Fate/The Fatal Error   作:紅赫

30 / 32
異文化交流というワードセンスは我ながらちょっと好きでした。





星の羅針盤

 

 

 

 天音と景清がいるホテルの外は真夜中へと変化し、明かりのない横浜の街は星空だけが照らしていた。

 天音の手と足のみに純黒の武装。そして右手には近未来的な刀と1m近い太刀が握られている。

 

「珍妙な装備だが、所詮虚仮威しよ。その程度で我は止まらぬ」

「ま、多少期待はしてるって。あんまり面白く無さそうだけど⋯⋯」

 天音が瞬きをした瞬間、その眼下から景清の姿が消える。

 

 そして次の瞬間、足元から景清が現れ、腰の二刀を引き抜く。

 その二刀は天音が刀を持っていない左の脇腹への水平斬りとして襲いかかる。

 しかしその刀が天音に届く事は無く「まるで虚空に刀があるかのように」弾かれてしまう。

 

 体制を崩した景清は小さなステップで建て直し、追撃をかける。右の刀で刺突を試み、接近した所で天音が小さく一言。

「まるでなってない」

 突如、景清は胸部に衝撃を受け、大きく吹き飛んだ。

 

 空中で姿勢を直し、天音から約5m程の所に着地する。幸い神秘という壁により無傷だが、何をされたのかすら分からない景清は、黒い布の下で困惑の表情を浮かべた。

 

「一太刀で分かるわ。実験にすらならなそう。性能チェックの案山子同然。僕の蹴りに反応出来ないとか話にならん。ガチで」

「何ぃ⋯⋯?」

 嘲笑と煽りを添えつつ、天音は刀を握りしめる。

「次はこっちから行くよ。手加減とか要らないから、死ぬ気で捌いてね」

 

 パチっと天音の足元に雷が走ったその瞬間、景清の目の前には振り下ろされる刀があった。

「っ!」

 景清は一歩下がり、その一撃を回避するもそれを読んでいたかのような流れるような動きで下段からの斬り上げが景清に向かってくる。

 

 あまりの速さに景清の対応が遅れるも、二刀をバツ印で構えてその一撃を受け止める。

「⋯⋯!?」

 そのあまりの重さに驚くが、それは一瞬。既に受け止めた刀はそこにはなく、まるで二刀流の如く超高速の連撃技が景清の正面から襲いかかってくる。

 

 景清はギリギリで受け止めてはいるものの、流麗な剣撃の前にはまるで歯が立っていない。

 そして僅かな隙を見つけて景清が反撃しようと試みるも、見えない刃の一撃によって弾かれてしまう。

 そして更に虚空から黒い玉虫色でタール状の刃が現れ、攻撃に参加し始める。

 

 その最中、受けようとしていた天音の刀が突如消え、まるで虚空から刀が現れたかのような錯覚を覚えてしまう。

「あっ。引っかかった」

 その一撃はズサっと景清の左腕を掠め、布の先が斬れる。が、肉体が傷を受ける事は無かった。

 

「今のは小細工じゃないよー? ちょぉっと早く刀を動かしただけで、別に特別な事はしてないんだけどなぁ?」

「嘘を付くな⋯⋯それだけで⋯⋯景清が見逃すはずが⋯⋯無い⋯⋯」

「いやガチだって。てか今ので疲れたん? なんか飲む? 買ってくる? 缶コーヒー⋯⋯なら今すぐ取れるけど、昔の人の口に合うかなぁ?」

 人間を超えたかのような速度で動いていた天音と、それを対処するために防戦一方だった景清。

 

『周辺から増援はなさそうだし、あまり私が情報を伝える場面はなさそうで何よりだ』

 景清は明らかに限界を超えた速度だっため疲労は大きく、憔悴が見える。

 しかしながら天音はこれくらい普通でしょ、と言わんばかりに『門』から缶コーヒーを取り出して一気に飲み干す。

 

「武装に寄るところなんてまだ殆ど出てないよ。近付いた時の動きと『ショゴスの牙』くらいじゃない? "無窮の一太刀"は僕の剣技だし⋯⋯軽いバフ効果はあるけど、僕のはそこまで恩恵感じてないかなぁ。近付いた時は⋯⋯なんだっけ? 理系の人いないから分からんけど、擬似的な電磁加速の応用⋯⋯だったっけ、真紅ちゃん?」

 

『少し違うけどな。⋯⋯まあこの分野は専門じゃ無いから私の口から説明するのは控えさせて貰うよ。後でグラフに聞くのが1番いい』

 景清の息が整うまで、と明らかな舐めプで武装の話をしながら真紅に確認する天音だったが、真紅も細かい理論には自信が無いらしい。

 

 この武装は『イスの偉大なる種族』の電気銃と呼ばれる武器から着想を得たものであり、異星の科学を専門として扱っていない真紅はうろ覚えでも仕方がないのだ。

 まず、先程天音の足元から流れた特殊電流によって周囲に特殊な磁場が形成される。その空間は磁力の強弱が操作可能であり、自身がどう動きたいか、どういった方向に進みたいかといった事をイメージするだけで魔術兵装(メイガスアルマ)に内蔵されている『脳波信号計測器』を通じてスーパーコンピュータ『KR』が自動で磁場を操作し、磁力による推進が可能になっている。

 

 その速度は初速マッハ4にもなる。

 しかしそれだけならばただ速度が出るだけであり、如何に『KR』が優れていようとも使用者の処理が遅ければ意味は無いのだが。

 オマケにそれを活用出来る身体能力が無ければ制御が出来ない、文字通り天音専用の武装である。

 

 グラフ曰く「これだけの理論を組み上げといて活用してないのは、多分元の身体が人間程貧弱じゃないんだろうな」という言った後に「もしくは戦うことを放棄した腑抜けども」という事らしい。

 

「そっかぁ⋯⋯ま、ちょっとは対処の参考になった? 景清⋯⋯さんだっけ?」

『今ので分かるわけ無いだろ』

 

 と、真紅から冷静なツッコミを入れられる天音。

 そして景清を一瞥し、先程よりも体力が回復している事を確認する。

「悪いね、僕は結構なお喋りだからさ。じゃ、もう一本行こっか。なぁに心配要らないって。さっきよりもちょっとだけペースをあげるだけだかっ、ら!」

 

 再び天音を中心に磁場が発生。

 その踏み出した一歩で約10m離れた距離を一瞬で詰め、一撃を叩き込み、それをギリギリ景清が受け止める。

 しかし加速する天音はその瞬間には天井を蹴り、再び上からの攻撃。更に0コンマ1秒にも満たない内に次の攻撃へと転化させる。

 

 周囲の柱や壁、天井を蹴り、マッハ5以上の速度で360度から一方的に剣撃を繰り出す。空間に走る雷と魔術兵装(メイガスアルマ)が放つ蛍光色の光が織り成す様はまるで光の檻。

1対1の室内戦闘における圧倒的な制圧力を誇るこの技の名は。

 

 

「新天音流剣術・千華一尽」

 

 

 反発や加速を瞬間的に理解した上で、天音は視覚や五感情報で筋肉の動き、熱量、相手の癖を瞬時に理解し()()()()()()を予測。その上でどう動けばいいか、どう加速するべきかを理解出来る。

 

 しかしその光景も天音の違和感で鳴り沈む事となった。

 ガキン、という大きな音を立てて景清が大きく吹き飛ぶと、天音は景清の様子を確認する。

 

「あれ? 傷付いて無くない⋯⋯?」

 そう。天音の剣はまるで舐めるように滑っていたため効いていないのだ。

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」

 景清も体力的消耗はしているものの、傷は無い。

 

『天音、アレだよ。ルー老師が言っていた⋯⋯』

「あっ、『神秘』ってヤツか。しまったなぁ、これじゃあマジの案山子になっちゃうよ⋯⋯」

 ここで天音は考える。

 神秘というのはどれだけ力量差があっても覆す事は出来ない。神秘の絶対的な壁を前を越えられるのは同等以上の神秘を持つものであり『(ソラ)を統べる魔術師』や『この世界の法則に支配されない者』といった例外でなければ突破することは出来ない。

 

 しかし、これについて天音には宛があった。

「よし。ならアレで試してみよう。⋯⋯ごめんね景清ちゃん、その辺のルール知らなくてさ。まさか本当効かないとか思って無かったし」

 

 

「沙羅双樹の花の色⋯⋯」

 

 

 ボソリと景清は呟く。

 その時、景清の怨念が形となり複数の景清が現れ、周囲を怨の波動で包み込む。その無数の景清が地を跳ね、壁を跳ね、天井を跳ねて天音へと襲いかかる。

 

 

「⋯⋯解錠(コード):我、数多の災いを払う剣の主なり(■■■■■■■■■■■)

 

 

 天音も対抗するようにこの世の言葉では無い詠唱を行う。その一言一言の意味を、常人には理解することは出来ないだろう。ただおぞましく、只管にそこの無い深淵の言葉を。

 

 

「諸行無常・盛者必衰!!!!」

 

 

 景清の宝具による攻撃。無数の怨念を直接受けた天音は⋯⋯。

 

 

「天音流剣術・流弄六砂」

 

 

 瞬きする間もなく怨念は消え去る。そして⋯⋯。

 

 

「な⋯⋯⋯⋯に⋯⋯⋯⋯?」

 

 

 天音の後方にいた景清の胸からは大きな斬り傷が存在していた。

 そして天音が持っている刀は先程の魔術兵装(メイガスアルマ)とは違うもの。

 

 

「その⋯⋯⋯⋯剣は⋯⋯⋯⋯!」

 

 

 それは流麗な日本刀、という訳ではなく鍔部分が存在せず、刀剣に近いものである。しかし先程と違うという点で言えばその刀は明らかな『神気』を放っているという事。

 

 

「割とマイナーだし知らないでしょ。これはさ。"布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)"っていう、正真正銘本物の神器だよ」

 

 

 天音は振り返り、嫌な笑みを景清に向ける。

 

 

「ま、これは天音家の私物なんだけどねー。見た感じこれで対等でしょ? もう一本、付き合ってもらおっかな」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 アジ・ダハーカの魔界外。阪東はアジ・ダハーカとの戦闘跡地に来ていた。

 座って空間の穴に手を入れてもごもごとしている様は少し滑稽と言える。

「あー、さみぃ⋯⋯」

「大丈夫か、マスター?」

「ああいや、心がちょっとな。この身体には影響しないし気持ちの問題だゼ」

 

 阪東が行っているのはカルデアが来た際に広がってしまった次元の穴の修復と、自身が放った物質の回収である。流石の阪東でも骨が折れるのか、相当な時間がかかるためアルジュナと会話をしながらゆるりと進めているのだ。

「⋯⋯はぁ。まさかな」

「⋯⋯? どうした?」

 

 阪東の警戒網を越えてきた存在がいる、という事を察知した彼は己の『眼』で世界を覗く。

「⋯⋯やっぱりか」

「久しぶり葛木。3年ぶりかしら?」

「似たような雰囲気のやつとは何回か話したが、やっぱり慣れねぇんだよなァ」

 

 サンディブロンドの長い髪にモデルのような整った顔立ちとスタイル。そして盤外遊撃部隊を象徴するタコのような顔の前に、2本の拳銃が交差するように描かれた紋章が付けられた白衣を着ている女性。研究チームのトップ、呉島瑠楓である。

「まさか日本に来てたなんて。嬉しいわ、もしかして私に⋯⋯!」

「な訳ねぇのはその化け物みたいな頭で考えれば分かんだろうが」

 

 しゅん⋯⋯という悲しげに目を伏せる瑠楓だが、本題はそこじゃないと頭を切り替える。

「で? 何の用だ?」

「別に用事は無いけど。ただの近況報告ね」

「はぁ? ンな事信じられる訳⋯⋯」

「ホントよホント!」

 

 瑠楓が頭脳と雰囲気の割に子供っぽい事を知っている阪東は、なんとも言えない表情を浮かべて納得する。

「ここ数日折遠と進めているプロジェクト、アナタにも少し関係あるから耳に入れて欲しいだけ」

「オレはテメェら自衛隊に関係ねェ。帰れ」

「そうだけど、ワタシ自身とは関係あるでしょ?」

「⋯⋯まあ、な」

 

 阪東は作業の手を止めてはいないが、あまり手が着いていない様子であった。

「この聖杯戦争中、幾つかアクションを起こそうと思っているの。本格的に奪還しないといけないものがあって」

「できるか? 多分あの監督役は強いゼ」

「知ってる。だからアナタには極力見て見ぬふりをして欲しいの」

 

 阪東から瑠楓の表情は見えない。

 結局のところ、阪東は瑠楓の未来や過去を見る事は出来ないため見る意味は無いのだ。

「極力やるさ。テメェの頼みだ、なるべく頼みは聞いてやりてぇ」

「助かるわ! 流石ワタシの葛木ね!」

「誰がテメェのだ!」

「実際そうでしょう?」

「まあ⋯⋯物理的にな⋯⋯」

 

 阪東は照れる訳でもなく、複雑な表情でため息を吐く。

「それともうひとつ。グラフがアレを欲しがってる」

「⋯⋯アレ。ああ"星の羅針盤"か」

「そう。あの特級アーティファクトが必要な意味、アナタなら分かるでしょ?」

 

「時間旅行だろ?」

「正解! あの過去と未来に干渉できる星辰の神々が生み出したアレがあれば⋯⋯!」

「だから、オレか」

 その瞬間、周囲が凍ったかのような、否。文字通り空気が凍る。

 

 すかさずアルジュナは霊体化し、阪東の後ろへ下がる。

 阪東が顕現させたとある星の環境下に置かれたせいで、その気温は絶対零度に迫る勢いで低下していく。

「そういうこと。でも、アナタの事は誰にも伝えていないから結局無駄骨でしょうけど」

はぁー、と息で手を温めようとする瑠楓だが、それすらも凍ってしまい、不満げに小さく頬を膨らませる。

 

「ちょっと寒い」

「あっ⋯⋯悪ィな⋯⋯」

 そして阪東が解除すると急激な気温変化で空気が軋む。

「⋯⋯なぁ、瑠楓」

「何?」

 

 

「アレから何回死んだ?」

 

 

 普通の人が聞けば狂っているのかと思われるような問いを投げかける阪東だが、瑠楓は何かを気にすることも無く答える。

「3回ね。1回目は『人類の脅威』に潰されて。2回目は射殺。3回目は⋯⋯実験に使ったわ」

「でも、まだのうのうと生きていると」

「当たり前でしょ? 私の代わりなんて誰が務まるのよ。それに『未知』が溢れたこの世界で、全てを解明するまで止まるつもりは無い」

 

 くるくるくる、とペン回しをしながら答える瑠楓。

「他人を犠牲にしても⋯⋯か?」

 瑠楓は既に何千、何万という人間を実験に利用しており、死者や肉体を保てなくなった者も多い。今でも組織の保管庫には、脳缶に詰められて生きている人間の脳が複数存在している。

 

「⋯⋯それ、真紅ちゃんにも言われたわ。でもいずれ来る『世界の終末』によって人類の九割を損失して一割が生き残るのと、今一割だけ使って残りの九割を守るのってどっちがいいと思う?」

「⋯⋯それは」

「消費する命を選べる今だから出来ること。そして『世界の終末』が起こった時の一割に、どれだけの才能が残っているのか。それは未知数。なら、今のうちに前借りした方がいいと思うのは当たり前じゃないかしら?」

 

 瑠楓の中では人の命も、動物の命も、『人類の脅威』と呼ばれる神話生物の命でさえ同列なのだ。ただ少し自分と同じ種族だから、知能が他と比べれば高いから。そういう私的な理由で優遇しているだけに過ぎない。

「でも他に私の賛同者で、私と同等の頭がある人なんて居ないの⋯⋯。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()準備しておくのは必須事項じゃない?」

 

「⋯⋯やっぱり、オレテメェの事苦手だわ。そう言って自分の行いを正当化しようとしてる。結局全ての『未知』を『既知』に変えたいだけだ」

「そんな風に言わなくても⋯⋯」

 そうしょんぼりとする瑠楓の表情は、その歳よりも少し幼げな少女が見せるものだった。

 

 

 




後半は割と伏線が多いかもしれない。ちょっと子供っぽい瑠楓ちゃん可愛いですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。