翌日、スマホを見た輝愛がベッドの上をゴロゴロと転がりながら二度寝の準備を始めていた。
昨日の騒動によって学校が半壊したため1週間の休校という連絡が正式に届いたためだ。尚、学校からは原因はガス爆発によるものと書かれている。
「⋯⋯あー、眠いし」
『お前、昨日学校であんなに寝てたろ。ほぼ半分以上寝てたくせにまだ寝みぃのか?』
「それとこれは別。朝はみーんな眠いの」
半目を擦りながらダラダラとSNSを見る輝愛。
『なあ、昨日の件どう思う?』
「昨日⋯⋯? ああ、うっちゃんとの同盟? んー、わかんにゃい!」
『おいおい⋯⋯』
「ダメだったらダメで別を当たろう? 最悪組めなくてもいいし」
輝愛はそもそも魔術というものに触れたことがない。そのため魔術の対処法や魔術戦の訓練を積みたいと考えていたのだ。そして昨日の一件で同盟が必要な理由がもうひとつ出来てしまったが。
「キャスター、だっけ。アレとは組める気がしないね」
『だな。キャスターからすりゃ俺達は組むに値しない存在だと思うぜ』
「キャスターってアレでしょ? 超強い魔術師って感じの。 でもアイツ拳使ってたじゃん。マジカルパンチ?」
マジカル要素が存在だけじゃん、と欠伸をしながら呟く。
『で、今日はどうすんだ?』
「うっちゃんからの連絡次第⋯⋯それまでダラダラするのも悪くなっしょ」
SNSに「学校爆発しててワロタ」とツイートして閉じる。
「明日から聖杯戦争ならゆっくりしたいし」
『いんじゃねぇの? まあ好きにやってろよ、俺はサーヴァント。マスターに力を貸すだけだ』
「いい子じゃん大福。でも燃費悪いからダメな子」
『そこ関係ねぇだろ!?』
あははー、と1人で喋っているとスマホの通知音が響く。
「んー? あ、うっちゃんからだ」
RUINを開くと追加された連絡先から『お昼ご飯、一緒にどうですか』というメッセージが書かれていた。
「これって確定じゃないの?」
『正面切って拒否られる可能性もあるぜ』
「アタシ的にはその線は無し。その場で戦闘になる可能性もあるし、うっちゃん側からしてもあのキャスターは協力して倒したいって考えそう。何ならこっちの性能は明かしてないけど、こっちはエルキドゥって名前を知っちゃったからこっちが有利だし」
エルキドゥ。彼はギルガメッシュ叙事詩に登場する。強大な力を持っていたギルガメッシュに対抗するべく創造神アルルが天の粘土から作り出した兵器なのだが、後々色々あってギルガメッシュの唯一無二の親友となった存在だ。
「伝承的にはめちゃくちゃ強そうだけど⋯⋯そのギルガメッシュが強いかわかんないし。てか大福はどうなの?」
『俺? 強えかはともかく、やれることは多い方だぜ?』
「確かにワープとか眷属とか、やってる事キャスター寄りよねー」
それでも「認識阻害」によって気配の撹乱が出来るという点ではアサシンらしさがある。
『クラス的にはアサシンだが、元のスキルがそうなんだ。仕方ねぇだろ』
「大福がキャスターで来てくれればアレが来ることなんて無かったのにー」
『あのなぁ⋯⋯』
そこまで言って何かに気がついた輝愛。
「たしかにキャスターも強かったけど、実際には大福の方がヤバそうだって思ったかな。それは、何? スキル的な?」
『あー、まあそうだな。そもそもの存在自体に恐怖のオーラみたいなのが出てるみてぇだ。何も考えずに気配の撹乱で幻惑使ったら相手が1番怖ぇと思う見た目になる。そもそも俺そのものに恐怖が付いてるからな』
「それ、実際の戦闘力を直感で測るアタシからすればめちゃくちゃ厄介だからやめて欲しいんだけどー?」
『ったく、悪かったよ。でも仕方ねぇだろ勝手に出てんだからよ』
バツの悪そうな口調の大福はふわわと欠伸をするような声を発する。
「何大福、アタシの中に居ても眠いの?」
『眠い訳じゃねぇけど昨日は色々あったからな。疲労みたいなのを感じんだよ』
「へぇ、あ、でもアタシもちょっと気だるいかも」
輝愛は立ち上がると太ももや二の腕を揉んだり身体を伸ばしたりと準備運動のようなことをする。
『寝るんじゃねぇの?』
「なんか話してたら目さめちゃったご飯作ろっと」
ーーー
そこから輝愛は身支度をしてから指定された場所へと向かう。
そこはみなとみらいにある大型ショッピングモール。ハミ高から近いためよく学生が訪れる場所だ。
「大福ー、どう?」
『どうって言われてもな。俺に服の事なんて聞くなよ』
内カメを起動して歩きながら髪型や服をチェックする。最悪良くないと思ったら転移で家に戻ればいいとか考えている輝愛。
アウターは白いボアコート、トップスは薄い琥珀色で厚手のブラウス、下はベージュのラップスカートを選択。普段は暗殺業に勤しんでいる人間とは思えないような至って普通の女の子である。
『強いて言うなら全体的に色が薄いよな。髪も金色だし。お前いっつも真っ黒なのに私服は薄いってなんか理由あんのか?』
「あー、まあね。普段黒いの着てるとお洒落する時はこういう明るい服とか着たくなるの。それに人と会うんだから明るいイメージの方が良くない?」
『ちゃんと考えてやがる。ま、男には可愛く見せたいんだろ?』
それを聞いてはぁ、とため息をつく輝愛。
「勘違いしないで欲しいんだけど、女って別に男に褒めて欲しいからお洒落してる訳じゃないから。人と会う時に舐められたくないって気持ちの方が大きいと思うよ。アタシは褒められると嬉しいけど、ほかの女の子がみんなそうだと思ってたら痛い目見るよ? 大福も気を付けな?」
『俺はそもそも人間じゃねぇからファッションの機会なんてねーよ』
なんとも言えない複雑な気持ちになる大福。
内カメを閉じた輝愛はショッピングモールの入口でキョロキョロしている俊介を発見すると転移で背後に移動し、小さくチョップを食らわせる。
「えいっ」
「んっ」
今気がついた、と呟きながら振り向く俊介。
「アタシのサーヴァントアサシン何だけど? うっちゃん油断しすぎじゃない?」
「そんなことない⋯⋯と思いた⋯⋯い」
輝愛を見た俊介の表情が徐々に固まり、頬が少し赤くなる。
「どったの?」
「いや⋯⋯神崎さんが綺麗で⋯⋯つい⋯⋯」
「世辞じゃ⋯⋯なさそうだし、素直に受け取っとく。ありがと」
「⋯⋯今日は急にごめん、昨日の話をもっと詰めたいと思って」
「お? てことは前向きに考えてくれてるってことでおけ?」
そう問いかけた輝愛は怪しく微笑みながら、殺意無く、自然な動きで袖に仕込まれていたナイフを取り出し首元に突き付ける。
「アタシに寝首搔かれるかもよ?」
先程まで頬を赤く染めていた俊介に緊張が走る。
「⋯⋯こんなに人がいるのによくこんな事出来るな、神崎さん。それでも結論は変わらない」
「そう? 中々根性あるじゃん、見直したわ」
二ヒヒ、と普段学校で見せる笑顔を俊介へと向けた。
「⋯⋯宇都宮を背負う魔術師だからね。あと、後で契約するけど不意打ちは出来ないようにする」
「ありゃりゃ⋯⋯」
スっとナイフを仕舞い、ステステと店内に入っていく輝愛。
「ほらほら、難しい話は食卓でしよ。あとうっちゃんのサーヴァントは? ええっと⋯⋯エルキドゥちゃん?」
「いるよ。エルキドゥは霊体化してる」
俊介の一声で霊体化を解除したエルキドゥは俊介の後ろから顔を出す。
「中々面白い人だね、最初に出会ったマスターが彼女で良かったよ」
「あと、エルキドゥに性別は無い。神が造った兵器だからな」
「あー、ググッたら出てきたわ。マジなんだ、それ。じゃあご飯の後何買おうか迷うねー」
何に迷うのだろうか、と疑問符を頭に浮かばせた2人。それを察したのか輝愛が何をしたいのかを伝える。
「エルちゃんの服欲しくない? その格好で歩くと目立つっしょ。今はアタシの気配の撹乱の範囲内だからいいけど、フツーに生活してたら不便そうだし」
「いや僕は霊体があるから⋯⋯」
「えー、ちゃんとした身体があるんだし、ファッションしよー? 英霊でも人の身体があるんだし?」
その言葉を聞いた瞬間、エルキドゥの肩が小さく跳ねた。
「⋯⋯わかった、キミに従うよ」
「エルキドゥ⋯⋯?」
それの光景に少し不安な気配を感じた俊介だったが、輝愛は気付けなかった。
「よーしおっけー! アタシのサーヴァントは着替えとか出来ないからたくさん試させて貰っちゃおっと!」
『悪かったな。あと現界出来ても俺に合う服とかねぇだろ絶てぇ』
「ペットショップにペット用の着替えくらい置いてるっしょ」
『俺は犬か!?』
あははー、と一人でやり取りする輝愛に怪訝そうな目を向ける俊介。
「神崎さん、誰と話してるんだ?」
「あっ⋯⋯あー? 大福ぅ! アタシにしか聞こえないように喋ってたな!?」
「なら俺の紹介しろって話。っつーわけでエルキドゥのマスター、真名は控えさせてもらうが、俺がアサシンだ。今は訳あってマスターの中にいる」
「「???」」
再び疑問符が頭に浮かぶ2人。いきなり女の子から別人の男の声が聞こえてくれば混乱するのは当たり前のことである。
「大福にアタシからの魔力供給が足りな過ぎて現界出来ないって言われて。それからずっとこの調子」
「マスターから見たら本来はデカい狼っぽい見た目らしいぜ。だからってペット扱いされんのは今でもどうかと思うけどな」
「可愛いじゃん大福、名前変えたら元の見た目もあんまり怖くなくなったし」
「中々イレギュラーな召喚だね」
「僕が召喚したのがエルキドゥで良かったよ⋯⋯」
引きつった笑みを浮かべる俊介と面白そうに笑うエルキドゥ。
「僕も大福と読んで構わないかな?」
「チッ、好きにしろよ」
「アレ、大福実は気に入ってない?」
「ンなことねぇよ!」
実はツンデレなのかもしれないこのサーヴァント、と感じた俊介。
その後もたわいもない雑談をしながらカフェへと向う3人と1匹。幸いにも並んでおらずすんなりと席に座ることが出来た。
全体的に木造の店内はクラシック音楽が流れ、穏やかな雰囲気に包まれている。
「お金に関してはアタシが出すわー。丁度お金が入ったし」
先日輝愛が行ったグレムリン暗殺の成功報酬だ。前金150万、成功報酬200万という現代の報酬で言えば破格の値段が輝愛の口座に振り込まれている。
「⋯⋯神崎さんってバイトしてたか?」
「んー、一応ね。でもちょっと人には言えないバイトかな」
それを聞いた俊介は恥ずかしそうに目を逸らしたが、エルキドゥはなるほど、と感心するように呟いた。
「通りでいい動きをすると思ったよ。死角を付く動きや眷属を物として見た時の動かし方、1日2日でできるものでは無いと薄々感じてはいたけどね」
「あ、そっち?」
「流石エルちゃんはよく見てるねー。⋯⋯うっちゃんは何を想像したのかな?」
「いや、その⋯⋯」
頬を染めながらしどろもどろになる俊介を見て大笑いする輝愛。
「アハハハ! アタシみたいなのが言えないバイトってあっち系のバイトだしねー、うっちゃんへんたーい!」
「ちょっ、あの⋯⋯」
「マスターを玩具にするのはそれくらいにして貰えないかな、本題に入りたい」
「エルキドゥ!?」
「いいよー」
わちゃわちゃとしていたが、注文した料理が届きそうだと感じたため一度話を止める。
「こちらでお品物は以上となります」
店員が離れて行くのを確認した後、弄られていた俊介が1枚の紙を取り出す。
「テーブル狭くなりそうじゃない?」
「これ僕が念じれば勝手に書いてくれるから気にしなくていい」
「めちゃくちゃ便利じゃん」
そう言って輝愛は1口コーヒーを口に含む。
「条件は? キャスター倒したら解消にする?」
無難な落とし所を探る輝愛だったが、彼女が思った以上の条件を提示してきた。
「とりあえずそれで構わない。でも、神崎さんと戦うのは最後の最後がいい」
真剣な眼差しで、自身の決意を輝愛に伝えようとする俊介。
それを輝愛が知るのはまだ先になる。それでも何か考えがあるのだろうと察した輝愛はフッ、と笑う。
「いーんじゃね? アタシとしても敵が減るのは悪くない事だし。でも一応契約はキャスター討伐までって書いておいて。それが終わってからまた契約しよ」
「⋯⋯ありがとう」
「別に利点を考えたらそっちの方がいいかなって」
そう言って輝愛は注文したホットサンドを1口齧る。
「んまコレ。⋯⋯連絡手段はどうする? 戦闘が起きて悠長に電話なんて出来ないと思うけど」
「そういう時は通信魔術を使えばいいと思うが⋯⋯やはり輝愛さんは魔術師では無い?」
「そりゃ違うし。偶然たまたま大福を召喚しちゃっただけ」
「偶然たまたま⋯⋯。じゃあ魔術は基本使えないと。ならこれ使って」
俊介は輝愛に赤色の宝石を渡す。
「何これ?」
「これは通信魔術が込められた宝石だ。魔術回路があればイメージで上手く使えるはず」
「俺の権能使う感じで出来ると思うぜ。コイツこの宝石ぁそういう代物だ」
「普段なら宝石は使い捨てなんだけど、これに関しては魔力を込めればまた使えるようになる。そういうのは大福に任せるのはどう?」
「いいぜ、魔力込める時は俺に1部身体貸せよ」
えぇーまあいいけど、と嫌そうな顔をしながらも渋々許可する輝愛。
「他はお互い一切の危害を加えない、って感じになるのと⋯⋯あんまり考えたくないけどどっちかが離脱したらどうする?」
「それってつまり、僕が敗退した場合って事でいい?」
「あそっか、アタシが離脱ってそれ死ぬのと同じじゃーん。じゃあナシナシこの話」
「いや、その時は神崎さんに僕の令呪を渡すよ」
あははー、と苦笑いを浮かべるが、俊介は真面目に答える。
「えっ!? っ、ゴホッゴホッっ!?」
輝愛は驚きのあまりホットサンドを喉に詰まらせてしまう。
「⋯⋯サーヴァントからしてみればその判断はあまり快いものでは無いかな、マスター?」
「すまないエルキドゥ⋯⋯」
「⋯⋯でも僕はあくまで道具だ。マスターに何か考えがあるのなら僕は絶対に従うよ」
俊介がエルキドゥの顔を見ると少し悲しそうな表情だった。
「もちろん負けるつもりは無い、これは僕なりのケジメだよ。絶対に引き下がらないってね」
令呪が残っていればはぐれサーヴァントとの再契約をすることが出来る。その考えを早々に捨てて一本勝負に気持ちを持っていきたいということだろう。
俊介の表情は迷いの無いスカッとしたものとなっていた。
「いいーじゃん、そういう顔好きだよアタシ」
クルクルとナイフを回し、俊介へと突き付ける輝愛。
「アタシも負けないから。一時の休戦、ハミ高同盟って事で」
「名前、しまらないなぁ⋯⋯」
何事も卒無くこなしてしまう輝愛の弱点はネーミングセンスという事を発見してしまった俊介だった。
平和回でした。割と設定遵守にしているはずですが、何か矛盾がございましたら是非ともご連絡下さい。