お久しぶりです。景清vs天音からお届けします。
「布都御魂剣⋯⋯だと⋯⋯!」
景清が胸の傷を押さえながら天音の剣に目を向ける。
「そっ。代々天音家が保有していた神器。これなら⋯⋯神秘ってのが宿っているんじゃない?」
布都御魂剣は天音が言う程マイナーでは無く『日本三大神剣』と言われる程に名が知れているものである。
その持ち主に強大な力を与え、あらゆる邪気、毒気といった害物質から守ってくれるとされてきた国宝が今、天音の手にあるのだ。
「
『⋯⋯グラフの事だから、もう少しデータが欲しいと言うと思うが⋯⋯まあ、後は天音の好きにするといいさ。私はもうすぐこの空間の解析を終える所だ』
「真紅ちゃん仕事早いね」
『中々興味深い。深い部分はクレアにやらせているから何とも言えないが、普段グラフや折遠が使っている術式とは違う別のものらしい』
「き、貴様⋯⋯! 話している余裕が⋯⋯!」
剣を突き立て、息を荒くする景清は全く相手にされていない事に憤慨する。が⋯⋯。
「サーヴァントって結構傷付いても動けるんだ」
一瞬で距離を詰めた天音は視認する事すら不可能に近い速度で剣を振るう。
布都御魂剣によって強化された肉体は先程よりも数段早く、そしてより強烈な六連撃で綺麗に鎧のみを破壊する。
「サーヴァントを一基鹵獲して来い、って命令があるんだけどさ⋯⋯どう? 来たい?」
倒れ伏す景清の顎を布都御魂剣で軽くつつく天音。
「貴様なぞに⋯⋯」
天音の背後に景清の『怨』が込められた幻影が2人現れる。それは景清を模したそっくりそのままの姿であり、2人同時に天音へと攻撃を試みるものの。
「⋯⋯天音流剣術」
まるで作業のように天音は布都御魂剣を振るう。振り下ろされた剣の軌道は同時に2つ現れ、景清の幻影は頭から真っ二つに切り裂かれてしまった。
「二翼滅駆」
天音流剣術。それは天音家が代々受け継いで来た剣技。剣術に関しては現人類最高峰の技量を誇る彼らが生み出した、他者には様々な要因で絶対に真似出来ないと断言した文字通り『使いこなせれば』最強の流派である。
秘匿の御三家がひとつ、天音家。
彼らは武芸と鍛治の極地と言われ、剣技の起源とされている。しかし、それは記録に残されることは無かった。
天音家はたった1人で戦場を血の海に変えることが出来る。それ程の絶技を危険視しないはずが無い。
こうして、時に天皇家、時に幕府と時代事に盟約を交わしていたのだ。今後、天音家が表に出ることは無い。代わりに手を出すな、という単純明快な内容。その記録すらも歴史から放逐された存在。
それが天音家、そして歴代でも屈指の才能を誇る次期当主こそ、ここに立つ天音雄也である。
『虐めは良くないぞ。鹵獲するなら早くアレを取り付けるんだ。時のある間にバラの花を摘め。 時はたえず流れ、今日ほほえむ花も明日には枯れる⋯⋯だったか?』
「どういう意味?」
『長引けば長引く程余計な思考が増えて更に長引く、チャンスはチャンスがある内にものにしろ。ロバート・ヘリックの言葉だ』
偉人の言葉を解説する真紅と、倒れ伏す景清に冷たい目を向ける天音だったが⋯⋯。
『えっ? ⋯⋯お、おい! 下がれ天音!』
「は?」
真紅から警告の声が発せられた直後、天井が崩落する。そして天井から落ちてきた黒く淀んだ禍々しい竜巻が、跳ねるようにその階層を壊し尽くす。
「マジ?」
「ま、マスター!」
上階から見下ろしていたのは天音のサーヴァント、ルー。
「そちらが片付くまで儂がこやつを足止めしておく。今のうちに⋯⋯」
「じっちゃん⋯⋯キツそうだねぇ。分かった、1分だけ待っててね」
横目で天音がこの場所に来る時に空いてしまった穴から脱出している景清を見て、再び
「
再び冒涜的な呪言を口ずさむと、金属板のような真っ黒の薄いナニカが形を変えて両肩を覆うように分裂し、装着された。
「空中戦かぁ、あの空飛ぶ蛇をぶった斬って以来だね。テンション上がるなぁ」
この場をルーに任せ、天音は景清を追って穴から飛び出す。
「ふぅん。⋯⋯見つけた」
黒い帯が巻かれており目元は見えないものの、必死に離脱を図る景清を見つけた天音。
まだ空中にいる景清に狙いを定める。
「新天音流剣術」
そう呟いた時には既に景清を追い越していた。
「なっ!?」
「四閃風澪」
剣術名を天音が小さく呟くと、景清の四肢は宙を舞い、視界に入る前に空へと置いていかれる。
そして斬られた事に気が付く時には既に景清の首は落ちていたのだ。
追い越した先で静止していた天音によって。
「武士なんだから空中戦くらい経験しときなよ、コレ、次きた時の教訓ね」
「バ、かなことを⋯⋯」
そのままバラバラにされた景清の身体を空中で眺めつつ、少し申し訳ない気持ちになる天音。
「うーん、空中での自由が約束されている僕と落下しか許されていない景清さんだったらフェアじゃなかったのかなぁ⋯⋯?」
『馬鹿な事を言ってないで早く戻ったらどうだ?
「ごめんごめん、じっちゃんも待ってる事だしね」
飛行型
もちろん完璧に再現出来ているという訳では無いため、滞空時間は短いが、単身の身で空を飛ぶ事が出来るという歴史的偉業を成し遂げたのは前代未聞の出来事で、誇るべき事である。
例え如何なる犠牲があったとしても、だ。
「よっと。じっちゃんもど⋯⋯」
天音が元の階に戻った直後、左スレスレに巨大なレーザーが過ぎ去る。
「あっぶな!?」
「マスター! 気を抜くでない!」
「ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"」
人とは思えないその奇声を発している存在は、体長20mはある巨体。肉の殆どが腐り落ちており、肉体は無く骨格のみとなっている。ある程度マシな顔部分でさえ眼球は無く、筋肉が露出しどこで声が出ているのかすら定かでは無い。飾りのように生えている髪の毛から生える鬼の角すら、他の要素に目を向けていれば気が付かないかもしれない。
背中から生える骨型の蜘蛛の足に似た何かで立ち上がり、足があるはずの場所ある百足の尻尾を無理矢理骨格化したようなもので歩き回っている。下腹部には青色の布切れがあるものの機能しているようには見えない。
辛うじて微かな肉で繋がっているような右手には15m近い刀が握られている。刀身が紅蓮で燃え盛り、その熱量はあらゆる大地を燃やし尽くすと言われても納得してしまいそうな程。
それはアジ・ダハーカのサーヴァント。セイバー、禍津日神である。
「でっけぇ、これも英霊⋯⋯?」
「あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"!」
天音を見た喉が朽ちているにも関わらず発せられた奇声と共に、禍津日神は口から直径5mはある紫色の禍々しいレーザーを放つ。
「っ!?」
天音は即座に『門』を起動し禍津日神の背後へと回る。
「やっば今の、内閣総辞職ビームってこれのこっ⋯⋯と!?」
が、禍津日神に付いている百足の足から同系統のレーザーが数十本放たれる。
流石の天音も無駄口を叩く暇が無くなったのか、表情が切り替わる。普段のお調子者のような雰囲気では無く禍津日神を
その部屋を縦横無尽に駆け回り、迫り来るレーザーを回避しつつ、真紅に連絡。
「真紅ちゃん、見てる? アレ何? さっきの武士とは明らかに違うんだけど?」
『まあ、見ているさ。⋯⋯ルー老師、あのサーヴァントの名前は分かるかい?』
「わからぬ! 最初は大人しそうな青年だと思ったんじゃが、攻撃した途端にこれよのう。流石の変わり様に肝が冷えたわい」
天音が天井を蹴り、布都御魂剣で攻撃を行おうとした所、左手から黒い穢れた竜巻が放たれる。
「図体でかい癖に反応はっや」
即座に「門」で転移。1度距離を取る。
『明らかに室内戦は不利にみえるが? こっちとしては一度離脱しても構わないぞ』
「⋯⋯もしかしてアレ撃ち込む気?」
『アレ? ああ、効くかは分からないが選択肢としてはアリだな』
「やめやめやめ! 流石に『Demons core』は日本が吹き飛ぶ!」
『心配するな、冗談だ。まあ撃ち込むにしても火力調整は意外と簡単なんだぞ?』
長距離誘導エネルギー弾『Demons core』は陸上自衛隊特殊作戦群盤外遊撃部隊が『核兵器の代わり』として生み出した戦略兵器である。これらも『電気銃』と呼ばれる異星の兵器から着想を得ており、最大出力で直径1500kmをエネルギー弾1発で更地にし、更に半径600kmの電子機器を数時間麻痺させるという追加効果まである。
「まあ、室内戦が不利なのは分かるよ。誘導お願い」
『了解だ、とりあえずタワーから引き剥がそう。ルー老師はそのまま飛び降りてくれて構わない。この程度の高さならサーヴァントは余裕だな?』
「了解じゃ! 落下は⋯⋯善処する」
そう言ってルーと天音はランドマークタワーから飛び降りる。
「あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"ぁ"!!!」
そして禍津日神もそれを追って穴からタワーを伝って降りる。
「げっ、ガチで百足じゃん⋯⋯僕虫苦手なんだよね⋯⋯」
『ちなみに言うと、あのレーザーや竜巻には"穢れ"があるから、少しでも食らえば身体が汚染されるぞ』
「ヤバいねぇ!?」
横浜ランドマークタワーの外壁を這うように移動している禍津日神を見て天音は苦笑い。
「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"!!!」
禍津日神は外に出たことをいい事に四方八方にレーザーを放つ。辺り一体が爆発四散し、瓦礫が宙を舞う。
「フツーにヤバいでしょ。真紅ちゃん、ポイントは?」
『⋯⋯こことかどうだ? 明確に広い場所でも無いが、天音もビルを遮蔽物として使える大通り』
天音の目の前に半透明のモニターが現れる。空中ディスプレイのような見た目のソレには天音とルーが向かうべき進路やその場の現状、有効な使い方が書かれていた。
「まあ、ビルの殆どは半壊してるけどさ⋯⋯。ええっと、ここだね。いいよ、真紅ちゃんの指示なら信用出来る。じっちゃん!」
「見えとるわい! わかった!」
ヒラヒラと空中でレーザーを躱す2人は何事も無く着地。
「アンヴァル!」
ルーは愛馬の名を呼ぶ。するとどこからともなく純白の馬がルーへと駆け寄り、二人を乗せる。
「乗れぃ!」
「りょっ! じっちゃんにエスコートされてる大学生とか、絵面的には面白いな」
冗談めかして言う天音だが、すぐそこには禍津日神がいる。
「あ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"!!!」
迫り来るレーザーをアンヴァルは銀色の障壁で弾いていく。
『アンヴァル⋯⋯なるほど。海神マナナーンからの借り馬で、騎乗者に安心と安全をお届けする魔法の馬。らしい』
「なにそれ一家に一匹欲しい!」
陸を駆けるアンヴァルは禍津日神から離れ過ぎず近過ぎずの距離を保ち、上手く誘導していく。
しかし、ここで禍津日神が予想外の攻撃を取る。
「大津波」
禍津日神が左手を地面に付けると、その場から洪水が発生する。瞬く間に建物を飲み込み、津波の高さは軽く10メートルを越えている。
「わぁお、じっちゃんこれ大丈夫?」
「安心せい! どこ産の馬じゃと思っとる!」
その言葉通り、アンヴァルは迫り来る波を乗りこなし、海すらも朗らかに駆けぬける。
「噴火」
更に禍津日神がおどろおどろしい声で呟くと、コンクリートを破って辺り一帯から溶岩が溢れ出る。
「ぎゃー!」
「流石にマグマは聞いとらんのう!」
バルル、と鼻を鳴らすアンヴァルは吹き出る溶岩を軽々と避けていく。
『流石にここまで器用な事が出来ると地形での有利は望めない⋯⋯か?』
「むしろ開け過ぎない方が良かったよね。フッツーに津波で死ねる」
指定のポイントまでもうすぐなのだが、ここで真紅との回線に割り込んでくる者がいた。
『元気? ⋯⋯元気そうね』
『瑠楓じゃないか。どうした?』
自衛隊特殊作戦群盤外遊撃部隊の研究チームのリーダー、呉島瑠楓である。
『本部に戻ってそっちのデータは見てるわ。中々凄い相手ね。見た目は⋯⋯和風サーヴァントかしら?』
「多分ね。鬼の角があるから多分日本の。で、すっごい炎の剣を持ってる」
『ふぅん? ⋯⋯鬼の伝承でそれっぽいのはいなさそうね。津波や噴火っていう災害を操る存在も⋯⋯あるけど、それっぽいのは無いのよね』
「じゃあ誰なのコレ!?」
半笑いでツッコミを入れる天音だが、目は笑っていない。
『もっと視野を広めてみましょうか。レーザーや彼が纏うオーラ、それに黒い竜巻には澱んだ穢れのような物質が混じっている⋯⋯のよね?』
『ん? ああ。腐敗とも違う別のナニカ。詳しい成分はそっちで解析してくれ』
『勿論、既に回収済みよね? ⋯⋯まあそれは置いといて。その穢れや厄災に関する存在はピンポイントで居るの』
瑠楓は資料をドルイドへと転送し、一息。
『彼の真名は禍津日神。災厄を司る神で、多分そこに居るのは⋯⋯日ノ本のありとあらゆる厄災の伝承を統合した文字通り天災そのものね』
その言葉を聞いたルーと天音の顔が青くなる。
「えっ!? はっ!? 天災そのもの!?」
「これはまた⋯⋯とんでもない貧乏くじを引いたのう⋯⋯」
『禍津日神⋯⋯触らぬ神に祟りなし、を具現化したような伝承だな。
『これは私の推測だけど、多分彼、この日ノ本の終末装置の可能性みたいな存在かもしれない』
『終末装置?』
真紅がKRでその単語について調べるも、それっぽいワードが出てくることはなかった。
『異星の魔術の言葉じゃなくて、こっちの魔術の言葉。ワタシはそっちの魔術も少し知識あるのよね。ナイショにしてたけど』
『おい、規則違反だぞ。後で陸将に報告するからな』
『えぇー! パパにもナイショだったのに⋯⋯。はぁ、もういいわ。終末装置っていうのは星の抑止力⋯⋯なんて言えばいいのかしら? 地球の自浄作用が生み出した文明の掃除屋みたいなものよ』
ざっくりとした説明で曖昧だが、真紅は事の重要性を理解していた。
『つまり、このまま放置しておけば日本がアレに滅ぼされる⋯⋯と?』
『まあ、どうして自浄作用が働いているのかは分からないのだけれど、そういう事。それとあくまでも可能性よ。まだ成長する可能性がある』
「今以上に内閣総辞職ビーム撃ってくるってマジ!?」
『放置してたら日本人総殉職ビームになるわよ。頑張って止めてちょうだい?』
「はいはい! 上官命令承りました!」
大きく憂鬱げにため息を吐き出す天音。
『終末装置⋯⋯少し
丁度天音達が目標地点に到着した所で、瑠楓は通信を切断する。
その場所は比較的被害の少ないビル群が建ち並ぶ大通り。少ないとは言っても倒壊したビルや破壊跡があり、それが遮蔽となり、転移を多用する天音からすると絶好の戦場だった。
「簡単に言ってくれるよ⋯⋯ポイント到着、再度交戦に移るよ」
『了解。禍津日神の分析は任せてくれ。天音、あとこれを渡そう』
「⋯⋯おお? なるほど、じっちゃんパス」
「ぬぅ⋯⋯?」
アンヴァルから下りた天音は真紅から転送されてきた指輪をルーへと投げ渡す。
「"門の創造"の試作アーティファクトだ。サーヴァントが上手く使えるかは分からないが、ルー老師は万能の神だと聞く。今後の為にも使いこなして欲しい」
門の創造。それは異星人が使用する転移魔術の1つである。この星の魔術において、転移は「魔法に近い魔術」に分類され、非常に珍しいものなのだが、門の創造という魔術は異星人の中では非常にメジャーな魔術となっている。
しかし、その魔術を行使するには膨大な詠唱と魔力、そして精神を消費してしまう。
それを回避するために開発されたのがこのアーティファクトである。詠唱を機械化させ、蓄積された魔力で魔術を行使する事で使用者本人の負担を限りなく減らすことに成功したのだ。
「了解じゃ。なんとなく使い方は理解しておる」
「あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"」
向かってくる禍津日神を睨みつつ、ルーは自らのマスターを横目で見る。
どことなく楽しそうで真剣な目と、余裕溢れるその気迫。
「のう、マスター。怖くは無いのか?」
「怖い⋯⋯? どうして? じっちゃんらしくないんじゃない?」
「相手はこの地の天災の集合体と聞いた。そして更に進化し、この日本を滅ぼす存在になる可能性すらある。そんな存在を前にマスターは怖気付くことはおろか、楽しんでいるように見えるのじゃ。それが不思議でならん⋯⋯」
ああ、とその答えが面白かったのか、天音は小さく愉快そうに笑った。
「今更だよ、そんなの。もう人間自ら自然をコントロールし、打ち砕こうとしている時代、今更災害の概念程度でビビってたら先に進めないんだ。強いて言うなら、自然すら支配したがる人間の方がよっぽど恐ろしいと思うけど?」
「それは⋯⋯」
「それに、僕ら盤外遊撃部隊は対外神のチーム。世界を滅ぼす存在の一匹二匹程度、あしらえないなら失格だよ」
天音は言葉を失ったルーへ淡々と語る。
「それと、僕は僕が最強であればそれでいいんだ。神なんて概念、所詮は人の踏み台。今更現代に出てこられても人に潰されるのがオチさ」
天音雄也は知っているのだ。
存在だけで人に絶望を与え、恐怖させる外なる神。
それ以上に恐ろしい存在を。
彼らは目に付く全てを支配したいという欲に満ちている。
そうしてこの星そのものを管理下に置いた。
まるでそれが己の保身の為と言わんばかりに。
その生命体は肉体性能で言えば弱い。だからこそあらゆる未知という不確定要素を排除しようと歩を進める。
生態系すら歪ませ、壊し、自分達の利の為ならば他の生命の数や一生をコントロールする事すら厭わない。
そして災害をも予測し始めた彼らは次に地球の外、宇宙にすら手を伸ばそうとしている。
際限なく侵略を続けた先に、彼らは外なる神々すら支柱に収めるのだろう。
積み重ねてきた
動物園や水族館で飼育されている生物と同じように、神々の行く末すら人間が決めるようになるのかもしれない。
それが遅いか早いかの違いだけ。
未知という不確定要素であれば、それを徹底的に解剖する。
人類はいつの時代でも未知への対応は変わらない。
人間が宇宙の果まで解明しないと気が済まない知性の獣であるが故に、理解し得ないものを理解し、神秘という概念を根本から否定してきた。
それを間近で見てきた天音だからこそ、理解し得ないものへの恐怖は無い。どうせいずれ理解してしまうものなのだから。
「あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"!!!」
「神様だからって、ビビってちゃダメなんだよ」
禍津日神の口から放たれたレーザーを、数ステップで回避する。
まるでもう見切ったと言わんばかりに。
コンクリートが抉れ、汚染された地表は毒々しい煙が上がる。
「すぅー、はぁー」
汚い空気だと感じながらも天音は深呼吸で身体を整える。
「真紅ちゃん、なんぱー?」
『もういけるぞ』
「なら、じっちゃんは大丈夫か」
脳を切り替え、心を空にした天音は1歩を踏み出す。
そして瞬きの間に天音は禍津日神が立つ下半身の上3m程の場所にいた。
そして同時に禍津日神の左腕が落ちる。
「あ"?あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"!」
ボタリ、と音を立てた左腕からは血では無く、ドクドクと紫色の澱みが溢れ出ていた。
そしてそれを意に返す事無く口や百足の足からレーザーを放つ。
「芸がない」
天音は
「ほっ、よっ、儂もやらんとなぁ! 」
華麗な動きレーザーを避けるルーは虚空から一本の長槍を取り出す。
「
それを投げる事無く投石器に装填すると、手に持つ投石器がそれに見合う程大きくなる。
「
放たれた
「
それを見た禍津日神は右手に持つ天羽々斬を振るう。
虚空を斬り裂いた天羽々斬から邪悪に満ちた漆黒の炎が燃え盛り始めた。
本来神聖なものである火之迦具土神の炎だが、禍津日神の存在によって変質しているのだ。
その炎が
炎をかき消し、
「か"、ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"」
サーヴァントの心臓部には霊核が存在する。ソレが壊されればサーヴァントは身体を保てずに消滅する。
それは終末装置の可能性として産み出された禍津日神も例外では無い。
はずだった。
「あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ" ぁ"」
悲痛な叫びと共に、穿たれた心臓部から穢れが混じったドス黒い煙が立ち込める。
『禍津日神の魔力上昇中、二人は1度そこから離れた方がいい』
眉一つ動かさず戦場を観測している真紅の掛け声で二人は"門の創造"で転移を行う。
「
禍津日神が天を仰ぎ見る姿を物陰から伺うルーは小さく呪言を唱え、
「⋯⋯」
禍津日神の叫びが収まり、辺りに静寂が盈ちる。
「
禍津日神の落とされた左腕や胸に空いた穴は既に穢れが修復し、上半身の至る所から真っ白の腕が生える。それは人に蹂躙された大地からの復讐。人の形をした天災が、彼らを飲み込もうとした結果生まれたモノ。
天音は一気に気温が下がった事を肌で感じていた。それも数秒で氷点下を下回り、尚も下降し続ける急激な変化。
そしてパラパラと雪が降り、更に突風が吹き荒れる。
『目下気温低下中、この速度ならあっという間に猛吹雪だぞ。⋯⋯同時に雷雲と乱気流が発生、地盤もぐちゃぐちゃだ』
そしてコンクリートが裂け、大量の水が溢れ出る。それは一箇所二箇所といったものではなく、目で終える範囲の至る所、理屈は不明だがビルの隙間からも濁流が発生していた。
それとは別に溶岩流も発生。コンクリートを溶かして地中から吹き出るソレは摂氏1000度にもなり、横浜中の建物を呑み込むように溶かし尽くす光景は大自然から人類への抵抗にすら思える。
更に合わせるように地震が引き起こされ、地割れにより多くの建物が大地の中へと吸い込まれていく。
空は異常な数の落雷が降りそそぎ、猛吹雪が荒れ狂い、竜巻が瓦礫を吸い込む。
大地は割れ、濁流と溶岩の奔流で支配されたその場所に、あらゆる建造物は無へと帰す。
熱く、冷たく、礫が肌をえぐり、眩しく。あらゆる感覚が入り交じる混沌としたその場所はまさに天災。
「ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"」
禍津日神の叫びは自然の叫び。人々に侵されてきた大地が示す怒りの詩。
禍津日神の宝具『
「マジ?」
空中に退避していた天音はその光景に呆然としていた。
「儂が不用意に心臓を射抜いたせいじゃ⋯⋯」
『いや、ルー老師のせいじゃない。ここまでの事態になるとは想定していなかったからな』
残っている建物に転移しつつ、連絡を取るルー。
そして冷静に観測を続ける真紅の語気は徐々に強くなる。
『それと、不味い状況だ。本来アジ・ダハーカの結界は外への被害を出さないような造りになっているはずなんだが⋯⋯禍津日神の干渉力は結界で抑えられる規模じゃない。このままだと東京や静岡、場合によっては日本丸ごと天災で地に還る結果になるぞ!』
「は!? ホントに世界の終わり!?」
肥大化する禍津日神の体長は30m近くにもなっており、人間の皮膚を破って生え続ける腕は藻掻くように奇怪な動きを見せる。
「あ"ぁ"? ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"!!!」
ギロリ、と首を360度回転させながら天音を見た禍津日神は生えてきた気持ち悪いくらいに白い数百の腕からレーザーを放つ。
「こんなに進化しても攻撃方法の品揃えは薄いねぇ!」
例え禍津日神のレーザーでも天音の空中機動を捉えることは出来ない。スルスルと3次元的な動きでレーザーを回避する天音だったが、目の前を目が潰れる程の光を放つ雷が通り過ぎた。
「!?」
再び閃光が走り、耳を劈く程の轟音が付近を荒らす。
同時にレーザーが天音へと襲い掛かり、その回避先を潰すように雷が飛来する。
「やべっ」
レーザーを複数回避した所で、回避先の雷が天音の頭上を捉えていた。
禍津日神にとって、雷は光の速さで落ちる単純な武器。
天音は死を覚悟した。
「儂も少しは役に立つじゃろ?」
が、その雷は寸前の所で紫色のバリアに阻まれていた。
ルーは空中にルーン文字を描き、天音を守ったのだ。
「じっちゃん! 魔術も出来んの!?」
「当然! 出し惜しみしておる暇は無さそうじゃしなぁ!」
諸芸の達人ルーに出来ないことは存在しない、と言わんばかりにあらゆる才能を持つ彼にとって、原初のルーンを扱う事等造作もないことである。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"」
天音は
『天音、お前そろそろ体温がヤバいぞ。31度を下回ればそのまま死ぬ可能性も出てくる』
「今何度?」
『⋯⋯30.236度だ』
真紅は囁くように答える。
「おおぅ⋯⋯なんで放置してたの!?」
『流石に余裕なさそうだったからな。『ナーク・ティト』を使えるくらいに戻ったから少し小耳に差し入れしてあげたんだ。お前、珍しく心拍数と脳波パターンのメンタルカラーが赤色になっていたんだぞ』
小粋なジョークだ、と言わんばんばかり真紅は天音を揶揄い、同時に身体の調子をそれとなく伝える。赤色、というのは焦りや不安といった感情を指し示す信号。
真紅の言う『ナーク・ティト』とは異星人が使用する結界魔術である。元となった『ナーク・ティトの障壁』は基本的に中に閉じ込める目的で使われるのだが、陸上自衛隊特殊作戦群盤外遊撃部隊が使用する『ナーク・ティト』はそれを縮小した『簡易障壁ナーク・ティト』であり、個人用の透過シールドとして使用されている。
余談だが、横浜ランドマークタワーに入り込む時に使用した防殻も『ナーク・ティトの障壁』を改造したものだ。
『焦ることは何の役にも立たない。後悔はなおさら役に立たない。焦りは過ちを増し、後悔は新しい後悔を作る。ゲーテという詩人の言葉だ。今はまだ後悔はしていないが、焦った結果後悔が生まれる可能性がある。1度冷静になれ、このばかちん』
「真紅ちゃん⋯⋯」
遠目で観察出来るからこそ、随時メンタルケアを欠かさず行う事が出来る。これは組織として聖杯戦争に臨んでいるこの部隊だから出来ること。
「ほれ、マスター」
「⋯⋯? ⋯⋯身体がポカポカする⋯⋯?」
高速飛行のルーンを使用したルーが、天音へと耐寒のルーンを刻む。多彩で簡潔なのもルーンの強みである。
『ルー老師の魔術とナーク・ティトがあれば計算上、無理矢理接近可能だ。だが、奴の弱点が見えない以上、ここで攻めるのは危険だ』
「だったらどうするの?」
『それを見つけるのが私の仕事だ、とりあえず死なない程度に⋯⋯』
天音と真紅が作戦会議していると⋯⋯。
「鬼の気配を手繰って見れば、なんたる光景!」
そこに聞き慣れない、落雷の轟音にも負けない程大きな声が辺りに響く。
「は?」
「マスターの指示で来てみれば、世界の危機。ならば良し、ならば良し。俺っちの初陣に相応しい!」
天音が頭上を見ると、そこには鳥の翼が生えた和装の男。
腰には刀と小袋、そして背中に背負った旗には大きな「桃」の字。
黒目黒髪の立派な日本男児。トレードマークは小さなちょんまげ。
それは、この日本において、その名を知らぬ者は居ないと言える程の知名度を持つ者。
「いや誰だよ」
そう尋ねた天音を見た彼はニンマリと笑い高らかに叫ぶ。
「俺っちか? 聞いて驚け皆の衆! 此度はアルターエゴのクラスにて現界した! 真名を桃太郎! この命、『Continue』したマスターと共に! ってな!」
禍津日神がヤバすぎる。自然への干渉力なら作中ナンバーワンなのでは?
余談ですが、終滅でついめつと読むのちょっと好き。