Fate/The Fatal Error   作:紅赫

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さて。ほのぼの(?)が終わったのでついに戦闘です。
アジ・ダハーカの意外な一面も見れたりするかも?


決戦、開始

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 

 これはかつて俺が人だった頃。

 

 

 これはかつて俺が王だった頃。

 

 

 その人が人故の弱さ、脆さ。それ故に俺は魔術に溺れた。

 

 

 気が付けば俺は全てを喰らっていた。

 

 

 世界を。人を。あらゆる生命を。その糧としていた。

 

 

 ()はもうその時既に人類の終末装置(デウス・エクス・マキナ)と成り果てていたのだろう。

 

 

 我を止めたのも結局は神であり、人ではない。

 

 

 人が人である限り。いずれ再び訪れる終末には抗えない。

 

 

 人は弱い。

 

 

 死を。終末を。あらゆる終わりを乗り越える事が出来ない。

 

 

 ならば。ならば()は⋯⋯。

 

 

 ()の役目は⋯⋯。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「ん⋯⋯」

「おや、お目覚めですかな? マイマスター」

 ほんの数秒の微睡みから目を覚ましたのは三つ首の龍。この横浜聖杯戦争において、悪神たる権能を存分に振るい、今なお絶対的優位に立っているサーヴァント。アジ・ダハーカだ。

 

「そろそろ奴らが動く。貴様らは⋯⋯いや我が指示を出すまでもないな。指揮はリンボ、貴様に任せる。各々遊びに出ているのだろう? 奴らがここに入り次第適当に飛ばす。覚悟しておけ」

 アジ・ダハーカが座る玉座は再建した横浜ランドマークタワーの最上階。そしてアジ・ダハーカが展開した『滅びの領域』を魔術で転換し、異界を作成。法則や常識を塗り替えた言わば魔界である。

 

「かしこまりました。魔術協会の手先とはいえ所詮は烏合の衆。我らに敵う道理はありませぬぞ」

「⋯⋯」

 アジ・ダハーカは蔑みの目を見せる。

 このリンボというサーヴァント、明らかに胡散臭いのだ。真名を名乗らず、更には覗き見した境界記録帯(ゴーストライナー)からも情報を隠蔽。しかしながら前線指揮を行えるのがリンボしかいないため、こうなっている。

 

「確か、貴様は平安京でカルデアとやらに敗れていたな」

「ンンンンン! 拙僧の屈辱を掘り起こすとは! お止め下され!」

 リンボが困り果てたようにアジ・ダハーカを見る。

 

「何、すぐ奴らとぶつける訳では無い。貴様は使い勝手のいい駒だ。期待している」

「ははぁ、有り難きお言葉」

 さて、とアジ・ダハーカが腕を振るう。

 

 目の前にはアジ・ダハーカが生み出した魔界の地図が現れる。

「来たか」

 

 そしてアジ・ダハーカは魔術を使用。この場で何かが起こるわけでも無いが、暫くすると外から衝撃音がなり始めた。

「貴様も行け、リンボ」

「いいでしょう。我が術の全て。貴方様に捧げましょうぞ。ええい! 急急如律令!」

 

 リンボは呪文を唱えると、己の身体を式神へと変化させた。

 そう考えたアジ・ダハーカだったがすぐに考えを変える。

「いや、元々式神だったのか。中々食えんヤツめ」

 

 そう言ってアジ・ダハーカは地図を閉じる。

「それで、貴様はなぜここにいる? ヴリトラ」

「ほう、わえに気がついておったか」

「抜かせ。我の眼は全てを見通す。そもそも貴様程度の気配すら感じ取れないならば獣たる資格はない」

 

 玉座の裏に立っていたのは真っ黒のドレスに無数に浮かぶ針のような剣、そして深い青色の龍の尻尾をもつ女性。アジ・ダハーカが召喚したランサー、ヴリトラである。

「何の用だ? てっきり遊びに出ていたと思ったが」

「特に理由など存在せぬ。ただ、貴様の顔を見に来ただけじゃ」

 

「ならばとっとと行け。気が散る」

「貴様程の魔術師であってもその魔術は一筋縄ではいかんか。まあ良い。少し聞きたいことがあってのう」

 ヴリトラはふわふわと浮かびながら欠伸をひとつ。

 

「わえと貴様は伝承上では同じ括りにされることが多い。しかしながら、わえは見ての通り"獣の器"としての資格はない」

「⋯⋯何が言いたい? 例え我が貴様の過去、もしくは未来だとして貴様程度が⋯⋯」

 と、言いかけたところでアジ・ダハーカは言葉を止める。

 

「なるほど、貴様の言いたいことは理解出来た。答えを言えば我と貴様は同じでは無い。⋯⋯いや、口伝とは大きく異なる点があるな」

「ほう? ⋯⋯もしや貴様、別の⋯⋯」

「ゲームスタートだ、ヴリトラ。貴様に問答している時間は無いはずだ」

「あっちょっ!?」

 その直後、ヴリトラがその場から消え去る。アジ・ダハーカによって強制的に所定の位置へと転送させられたのだ。

 

「⋯⋯ふぅ。しかし、まだ()にもこのような感情の残滓が残っているとはな」

 そう言ってアジ・ダハーカは魔術でグラスとワインボトルボトルを創り出す。

 紫色の液体をグラスにちゃぷちゃぷと注ぎ、一口呷る。

「⋯⋯酒には悪い思い出しかないからな。我は絶対に飲まないぞ」

 

 

 アジ・ダハーカが口にしたこの紫色の液体、ワインではなくなんとぶどうジュースだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「あ、私は戦闘に参加しないわよ?」

「えぇ⋯⋯?」

 翌日。アジ・ダハーカの領域一歩手前。目の前には大規模な結界が貼られており、常闇のような黒い魔力壁に包まれていた。

 アジ・ダハーカ攻略組は絡果の転移で結界の目の前に飛んできたものの、絡果自身は戦闘に参加しないという。

 

「直接転移させるの、結構大変なのよね。そもそもこの結界内への転移が阻害されてて門を開けるだけでも少し時間かかるのよ」

「でも、だからって戦わないっていうのもないんじゃない? アタシ達使いっ走りじゃないんだけど」

「少しやらないといけないことがあるの。それに私これでも監督役だから、直接手を下すのってモラル的にどうなのと思って」

 

 本当に嫌そうな顔で絡果は後退りする。

「という訳で後はよろしく。どの道協力しないとあなた達に勝ち目はないわよ」

 そう言って絡果は消滅。転移で逃げたのだった。

『ちょっとアレはマジでどうなんだ? 』

「人として押し付けるだけ押し付けていくのはちょっとどうかと思うけど? ⋯⋯まあ、やらなきゃ行けないことがあるみたいだし。そこは信用していんじゃない?」

 

「神崎さん落ち着いていらっしゃいますね」

「まあ何言ったって絡果を追えないし割り切ろってこと。じゃ、アタシ先入るねー」

 ぷにぷに、と壁をつついた後にすっと入っていく輝愛。

「えっ、じゃあ僕も」

 そしてそれに続く俊介。

 マシュと藤丸は顔を見合せた後、意を決して結界へと入っていく。

 

 

 

 しかし。ここにいる全員が一度に揃う機会は、この先訪れることはなかった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「⋯⋯で、なーんでか知らないけどバラバラになっちゃったし」

『ってもなぁ。俺は周りの生命反応を探知出来る魔術とかそういうのはねぇよ?』

「別に大福にそういう面は期待してないから安心して」

 輝愛が結界の壁を抜けると、そこは純白の神殿のど真ん中。広さで言えば小学校の体育館程度であり、壊れた石柱や石像が散乱しているような空間である。

 

 仕事着である真っ黒のポンチョコート姿である輝愛は少し目立ってしまうためあまりいい環境とは言えない。

 天井は所々崩れており、日光が差し込みある種幻想的な場所なのだが、輝愛達はまるで緊張感が無い。

 

「やっぱりキャスターって凄いじゃん。でっかい結界とか張れちゃうし、ビーム出せるし」

『普通なら三騎士クラスは対魔力っていうスキルがあるから魔術は通らないが⋯⋯アレはマジの別モンだな』

「⋯⋯さってっと。雑談は終わり。キミがここの主?」

 輝愛は何者かが現れた事を察知し、目を向ける。

 

「きっひっひっ。主、というよりもここはわえの遊び場じゃ。とはいえ、ここにはわえしかおらんからつまらんがのう」

 

 純白の柱の影から現れたのは黒いドレス姿の邪龍。ヴリトラである。

「どうも。ここはどこ? アタシ結構忙しくてさ。アナタと遊んでる暇はない」

「つれないことを。わえはヴリトラ。アジ・ダハーカのサーヴァント、ランサーとして召喚されたのじゃが⋯⋯」

 

「ヴリトラ⋯⋯どっかの神様ってのは聞いた事あるけどパッとしか知らないし。アジ・ダハーカのサーヴァントなら敵って事でいい?」

『⋯⋯』

 目の色が変わる輝愛と、少し複雑な面持ちで輝愛を見つめる大福。

「対話拒否か。つまらん。貴様はわかる獣だと思ったが」

 

 この時点で輝愛の、というより大福の認識阻害が発動しており、ヴリトラには輝愛が大きな影の粒子で出来た狼の姿として認識されている。

「悪いけどさ、マジで時間無いの」

「!」

 ヴリトラは何か悪い気を感じたため一歩後ろに下がる。

 

 直後、その虚空に何かが引っ掻いたような後が現れ、更にヴリトラの右手首がその場からぼとりと落ちる。

 遅れてその断面からどくどくと赤黒い血液型こぼれ落ちていくのを見たヴリトラは、怪訝そうに輝愛を見る。

「⋯⋯? 何をしたのじゃ?」

「別に。敵だから攻撃しただけ。絡果からの依頼だし、そういう方向で行かせてもらうよ」

 

 輝愛は左手をヴリトラに向けると、ヴリトラの足元にある床のタイルから真っ黒の猟犬が5匹程姿を現し、一斉に噛み付こうとする。

 しかしヴリトラは周囲に浮遊する針のような剣で猟犬を地面へと拘束。身動きが取れなくなった猟犬は少しもがくと、ピタリと動きを止めた。

「わえをこの程度の犬っころで殺せると⋯⋯何?」

 

 ヴリトラが瞬きしたその間、既に剣で拘束された猟犬は存在しなかった。

 その場で消滅した手応えは無く、まるで最初からそこに存在しなかったような気味の悪さに首を傾げる。

 そして背後に気配を感じたため、跳躍。噛み付こうとしていた猟犬が足元を過ぎ去ろうとしていたため尻尾でサマーソルトを行い、大きく吹き飛ばす。

 

 それを見ていた他の猟犬が空中のヴリトラへと攻撃を仕掛ける。

「わえは竜ぞ」

 空中では逃げ場が無い。そう考えた猟犬だがヴリトラが行ったのは跳躍では無く浮遊。そして周囲の剣を徐に1つ握ったヴリトラは4匹の猟犬をそれぞれ一振りで真っ二つにする。

 

「どのようなものかと思えば結局味気な⋯⋯」

 その言葉の最中、ヴリトラの横腹に大きな衝撃が走る。

 そして巨大なハンマーで思いっきりぶん殴られたかと思うような鈍痛と共に200キロ近い速度で吹き飛んでいった。

「慢心は良くないでしょ。⋯⋯アタシも似たようなカンジだけどさ」

 

「なんじゃ、今の威力は。⋯⋯獣ではない、貴様本当に人間か?」

 柱に激突し、崩れる瓦礫の下で膝をつくヴリトラは問いた。

「んー? この前もう半分辞めちゃったけど人間かな。ま、今はソレを確かめてるけどさ。凄い音したけどアレで生きてるってやっぱりサーヴァントって凄いや」

 今ヴリトラが吹き飛んだのは輝愛の蹴りであり、その結果認識阻害が解けて人型に見えているのだが⋯⋯。

 

「ヤッバいね。これに溺れる人もいるって納得」

『普通の人間が手にしたら絶対に狂うぞ、コレは。マスターは適性があったからいいけどさ』

 ヴリトラクラスの神霊相手では本来通常のサーヴァントですら傷を付けることが難しい。それは従来の法則に乗っ取り神秘の差が影響しているのだ。

 

 

 

 しかしながら()()()()()()()()()()()()()大福であれば話は別である。

 

 

 

「さっきで殺せたけど、もう少し感覚掴みたいからさ。付き合ってね、神様?」

「貴様⋯⋯舐めた口をききおって⋯⋯」

 浮遊する10本の剣をその場から輝愛へと放つ。本来それは目で追う事すら困難な速度であり、大福の権能を使用出来たとしても正面からの対処は不可能なはずだった。

 

 しかしそれを右袖のナイフは全て弾き飛ばし、触れた瞬間に消滅させ、鼻で笑う。

「なっ!」

「悪いけどさ、大福って一応北欧神話の神喰らい(フェンリル)と同一視されてたりするんだってー」

 

 その言葉の最中。ザク、ザク、ザクと3つの斬り傷が倒れて座るヴリトラの身体に現れる。ひとつは顔の左目を潰し、ひとつは右足を切断、最後に胴に右肩から左足にかけてバッサリと。それぞれ大量の血が吹き出し、明らかに致死量である。

「ああっ! がぁぁっ!?」

「まだ使える大福の魔術は少ないけど、アナタを倒すくらいなら問題無いからさ。でも、なぁんか物足りないというか。一応神様ならもう少し頑張って欲しかったよね」

 

 スタスタと歩きながら輝愛はナイフを遊ばせる。

「く、来るでない⋯⋯来るでないわ⋯⋯!」

「って言われてもね。アタシも仕事だから」

 ヴリトラの目の前に立つ輝愛を中心に底知れない闇が広がる。文字通り光がひとつも無い深淵の底。不浄の世界がこの神殿を包み込む、いや蝕んでいくという方が正しいだろう。

 

 その光景に邪龍であるヴリトラですら心が乱れ、恐怖し、今にも泣き叫びたくなるような程の不気味さが身体に叩き込まれる。

 

 

 

「最後くらいマシな死に方させてあげる。アタシ、学校でもみんなに優しいって言われてたからさ。その辺は安心して欲しいかな」

 

 

 

 完全に闇をも飲み込む闇へと落ちたヴリトラの意識は途絶え、恐怖と絶望の感情に支配されながらサーヴァントとしての一生を終えることとなった。

 

 

 




いかがでしたか?
やはり誰にでも優しいギャルは正義。輝愛が知らないうちにモンスタードーピングされててビックリです。これに関しては楽しみにしておいてください。とくに可哀想な子は可愛い派の人達は。

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