Fate/The Fatal Error   作:紅赫

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毎日投稿出来ませんでした……。


プロローグ 宇都宮家の魔術師

 

 少し時間を遡り宇都宮俊介と神崎輝愛が出会う1日前。

 事の始まりは魔術協会からの連絡からだった。

 宇都宮家当主、宇都宮蓮司に横浜での聖杯戦争開催の手紙が届いたのだ。

 宇都宮家は横浜を拠点とする魔術師の家系の1つで、特別優れた血統という訳ではなく魔術を現代社会でどう活かすかという研究に尽力している。

 

 その結果、彼方の未来で自らの家系だけではなく世界全体で根源への到達を達成出来るのではないかという思想だ。

 魔術師としては異端な考え方であり、協会としては秘匿すべきだと考えている魔術の現代社会での使用は止められているため研究は進まず停滞していた。

 

 しかしここで蓮司の腕に令呪が浮かび上がった事で状況が変化した。令呪があるということは即ち聖杯戦争への参加資格が生まれたということになる。そして浮かび上がった令呪が本物であることを魔術協会から正式に表明があった以上、辞退するという選択肢は無い。

 そう考えた蓮司は夕飯時に俊介を呼び出し、事の顛末を伝えた。

 

「つまり父さん、聖杯戦争に参加するって事? ⋯⋯これで僕達の意見が魔術協会に届くね」

 宇都宮の自宅は特別大きいという訳ではなく、二階建ての3LDKで一般的な住宅街の一角に住んでいる。これは宇都宮家として人々と寄り添うべきだと考えているからだ。

「ああ、その件なんだが⋯⋯」

「⋯⋯?」

 俊介が歓喜の声を上げると蓮司は覚悟を決め、俊介にある提案をした。

 

 

「お前が聖杯戦争に出ないか?」

 

 

 蓮司は苦渋の決断の末、俊介に令呪を預けるという選択肢を選んだのだ。

「⋯⋯ちょっと待って。令呪の譲渡は他のマスターかサーヴァントとの繋がりがある人物しか不可能なはずだ。それにそれを分からない父さんじゃない」

 俊介の心境は困惑に満ちていた。蓮司と俊介の戦闘力に関しては俊介の方が上なのだ。そのため蓮司の選択は理解出来る。が、それ以前の問題なのだ。

 

「ああ。本来であればその通り。だが、今回の聖杯戦争はそもそもの根底が違うらしい」

「⋯⋯とりあえず色々聞かせて欲しい」

「まず、聖杯戦争が起こる原因となった聖杯だが⋯⋯魔術協会のものでも聖堂教会のものでも無く、更にはこの世界に元々あったかすら怪しいイレギュラーな聖杯なんだ」

「⋯⋯は?」

 その言葉が突拍子の無いものであり、面食らった俊介を他所に話を続ける蓮司。

 

「それに伴ってか既存のルールとは違うところが多い。そのひとつが令呪の譲渡、既存のルールに加えて『血の繋がりがある人物』があるんだ」

「それは聖堂教会側からのルールか?」

「いや、聖杯が直接設定したらしい。そもそも今回聖堂教会が指定したルールは無い」

「ますます分からなくなってきた⋯⋯」

 

 頭を抱える俊介。

「既存のルールは全て聖杯の意志だ。そのルールは最初にサーヴァントを召喚したマスターの頭の中に直接書き込まれたとか」

「それ信じていい情報?」

 

「証人として二騎のルーラーが正しい告げているからな」

「ルーラー!? それも二騎!?」

 ルーラーとは基本の七騎とは別の区分に数えられるクラスだ。エクストラクラスと呼ばれ、通常の聖杯戦争では絶対に召喚されない。そもそも出現条件が聖杯戦争そのものが特殊な形式であり、その結果が未知数であるため、中立の立場として召喚される存在なのだ。

 

 そのため滅多な事でルーラーが出現することは無く、ましてや二騎召喚されるということ自体おかしい事なのだ。

「だからルール的に譲渡は出来ない訳じゃない」

「いや待った待ってちょい待っと」

 情報量の多さに頭がパンクしそうな俊介は1度緑茶を口にしてから息を吐く。

「僕が出るのは構わない。父さんに負担を負わせるのは気が引ける。それに父さんより僕の方が強いからさ。⋯⋯それで、今分かっていることを聞かせて欲しい」

 

「ああ。今のところ他で変わった様子は無い。とりあえず令呪に関しては一部仕様が普段とは違うらしい。なんでも令呪一角につき聖杯1つ分の魔力が込められているとか」

「それってつまり⋯⋯本来魔力の総量上不可能な命令も可能ってことになる?」

 

 令呪での命令範囲は決まっており「マスターの魔力量とサーヴァントの魔力量を合計した魔力量」となっている。しかし聖杯分の魔力が使えるとなれば話は別。極論⋯。

「星を砕けって言えば砕けるパワーが生まれる⋯⋯?」

「極論を言えばな」

 

 そして先程の不穏な言葉を思い出した俊介。

「あと、今のところ変わった様子は無いって言ってたけどこれから変わる可能性は?」

「⋯⋯ある。今回の聖杯戦争は途中でルールが追加される可能性があるらしい。それが一番の違いか」

 

 その後、一通り話を終えた2人は食事を済ませリビングの中心に立つ。

「だいたい分かった。じゃあ令呪の受け渡し、お願い父さん」

 

 

ーーー

 

 

「⋯⋯学校が冬服で良かった」

 登校中、俊介はそう小さく呟く。

 夏服の場合令呪が野ざらしになるため隠蔽の魔術を使用する必要があるからだ。

「聖杯戦争⋯⋯か⋯⋯」

 

 俊介は思う。これはチャンスだと。魔術協会に自らの力を示し、現代社会と魔術の共存を目指すべく尽力することが出来る。

「よし!」

 俊介自身の戦闘力は決して低い訳では無い。宇都宮家の思想を良しとしない勢力を長年退けてきたため魔術戦においては同年代の魔術師よりも高いレベルに位置するのだ。

「でもなぁ⋯⋯」

 

 しかし宇都宮家には致命的な弱点がある。

「工房どうしよう⋯⋯」

 独自の工房が存在しないのだ。これは生活様式を現代社会に合わせた結果、工房を必要としない魔術師を目指してきたからだ。

 しかし工房がなければ英霊を召喚出来ない。そのため即席の工房を作成するしかない。

「⋯⋯場所的には学校しかないか。家もそんなに広くないし⋯⋯」

 と、ボソボソ呟いていると自身の教室に到着する。

 

 窓際から2番目の1番後ろ。目立たずちょっとした魔術の検証にはピッタリな位置なのだ。

「あっ、ごめ」

 俊介が向かってくるのを見た隣席している女子生徒が俊介の机まで侵食していた荷物を退かす。

 

「大丈夫」

 天然物っぽい腰まで伸ばした綺麗な金髪に青のカラーコンタクト、少し外国人の血が入っているかのような顔立ちと白雪のような白い肌は同い年であっても大人の魅力に溢れている。そしてそれを後押しするのが豊満な胸とモデルのような高身長だ。スラッとした体型に加えて制服は着崩しており、本来あるはずのリボンは無く胸元は第二ボタンまで外しているため胸元をチラチラと覗かせている。

 文武両道、コミュニケーション能力も高く友達も多いのが彼女、神崎輝愛の生徒から見たイメージである。

 

(凄いなぁ⋯⋯)

 もしかしたら彼女が自分と同じ立場にあれば聖杯を使わずとも魔術協会を動かせるのではないか。魔術師の世界と現代社会の架け橋になってくれるのではないだろうか、と少しだけ期待してしまう俊介。

 

 しかしそれは自分の役目なのだと鼓舞し、意識を切り替える。

 その時、俊介と輝愛がぶつかってしまいノートを落としてしまう。そして今夜の詠唱までに覚えるべきメモ紙がノートの間から滑り落ちてしまった。

「あちゃ」

「⋯⋯!」

 そのまま俊介のメモを拾った輝愛はノートと共に返却する。

「マジごめん」

 

「気にしてない、まあ少しビックリしたけど」

「⋯⋯お詫びに1本買ってくるけど何かいる?」

「お構いなく。こっち不注意だった」

 輝愛は「じゃあお茶買ってくる!」と言って教室から出る。

「⋯⋯見られてないよね?」

 そもそも見られたところで輝愛に意味が分かる訳じゃないと判断し暗記を始める。

 

 そしてホームルームが終わりその日の授業が終わりつつある15時頃。

「⋯⋯視線を感じる」

 ボソリと誰にも聞こえないような声で呟く俊介。

 どこからか見られているのでは無いかという奇妙な視線を感じた為探知の魔術を起動する。

 

 空気の振動による物体探知だが反応は無い。

「気の所為かな」

「ふぁぁぁ〜。宇都宮くんどったの?」

「何でもない」

 目を擦りながら小さく欠伸をして目を覚ます。

 授業中爆睡していてテストの点数高いのは何故だろうと本気で疑問に感じた宇都宮。

 視線に関してはは帰宅中も感じており別の探知魔術を試しても反応は無く集団ストーカーの幻覚に襲われているのかと思ってしまうほどだったとか。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 こうして今に至る。

「メモ紙は完全に偶然。グレムリンみたいにメモに書いてる辺りよっぽど重要な儀式じゃんコレ」

「そりゃそうだろ。聖杯戦争っつーのは魔術師からすれば後にも先にも無いチャンスだ、不意にしたい奴はいねぇと思うぜ」

 

 と、黒ポンチョ姿の神崎が独り言のように呟き、重なるように大福が返答する。

「⋯⋯じゃあ僕が感じてた視線って⋯⋯神崎さんの仕業?」

「⋯⋯んー多分そう。アタシの使い魔的な存在がずーっと監視してた」

 

 輝愛が壁と床にある角に人差し指を向けるとそこから2m強ある四足歩行の獣が現れた。

 青黒く光る肉体からは青みがかった液体が垂れており、それが地に触れるとジュワっと溶ける音が聞こえる。顔は狼に似ているが大福とは違い口はワニのように長い。しかしながらチロチロと見せる舌は大福と同じ針のようなもので、本質的には同じ生物なのだと俊介は思った。

 そしてなんとも言えない気持ち悪さと身体をなぞるような恐怖感情が生まれるのは大福と同じである。

 

「そ、それが神崎さんの⋯⋯使い魔⋯⋯?」

 イメージとの乖離にドン引きの俊介だったが、輝愛はそんな事ないらしい。

「えー? 可愛くない? ほら、キモカワって感じ」

「神崎さんのセンスは⋯⋯ちょっと分からないな⋯⋯」

 俊介が苦笑いを浮かべながらも手元では術式を編んでいた。

 輝愛は英霊召喚を傍観していたとはいえ俊介にとっては敵。普段少しだけ関わりがあるとはいえそこで躊躇っては三流なのだ。

 

『おい、アイツ術式組んでるぞ』

「えっ、アレ。これってもう聖杯戦争始まってるの? あの監督役さんが宣言したらとか言ってたし⋯⋯」

「ヴォルテ!」

 俊介の左手から鋭い光を放つ閃光が射出され、輝愛の顔を素通りする。

「⋯⋯神崎さん! 次は当てる!」

 

 そう辛そうな表情をしながらも宣言する俊介だが、それを見てんー、と唸りながら手元でナイフを遊ばせる輝愛。

「足りないんじゃない? 殺意が。そんなんじゃアタシを殺せないよ?」

「⋯⋯!」

 

 その瞬間輝愛の雰囲気が変化した。いつもの陽気な口調ではあるが、雰囲気は別物。まるで冷たい刃を喉元に当てられているかのような錯覚を覚えてしまう俊介。

「そろそろ僕も口を挟んでいいかな、マスター?」

 今まで静観していたエルキドゥが口を開く。

「⋯⋯沈黙はイエスと捉えさせてもらうよ。今のマスターはまだ決意が決まっていないように見える。それなら代わりに僕が彼女を殺すよ。それでもいいかな」

「それは⋯⋯」

 

「彼女は今サーヴァントの力を使って自身を強化しているようだけれど、マスター単体でサーヴァントを超えることは出来ない。倒すなら今だよ」

 歯を食いしばり苦悶する俊介。そして決断する。

「分かった、やれエルキドゥ」

 

「了解。少しは楽しめるといいな」

 それを眺めていた輝愛はニッコリと笑って⋯⋯。

「決まりだね。最初がクラスメイトっていうのも気乗りしないけど。まあ、アゲてこ大福」

 

 




次回、エルキドゥVS輝愛&アサシンになります。
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