その後、完全な協力関係としての契約を行い、店を出る。
「で、この時点でうっちゃんには攻撃出来ないって事でおけ?」
「ああ。神崎さんの魔術回路に契約が刻まれてるからな。僕からも攻撃出来ない」
3人と1匹は何気ない会話をしながら3階の服屋へと向かった。
「エルちゃん、なんというか結構落ち着いた大人っぽいイメージあるよねー」
「⋯⋯そうかな、考えたことも無かったけど」
「おっけ、じゃあその辺強めてみよっか。 ⋯⋯ちょっと待ってて」
と言って輝愛は走り出す。
「エルキドゥ、さっきファッションをするって聞いて⋯⋯」
「ああ、マスターは分かるんだ。そうだね、少し思うところはあった」
「⋯⋯理由聞いてもいいか?」
少し申し訳なさそうに尋ねる俊介を見て小さく笑うエルキドゥ。
「マスターの命令には答えなければならないね」
その笑みは決して無理をしている笑みではなく、むしろその反対だった。
「僕は兵器として生み出された存在。それを彼女は知っているはず。それを一人の人間として見てくれているということが分かってとても嬉しいんだ」
「エルキドゥ⋯⋯」
「なんでだろうね、かつて心は神によって砕かれたはずなのに。僕は兵器だからどこまで行っても人では無い。それでも⋯⋯」
この世界でも人と歩める事に僕は嬉しく思うよ、と落ち着いた笑顔を見せた。
「いい機会だからエルキドゥに言っておく。僕が聖杯に望む願いは『魔術師と一般人が共に歩める世界』だ」
それは宇都宮家の悲願。そのために努力し続けた俊介は聖杯への願い事などそのひとつしかない。
「それって⋯⋯僕と⋯⋯」
「多分、本質で言えばエルキドゥと同じだよ。本当に出来るか分からないが」
「出来るさ」
少し弱気な俊介の発言をエルキドゥは力強く否定する。
「人じゃない僕と人は共に生きることが出来た。なら、人と人が共に歩めないはずがないさ」
「⋯⋯そうだな」
「きっとその願いが触媒になったんだろうね。形の無い触媒なんて聞いたこともないけど」
エルキドゥがクスリと笑ったところで輝愛が戻ってくる。
「エルちゃんエルちゃん持ってきたよー」
「ありがとう、って君も入るのかい?」
「ちゃんと着れるか心配だし?」
「それくらい出来ると思うけど⋯⋯」
オドオドと更衣室に入るエルキドゥをずいずいと押す輝愛。
「⋯⋯今は冬だけどこれは薄くないかな?」
「いいのいいの。だいたいコレの方が寒そうだし」
「これも上着にしては⋯⋯」
「大丈夫だって、ほらー可愛いじゃん」
ワタワタと話しながら3分程経過したところで更衣室の扉が開く。
「じゃーん! ど?」
「これが今時のファッションなのかな?」
上はゆったりとした琥珀色のテーラードジャケットに喉元が少し大きめに空いた白い無地のロングTシャツ。下は黒に白のラインが入ったテーパードパンツで大人っぽさをこれでもかと前に出したコーデだ。
「うっちゃん、結構似合ってない? アタシとしては装飾品のひとつくらいは欲しいけど、流石に戦闘で小物はちょっと邪魔じゃない?」
「待て。似合ってはいるが、このまま戦うのか?」
「だって服装から文明特定される可能性無い? 可能性は薄くてもそういうのは少なくするべきっしょ」
純粋にコーデを楽しんでいるかと思えば急に実用的な面をぶつけられ少し面食らう俊介。しかしエルキドゥは嬉しそうだった。
「いいんじゃないかな。異論は無いよ」
「⋯⋯本人が言うなら構わない。でも流石にマズいと思ったら変えろよ?」
「分かってるよ、これと同じものを魔力で編めばいい」
「それは本末転倒だと思うが⋯⋯」
「あ、マスター。僕この鞄欲しい」
「⋯⋯高いから無理」
その値段に唖然とし、流石に小遣いの範囲で買えないため断固拒否。
『⋯⋯』
「大福なんか羨ましそうじゃん?」
『別に』
「そ、何かあったら言って。アタシは大福のマスターだし」
マスターとサーヴァント。その関係であるはずの2人の間には信頼と絆がある。それは輝愛と大福とはまた違ったもの。身体を共有する2人には決して芽生えることの無い関係だ。
『いいんだよ。ったく、余計な気ぃ回しやがって』
「はいはい、⋯⋯あ、エルちゃんこのハンドバッグならカラーはこっちの方が合うよ。それともそっちの色が良かった?」
「どちらでも構わないさ。こういうのは実用性の方が気になるタイプだよ、僕は」
「おっけーじゃあ会計会計!」
輝愛は会計を行うためにレジへと向う。ちなみに全部で15万円程だった。
「エルちゃんはいこれー!」
「ありがとう。それとこれはマスターからの餞別」
エルキドゥが手に持っていたのはソフトクリームだった。
「いいの?」
「まあ、服代出して貰ったんだしこれくらいはな」
「コレアタシがしたくてやったんだけど?」
「それとこれは別だ」
そういうなら、と輝愛はソフトクリームを1口。
「あんまい。やっぱ冬でもこういうのは食べたくなるよねー」
「食というのはどの時代でもいいものだね」
エルキドゥが歩きながら食べているのはバニラに蜂蜜がかかったものだ。
「蜂蜜好きなん?」
「好きだよ。僕がウルクで初めて口にしたのが蜂蜜がかかったパンだからね。ちょっとした思い出なんだ」
「あ、エルちゃん神様の兵器なんだっけ。なーんかフツーに話してるからそういうの忘れちゃうなー」
あはは、と笑う輝愛。しかしちょうど横を通りかかった電気屋で気になるニュースが目に入った。
『ここ数年で急成長を遂げているアフリカの新興団体「虚」がつい先日、アフリカ大陸の約半分を統一した件について⋯⋯』
輝愛はそのニュースを見て目を見開いていた。
「⋯⋯」
「英語でも無くフランス語でも無く日本語で『虚』なんだな」
「不思議だよねー」
「虚」はアフリカや南アメリカを中心に活動している世界的に有名な団体だ。主に世界平和を目指して活動しており、自力での運営が難しい国を少しずつ取り込み現在進行形で拡大している。
『虚か。へぇ、なるほどなぁ』
「⋯⋯」
輝愛はこの時何故か少し苦い顔をしていた事は、身体を共有している大福しか知らない事だった。
ーーー
深夜23時55分。正式に聖杯戦争が開始される5分前。
「で、実際キャスターの正体って分かりそう?」
『僕も確証が持てるわけじゃないからあまり強く言えない』
輝愛と俊介は通話での本格的な情報共有を行っていた。と言っても俊介が輝愛に教えているような形だが。
イヤホンを片耳外してクルクル回している輝愛は窓を開けて外を眺める。
「ひゃー、さっむ⋯⋯予想でもいいし。色々情報あった方が良くない?」
『⋯⋯なら伝える。キャスターだから根本は魔術に精通している存在、そして三つ首の竜人。僕の予想だと真名は"アジ・ダハーカ"だな』
「いや誰だし」
輝愛は言われた名前を検索し、いつものウェブサイトで流し見る。
「ええっと? 大きさは天にも上るほどで、千の魔術を使用して、剣で斬っても爬虫類がうじゃうじゃ出てくるし回復するし、なんなら世界の3分の1を滅ぼした⋯⋯ってナニコレ、マジ?」
『だいたい合ってる。ただ、大きさは人より少し大きかった事を考えると魔術で自分の質量を圧縮してるんじゃないか?』
「なんかそれありそう。3メートルにすっごい質量詰め込んだら確かにマジカルパンチ放てそうだし」
『ただ問題はその強さ。どう考えても本来の英霊、神だから神霊として召喚されたと思うがそれすらも凌駕している気がしてならない。明らかなバランスブレイカーだ』
「あれ、伝承通りならそのくらい強くてもおかしくないんじゃない?」
と呟くとそこに大福が割り込んでくる。
「本来、神霊は召喚出来ねぇんだよ。そもそも英霊の時点で無理矢理クラスっつー制限をして召喚してる。その上なんて以ての外だ」
『大福の言う通り。物理法則に縛られている現代と神は相性が悪いのもある。それに神霊は強大な権能を持っているから聖杯なんて奇跡を使わなくても世界を改変出来る程の力があってもおかしくない。それと彼の発言⋯⋯』
「あー、なんか言ってたね」
キャスターは去り際に「聖杯が無くても願いは叶う」と呟いていたことを思い出す。
『だから彼が神霊である可能性は高い。だから彼からすれば余興なんだろ』
「土俵が違うなぁー、神様召喚って時点でずるすぎ!」
「安心しろマスター、俺も一応神と張り合えるくらいには強いぜ」
「大福は現界出来ないからダメでしょ! 論外! ご飯抜き!」
「ンっでだよ⋯⋯あと俺飯いらねぇし⋯⋯」
そして12時。日付が変わった瞬間に手元のスマホにRUINの通知が来る。荒島絡果からだった。
『聖杯戦争始め。貴女も最後の1人になるまで頑張ってね』
「は? かっる。開始の宣言かっる」
輝愛は少し思うところがあったので高速で打ち込み、送信。
『アタシのRUINのIDどこで手に入れたの?』
『企業秘密よ』
『キレそう』
『絡果のことブロックしよ』
『あ、待ってそれは私が困るの』
『状況の更新があったらここで伝えるわ。貴女だけ魔術的な連絡手段が無いのよ』
「なるほど。確かに」
一応納得した輝愛。
『じゃあブロックしない』
『状況ってどゆこと? マスター残り何人とか?』
『まあ答えられる範囲なら答えるつもりよ。ちなみに残りのマスターは6人ね』
「⋯⋯はい? ねえうっちゃん、ちょっと絡果とのRUIN画像送る」
『いいけど⋯⋯何⋯⋯って、は?』
通話越しからでも困惑しているのがよく分かる。
「マスターが6人で既に欠けてるって。流石に監督役が嘘つくはずない⋯⋯よね?」
『絡果それマジ?』
『マジよ』
『ありがと、他にも聞きたいことあったら聞くわ』
その後絡果からデフォルメキャラのGoodスタンプが送られて会話が終わる。
「あざと過ぎでしょ。イメージ変わりそう」
小さく笑いながら呟く。
「マスターに関してはあとから探ろ。で、これからどうするうっちゃん。誰から行く?」
『最初はキャスター狙い。そもそも情報が出てるのがキャスターしかいないからな』
「りょーかーい、どーせ学校みたいに吹っ飛んだり爆発してたり光ってたり⋯⋯あっ」
輝愛がふと目にしたものは⋯⋯。
「見つけた」
倒壊するビル群と、そこに飛び交う光線、そして幾つもの爆発と雷だった。
次回は別陣営のサーヴァントが登場します。まあ、ここからサーヴァントが増えますのでお楽しみに。