ダイヤは、里に   作:黒煙草

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盃、交わして。¹

「鮫」

 

事務所に戻ってきた俺の言葉に、鮫は指の爪を切りながら細い目を向けてくる

 

「始末したんで?」

 

「ダイヤを掘り当てた気分だ」

 

「それでご機嫌でしたか」

 

どうやら無意識に顔に出ていたらしく、顔をさする

 

「ウチのシマで働かせてるよ」

 

「……どういった使い道を?」

 

「直に教えるさ」

 

「親父には」

 

「それも後回し」

 

「……不味いんでは?」

 

「……チッ、自分ことしか頭なかった。わり」

 

ウマホを取りだし、親父に掛ける

 

”どうした”

 

「親父、お疲れ様です。今宜しいんで?」

 

”早くしろ”

 

ウマホから聞こえてくるのは親父の声と、肉の柔らかなぶつかる音、女の嬌声だ

URAに出るとか言いながら、種から作るところとは

本当に滑稽だ

 

「俺のシマでガキが暴れてやしてね」

 

”聞いてるよォ……んな事で掛けてくんなよぉ……おいこら、締めろや!”

 

「引っ捕まえたらそいつァウマ娘だったんすよ」

 

”バカ野郎てめえ、ウマ娘なんざそこら辺転がってんだろ。血だよ血、良血統じゃなきゃ話になんないよ”

 

「ガキの名前はサトノダイヤモンド。キタサンブラックのダチらしいっすわ」

 

”……まじか…………マジで?”

 

「利用します、やり方は」

 

”……こっちはこっちで進める、そっちはてめぇでやれ”

 

「アザっす!!」

 

”締まり悪ぅなってんな、ちと忙しくならァ”

 

「すいません、切ります」

 

俺はウマホを切ろうとすると池田が待てと言う

 

”北島一家と殺り合う時ァ、俺も呼べ”

 

「分かりやした」

 

今度こそウマホを切ると、鮫と面を向く

 

「若頭、これからは?」

 

「躾だな」

 

「巷で言う、トレーナーを?」

 

「鮫、てめぇは俺を見張ってろ。いつもと変わらず逐一報告してくれていい」

 

鮫は俺の親父、池田とつるんでいる

俺に不審な行動をすりゃ報告するよう手筈になっているのだ

 

「……楽しくなりそうですね」

 

「バカ野郎、仕事増えるだけだよ」

 

スーツのネクタイを弛めて、頭を掻き毟る

しばらく風呂に入ってないのか、フケが落ちる

 

「しばらく入ってないんで?」

 

「……そうだな、サウナで整えるか」

 

「お供します」

 

「頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『刺青の入ったお客様はお引き取り下さい』

 

クソみてぇな看板が目の前にあったが、無視して体を洗い、湯船に浸かる

 

腹に鮫の刺青が入っている男は隣に浸かった

 

「いつ見ても惚れ惚れしますね、そん背中」

 

「歴代の彫り師が気合い入れてくれたんだ、それなり名ぁ響かせねぇと宝ん持ち腐れだ」

 

俺の背中には青龍が彫られており、銭湯に入ってくるガキから大人までがビビっていた

 

「っし、行くか」

 

湯船から這い上がり、サウナに閉じこもった俺は焼け石に水をブチ撒けて湿度と温度を高める

 

(……計画としてはあのウマ娘を囮にするか。上手く行きゃあ、北島会のご令嬢を拉致して便宜して、俺達もURAに食い込む)

 

そうだ、最終的に俺たち池田組がURAに入りゃそれでいい

 

あとは金の流れを俺たちに流れるよう仕向けりゃ……

 

「出世、出世ねぇ……」

 

俺の背中から出る蒸気が、蛇のように蜷局を巻く

手で覆い隠した右目は、カラーコンタクトをしてい無いにも関わらず、真っ赤に燃え上がっている

 

「興味ねぇな」

 

あるのはこの組の復讐だけだから

 

 

 

 

 

 

 

 

銭湯から出て1時間後、街をふらついていると若い男に呼び止められた

 

「ねね、おにーさん!うちの店どう?」

 

キャッチだろうか、チャラついた風貌の男は自身の店を自慢し、店へと案内させる

 

「ここだよ、若い子も入ってるし────」

 

「てめぇどこの組だ?」

 

「あ?」

 

「組だよ。誰の許可得てんだ?」

 

「……ハッ、兄さんなに?取材とかしてんの?渡組合だけど」

 

渡組合と言えば小さな規模でチマチマと麻薬を売りさばく、小さな組織だ

東城会池田組の名を出したら怯えるだろうが、名を口から出してまで、こいつに知らしめる必要は無い

 

「取材だァ?」

 

「最近多いんすよ、若ぇウマ娘らが俺らみたいな店に根掘り葉掘り聞いてきてよ。黙ってりゃ警察呼ぶとかでうるさくてさぁ」

 

ベラベラと喋ってくれたおかげで、サトノダイヤモンドに聞くことが増えた

 

関連していればこの街で面倒ごとは消えるだろう

 

「まぁ過去は過去、今は楽しまなきゃっすよ!」

 

「陽気だな、今度からは俺以外に当たれ」

 

胸元のバッジを若いキャッチに見せると、顔を青くした

 

「っ!い、池田──……」

 

「あまり大きな声出すなよ?てめぇのために地面掘りたくねぇんだ」

 

男が口元を手で覆い、コクコクと頷くのを見て俺は街をふらつき始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺のシマの店に寄ったのはもう10時頃をすぎてからだった

 

良い子は寝る時間だし、悪い子は酒に溺れてる時間だ

 

「さて、そんな良い子はどうしてるかな、っと」

 

パチンコの店が閉まるのは9時だ、1時間も待って腹空かせてるだろうと思い、おにぎりを買っていた

 

俺たち極道は悪いことはするが、筋が通らねぇことはしない

 

ペットの躾だって、似たようなものだ

 

裏口のドアを開くと、若い従業員が玉を数えていた

 

「お疲れ」

 

「あ、店長。お疲れ様です」

 

店で働くやつは俺を店長と呼ばせている

 

「稼ぎは?」

 

「イマイチですね、国がカジノ計画出してから微妙っすよ」

 

「ガキは?」

 

「あのウマ娘です?大人しくしてますよ」

 

「どこだ」

 

「休憩室に、イキってんのか知らないっすけど働いてる間、仏頂面でさぁ」

 

「敬語使え馬鹿野郎、あと飴と鞭も必要だから覚えとけ」

 

「あ、はい。すいません」

 

俺は休憩室に入ると、サトノダイヤモンドが店のエプロンつけてふて寝していた

 

「こらガキ、起きろ」

 

「ん、ぅ……」

 

グゥと腹を鳴かせて返事をした

 

「腹で返事たぁ……生意気なのは相変らすか、飯だ」

 

ビニール袋に入ったおにぎりを差し出すと、サトノダイヤモンドは必死におにぎりを貪る

 

「ほれ」

 

ペットボトルに入った茶も、勢いよく減っていき、机に置いた時には空だった

 

「あのバカ、何も食わせなかったか。ぶっ殺してやろうか」

 

「違う……」

 

「あん?」

 

「違う……の、私が、拒否した」

 

サトノダイヤモンドは怯えながらも声を出した

 

「そうかい、んで?俺が出したもんは食うのか」

 

「……」

 

無言だが、首を縦に振ったということはどういうことだろうか?

 

「信用、信頼か……そんな考え方は捨てな」

 

「……」

 

「裏の世界じゃ、信用、信頼なんざ利用して捨てられる。盃交わして始めて背中預けれんだ」

 

「さかずき……?」

 

俺はスーツの上着を脱いで、ワイシャツの腕部分を捲る

 

「こうやってな、自分の腕と相手の腕をクロスして酒を飲むんだよ」

 

「私も……するの?」

 

「てめぇに預ける背はねぇよ」

 

「あぅ……」

 

「取り敢えず俺の家に来い。寮に戻ったら面倒になりそうだ」

 

「ぇ?」

 

「てめぇトレセン学園のウマ娘だろ」

 

俺の言葉に驚愕したサトノダイヤモンド

 

「な、なんで……」

 

「ここ来る前にバカどもに調べさせたんだ。それにてめぇも言ってたろ、中等部1年3組ってな」

 

「そ、それだけじゃ……」

 

「ここらひとつを除く一帯の教育施設は、中学と高校に分けられてる。中学のガキは自分のことを中等部なんて言わねぇんだよ」

 

「あ」

 

「わかるか?墓穴掘ったな、まぁ腕折られて極限状態ってのもあるが……、働かせてる間も固定させて包帯巻いただけだしな」

 

「いえ、私は中学の────」

 

「へぇ、どこ中だ?」

 

「か、カーライフ中学……」

 

「ありゃ男子校だ」

 

car Life、車と共にある人生をモットーにしたクソみてぇな中学ではあるものの、工業高校までの進路は安定しており、成績が優秀であれば有名な企業への就職にも有利となっている中学だが、女子の枠が一切ないのが利点であり欠点でもある

 

「え、あ、うぅ……」

 

「ちなみに俺はカーライフ中学出身だからな」

 

暴力事件なんてのは日常茶飯事だが、力が強い奴ほど工業高校にのし上がった時は人目置かれる存在だ

 

俺はカーライフでのし上がり、高校で暴れまくって中退した

 

「トレセン学園、ウマ娘教育機関とも言われてるが、裏じゃ平和をこよなく愛する戦闘民族集団とか言われてんぞ」

 

「何ですかそれ?」

 

胃に食い物を入れたからか、調子が戻ったサトノダイヤモンドは訝しげにこちらを見る

 

「俺が知りてぇよ……まぁ人類を超越した存在を束ねてる組織だ。トップの人間の面構えは違ぇって話だよ」

 

俺はタバコを咥え、火をつけようとする

 

「あ、火……」

 

「ん」

 

俺はライターを投げるとサトノダイヤモンドが受け取り、火をつける

 

「あの、ライター……」

 

「死ぬまで持ってろ」

 

1つ、煙を吐くとサトノダイヤモンドは嫌な顔をする

 

それもそうだ、サトノダイヤモンドは人質でもあり、囮でもあり、商売道具にもなりかねん

 

肺に副流煙が入るなんて、学園からすりゃ体力の衰えに繋がる

 

「次は外で吸うさ」

 

「あ、はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とサトノダイヤモンドは車に乗り込むと、運転手の部下に事務所に寄れと伝える

 

「いいんですか?」

 

「こいつか?」

 

「下手にバレたら……」

 

「反対の腕も折ってやるよ」

 

「ヒッ」

 

「なら良かったです、お嬢ちゃんが黙っててくれるなんて」

 

「脚は折らねぇから安心しな」

 

アクセルの音と共に車が発進して数分

事務所に着くと車を停めた

 

「車はここでいい。お前は帰れ、サトは車に残れ」

 

「ぁ、はい!」

 

「お疲れ様です!」

 

事務所の荷物を回収する為、上がっていくと騒ぎが聞こえてきた

 

と言ってもこちら側の罵声しかないのだが

 

ドアを開け、中を見ると黒曜石の机を挟んでソファにどっかと座る鮫の周りに部下たちが向かいに座り人間を睨みつけていた

 

向かい────対面には、夜見かけた若いキャッチがいた

 

「誰か引っかかったのか」

 

「鮫の兄貴だよ」

「こいつ俺らのこと知らねぇでキャッチしやがった!!」

「バラすぞ!!道具持ってこんかい!!」

 

「ご、ごめんなさい!な、何も知らなくて!!すいません!!」

 

無理もない話だ、鮫は仕事終わりに白のタンクトップ1枚に短パンというラフな格好で街をふらつくのだ

 

「いくらだ?」

 

俺はキャッチに問う

 

「え、えと……」

 

「なんぼ払うか聞いてんだよボケカス!!ぶっ殺すぞ!」

「道具持ってきたぞ!!誰か抑えろや!!」

 

「落ち着けお前たち、100万だ」

 

俺のシマにある店の売上の5倍とは、よくぞぼった食ってくれたものだ

黒曜石の机に置いた100万の札束を見て、キャッチは受け取りを否定する

 

「いいから、持っていきなさい」

 

「鮫、もうちょっと気迫見せろ。舐められてんだぞ」

 

「若頭、今はこれでいいんだよ」

 

「そうかい……兄ちゃん、それ持って消えろ」

 

「い、いえ……池田組と知らなければ────」

 

「知らなきゃタダだって言うかァ!?ぶっ殺すぞ!!」

「池田組の名前を脳みそに刻んでやらァ!!」

 

「ヒィィ!!」

 

札束を握り、逃げていくキャッチの背中を見送ると俺は鮫に声かける

 

「組は渡んとこだ」

 

それを聞いた部下たちは準備のために部屋を出ていく

 

「麻薬では?キャバクラにも手をつけたと?」

 

「ニュースくらい見ろ、芸能人の逮捕で売上に響いてるらしい」

 

「手広くやろうとして、知識無しがまずかったな」

 

「お前の風格じゃ知識あってもわかんねぇよ」

 

鮫はタバコを咥え、火をつける

 

「明日乗り込む」

 

「渡ん店か」

 

「若頭、きますか?」

 

「いーやぁ……楽しみにしてるわ」

 

「しょぼかったら組ごと潰す」

 

「敵が減るのはいいことで……親父には?」

 

「今からするさ」

 

俺の目の前でウマホを使う鮫

 

「親父……あぁ、そうだ……あ?潰さねぇ?……分かった」

 

鮫はウマホを切ると俺に目を合わせる

 

「潰さねぇのか」

 

「計画に必要だとよ、口が聞けるなら[[rb:欠損 > ダルマ]]で良いと」

 

(計画……あれか)

 

何時だったか、池田が電話越しで女に孕ませようとしていたのを思い出す

 

「ま、俺ァ帰るわ」

 

「死んだら化けて出てやるよ」

 

「縁起でもねぇこと言うなよ、バカ野郎」

 

俺は荷物を持って事務所を出ると、サトノダイヤモンドを待たせている車の運転席に乗り込む

 

「お、遅かったですね……勢い良くヒトも出ていきましたし……」

 

「そんなヤツいたのか、世の中恐ろしいね」

 

「あなたが、言います……?」

 

俺は後ろに座っているサトノダイヤモンドに睨みを利かせる

 

「それだけ返事出来りゃ、海の底に放り込んでも元気に生きていけそうだな」

 

「う、ち、違い、違います!」

 

「じゃあ黙ってろ」

 

 

 

 

 

 

アクセルを踏み、車を発進させた

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