「どこだ、ここは?」
「マスターでも見慣れない場所⋯⋯。アジ・ダハーカが創り出した特異空間なのかもしれないね」
俊介とエルキドゥが気が付くとそこは古めかしい建物が並ぶ古都に居た。空は赤黒く、陽の光と呼ぶには少し禍々し過ぎる場所。
その中で影のような薄くなった人々が大通りを歩いているが、俊介がそれに触れてもただ触れること無くぬるりと過ぎていってしまう。
「ンンンン! まさかここまで平安京を再現なさるとは。流石はマイマスター」
「⋯⋯誰だ?」
俊介の正面。少し離れた場所に大柄な道化師のような姿の人物が立っていた。彼が現れると影の人々は道をあけ、するりと消えていってしまう。
「おや。これは聖杯戦争。真名を教える義理はありませんよ?」
「⋯⋯そうだな」
失念していた、というような俊介。殆どの真名は既に割ているどころか、正面から教えてくれるような人達ばかりだったため彼も名乗ってくれると心のどこかで思っていたのかもしれない。
「彼はかなりの強敵だ。マスターも運がないね」
「運がないのはお互い様じゃないか? まあ僕もマスターらしく、全力でバックアップするからな」
そしてところ変わってどこかの寺の門前。マシュ・キリエライトは一人の侍と相対していた。
「なるほど、私の相手は君か」
「貴方は⋯⋯小次郎さん⋯⋯!」
青い流麗な髪に綺麗な立ち振る舞い。かつて巌流島で宮本武蔵と一騎打ちを行ったという侍。
佐々木小次郎がその場所に立っていた。
「いかにも。こちらとしてはあまり気乗りはしないがマスターの頼み。手合わせ願おう」
マシュは周囲を見渡し、藤丸の姿が居ないことを再確認する。
マシュはサーヴァントであり藤丸はマスター。自分が単身でこの場に現れた以上、藤丸も単身でサーヴァントの前に立ってしまっているという可能性もある。
「⋯⋯」
しかし、ここは彼に背中を向けることは出来ない。マスターの安否は契約しているからこそ問題ないと分かっている。
であるならば⋯⋯。
「オルテナウス、機動。マシュ・キリエライト、行きます!」
臨戦態勢に入ったマシュは己が持つ盾を構え、そう高らかに宣言した。
そしてもう一箇所。そこは演奏や劇を行うようなホールだった。
しかしそれはただのホールでは無い。
館内は油絵のような歪んだ空間になっており、それがぐるぐると蠢く。天井は油絵具で描かれた星月夜に染まり、床1面は油絵具のアイリスの花。そして空中には数々の絵画があり、毎秒事に位置を変えている。
気が付くとこの寒気が走るような形容し難い空間に居た藤丸とランスロットだったが、冷静に周囲を見渡しホールの中心にいる人物を発見した。
「これでもないこれでもないこれでもないぃぃ!!!」
不思議な服装をした人間味の無い真っ白な少女が自身が描いたであろう絵を壁に投げつけていた。
向日葵を模した大きな帽子、袖が向日葵で埋まり、機能を果たしていなかったり、海月のようなスカートだったりと普通であればそちらに目を向けがちだが、本人の目は真っ白に曇り、見ているだけで正気度が減りそうな容姿からは様々な不安感と、底知れない恐怖が伝わってくる。
その真っ白な肌をした少女を藤丸は知っていた。
「クリュティエ・ヴァン・ゴッホ⋯⋯」
ーーー
「まあ、概ね予想通りね。彼の事だから分断させてくると思ったわ」
「サーヴァントとマスターがペアでそれに対応するアジ・ダハーカのサーヴァントと、決闘のような形式で戦うわけか」
場所はアジ・ダハーカの魔界から離れたビルの上。絡果はその「眼」で。ウェイバーはそれを借りて結界内の景色を俯瞰して見ていた。
「それにしても絡果、お前こんな目をどこで⋯⋯」
「生まれつきよ。私個人の
ウェイバーが見ているのはその個人個人だけであり、絡果の『眼』の視覚の一部を限定的に共有しているだけに過ぎない。そもそも絡果の『眼』を完全に共有してしまうとウェイバーが発狂死する可能性すら出てくるような危険なもの。おいそれと共有できるようなものでは無いのだ。
「マシュ・キリエライトは藤丸のサーヴァントなんだろ? どうして単独で戦闘を⋯⋯いや、そうか。デミサーヴァントは人とサーヴァントの混ざり物」
「流石は元ロード、話が早くて助かるわ。彼女単体でマスターとサーヴァントのペア、という括りになっているのよね」
それは同時に輝愛と大福も同じ事なのだが⋯⋯。
「厳しくないか? あの妖精騎士と反対なら⋯⋯」
「マシュちゃんには重いでしょうね。それに『アレ』の眼もあるし」
「アレ?」
「なんでもないわよ」
ウェイバーが疑問を投げかけるも絡果はスルー。ウェイバー的には昔から隠し事が多かったよな、と受け入れてしまう。
そしてもうひとつ。絡果は藤丸と妖精騎士ランスロットの組み合わせが飛ばされた場所を見る。
絡果の目にはゴッホと藤丸が何かを話している様子が見えていた。
「問題は⋯⋯アレね。ゴッホちゃん。少し様子がおかしいのよ。いえおかしいなんてものじゃない。これは私が行かないとダメかしら」
「フォーリナー⋯⋯聞いたことも無いクラスだが⋯⋯」
フォーリナーはエクストラクラスであるため、本来は召喚されることの無いクラスだ。博識なウェイバーが知らなくてもなんらおかしくは無い。
しかし、今回に関しては全くの別物。
「フォーリナーは『降臨者』のクラス。外宇宙の存在がサーヴァントに干渉して産まれたある種世界の異物。それが彼女らね。でも、多分これってあっちのサーヴァントでしょう? おかしくないかしら?」
「どういうことだ?」
「リンボ、それにゴッホちゃんはカルデアがいる世界独自のサーヴァント。例外に例外を重ねた上で召喚されたものよ。アルターエゴだってこの世界にも存在しているわ。数も本当に数えるくらいしか居ないけれど」
そう語る絡果の目は細く、何かを睨むように虚空を見つめる。
「だけどフォーリナーだけはその性質上有り得ない。この世界に順応出来ない。例え向こうから来たとしても彼女らはそれこそまさにこの世界の『Error』なの」
「ありえない⋯⋯? まさか、絡果!」
絡果らしくない焦りと高揚を感じたウェイバーは彼女を窘める。
「そう。だってそもそも、この世界に
そもそもの世界線の違い。その法則の違い。その違いが顕著に現れたのがこの瞬間だった。
「ま、待て。ならどうして邪神が地上に闊歩していない? 伝承通りの奴らであれば⋯⋯」
ウェイバーや絡果の言う『邪神』というのは元々の伝承『クトゥルフ神話』のもの。
「攻めてこない理由はいくつかあるけど、第1は彼ら自身の身を案じているのかしら? 彼らもそれぞれ派閥とか勢力とか考え過ぎなのよ。もう少し楽しく生きればいいのにって思うけど⋯⋯。どこかの誰かさんが色々やらかしちゃったから⋯⋯ねぇ。まあ、日本での被害が無い1番の理由は⋯⋯」
「アタシらだろ? 絡果?」
ふと背後から声がかかる。おっとりと撫でるような低音の、ヤニが混じったかのような女の声。
「ふぅん。嗅ぎつけるのが早いわね。グリムロック」
陸上自衛隊特殊作戦群盤外遊撃部隊の1人。グリムロック・クイン・グラフだった。
「お前は⋯⋯!」
「彼女ら、盤外遊撃部隊のおかげね⋯⋯正式名称は長いから割愛。貴方達時計塔とは違う『異星の魔術を取り入れた兵器』を使って外敵から地球を守っているのよ」
「ま、アタシ1人だけじゃ
「あー、ウェイバー。彼女らを人間扱いしない方がいいわ。『潜在的恐怖よりも知的感情が勝る』ような連中よ。関わってもいい事はない」
陸上自衛隊特殊作戦群盤外遊撃部隊の正式名称は『陸上自衛隊特殊作戦群零番科盤外遊撃部隊統合戦略管理研究室』である。
彼らの言う『人類の脅威』とは『宇宙からの侵略者達』を指すものであり、ソレを撃退するための武装開発や研究を行っている。
「アタシは技術顧問だから戦いはしねぇけどさ。でも、呉島陸将が言ってたぜ」
グリムロックは白衣のポケットからタバコをひとつ取り出し、火をつけ口に咥える。
「確かに人類は奴らに恐怖し、怯え、なすがままにされてきた」
「だが、奴らは慢心故に人類を生かしてしまった」
「恐怖は未知から来るもの。しかしその未知を幾度となく暴いてきた人類にとって、その恐怖は未知の対象をただ変えさせただけに過ぎない」
「人に理解出来ぬものと言われてきたものを人類は何度解明させた? 人が人たる知性をもって何を築いて来た?」
「それはこの人類の歴史が物語っている。人は未知を許さない。人は侵略を許さない。人はやられっぱなしじゃ終わらせない」
「今度は俺達が奴らを侵略する番だ」
ふぅ、とタバコの煙を吐くグリムロック。
「ってな。まさに、人間。知的感情たる恐怖を知的感情たる興味で上書きしたその先駆けがアタシらだ」
「⋯⋯」
「すげぇよなぁ? 神が人を生み出したんなら今頃後悔してると思うぜ?」
グリムロックはそう言って魔術の転移門を展開。
「ま、要件としてはお前からの要請は請け負ったって報告をしに来ただけなんだ。無駄に喋り過ぎちまった」
「はいはい。ありがとね」
そう言ってグリムロックは虚空へと消えていった。
「⋯⋯ん?」
ちょんちょん、とウェイバーは背中をつかれる。
すると後ろには白髪の少女が立っていた。
「お前は⋯⋯モーセか」
「⋯⋯ん」
「⋯⋯ひとつ聞いていいか?」
「⋯⋯何? ⋯⋯私が、モーセなのか、って?」
「っ、そうだ」
なんとも話しにくいなぁ、と思っているウェイバーだったが、この疑問は正しい。
本来モーセは男性である。その事について尋ねると⋯⋯。
「⋯⋯私は、モーセだけど、モーセじゃない」
「どういう⋯⋯」
「⋯⋯今話すつもりは、ない」
小さく口を動かし聞こえるか分からないような声で話すモーセ。
「分かった。聞かないでおく」
「⋯⋯貴方からは、学習しにくい」
「は?」
ウェイバーからしてみればよく分からないことを呟いたモーセだったが。
「⋯⋯ぷいっ」
1呼吸遅れてそっぽを向いてしまった。
「⋯⋯あらウェイバー、嫌われちゃったわね。彼女、結構デリケートだから気をつけて」
「わ、分かっている!」
そこはかとなく恥ずかしい気持ちのウェイバーをからかう絡果。それを見たモーセは、人知れず小さな笑顔を見せた。
ーーー
ウェイバー達が監視を続ける中。その上空には空の色に溶けた一機の戦闘機が存在していた。
いや、些か全体的にゴツゴツしており、無駄のない洗練された戦闘機というデザインからは少し遠い。
全長は30mと少し大きく、翼にはそれぞれ二門のミサイル砲と機関銃が付属されており、背中部分には巨大な砲門が邪魔にならないよう畳まれている。
それでも尚速度はマッハ22。現代人類では不可能な技術を持った戦闘機を操縦しているのは一人の女性。
ゴーグルも無ければヘルメットすら被っておらず、服装は白衣。自然なサンディブロンドの髪にエメラルドのような美しい碧眼を持ち、身長は180近くあるかと思わせるほど高く、モデル体型で男女問わずに魅了されるような容姿を持っていた。
「作戦時の下見ついでにドルイドの運転⋯⋯なんて思ってたら思わぬ収穫」
少し高めの甘えたくなるような甘ったるい声で小さく呟く。その瞳はウェイバーの隣にちょこんと座るモーセを捉えていた。
「後で折遠に報告しなきゃ」
『オーナー、回収しますか?』
妙にその女性に近い電子音混じりの声が頭上から響く。
「今はパパからの命令を遂行するだけ。私達は衛星の状況を取得したらすぐに帰投しろって命令よ」
『わかりました、では座標に着き次第作業を開始します』
戦闘機は一回転し、奇妙な術式を機動。一瞬でその場から消え去っていった。
タグのCoCはコレ由来です。 すごいねコレ、Fateという皮を被った何かだよもう。
次回は自衛隊メインになりますね。少しFate感はないと思いますが、一作品として見ていただければと思います。