『見つけた!? ⋯⋯本当だ。あの方角は⋯⋯ハマスタ周辺?』
「そうそう! その辺その辺!」
ハマスタとは横浜スタジアムの略称である。
『遠見の魔術で見てるけど⋯⋯戦ってるのは2人、姿は⋯⋯早すぎて見えないな⋯⋯』
『マスター、僕の視界を貸してあげるよ』
電話越しにエルキドゥの声も聞こえてくる。視界を共有した俊介はそのままRUINの画面にエルキドゥの視界を映し輝愛と共有する魔術を使用。ビデオ通話に切り替わり、画面にはエルキドゥの見えているものが現れた。
「何これ!? これも魔術!?」
『宇都宮は現代社会をより便利に生きていく事を目標にした魔術を開発しているからな。他の魔術師には出来ない芸当だ』
「へぇー、今度教えて、絶対あったら便利だし。⋯⋯で、サーヴァントの見た目は⋯⋯2人とも人間だしキャスターじゃなさそうだよね」
本来は追うことが出来ない速度だが、エルキドゥが捉えているためその姿を確認出来る。
1人は初老の男性。白く少し長い髪に長い髭。装備は薄鎧と手には投石器のような武器を所持している。雰囲気で言えば歴戦の老師だが表情から戦況は少し苦しそうな印象だ。
投石器を使う度に眩い閃光が辺りを照らし、落雷の轟音と共に雷を放って攻撃している。
もう一方も男性だが、こちらは相当若く見た目は20代前後。腰まで伸びた銀髪に褐色の肌。付近には黄金のサーフボードのような翼状の物体が浮遊しており、頻度は少ないがそれを弓として扱っている。神秘的な雰囲気を醸し出しており、常に余裕を持っているように見えた。
小さな金、紫、赤、緑、水色、黄色の惑星のような球体を押し付けたり、その球体で光線を出したりと幅広い種類の攻撃を行っている。
「どっちも強そう、というかこんな派手にやっちゃってていいわけ?」
『流石にこんな横浜のど真ん中でやり合うのは良くない。元々魔術は神秘の秘匿の元管理するというのが魔術協会の掟。これは流石に⋯⋯』
両者の戦闘での被害は尋常ではない。数百メートルに渡って建物が崩壊し、辺りは炎と煙が蔓延している。秘匿という言葉を殴り捨てたかのような光景が初日から広がっている。
『これが聖杯戦争⋯⋯』
「アタシアレと戦うのかぁ⋯⋯」
『老人の方がアーチャーか? もう片方は分からないが』
「あのど○森みたいなパチンコ持ってる方ね。弓使いじゃなくても飛び道具って括りなのかな? あのイケメンおにーさんはなんかこう⋯⋯なんだろ? 一番キャスターっぽいけど」
「お前困ったら全部キャスター扱いするよな」
「だってみんな超能力使うし?」
軽口を叩き合う2人。そこにエルキドゥの声が割って入る。
『あれは多分バーサーカーだね。霊基がとても素直だ。いや、混ざりあったから逆に素直になったと言うべきか』
「混ざりあった?」
『そう、ここから見ていて感じたのは彼の身体には複数の神性が取り込まれている。⋯⋯ここからは実際に近くで確認しながら話した方がいいね。⋯⋯輝愛?』
「⋯⋯あ、アタシ? ああ連れてけって事ね、了解、2分待って。支度する」
『『「えっ?」』』
「アタシこのまま寝る予定だったし。着替えて軽く化粧してすぐ向かう」
『オイオイ⋯⋯。化粧って⋯⋯』
呆気に取られた3人。しかしそれに対して少し納得がいかないとプンプンの輝愛。
「女の子にとって! 化粧をするってことは戦場に向かう準備なの!!! とにかく待てしこの彼女無し共!」
『それはチクチクこと⋯⋯』
輝愛は通話を切り、急ぎ支度を終えて俊介の家へと転移。そして俊介の家から2人が戦っている場所から近く、それでいて被害の少ないビルの屋上へと転移する。
「はー、デリカシーの無い男はこれだから⋯⋯」
「デリカシー無くて悪かったな。⋯⋯それよりコレだ。初日の夜からここまで破壊とはよっぽど急いでいるのか?」
「ねー! 学校で戦闘してよかったぁ、おかげで明日の学校無くなったし⋯⋯」
そもそもここまでの事態になった時点で学校がある線は薄いという考えに至らない辺り輝愛は少し抜けている所があるな、と考えてしまった俊介。
「さってっと。傍観して情報収集か、止めに入るか。アタシとしては傍観してたいんだけど」
「⋯⋯、そうだね」
緊張感の無い雰囲気から一変。輝愛の目付きが変わった。一流の殺し屋として長い輝愛のスイッチが入り、静かな殺気が辺りを満たす。ある種のプレッシャーのようなピリピリとした空気に気圧された俊介はおずおずと口を開く。
「ぼ、僕としては止めに入りたい。これ以上無関係の人が巻き込まれるのは避けたいな」
としてはこれ以上被害を拡大させたくないという気持ちの方が大きい。
そんな発言を聞いた輝愛は少し驚いた顔をする。
「優しいね、うっちゃん。アタシは止めないからその辺好きにしなよ。アタシはこっちを⋯⋯殺る」
「こっち⋯⋯?」
輝愛は後ろを親指で指す。そこには1人の男が立っていた。
「へぇ、やるなぁ。オレの気配探知したのか?」
「別に? そもそも隠す気なんてなかったっしょ?」
金髪のチャラチャラとした髪に黒いサングラス。アニマル柄のワイシャツの下は黒いスラックスと何とも言えない服装。
それでも輝愛は感じた。『強敵』だと。
立ち振る舞いや雰囲気は戦士や暗殺者といったソレでは無い。しかしピリピリと伝わる魔力の高さは彼が一流の魔術師だという証明になる。
「ランサー、下の人達の避難誘導を頼む」
「了解、マスター」
俊介はこのタイミングでの接触はマスター以外有り得ないと感じたためエルキドゥに下を任せてこの場に残るという判断をした。
「どうだァ? オレのバーサーカーはよォ?」
「なんというか、派手だよね。攻撃とか振る舞いとか諸々」
「いい答えじゃねぇか。どうだ? バーサーカーがあんなに強ぇなんて聞いてねぇよなァ、ここで降参したって良いんだぜ?」
彼は殺しに来た、というより会話しに来たという印象を感じた輝愛は情報を抜き取るという目的にシフトする。
「降参なんてしないし」
「犬っころには聞いてねぇよ」
犬っころ、というのは輝愛の姿である。大福の能力である認識阻害で巨大な狼に見えているのだ。
「そうだな、俺も降参するつもりは無い」
「へぇ、そうかよ。まあどうだっていい。オレが楽しめりゃそれでなぁ」
「⋯⋯ひとつ聞いていい?」
「ンだよ犬っころ」
ニタニタと笑うその笑みの下には他人を見下すような感情があった。
「アンタは『Fatal Error』って知ってる?」
「ァ? ⋯⋯知らねぇよ」
「⋯⋯そっ」
輝愛は一瞬目の色を変えたが、すぐに興味を無くしたと言わんばかり男へ駆け出そうとしていたが、男が眉を寄せた所で立ち止まる。
「⋯⋯テメェ、その姿が本来のもんじゃねぇな?」
探知の魔術による看破。
「えー、大福これホントに効いてるの? なんか効果無くない?」
『普通なら俺のスキルが破られる事なんてねぇんだけどな。そんだけコイツのレベルが高いって事だ諦めろ』
「諦めるのは大福の方じゃない?」
『俺は諦めた』
「はやっ!」
「ンでブツブツ言ってんだ。テメェもマスターなんだろ?」
ガチャリと拳銃を構える金髪の男。それに呼応するように認識阻害を解く。
「⋯⋯そうだけど? アタシは神崎輝愛。アンタは?」
「神崎さん⋯⋯!」
俊介が言いたいことは輝愛も分かっている。名前を明かすリスクは大きい。
「でもアタシはちゃんと名前で呼ばれたいし。テメェとかお前って言われるの嫌」
「クッ、ハハハハハハ!!!」
それを聞いた男は腹を抱えて大笑い。すっかり毒気の抜けた男は一頻り笑った後目尻に浮かんだ涙を拭いながら答える。
「そんな理由で名前を明かしてくれるたァ、中々いい度胸してんなぁ? 名乗ったからには仕方がねぇ。オレは阪東葛切、そっちのテメェは?」
「⋯⋯宇都宮俊介」
「そうかァ、テメェがあの宇都宮か。極東じゃ有名だよなァ? 時計塔から追い出された異端の魔術師さんよォ?」
「⋯⋯チッ」
宇都宮家は元々時計塔に所属していたが、思想の異端さから数年前に追放されている。神秘の秘匿とは正反対の宇都宮は魔術師にとって病原体でしかないのだ。
「で、そっちの嬢ちゃんが神崎輝愛な。神崎なんつー家系は聞いた事がねぇ、新参か?」
「アタシ魔術師じゃないから。その辺手加減してよね」
「⋯⋯確かに魔術師じゃねぇってのはホントらしいな。だが、だからって弱ぇって訳じゃなくて良かったぜ。コイツァオレも楽しめそうだ」
ニタリと笑う葛切の表情を見て輝愛は察した。『阪東葛切は生粋のバトルジャンキー』だと。
ーーー
少し時間を遡り12時丁度と30秒。
「流石に、老耄にはちとキツいかのぉ⋯⋯?」
建物を駆使し、迫り来る惑星に似た球体とそこから放たれるレーザーを回避し続ける老人のサーヴァント。
「ちいとばかし無理せんとな!」
手に持つパチンコを無意味に引き、放つ。そこには何も無いため普通であれば放たれることの無い一撃だが、虚空から雷が生成され、それをが5つに拡散。レーザーを相殺し、更にもう一発老人が雷を放つ。
それが3つに拡散し褐色肌のサーヴァントへと向かっていくが⋯⋯。
「全ては⋯⋯些事⋯⋯」
しかしそれは彼に直撃する寸前で掻き消えてしまう。
「⋯⋯なんという神性!」
「⋯⋯」
驚きの声を上げる老人のサーヴァントだが、褐色肌のサーヴァントはそれを意に介さず老人のサーヴァントが立つビルの麓に複数の球体を集結させ、回転。
「滅べ」
そう呟いた瞬間、ビルは青白い閃光に飲み込まれ塵一つ残さず消滅する。
そして老人のサーヴァントは別のビルへと移動する。が、しかしビルの中を突き抜け屋上に現れる赤い球体が老人のサーヴァントを捉える。
「撃ち落とす!」
老人のサーヴァントがパチンコを放ち、一本の雷を球体に当てる。
しかし球体はかすり傷すらなく、小馬鹿にするように浮遊しているだけ。
「なんと!?」
老人のサーヴァントが驚く顔をするもののそれを気にすること無く背中のサーフボードのような弓を構える。
「ガーンディーヴァ、標的確認」
「まず⋯⋯」
「発射」
その一言で手に持つ神弓、ガーンディーヴァから目を覆いたくなる程の光が放たれ、一瞬にして老人のサーヴァントが立っていたビルを消滅させる。
「⋯⋯お見事。というよりちとやり過ぎな気もするがのぉ?」
ビルがあった場所に作られたクレーターの下で佇む老人は呑気に槍を支えに寄りかかって一休み。
「防いだか、私の一撃を」
「ギリギリじゃがな。いやぁ、若いのには勝てんのぉ。⋯⋯お主はなんと言う? 儂ゃアーチャーのルーと言うんじゃ。知っとるかの?」
「⋯⋯バーサーカー、アルジュナ。その名前は聞いたことが無い」
「残念じゃ。しかしアルジュナよ、儂の知るアルジュナとはチィとばかし違う気がするんじゃが?」
ルーはケルト神話において「諸芸の達人」と呼ばれた太陽神であり、工芸・武術・詩吟・古史・医術・魔術など全技能に秀でているという伝承が残っている。
その影響で知識面で召喚時に補正がかかっており、アルジュナの事は齧る程度に理解しているのだ。
そのためこのアルジュナは明らかに本来のアルジュナではない存在と化している。
そもそものアルジュナはインドラの子であり「白」を意味し「勝利する者」「授かりし英雄」という高潔な肩書きや雰囲気があった。
しかしこのアルジュナは高潔さはあってもまるで機械のような雰囲気、そして本来のアルジュナとは掛け離れた高い神性を保有している。
「関係の無い事。私は全ての悪を滅ぼすためにこの地に降りた。ならばその役目を果たすのみ」
「⋯⋯やはりアルジュナであってアルジュナでは無い⋯⋯のか?」
ポリポリと頭をかきながらこの後の行動を考えているルー。
アルジュナの神性は例えルーの高い神性であっても攻撃を通すことは出来ない。ここでの撤退は選択肢としてアリ寄りの部類に入る。
『ねー、今どんな感じ?』
ここでルーのマスターからの通信が入る。その声は少し高めの声色で成長期前の中学生に近いものだ。
「絶賛マズイ状況じゃ」
『えっ、じっちゃんでもマズイ? 敵のサーヴァントの正体は分かる?』
「聞いたぞ。インドの英霊アルジュナじゃ。その代わり儂の真名を明かしてしまったがの」
『勝手にそれをしたのはちょっとアレだけど、真名をカードとして切れる時点で中々冴えてるね。で、相手がアルジュナならじっちゃんが勝てないはずなくない?』
中々無茶を言いおる、と内心で思うルー。
授かりし英霊と名高いアルジュナの力はそれに相応しいもの。例えお互い通常の英霊レベルに格落ちしていたとしても苦戦は免れない。
「普通ならのぉ⋯⋯」
ここで少し強気な発言をするルー。マスターを心配させないようにという配慮である。
『⋯⋯普通じゃないってこと?』
「恐らくじゃが反転しておる。儂の神性ですら歯が立たんくらいには凄いことになっておるぞ」
『うわぁ、じゃあ真名晒した意味無いじゃん⋯⋯。流石に撤退⋯⋯って言いたいけどさ。今どっかのマスター同士がいい感じにやり合ってるから現状維持の方がいいかも。じっちゃん出来そう?』
「やれやれ、老骨には堪えるわい。情報は持って帰れるだけ持って帰るから安心せい」
『わーい! じっちゃんありがと!』
ここで接続が切れる。魔力のパスは繋がっているが、ルーという神霊に常時魔力を供給しているという状況が続けばマスターの魔力が持たないためある程度機能を絞ることで枯渇を防いでいるのだ。
「待たせて悪かったの、アルジュナ」
「⋯⋯構わない。遅かれ早かれ全ては滅びる運命にある」
中々野蛮な神様じゃ、と内心で呟くも声に出さないルー。
「さてと。第二回戦じゃ!」
ルーはそう叫ぶと手に持ったパチンコから雷撃を放った。
いかがでしたか。中々に大怪獣バトルな気がしますね。アルジュナオルタはみなさんご存じあの異聞帯のアルジュナオルタです。絶対魔力足りないのでは? そもそも何故召喚に応じたの? という質問には次回答えるので突っ込まないでください。その他の疑問に関してはある程度答えられるのでジャンジャン質問してください。