「鮫」
「若頭!お疲れ様です!」
「「「お疲れ様です!!」」」
辺りは暗く、夜になっていた
シマの店のドアは全て開け、電気も付けたまま休業状態にした
どうせ狙いは俺だと自覚しているので、部下たちには残ってもらったのだが
「店員の連中はさっさと帰れと命令したはずだが?」
「俺らも……俺らも戦います!!」
「店長に世話んなったんだ!今更逃げれるか!!」
「すいやせん若頭、こいつら言う事聞かなくて……」
「馬鹿野郎!!カタギが首突っ込んでじゃねぇよ!!」
俺の怒声に、静かになった
「俺を殺すってことァな!!全員殺すんだよ!!北島のクソどもは家族を殺されて腹ァ立ってんだ!!店にいる奴ァ死ぬぞ!!」
「でも──……」
「なら仕方ねぇ!!どうせどっかでマル暴見てんだろ!!」
俺はカタギの店員に銃を向ける
「店長!?何を────」
「すぐ医者にいけ、最悪足失うだけだ」
ドンと発砲すると店員の太ももを撃ち抜いた
「あ、あぁ……アァァァア!!」
「……他の連中!!こうなってもいいならさっさと逃げろ!!」
「て、店長……!!」
「てめぇもかァ!?」
ドンドンと、他の店員の足元に撃つと太ももを撃ち抜かれた店員を背負い、逃げていった
「いいんですか?若頭」
「邪魔なだけだし、北島の連中もカタギ殺すのは本望じゃねぇはずだ」
俺は整列されたパチンコ台の先にある、玄関に設置されたバリケードを見た
「あれじゃ心もとねぇな」
「ないよりマシでは?」
部下に促され、俺は睨む
「うっせ、敬語使え部下のくせに」
「っす」
「正念場だ、全員銃は持ってんな!!」
「おう!!」
「援護はないと思え!!池田の親父も来るとか抜かしやがるが雀ん涙だ!!」
「おう!!」
車の音を聞き、複数の足音が店の前で止まった
何かが投げ込まれ、コン、コンと床を鳴らす
「……!!伏せろー!!」
パチンコ台が並べられた真ん中で爆発が起きると、銃声が響いた
手榴弾だ、戦争じゃあるまいしよく手に入れたものだとほくそ笑む
「撃て撃て撃て撃てぇー!!」
俺の発砲音に合わせ、他の連中も銃撃戦を繰り広げられるが
やはり人海戦術という所か、何人かが被弾し
運よければ重傷
悪けりゃ死んで逝った
「うぉおおおお!!」
「オラァァア!!」
北島一家のひとりが俺の目の前に来た
「赤目ん首ぃ!!貰ったらァァァ!!」
「黙れやボケェ!!」
非常時に使われる赤い斧を振り回した男が、俺の脳天に振り下ろそうとするが、俺は顎を撃った
「はぁ……っし!この斧と男で前に……!」
パチンコ台が整列されているのか、席側を馬鹿みたいに乱射している北島一家
「やっぱ無理だァ!……あ!っし、上行くか!!」
パチンコ台が並ぶ上に移動すると、俺は走り抜けながら銃から弾を乱射する
俺の武器はオートマチック銃だ
高校中退してからの相棒。弾数の把握は体に染み込まれているほどだ
「死に晒せぇ!!」
「ガッ!あぁ!?」
「上だ!!上から来てんぞ!!」
周りからも部下たちが俺の真似をしてパチンコ台に乗って移動していた
「しねオラァ!!」
「てめぇが死ねやぁ!!」
「ウオオオオオオオオ!!!!!!」
「な、なんだァ!?」
北島一家の目線が上にいった瞬間、ハンマーを振り回した鮫が大男達を連れて前線を蹂躙し始める
勿論、無傷で制圧できる訳では無い
上からの俺の援護射撃をしていても死ぬやつは死んで、生き残ってるやつは負傷していった
攻防一戦、血みどろの銃撃戦はものの数十分で幕を降りた
死体の山が築かれたパチンコ屋の玄関
照明はほとんど機能していない
パチンコ台は全て銃弾が埋め込まれており、誤作動を起こしているパチンコ台は4、4、4で止まっていた
俺はオートマチック銃を片手に持って座り込んだ
俺も無傷とは行かなかった
軽機関銃を持った奴に肩から腹までを撃たれ、床を血で濡らしていた
「……若頭」
「鮫、か……生きて……はっ、死んでるようなもんだな、その姿じゃ」
鮫も無傷とはいかなかったようだ
相手にも巨躯な身体付きの男がおり、その男から喰らったチェンソーで腕1本と片足を付け根から失っていたのだ
生きていた部下の何人かが止血し、一命は取りとめているようだが、もう満足に動くことは出来ないだろう
「随分、派手にやりましたね」
「てめぇ!北島の!!」
部下たちが騒ぎ立て、俺は聞き覚えのある声で目を見開くが、首は下を向いたままだ
疲れ切っているせいか、体に力が入らない
「可愛そう、援護すらない……んですね」
「……黙れや……」
「私たち北島一家は家族思い、です。家族を殺されたら、家族全員で報復します」
「……」
カチャカチャカチャと、女の声がする周りから銃を構える音を聞いた
「ですが、命乞いすれば殺しません」
「!?、キタサンの姉御!!」
「黙れ!!私はもう誰も死んで欲しくないの!!」
「この赤目野郎は家族を奪ったんだ!!殺してなんぼだろうが!!」
「姉御!!腑抜けた事な抜かすんじゃねぇ!!」
「黙って!!」
内輪揉めに、俺は項垂れながら鼻血を啜り、笑う
「ハッ……未熟モンが」
「ええ、私は未熟です」
「……」
「なので助かる命は助けます」
「お前……向いてねぇよ、極道」
「そうですね」
「なんでこんな……こと、してんだよ……」
「家族とは、悲しむ人がいてこそ家族です。あなたが死ねば……サトちゃん、悲しむから……」
足音を聞いた
ザリザリと音を立てるその音は聞き覚えがあり
何かをいじる音も、聞き覚えがあった
「あ、かっ、はっ!伏、せろ……っ!」
「……?」
「んだテメェ!!」
「まだなんか隠し持ってんのかぁ!」
池田の親父は足が悪い
過去に北島一家組長・北島に右足を穴だらけにされたことで、歩き方が不安定なのだ
足を引きずりながら歩く音、聞き覚えがあると言ったのは池田の足音だからだ
何かをいじる音、それは池田の得物・脇差を弄っている音だ
普段は拳銃なんか使うくせに、タイマン張る時や拷問なんかにはよく使っている
だからなんだって話だが、問題なのはそれじゃない
「ンゥゥゥヴヴヴヴ!!」
俺は赤斧を咥えて痛みを無視しながら無理やり体を起き上がらせて、庇うように大きく手を広げ、キタサンブラックの前に立った
北島一家の何人かが伏せると、俺の背後からの一方的な銃撃が始まった
池田の親父は基本、1人では動かないのだ
「よーぉ!俺も混ぜてくれよぉ……あれ?息子、死んでんじゃねぇか……小便くせぇガキ庇いやがってよォ」
池田が叫ぶも
俺は赤目を除く殆どが、穴だらけにされた
「東城会ィィ!池田ァァァアアアア!!!」
北島一家・若頭キタサンブラックは吠えた
「さんを付けろや小娘がァァ!!」
東城会池田組・組長池田は吠えた
「野郎どもぉおぉおおお!!続いてぇぇえええ!!!」
「ウマ娘だからって容赦しねぇぇぇえええ!!」
キタサンブラックは、レースで使われるはずだった脚力を用い、ヒト離れした速度で池田の懐に入る
キタサンブラックは着物の腰に太刀を帯刀しており、怒り任せに抜くと池田の頭に振り下ろした
「遅せぇ!剣道有段者ァ、舐めんなぁ!!」
脇差を抜き、火花が散る
「ウルァァァア!!!」
「一丁前に叫べば!!極道できると思ってんのかぁ!!」
池田はキタサンブラックの力を利用して刀を流すと、空いた手で脇を殴り付ける
「ギ、ぁ!」
「オラァ!!」
脇差でキタサンブラックの右ウマ耳から右目、右頬と、刻む
「ヒト様ナメてんじゃねぇぞ!!」
「だったら何だっていうのよ!!」
キタサンブラックは慣れない殺しに疲れてきたのか、刀が重く感じはじめ、池田との2度目の鍔迫り合いも徐々に押される
「ハッハー!!死に晒せやゴラァ!!」
鍔迫り合いを片手で支えると、キタサンブラックの腹に拳が入る
「ゲ、ェ……っ!」
「死ねぇ!!」
「死ぬはぁ、池ア”ァ”!!てめぇん方ア”ア”ァ”ァ”!!」
口に咥えた赤い斧を、俺は池田の頭のテッペンから顎までを、潰し割いた
「あ”……────ぁ」
「……赤目、さん」
「ゲボ、ゴボ……ガブッ……」
無理に動いたのか、地面に落とした赤斧の上から血反吐が止まらず、傷口からもドボドボと血が滴る
「若頭!!」
鮫が吠えた
「赤目ん野郎……」
「何やってんだ、こいつ……」
「自分の親を……殺した?」
北島の連中は混乱している
「赤目さん……やはり貴方はこれが──……」
「ごォっ、グブッ、い”ヴ……な……」
キタサンブラックは、察した
━━━━━━
「派手にやったねぇ」
パチンコ台から声がし、私は顔を向けた
部下たちは池田組組長の部下たちから銃弾を浴びて瀕死になりながらも戦ってくれた
赤目さんの仲間だろう、サメさんも声がした方を向く
「あなたは……?」
「マル暴の刑事、羽毛田だ。ハゲがトレードマークの男だよ、お嬢さん」
サメさんが答えると、マル暴の刑事さんがにっこり笑う
「ハゲは余計ですよぉ〜鮫さぁん。にしても、池田組組長が死んで、その若頭も瀕死、若頭補佐は重傷……んで?お初お目にかかるのは、北島一家の次期組長と……雁首揃えて出世コース間違いなしだ」
その言葉で、私は刀を構える
サメさんもまた、ハンマーを握る
「安心してくださいよぉ、アンタら極道のシマの争いなんざ日常茶飯事なんだよ」
「何が……目的ですか」
「一般人が撃たれたって通報がありまして、駆けつけた迄であります!」
マル暴の刑事さんはヘラヘラしながら敬礼する
だけど、身に覚えのないそれは、私を困惑させた
「な、流れ弾が一般……カタギの人に当たった?」
「違ぇな、ここら一帯はパチンコ以外何もねぇよ」
「そう、流れ弾が当たることは無い。なら、北島一家は、関係ないってことですねぇ」
「じゃあ、なんで────」
「若頭が店員を撃ったんだ」
サメさんが答えた
その答えはパパ──オジキから耳にタコができるくらい、聞いていたことだから、私でもわかった
極道が一般人を攻撃するということは────
「で、でも赤目さんも、わかってた……はず……」
「言うこと聞けねぇカタギがいてな、うちの店の店員だが」
「珍しいですよねぇ、極道の店にカタギ混じるなんて……」
「そ、そんなこと、ありえない……」
「不可能を可能にすんのがマル暴だ」
「おや、あなたも逮捕しますよ?サメさん?」
「……」
「聞き分けよくて助かります」
「若頭をどうする気だ」
「何って、普通医者でしょ?(笑)」
「チッ」
「あぁ、あとの話ですか?わかるでしょ〜〜ぉ、そのくらい〜〜?」
「え、え?どういうこと?」
「刑務所だ、北島の次期組長」
「キタサンブラックでいいです、サメさ────」
「さんは要らない、キタサンブラック」
「仲良しごっことか、後にして下さいよォ。……おい辛子ぃ!!車どこだ?!」
羽毛田さんはウマホで部下を呼んでいる間に、私はサメの傷跡を見るため、近づく
「ごめんなさい、こんなこと……」
「……本来なら死んでもおかしくなかったが……拾った命、使い道なくてな」
「……東城会には?」
「池田組が潰れた今、ここら一帯は無法地帯になる。若頭が捕まったとなればチンピラゴロツキのアジトになるだろうよ」
「いえ、東城会に戻られないので?」
「だからだな、池田組は潰れてんだ。事務所帰っても人っ子一人もいねぇよ」
「……なら────」
「お、車来た。それじゃ、若頭回収しますね〜。これで手を打ったんだから、北島一家に口利き頼みますよぉ〜〜?」
未だ両手を広げて立ち尽くす元池田組若頭・赤目を、マル暴の刑事・羽毛田さんは肩を持ち、車に乗せて行った