええっと⋯⋯?」

「いい、のか?」

 いつも通りマイペースな輝愛に戸惑う俊介と藤丸。

『いいんじゃないかな? 私達としてもゆっくり話が出来る方がいいからね。⋯⋯それにしても、ここまでの大規模転移魔術は中々お目にかかれないから、後で色々聞いてみたいなぁ⋯⋯』

 

 どこか楽しそうなダ・ヴィンチの催促に後押しされるような形で玄関の扉前に向かう。

 中は外と同じ木造。狼のような、犬のような姿の大きな木製の人形や、こどもの日の兜、熊の剥製といったあまり見ない置物は多いものの、歴史を感じさせる内装となっている。

「お、お邪魔しま⋯⋯」

 

「マスター! そこを動かないで!」

 藤丸が挨拶して家に足を踏み入れようとした瞬間、ランスロットに止められる。

 直後、藤丸の眼前に銀色の閃光が走る。そのまま1歩を踏み出していれば間違いなくその眼球は切り裂かれていたという距離に。

 

「先輩!」

 後ろにいたマシュが駆け寄ろうとするがランスロットが止める。そしてランスロットが己の右腕に装着している武装を反転させ、銀色の閃光を受けつつ目の前の人物に呼びかけた。

「貴方がじーじ、かな」

 

「⋯⋯ほほう、あっしゃの剣を目視出来るたぁ、中々やるなぁ嬢ちゃん?」

 そこに居たのは長袖Tシャツの短パンという外出には向かない完全に部屋姿の男性。70代近くの老人だが190はあろう身長と、隆々たる体格がその見た目の存在感を際立てている。

 しかし、それは見た目のみ。実際には存在を感知することすら難しく、気配が完全に消えていると言っても過言では無い。現にこの場にいる全員が、目を逸らせば彼がそこに居るという事を認識出来なくなりそうな違和感を覚えている。

 

 老人はその剣、2m近くある大太刀を背中の鞘に収めると、2階のベランダ前の屋根に跳躍して飛乗った。

「じーじ? ⋯⋯ああ、あっしゃがあの輝愛(バカ孫)の祖父。神崎秀郎じゃ。ところで輝愛(バカ孫)はど⋯⋯?」

「ねぇじーじ? 一応アタシの客なんだよ、ねっ!」

ベランダの隅から飛び出してくる輝愛はそのままナイフで秀郎に斬り掛かる。

 

「のっのわっ! どこから出てきたっ! 止めんか輝愛! 行儀が悪いぞ!」

「黙らっしゃぁい! じーじは黙って部屋を貸せし!」

 口で言い合いながらも、大太刀でナイフを受け止めて反撃を行う秀郎と、それを軽々と回避し、更に追撃を繰り出す輝愛。

「あっしゃとばーばの家じゃここはぁ! あと勝手に客を呼ぶな!」

「なら孫も使っていいでしょ! じーじは殺し屋から足洗ったんだし、いいじゃんちょっとくらいは! だいたい、家ぶっ飛んじゃったから今まで野宿だったんだけどぉ!」

 

「⋯⋯なんと? 本当か?」

 一般人から乖離した異次元じみた斬り合いの末、輝愛の言葉にピタリと動きを止める秀郎。

「マジ! マジのマジ! じーじもラジオくらい聞いてんじゃないの?」

「あっしゃの家にそんな文明の利器(はいてく)なものは置いとらん! 辛うじて水道と電気が通ってるくらいだわ!」

「ラジオはもうハイテクじゃないし! とにかく、少しの間使わせてよね! 色々話すからさ!」

 

 ぷんぷん、と腕を組みながら秀郎を睨む輝愛だったが⋯⋯。

「分かった、適当に使えぇい。じゃが、先に⋯⋯その⋯⋯輝愛、先に着替えを終わらせたらどうだ?」

「⋯⋯へっ?」

 今更ながら、輝愛は今の状況に気が付く。

 

 なんと、着ていたのがピンクのヒラヒラとした装飾が施されたそこそこ派手なブラ(推定Fカップ)とパンツという下着オンリーな姿だったのだ。

 

 

 

「あぁぁぁ!!!! 着替え中だったしぃぃぃ!!!!」

 

 

 

 輝愛は叫びながら、最寄りの角を通って風呂場へと向かった。

「⋯⋯コホン。よっと、まあなんだ。久々の客人だから少しはしゃいじまって。とりあえず上がれ」

 ゴリゴリ、と首や腕を回しながら再び大太刀を鞘に収め、屋根から玄関に降りてくる。

「人間と人ならざる者2人ずつに混ざり者1人程度なら、あっしゃらの家でも入るじゃろて」

 

 秀郎は玄関の棚から箒を取り出し、ぱっぱと払う。

「何をしておる? はようせんか」

「えっ、あっ⋯⋯お邪魔します⋯⋯」

「失礼しますね、神崎さん」

 今度こそちゃんと挨拶を言えた藤丸。

 

 輝愛に言われた通り玄関から居間へと向かう。

 居間は20畳程でとても広く、ダイニングテーブルや座卓、ソファーといった現代家具から囲炉裏や縁側といった昔ながらのものまで様々存在する。

「ほれ、適当に座れい。輝愛が来るまで茶菓子でも食っとるか?」

 

「あ、いえお構いなく⋯⋯」

「僕は欲しいかな、ここに現界してから和菓子というものを食べた事がないからね」

「エルキドゥ、図々しくないか⋯⋯?」

「マスターこそ、ここは遠慮する場面じゃないと思う」

 むむむむ、としかめっ面の俊介と、座卓の上にあるお菓子を見ているエルキドゥ。

 

「ほれ、そこにある。好きに食え。⋯⋯人ならざる者でも茶菓子は食うのか」

「おや? 僕達の事が分かるのかい?」

「じーじは場の空気とか声、発生する気である程度どういう存在かを認識出来るの。腕前やエネルギー、コンディションとかその辺もね。アタシは元々じーじが話す『人ならざる者』なんて信じてなかったけどね!」

 エルキドゥが興味津々で秀郎に尋ねると、居間に入ってくる輝愛が答える。

 輝愛は風呂から上がると部屋着に着替えていた。しっとりとした皮膚に水滴が滴る長い金髪。そして部屋着で強調される胸部と色っぽさを醸し出している。

 

「ファッファッ。そういう事じゃ。最初に見た時、そこの仮面の娘っ子と黄緑はもう人ならざる者と分かったからな。次点で盾の娘は黄緑の主、仮面の娘っ子の主は一般人に近いかの? 年相応の小僧だ」

「よ、よくお分かりで⋯⋯」

 藤丸は苦笑いを浮かべながら返答する。

 

 藤丸立香は元々「ただレイシフト適正が高いだけの一般人」なのだ。今はカルデアのマスターとして特異点修復や異聞帯攻略を行っているものの、本来その任務は彼の能力を見れば不相応、理不尽な難易度なのだ。

「ただ、小僧は相当の修羅場をくぐって来たのは分かる。精神が出来上がっちょる。それにあの仮面の娘っ子、人ならざる者の中でも格が違うわい」

 

 ファッファッと大きく笑いながらお茶を飲む秀郎だが、すぐにお茶を詰まらせてしまった。

 名指しされたランスロットはソファーに座る藤丸の膝の上に座っている。

 そしてその発言を感慨深そうに聞いている俊介。

『そこまで分かるのは、何か魔術的な何かかな? 秀郎氏?』

 藤丸の腕時計からダ・ヴィンチが顔を出す。

「ゲホッゲホッ! ⋯⋯魔術? ンなもん知らんわ経験じゃ経験。当たってるなら感覚が鈍ってなくて良かったわい。⋯⋯なんじゃ? 最近の機械は凄いな、ホンモノみたいだ」

 

 ダ・ヴィンチに差程興味も見せない秀郎は、キッチンへと向かう。

「自分の客人くらい自分で世話せい。せめて、会話でもしたらどうだ? あっしゃ適当につまめるもの乗せとくわい」

「じーじたすかるぅ!」

 

 輝愛は座卓付近の小さな冷蔵庫からコーヒー牛乳を取り出した。

「よーっし、じゃあ本題に入ろっか! テキトーに座って、知りたいこと聞きたいこと、事情なりなんなり話し合うということで!」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「つまり貴方達はカルデアという組織の一員で、歴史の分岐点、通称特異点を修復するために2018年からこの時代にやってきた、と」

「はい、私達の時代では世界の白紙化が起きていて、人類史に未来は無かったはずなのですが⋯⋯こうして2025年に来れてしまいました⋯⋯」

 現在はカルデアの事情を聞き、特異点修復という任務を理解したところ。しかしながら。

 

「で、その特異点発生と同時に2018年に世界滅亡の危機と。ふじまるの時代ヤバくない? てかアタシらそんな事件無かったよね?」

「そうだな、少なくとも2016年の記憶はあるし、魔術世界でカルデアという組織は聞いたことが無い」

 この辺りで互いの認識が違ってくる。

 

 藤丸達は「2016年から2017年は誰の記憶にも残っていない」という主張に対し、輝愛達は「そもんな事は無いし、何よりそんな事件は無かった」というもの。

「まあでも、この辺りは平行線だよね、そもそも彼女のようなサーヴァントがいるんだ。辿ってきた歴史が違うというのは有り得そうじゃないかな?」

 エルキドゥはランスロットに目を向ける。彼女はソファーに座る藤丸の膝に無言で座っていた。

 

『ならここが特異点になっている理由が無いんだよね。そもそも別の世界なら観測出来ないはずだし⋯⋯』

「あーもー! 話が難しい! 硬っ苦しいし、なんかまるまるのところは人類滅亡してるし!」

「まるまるって、俺?」

「そう! まるまる!」

 

「そうね、中々こんがらがっているみたいだし、私がある程度情報出してもいいかしら?」

 ふとその言葉が神崎家に響く。その声色は甘く、そして氷のように冷たいもの。

「絡果!? いつから!?」

 そう、横浜の聖杯戦争における監督役、荒島絡果がそこに立っていた。

 

「今よ、今。転移で来たの。久しぶりね、神崎さん。⋯⋯あら? カラコン変えた?」

「ん? ⋯⋯あー、気分転換。ちょっと色々あってねー」

 よく見ると、輝愛の瞳は前よりも少し青みがかっている。些細な差ではあるが、俊介は気付くことが出来なかった。

 

「さて、カルデアの方々、遥々彷徨海からお疲れ様。私は横浜聖杯戦争の監督役、荒島絡果。そちらが求める情報をある程度出せると思うわ。よろしくね藤丸君、マシュさんに⋯⋯ランスロット卿。それとダ・ヴィンチ、ゴルドルフ殿」

『一応転移の魔術は高位の術式なんだけど⋯⋯みんなバンバン使いすぎじゃないかな? ⋯⋯ある程度こちらを知っているんだね。それにゴルドルフ君は通信に出していなかったはずだけど?』

 ちなみに、ゴルドルフは現在お腹を下してトイレに行っている。

 

「そこにいるのは知っているもの。⋯⋯ホームズは居ないようね。ちょうどいい、と言うべきかしら」

『ちょうどいい?』

「こっちの話よ。さてと。話の本題に行こうかしら。まず横浜が特異点化した発端は横浜聖杯戦争。これは多分分かっているでしょうけど。⋯⋯神崎さん、隣いいかしら?」

「いいよー」

 絡果は輝愛の横に座り、ミカンを剥き始める。

 

「何となくだけどね。特異点が発生するのは決まって聖杯が中心だからさ」

 確認を取るように相槌を打つ藤丸。

「そして問題はその聖杯。結論から言えば、横浜の2つある聖杯のうち、この聖杯戦争の発端となった"暴走した聖杯"ではなく、この聖杯戦争に参加しているキャスター、アジ・ダハーカがスルトの霊基や神核をリソースに使用した"造られた聖杯"が特異点発生の原因ね」

 

「聖杯が⋯⋯造られた!?」

『それもサーヴァントを使用、変質させて⋯⋯?』

 驚きの声が止まらない中、パクパクと柿ピーを口に運ぶ輝愛。咀嚼中、少し苦い表情をしていたが誰も見ていなかった。

「しかも北欧で戦った巨人スルトに、ゾロアスター教に伝わる悪神、アジ・ダハーカ。神霊級のサーヴァントばかりですね」

 

『正直、そこにいるエルキドゥですら聖杯戦争で召喚できるギリギリだと思うんだけどね⋯⋯』

「とにかく。今の問題はアジ・ダハーカね。このままだと横浜どころか世界が滅びかねないの。貴女達、どこまで説明したの?」

「んー? んくっ。そこまで多くは説明してないかな。細かいサーヴァントの名前は後で出そうと思ってたし」

「貴女ねぇ⋯⋯」

 

 輝愛が口にほおばった柿ピーを飲み込み、答える。

「だって結局対策なんて無理でしょあんなの。バンちゃんだって倒しきれなかったんでしょ? 実際に見てもらった方が早いって」

「⋯⋯まあ、いいわ。今の霊基質量はまだ貴方達が戦ったオリュンポスのゼウスやデメテルの十二機神や妖精國ブリテンの祭神ケルヌンノスと同等程度だけど、そんな彼の聖杯を今から貴方達は奪いに行こうという訳、異聞帯でもない現代でまともにぶつかったら危険でしょう?」

 

 その絡果の発言でその場の全員が口を閉じる。

『待った。ひとついいかな? 絡果、君はどこまでこちらの事情を知っているんだ?』

「と、言うと?」

『この時代にカルデアという組織は無い、もし昔あったと言うなら話は別だけど、宇都宮君のおかげで今は無いということが分かった。そもそも君の言い方はまるで()()()()()()()言い方だよね。そこが妙に引っかかる』

 

 ダ・ヴィンチが疑うような視線を絡果に向けるが、彼女は剥き終えたミカンをひとつ口に放り込む。

「⋯⋯気にし過ぎ。私が見れるのは記録だけ。それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴女達が気にするだけ損よ」

『⋯⋯君からの情報は本当に信用していいものなのかな?』

「それは信用していい、だって私がアジ・ダハーカ討伐を主導しているもの。貴方達はアジ・ダハーカが保有する聖杯を欲している、そして少なくともここにいるマスター2人と私はアジ・ダハーカが落ちてくれると助かる。要は勧誘ね、どうかしら? 私達と戦ってくれるなら、監督役権限でカルデアに聖杯を譲ってもいいわ」

 

「あー! 職権乱用じゃねそれ!」

「貴女にあげたら聖杯戦争の意味が無いでしょう?」

「はいはい、言うと思ったー!わかってるしー!」

 輝愛は不服そうに柿ピーの袋を開けて流し込んだ。

 

『最終判断は君に任せるよ、藤丸君』

「⋯⋯マシュはどう思う?」

「私は⋯⋯荒島さんの提案に乗ってもいいと思います」

 マシュは一瞬躊躇いながらもそう断言する。

「⋯⋯分かった、荒島さんの提案を受け入れるよ」

 藤丸自身、元々受け入れようと考えていたが、あえてマシュに振ったのだ。以前のマシュであればこの状況で自分の意見を明確に示す事は無かったかもしれない、しかし彼女は妖精國の1件で精神的に大きく成長している。それを再確認したかったのだ。

 

「決まりね。これで次の段階の話が出来るわ。貴方達カルデアが来てくれたおかげで次の話が出来るわ」

「次の話、ですか?」

 お茶を啜りながら問いかけるマシュ。

「つい先日、聖杯があるサーヴァントに干渉し、霊基の格が文字通り一段階上がった。この世界では最初の現界、貴方達カルデアには馴染みがあるんじゃないかしら?」

 

「霊基の格⋯⋯もしかして⋯⋯!」

「そう、グランドクラスが後付けではあるけれど現界した。それが何を意味するか、貴方達なら理解出来るでしょう?」

 藤丸とマシュは一気に部屋の空気が冷たくなるような錯覚に陥っていた。ダ・ヴィンチの顔は青く、対照的にトイレから戻ってきたゴルドルフは清々しい笑顔である。

 

 

 

「そう、アジ・ダハーカの目的は己を獣へと昇華する事。だから対ビースト戦のプロフェッショナルである貴方達が必要だったの」

 

 

 




気がつけば金曜日。今のところ週一投稿は守れてますが、今後はどうなるか…。
コミケに参加してきましたが「実録妖精領域めり込めメリュ子」「浴室妖精領域メリュ子百度参り」は手に入りませんでした…。

次回は多分もっと情報出てくると思います。あと、輝愛のお家絡みのことが出てくるかも…? 何でもわかる絡果が優秀過ぎる。マジでナニモンだ?
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