受付を済ませ病室に入ると、そこには横たわった俺の愛バがいた。
時計を見ると短針長針共に10の数字と重なっていた。
端正の取れた顔立ちと、それに見合う上品な立ち振る舞い。
そしてレース中は他のウマ娘とは格が違うと言っているかのように序盤から圧倒的な差を広げて勝利する。
断言できる、俺が実際に見た中で最強のウマ娘だった。
彼女と歩んだ一年間は夢のようだった。俺みたいなポンコツ新人トレーナーが宝塚記念を優勝することができるなんて信じられなかった。一生優勝なんかできないもんだと思ってた。
そして夢から醒めた今現実に、いや悪夢に引き摺り込まれてしまった。
あの時は夢でないことを確認するために頰をつねっていたが今の俺はこれが夢であることを祈って頬をつねった。残念、現実だ。
目の前のウマ娘、彼女が例え生きていたとしてもこれからどうすればいいんだろう。おそらく二度と走れない。歩くことさえままならない。もし彼女が俺にこれからの生き方を質問されても俺は何も答えることができない。俺は無力だ。
「トレーナーさん…」
そんなことを考えていると急に誰かに話しかけられた。前を向いても窓しか見えなかった。じゃあ、どこからだ?
「トレーナーさん」
横からだ。驚いて横を向くとサイレンススズカが俺に話しかけてきた。
生きてた。良かった。…良かった。
呆然としている俺にスズカは少しだけ笑みを浮かべて話しかけてくる。
「居てくれたんですね。」
残念ながら俺はついさっき来たばかりだ。本当は昨日から行かなきゃいけなかった。こんなトレーナーで申し訳ない。
「そんな悲しい顔しないでください…悪いのは私です。」
「顔を見れば分かります。きっと申し訳ない、なんて思っているんでしょうけど悪いのは私です。全部私の責任。」
サイレンススズカは今度は悲しい顔で俺に話しかけてきた。彼女が誤解している部分は指摘することができなかった。
「本当ならあんなに飛ばさなくても一位はとれた。それでも、私は『向こう側』が見たかったんです。迷惑をかけたのは私の方、ごめんなさい。」
彼女はそういうと起き上がって俺の顔を見つめる。
彼女の顔は本当に満足そうで、やり切った顔をしていた。少し安心した。
「だからトレーナーさん。」
開かれた窓から風が吹いてくる。その風は彼女の髪を揺らし、より美しく仕立てる。見ているだけで心が穏やかになる姿。
だからこそ、
「私とさよなら(契約解除)しても、いいですよ。」
こんなことを言われるとは思わなかった。