夢を見た
夢とは過去の記憶が紡がれる
そこでは俺の目の前で両親を殺される夢だ
俺も傷つけられた
上体を複数箇所刺され、片目を切り刻まれ
切り刻まれた目の、最期に見た奴は池田だった
「サト、コーヒーでいいな?」
「……」
コクリと頷き、ぺこりと頭を下げ、テーブルの前の椅子に座るサトノダイヤモンド
高層マンションの最上階、一室が2LDKの家に住む俺はサトノダイヤモンドを住まわせることにした
住民票は後回しだ、役所の連中が嫌いな訳では無い
「送り迎えは俺がする、学園じゃいい子にしてろ」
「……」
無視、しかし目にはギラついており、なにか決意したようだ
「まぁ喋ってもいいが……そん時はわかるな?」
折れた腕を庇うサトノダイヤモンドに俺は苦笑いする
ウマ娘は傷の再生が早い。折れた所を触診したが骨は完全に繋がっていた
アザも引き、皮膚は目立たないが用心の為、包帯を巻いている
深夜に、俺たちの組織に繋がる闇医者に電話で問い詰めるとウマ娘は専門外と返ってきただけだった
「俺は学園の理事長と話つけてトレーナーに成る。その後は頼むぞ」
「……はい」
学園に黒のセダンで登校させんのも、悪目立ちするかね
いつもは着ない燕尾服にサングラスをし、他の組からバレないよう変装をした俺は、もう5台の黒のセダンを見かけた
(ありゃ……なんだ?どこぞの組か?)
木を隠すんなら森ん中とはよく言ったものだ
これなら悪目立ちはしないが、やはり乗ってる連中が気になるのは職業病だろう
「サト、降りろ。今から俺はてめぇのお付き人、てめぇはお嬢様ってことにする」
「そ、そんな急に……!」
「こちとら慣れてねぇんだ。初めて付き人する新人だと、聞かれたら応えろ」
「はぃ……」
まず先に俺が降りてサトノダイヤモンドのドアに近寄り、開ける
同時に向こう1台の黒のセダンからウマ娘が降りてきた
「はぁ、オジキもこんなこと辞めて欲しいなぁ……」
「お嬢、何があるか分かりやせんから……」
「分かってるって、もう……!」
どうやら向こう側の、黒鹿毛のウマ娘の家庭環境は複雑らしい
「っ、あ!」
「どうしましたお嬢様」
「ぁ、う……」
俺はサトノダイヤモンドに顔を近付け、小声で話す
「いいか、いつものてめぇでいろ」
「だって!お嬢様なんて言われたことないし!」
「うるせぇよ、黙って従え」
「わ、分かった……分かったから!」
サトノダイヤモンドは車から降りると、先程のウマ娘に声をかけた
「おはよ!キタちゃん!!」
俺は心の中で悦に漬かりながらも、トレセン学園の理事長のいる部屋をノックする
”うむ!開いておるぞ!!”
女の声、若い。学園の経営者は男だと思っていたが、ここはガキの遊び場か?
「失礼します」
俺は持ちうる敬語の語彙を頭の中で整理しながら、目の前の少女と背後に立つ女を見た
「君か!書類に目を通し、トレーナー志望だと聞いた!」
「ウマ娘に対してトレーナーが不足しておりますので、こちらからすれば嬉しい限りです」
白を基調とした服装を纏う、あどけない少女
緑のスーツを羽織る、成人女性
「申し訳ありません、御二方はどういった……?」
「失敬!遅れたが私は『秋川やよい』である!理事長を務めさせてもらっている!」
「私は駛川たづなと言います、理事長の補佐をしてます」
前者は弱いな、場の雰囲気で盛り上げようとするタイプのヒトだ
問題は後者、この緑の女は危険だ。隙がない
「では私からも……改めて申します。────と申します」
「うむ!書類通りである!」
「過去5年の前歴がありませんが、なにかお仕事を?」
やはり緑の女はやるな
白の少女の持つ書類をチラ見しただけで、前歴を聞いてくるとは
「実は会社勤めだったのですが、倒産して行く宛てもなくフラフラしていました」
俺は年齢詐称している
歳は25。20まで会社勤めで、その後は自宅警備員という設定だ
その後は、とある資産家に拾われて執事の真似事をしている、ということにしている
「なるほど、自宅警備員を経て執事に転勤と……」
「天晴れである!!」
何が?
「外に停っていた黒のセダン!そこから降りて来たる茶のウマ娘!」
「サトノダイヤモンドさんですよ、理事長」
「そのお付き人という事だな!」
「はい、ご明察です」
中々の慧眼だ
普通なら前に停っていた、5台の黒のセダンと一緒だと思われがちだ
それを、別々だと判断した
理事長という器の片鱗をみた気がした
「ところで、あの5台のセダンは────」
「他のウマ娘のプライベートは話せません」
「申し訳ない!……私からも話せん」
やはり、北島の組織も裏で手を回しているか
それか、この学園でのルールなのか
判断に迷うが、後者を取ろう
「学園でのルールなら、仕方ありませんね」
この言葉の反応で様子を見る
緑の女は表情一つ変えずにニコニコとしている
白の少女は口元の口角を上げるも、手に持つ扇子で口元を覆い隠す
なるほど、ルールは見当違いか
なれば裏に手を回していると考えてもいいだろう
「では私は失礼します」
「うむ!今後もトレーナーの健闘を祈る!たづなよ!」
「はい、学園内を案内しますね」
「やはり理事長は隠し事が苦手ですね」
緑の女はボヤく
「あの5台のセダン、そんなやばい組織なんです?」
「……こちらがトレーナー室になります」
上手く逃れたと思ったか、馬鹿め
横顔しか見えんが、てめぇの目がこっち向いたことは分かっている
”あんたも分かってんだろ?”っていう目だ
「では気をつけますかね……こちらはご自由に使っても?」
「えぇ、構いませんよ」
もはやこの緑の女からの信頼度は最低レベルだろうな
下手に動けば学園追放も免れん
計画の破綻、サトノダイヤモンドとは離れ離れ
「ふっ」
「……、なにか?」
「いえ、これから上手くできるか不安で」
「不安が笑顔に変わる体質とでも?」
「その通りです」
「変わっていますね」
「あなたほどでは」
まぁサトノダイヤモンドが離れたところで、池田の親父が計画してるやつに乗っかればいい
復讐相手ではあるが、使えるなら使い潰さねぇとな
「私が変わっていると言ったのは体質もありますが」
「ほう、では他にも?」
「血生臭いです、あなた」
「料理を奮っておりますので、豚か鳥の血の匂いでしょう」
まぁ正直なとこ、他の組の返り血を浴びてんだけどな
「あなたの家では執事が料理を?」
「ええ、執事が」
「……そうですか」
話し終えたところでウマホが鳴る
「失礼」
「いえ、もう案内し終えたので私から失礼します」
そう言って緑の女は出ていくと、俺はウマホを取り出して耳に当てる
「俺だ」
”鮫だ、学園には?”
「怪しまれているがトレーナーには成れた」
”俺はこちらが始末次第学園に潜入します”
「監視だな」
”…………”
「いい、別に言わなくて」
”そうですか、上手くやってくださいよ若頭”
「誰に物言ってんだ馬鹿野郎」
その言葉を皮切りにウマホを切る
「サトちゃんを虐めてるのはあなた!?」
なんとまぁ、目的の上手く娘が接触してきたのは昼休みだった
屋上でタバコをふかしていると、北島一家のご令嬢、キタサンブラックが叫びながら迫ってきた
「何のことでしょう?」
「とぼけるつもり?サトちゃんが腕に包帯巻いてたけどあなたがやった事でしょう?!」
「証拠はありますか?」
「サトちゃんから聞いたもん!」
「嘘では?」
「サトちゃんが嘘言うわけない!」
「ではどうされます?」
「1発殴ってから考える!!」
キタサンブラックは拳を握ると、ミシミシと音を立てる
本気で怒っていると分かるその拳は
「脆弱なヒトに暴力で解決とは、浅はかですね」
俺の眼前で止まる
否、止めた
俺の発した言葉で
「ぅ、ぐっ!でもあなただってサトちゃんに怪我を!」
「それが嘘では?私には見覚え、聞き覚えありませんし……ここは本人がいる時に判断しませんと、お嬢様は何処に?」
「あ、あなたが怖いからってトイレに……」
……そうだな、ひとつ遊んでやろう
「ちっ、あのクソ駄バ……余計なことしやがって」
「誰が────クソ駄馬バだって────ッッ!?」
怒りが点火するとキタサンブラックは
「サトちゃんを────侮辱するなァーッ!」
俺の喉を殴った
対する俺は殴られる振りをした
サトノダイヤモンドからの拳を受けているので、速度は見慣れていた
「────ぁ、うそ!待っ────!!」
吹っ飛ばされる演技を披露して、屋上から落ちる
この下に木が生い茂っているのを知っている為、上手く太い枝に着地して2錠の薬を取り出す
(仮死薬と蘇生薬なんざ使うことねぇと思ってたが、こんなことになるとは……まぁ遊びで使うもんじゃねぇか)
仮死薬は即効性だが、蘇生薬は何重にもコーティングされており、時間差で死体ごっこを出来る
「手配を────オジキにも────」
(もう来たのか、はえーなウマ娘ってのは……)
まぁ言わずもがな、薬を摂取して俺は死んだ
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そんなつもりはなかった
1発殴って、改心してくれたらそれで良かったのに
彼は、屋上から落ちた
「っ!!」
「キタちゃん、大丈夫……?」
サトノダイヤモンドことサトちゃんには言っていない
朝見たのが本当であれば、私は、サトちゃんの付き人を殺したということに────
「な、なんでもないよ!」
「そう?」
落ち着け……パパ……オジキが何とかしてくれる
サトちゃんの付き人とはいえ、トレーナーに来てからまだ数時間の男だ
名前からそのヒトに関わる全てを抹消すれば、私が殺したなんて……
「うっ、ぐぅう!!」
葛藤
殺したことに変わりないのに、オジキ頼りの自分が情けない
「なんだかね、気分が晴れやかなの」
「え?」
「肩の荷物が降りたみたいな……付き人さんに何かあったのかなぁって」
突き刺さる言葉は、返答できなかった
「たがらね、キタちゃん何かやったのかなぁって」
「何も、してない」
「……?」
「ごめん、気分悪くなってきた……保健室行くね」
「あ、なら私も────」
「いいから!!…………いいから……」
廊下に出るとオジキの部下が目の前に現れる
「お嬢、ご気分は?」
「……」
「すぐ早退しますか?車の手配は済んでおります」
「……落ちたヒトは?」
「今棺です、詳細を探っておりますが────」
「……死に顔を、見たい」
「承りました」
授業の担当に連絡すると私は車に乗りこみ、棺の元に行く
そこは廃病院の地下で、隠し場所には良かった
「付きます」
「……」
「こちらがお嬢の手をかけたヒトです。ご立派になられましたね」
「……っ!」
皮肉にも聞こえかねない言葉は、北島一家からすれば賞賛に値する
賞賛された私は、極道の娘でしかないのだ
棺には、白い布で覆われた男がそこに居た
「死んでるん、だよね?」
「心肺停止を確認してます」
「……お墓、立てれないかな?」
「初めての殺人ですからね、祝いと称して親父に頼んでみましょう」
付き人が私の元から離れウマホで連絡している
私は白い布を取り、死体を見た
「……ッ、ウゥ、あぁ……っ!」
殺したヒトの顔、カオ、かお
青白いその顔から目が離れず、私は背筋を凍らせる
これから一生、この人の顔を思い出しながらトレーニングして、トラックを走って、レースに出場して────
その度に、顔を思い浮かべるのだろう
「うっ、オェェ!!」
胃のモノが、吐瀉物となり、床を汚す
「お嬢!……相当キてますね」
「うるさい……家に帰る」
「では車のあるところに」
「……うん」
私は、その場から無理やり足を動かして逃げるように帰った
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キタサンブラックことキタちゃんが早退したので、サトノダイヤモンドこと私は包帯に巻かれた腕を擦りながらトラックで練習するウマ娘達を見ていた
時刻は夕暮れ、日が沈みそうなのに練習に励む生徒は寮住まいなんだろうなぁと思い耽っていた
ふと、空を見る
「……あのヒト、遅いなぁ」
出会いは最悪だった
一方的な暴力で出会い、働かせたと思えば学園で生徒を演じろとか、もう言うことぐちゃぐちゃだ
でも良いとこ住まいだったし、何より酷いことをしなかった
働いた店にいた大男たちは暴力の化身でも、あの人だけは何か違う存在に見えた
「吊り橋効果ってやつかな……」
とりあえず、今は
「お腹減ったなぁ」