Fate/The Fatal Error   作:紅赫

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ここからはスローペースになると思います。明確に決まっていたのがプロローグまでだったので。


三つ首の乱入者

 

「真正面から戦ったこと無いけど何とかなるか、なっ!」

 掛け声と共に1歩を踏み出す輝愛。その速度は20m程ある距離を一瞬で詰める勢いだ。

「⋯⋯」

 エルキドゥは冷静に後方へと退避。すかさず地面から幾つもの鎖を放つ。

 

 黄金に輝くこの鎖は彼の武器である『天の鎖』。先が黄金の針のようになっているその鎖は神性が高ければ高いほど拘束力を増す。

 それが視界に入った瞬間、輝愛の姿が消えエルキドゥの背後でナイフを構える。

 しかしそれが届くことは無く地面から即席の壁を創り出して防ぐ。

 

 そして左側から音もなく忍び寄っていた猟犬を鎖で串刺しにし、消滅させたエルキドゥは最初に輝愛が立っていた場所まで移動する。その場所は閉じた屋上への入口があり、壁に寄れば後ろを取られることが無いという理由だ。

 

「ちょっとー? 中々仕留められないんですけどー。てか何あの金ピカチェーン! エモエモじゃん」

『相手も本気じゃねぇってのを頭の片隅に入れとけよ。向こうが宝具を使う可能性は低いと思うがまだ余裕ある内にある程度手の内を暴いた方がいい』

「その、宝具? っていうの。必殺技なんでしょ? 大福も持ってないの?」

『俺もある。そもそもサーヴァントには最低1つ絶対にあるからな。ただこの身体じゃ使えねぇ』

 

「りょ、じゃあ今は言われた事を活用してみるよ」

 大福は輝愛にしか聞こえないように話す。

 

 大福が輝愛に伝えた権能は3つ。

 まず『角を通っての空間移動』。これは120°以下であれば世界にあるどの角でも問題無く使用出来る。角と角を通して空間の転移を行い相手の背後や死角に移動する力だ。

 2つ目は『猟犬の使役』。これは文字通り大福の配下である猟犬を意のままに操りコントロールする。こちらも大福と同じ権能を使用することが出来る。

 

 そして最後の『認識阻害』は己の姿をくらませ、「相手が最も恐怖する姿」として認識させるというもの。これは通常の気配探知では認識出来ず、エルキドゥのように大地を伝って探知するようなもので無ければ探知することが出来ないという通常の認識阻害とは異なるスキルだ。

 

 これら3つに関しては既に一定の域に居るためある程度は使いこなすことが出来る。

 そしてもうひとつ「死の悪臭」があるのだが、これに関しては輝愛本人が嫌っているため使用することは無い。

 そして今回輝愛が使用しているナイフは普段暗殺に使用しているものではなく市販の小型ナイフである。普段のナイフは父親譲りの特殊なものであり、使えば確実に殺してしまう。

 

 

 つまりはそういうことである。

 

 

「⋯⋯アサシンだと思って戦うと痛い目を見そうだね」

 エルキドゥは小さく呟くと左手から複数の光弾を放つ。剣のような刃を持つため迂闊に触れれば切断されてしまう。

「まあ、近づけようとはしないっしょ」

 輝愛は避けようとはせずそのまま立ったまま光の剣を生身で受ける。

 しかしソレは綺麗に透過し、輝愛の後ろへとすり抜けてしまった。

 

「!?」

 エルキドゥが驚いたと同時に輝愛の姿がやんわりと消え、更にエルキドゥの左右から猟犬が噛み付こうと襲いかかる。

「悪いけどそれでは僕に傷を付けられない」

 床と空中から天の鎖を放ち猟犬を拘束する。

 が、その一瞬の隙を付いて正面に立った輝愛はナイフをエルキドゥの首元へ⋯⋯。

 

 

「危ない2人とも!」

 

 

 その叫びと共に2人の耳に何かを砕こうとする轟音が響いた。

 ふとその音の方向を見るとほぼ寸前で紫色の障壁が張られており、黒く光の無いエネルギーの球体を防いでいるのが見える。

「うぉ?」

 

 ナイフは寸前で止めていたためエルキドゥに刺さることは無く、エルキドゥも輝愛から少し距離を置いている。

「ちょっと⋯⋯あのな⋯⋯」

 障壁を発生させた俊介は辛そうにかざした腕をプルプル震えさせていた。

 

「あははー、うっちゃんウケる。ちょっとごめんねー、サーヴァントさん」

「おや」

 サッとエルキドゥを抱えた輝愛が角を通して転移し俊介の隣に立つ。

「うっちゃん助かるぅー!」

「は、はいはい⋯⋯!」

 

 障壁を解くと黒いエネルギーの球体は校舎を音もなく削り取りながら校庭に着弾。そのまま何も無かったかのように静かに消えた。

「うわー、明日の学校どうすんだし」

「気にするとこそこ? アレでしょアレ!」

「アレ?」

 

 俊介が指を向けた方向にはただ漆黒の夜空が広がるだけで何かの脅威がある訳では無い。

「いないじゃ⋯⋯」

 輝愛が笑いながら言おうとした時、正面に巨体が現れ、常識外の速度で拳が迫ってくる。

 しかしそれをエルキドゥは床から生やした盾で防ぐ。一瞬で盾が砕け散りはするもののそこに輝愛の姿はなかった。

 輝愛は既にその拳を放った存在の左に立っており、手に持っていたナイフは首元を捉えていた。

 

 大福の力が上乗せされた身体能力から放たれる一撃は視認すら困難であり、その威力は絶大なもの。本来であれば首が飛んでいてもおかしくは無い。

 しかし輝愛のナイフは首を通らず、ガキンという甲高い音を鳴らして弾かれてしまう。

「ねぇー鱗ォ! あと首いっぱいありすぎだし!」

 あまりの硬さに悲鳴を上げた輝愛。そしてその対象と目が合ってしまう。

「ヤバっ!」

 

 嫌な予感を感じた輝愛は咄嗟に付近の角を通ってその場から離れる。

 そしてそのコンマ数秒後、放たれた拳が空を切りその余波で校舎を吹き飛ばしているのを目視してしまった。

「げっ!?」

「ガンド!」

 俊介は左手の人差し指を乱入者へと向けるとそこから赤黒い球体が発射される。

 しかし乱入者はそれを避けようともせず生身で受け止め放たれたガンドを消失させる。

 

「対魔力⋯⋯?」

 対魔力とは魔術に対する耐性を意味し、高ければ高いほど要求される魔術の質は高くなる。

「マジでアレ何⋯⋯?」

 

 輝愛は学校を半壊させた乱入者を落ち着いて分析していた。

 体長は3m強もある二足歩行の人型、全身を黒い鱗で覆い手足の先には刃物のような鋭い赤色の爪が伸びている。頭部は3つ存在しておりどれもドラゴンのような異形、首は中央の1つに残り2つが鎖骨上の背骨に寄っている辺りから生えている。

 人間で言う胸には竜の口を模したかのような顔があり、臍に位置する場所には血色に染まった眼球がギロリと周囲を伺っている。

 

「⋯⋯アレも英霊ってヤツ?」

 素直に浮かんだ疑問を投げかける輝愛だが、俊介から返答が帰ってくる様子が無い。

 拳の一撃一撃が即死級の1発。気を抜けば今でも死にかねない状況において緊張を解かない俊介が普通であり、こうしてふわっと話しかけることが出来る輝愛が異常なのだ。

 

 装甲は通常のナイフでは刃を通すことが出来ないためそのままタックルしても相当な威力になり得る。あんなのを日〇大学に入学させてはならないと輝愛は考えた。

『余計な事考えてんじゃねぇよ。⋯⋯アレはやべぇ』

「別に油断はしてない。⋯⋯大福もそう思う? ヤババだよねー。あとあんまり可愛くないし」

 

 クルクルとナイフを遊ばせる輝愛だが、それでも仕掛けて来たとしても対応が出来るようにはしている。

しかし目の前の存在は6つの血色に怪しく輝く瞳に睨んでくるばかりで何か動こうという意思はない。

「君達⋯⋯よくこの状況で軽口を叩けるね⋯⋯」

 警戒しながらも輝愛と大福に呆れるエルキドゥは引くように呟いた。

 

「ええっと確か、エル⋯⋯キドゥさん? だっけ。 アレもサーヴァントなの?」

「そうだね、現世にあのレベルの怪物がいるというのは考えにくい。間違いなくサーヴァント、それもとびきりの存在だよ」

「へー、まあそっか。あんなのいたら世の中変なニュースで溢れてるもんね。⋯⋯でうっちゃん! いつまで固まってんの?」

「⋯⋯神崎さんが異常なんだよ」

 輝愛と俊介が目の前の存在について話しているとその間に2人の少女が虚空から現れた。

 

「やあ宇都宮俊介くん、聖杯戦争につ⋯⋯い⋯⋯て⋯⋯? あら、もう始めていたの」

 驚きの表情で周りの惨状を確認するのは虚空から現れたうちの一人、荒島絡果。

「一応明日の夜に開始の宣言をしようと思ってたのだけれど⋯⋯あまり勝手なことはしないで欲しいわね、キャスター?」

 鋭い目付きで乱入者を睨み付ける絡果だったが、その存在は弱者の分際でと嘲笑をする。

 

「監督役の分際で我に命令する気か? 既に七騎揃ったのだ。殲滅させるのが聖杯戦争だろう?」

「そうなのだけれど最低限のルールは守って欲しいものね。それも何? 不意打ちじゃないと負けちゃうの?そんなことをして今回の聖杯が貴方を選ぶとは思えないわね」

「元より望みは聖杯が無くても叶うもの。これは単なる余興に過ぎない。しかし今我は気分がいい。そこの有象無象を見逃すのも吝かではないな」

 乱入者ことキャスターは背中から両翼を展開する。

 

「命拾いしたな、人間。残り僅かな生を謳歌するといい」

 空中でそう叫び、キャスターはその場を後にする。

「ふぅー、ばんわー絡果! そっちの子は?」

「アレを前にしていたというのに相変わらず元気ね。それと宇都宮くん、こんな広い場所で召喚しないで欲しいわ。そちらの事情は理解しているつもりなのだけれど、それとこれは別よ」

 

「す、すみません⋯⋯」

「分かればいいの。⋯⋯あとこの子はルーラーのサーヴァントよ」

「⋯⋯ルーラー、モーセ」

 150cmよりも少し小さいくらいの身長、白い髪に小さくぴょこんと猫耳のように跳ねたのが特徴のボブ。服装は特に現代社会でも違和感のないスーツ姿なのだが、身長と髪色が相まって逆に違和感を覚えてしまうような出で立ちとなっている。

 モーセは様々な宗教で聖人と語られる偉人である。

「⋯⋯ねぇうっちゃん、ルーラーって何?」

 

「ルーラーというのは聖杯戦争が良からぬ方向に向かった時の抑止力。聖杯戦争そのものが破綻しないように繋ぎ止める役目らしい」

「へー、じゃあ審判みたいな感じ?」

「その認識で合ってるはず。その役職上令呪を各サーヴァントに2つずつ所持しているとか」

 

「⋯⋯令呪も初耳だから教えててちょ」

「令呪は⋯⋯えっ? 神崎さん令呪無いの?」

『あーそういや見てねぇな。マスター令呪どこにあんの?』

 それを聞いた絡果が輝愛の口に手を当て、そのまま開く。

 

「舌出せる?」

「お? 百合ってヤツ?」

 言われるがままに出してみると。

「⋯⋯あったな、令呪。舌に」

「すごい場所に浮かんだね、僕も初めて見たよ」

「えっ?」

 それを聞いた輝愛はポンチョ下のポケットからスマホを取り出し内カメで舌を確認する。

 

「ほんほらー、なにらへきへるー!」

 舌の上に赤く紋様が描かれていた。

「これが令呪ね。で、何コレ?」

「3回だけのサーヴァントに対する絶対命令権だな。どんな命令でもサーヴァントは聞いてくれる」

 

「へー、じゃあコレがあれば大福現界出来たりする?」

『出来る。それでも長い間は無理だなせいぜい10分とかその辺だ』

「不便じゃん」

『それを使えば3回宝具使えるって言ったらいいか? 必殺技が使えるぜ』

「ならいいけど。あと絡果ちゃんはどしてここに来たん?」

「私は彼への説明よ。と言っても必要無さそうだからここでも色々言われそうね」

 

 絡果は絡果で苦労しているのだ。

「ここからは私も見なかった事にしてあげるから早く終わらせて帰った方がいいわよ」

「バレてた?」

「さあ? 何の話かしら?」

 そう言ってモーセと絡果は虚空に消えていった。

「多分アレ、キャスターとアタシ達の仲裁に来てたよね?」

『知らねぇけど多分そうじゃねぇか?』

 と、適当に会話していると俊介は1歩下がる。

「神崎さん⋯⋯」

 

「あれ、まだ続ける? アタシもう別にいいかなって思ってるんだけど?」

 そう言って笑顔で振り返る輝愛。

「ねぇうっちゃん、同盟組まない?」

「同盟⋯⋯?」

「アタシだけでアレを倒せって言われると中々厳しくなりそうって思って。ど? 悪くないっしょ?」

 

 アレ、というのはキャスターの事である。

「⋯⋯少し考えさせて。明日の昼までには決めておくよ」

「オッケ了解。⋯⋯コレアタシのRUINね」

 輝愛はメモ紙を虚空から取り出しサラサラと連絡先を書いてから俊介に手渡す。RUINとはメッセージアプリのことである。一般的に学生や友人間でのやり取りはこれで行われている。

 

「あ、ありがとう⋯⋯」

 一瞬戸惑ったが俊介はメモ紙を受け取ると丁寧に折り畳んでポケットにしまう。

「よし、じゃあ目的も果たしたし帰ろ大福」

『俺に自由意志はねぇんだから帰るならとっとと帰れ』

 そう言って輝愛は付近の角を通って家に帰って行った。

「⋯⋯なるほど、多分あのマスターの狙いはマスターと協力関係になるつもりだったみたいだ」

「言動的に魔術には疎そうだったしそう考えるのが丸そうだけど、エルキドゥと戦う理由はあったか?」

 

「多分測ってたんだと思うよ。僕らの力を」

「本当に⋯⋯そうかぁ⋯⋯?」

普段の輝愛を見ている俊介は何か引っかかるが、既に帰った以上確かめようがない。

「とりあえず僕らは帰る。一応エルキドゥは霊体化して周囲の警戒と帰ったら結界張り直すから補助をお願い」

「了解だよ、マスター」

 

 

 




コイツバーサーカーじゃなくてキャスターなんかい、と思った方。その感覚は正しいので大事にしてください。
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