CinPoli   作:面梟エッホエッホ

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紹介
・水瀬千終
 名前を変えている為呼ばれ方が異なる。
 人外。世界最強の種族夢理民の1人だった。
・ファタール
 千終の昔の部下。人間の青年。
 RoF6という組織の総帥。
・葛葉御前
 夢理民の1人。全身真っ白な妖狐。一応神。
 伝説に残る程長生き。
・??
 謎の組織の幹部らしき立場。人間。
 性別が判別出来ない。武器は西洋剣と旗槍。


【序】1/1

とあるゴーストタウンにある元旅館の一室。

元の客間を改装し大きな窓と板張りの床に絨毯を敷いた洋装の部屋。

1万と2000の軍勢を従える男、水瀬千終はバカデカい窓を背にした机に足を掛け、元々の椅子の対面に置かれた安楽椅子を揺らしていた。

静かに椅子を揺らしながら、紙束を捲る。足元には幾つもの紙がばら撒かれ、机の上には無数のファイルが積み重ねられ、それなりの時間が経っている事が察せられる。

 

「監獄塔…魔王城…消滅と復活に…記憶を無くして…異世界転移…全く、とんだ巻き込まれ体質だな」

 

読み終えた紙束ーシンポリ本部から持ち出した報告書ーを無造作に放り投げ、重なったファイルの内の一つに手を(かざ)す。するといつの間にやら抜き取られていた中身が手に収まり、千終は再び紙束を捲り始めた。

 

「魔天族の奴隷の保護…冥界と天界…は特に関係無いな。異世界…色で分けられた国…これも収穫なしだろ。そっち行くなら翼族(パラスキニア)の本拠か魔王城にでも探りを入れた方がマシだな…何ならもう一度『図書館』に行ってみるのも手か…?」

 

つか生き残り他にもいたのか翼族、とボヤきながら資料をばら撒いていく。

本来、千終は資料の閲覧程度制限1つ掛けられていない立場である。それでも態々外部に資料ーそれも過去の活動のみならず構成員の出身地や依頼で関わった者の身辺調査等もーを持ち出してまで漁っているのは、(ひとえ)にとある目的の為だった。

"惑星送還計画"またの名を"旧世界新生計画"。

現在千終がシンデレラポリスを離れ、独自に動いている理由にして()()()()()()()()()()()程度に始めた計画であり、その名の通り7つの星の残骸へと崩れた惑星(ほし)を戻すことを最終目標とするもの。彼はその発動にあたって成功率を大幅に上げる()()()()()()の所在に関するヒントを探していた。

 

「ファロさァん…て、うわ」

 

バサリバサリと資料を放り投げていると後ろから声が掛かる。

千終が振り向いて見れば開けっ放しにされた扉からマーブルカラーのコートを羽織った青年が歩いて来ていた。

 

「よォ、ファタール君」

「読んだレポートばら撒く癖は相変わらずッスね……何のヤツッスか?これ」

「職場の資料室に有ったヤツ」

「へぇ」

 

千終よりも少し若い青年は床に散らばる紙を器用に避けながら机の上に積まれたファイルの1つを手に取った。

興味深げにファイルを眺める青年の背にあるのは、千終の白いコートと同じ斜線とロゴ。ファタールと呼ばれたこの青年は、詰まるところ水瀬千終がかつて副総帥だった頃のRoF6幹部であり、ファロは千終のコードネームだった。

 

「なんスかこのヤベーの。ファロさんの職場?冗談ッスよね?」

「残念だったな。マジマジ、マジノ線より大マジ」

「えー……」

「お前は勝てるから安心しとけ」

「うーい」

 

流し読みした中から拾ったシンデレラポリスの上層部、その戦力やらなんやらにドン引きするファタール。そんな彼に千終は何でもないように勝てると断言しケラケラ笑っている。

一頻り笑った所で漸く千終は資料をばら撒く手を止めた。

 

「んで、要件は?」

「あー…悪い知らせと良くない知らせとすっごい悪い知らせとがあるんスけど、どれから行きます?」

「順に」

「ッス。じゃまぁ、悪い知らせから。()()()()、最有力候補だったスカイレイルなんスけど、やっぱりファロさんの予想通り墜落してました。ただ場所が問題で海のド真ん中に墜ちたらしくて、サルベージに時間が掛かってるッス」

「さよか。で?」

 

苦虫を噛んだ様な顔でファタールが報告すれば、その状況が予定より面倒な事になっていると知り千終も嫌そうな顔をする。

だがその程度大した問題では無い、と割り切り続きを促す。

 

「落としたヤツは夢理民ってのも恐らく予想通りかと。生き残りはそれなりみたいッスけど、勢力としては完全に死んでます。オマケに生き残りが夢理民ッスね」

「そりゃ確かに悪い知らせだ。そいつらの数字、判るか?」

「落とした方が第5、生き残りが第4ッス」

「…………めっちゃメンドーなヤツらじゃん」

 

探し物の所在地として最有力だった候補は海の底、関係していた勢力はどちらも滅んでいる上に生き残りは元の同朋(夢理民)と成った。滅ぼした方も元同朋である事は確実。夢理民同士での潰し合いは避けられないだろう。

その程度面倒にもならないが、問題は潰し合うだろう夢理民の片割れが面倒な性格の奴だという事にあった。

部下に探らせた通りなら、犠牲を強いる自分達の計画も邪魔されかねない。相手が夢理民である以上此方も相応の戦力を出さねばならず、必然的に千終が出張ることになる。

相手自体は片手間で事足りるとはいえ、自分にもやることがある為出来るだけ余計な事はしたくない、というのが千終の考えだった。

 

「まァいい、次」

「良くない知らせなんスけど、神団…邪神教団に動きがありました。正確には神団が動いたというより別の何かに乗っ取られたみたいッス」

「具体的には?」

「細かい事は何一つ。ただ連中が保有する山が何らかの鉱脈だった、という噂はガチだった様でかなりの数の重機が運び込まれてました」

「鉱脈…山の名前は天和山(てんほうざん)だっけか?確かそこは廃坑があったな…」

「どうします?」

「様子見。送るメンバーは…スカイレイル捜索に充てた人員から引き抜け。潜入はさせるな、監視に留めとけ。命令はバレるな飽く迄自然体で、だ」

「了解。直で向かわせときます」

 

記憶を探り、手早く指示を出す。千終が口頭で指示を終えると同時、ファタールが眼前にホログラムのウィンドウとキーパッドを出現させ、簡潔に纏めた指令を送る。無駄の無いその所作は明らかに一日二日でなせる業ではなく、2人が古い付き合いである事が見て取れた。

 

「つか、対教団の監視体制を潜られたのか」

「そうなりますね。あからさまに監視してると悟らせない様徹底させたことが裏目に出たみたいッス」

「所詮バレるまでの時間稼ぎに過ぎないからな、仕方ねェさ。問題は…」

「乗っ取りから拠点の移転まで俺らに一切気取られることなく終わらせる隠蔽能力の高さ、ッスね」

「或いは行動の速さかもな。対処には特務暗部を使うか」

RoF6(ウチ)や親衛隊の連中には不向きッスからまぁ、それが妥当かと」

 

並列して起動したウィンドウで人員の選定を行いながら、仮想敵の実力に関して推測を述べる。

配下を集めるよりも以前、それこそ計画を考えるよりも遥かに前からファタールを通じて監視をさせていたにも関わらず、変化を知ることが無かった。その手の者の目すら欺けるよう普通の生活を徹底させていたが故に、監視を気取られるなど有り得ない。だが、現に出し抜かれた以上警戒を強めなくてはならない。相手の目的を早めに知る必要があるが、規模が判明するまで手を出しづらい。これまた厄介な話だった。

 

「対処は粗方調べがついてからだな。で、すっごい悪い話ってのは?」

「それについてはわえが話してやろう」

 

椅子に深く座り直し、千終は続きを促す。

応えたのは高くもなく低くもない聴き心地の声。

気配が全く感じ取れなかった第三者の存在。

ファタールが即座に身構え振り返ると、開け放たれたままであった扉は閉じられ、そこに寄りかかる様にして佇む白面白毛の和装の亜人の女が居た。

耳や尾を見るに狐の亜人の様だと思ったのも束の間。女の黒曜石の様な目を見たファタールは直様その評価を撤回した。

作り物めいた白一色の外見やその闇の様な眼に違和感を抱いたからでは無い。

狐の女はただの亜人や人間とは纏う空気が違った。凡そ人とは思えない異様な()がある。後ろにいる上官と同質のソレを受けた緊張からつー、と蟀谷(こめかみ)を汗が流れ落ちた。背中は既にびっしょりだ。

 

「随分久しい顔だな、遊びにでも来たか?」

(なれ)とか?冗談は昔の巫山戯た頭だけにしとくのじゃな」

 

ケラケラと笑う上官の声。良いと自身を諌めるその言葉に正気を取り戻す。まるで呼吸の仕方を今思い出したかの様に喉を抑え滝の様な汗をかく。

ファタールは目の前にいる狐の女の正体も接近も全て分かっていて放置したであろう上官を恨みがまし気な目で見た。

千終はそんな部下の抗議の目線など何処吹く風といった様子で椅子から立ち上がる。

 

「ま、何があったかは()()()()

「『()()』が盗まれているぞ。(んだろう?)それも一夜の内に、じゃ()

 

千終と狐の女の声が一言一句違わずに重なる。

それはファタールの持ってきたものと全く同じ内容で。

 

「思った通りだ」

「流石の千里眼じゃな。梛沙紀(なきさき)

 

上官と狐の女が口角を上げたのを見てファタールは(ようや)く現実に復帰した。

同時に思い至る。それはもう色々な事に。

 

「さて、答え合わせも済ませた事だし紹介しようファタール君。コイツは一応盟約を交わした協力者、第11番の夢理民葛葉御前だ」

「…夢理民」

白貌(はくぼう)空狐(くうこ)、聞いたことあるだろ」

「白面一尾の妖狐の伝説ッスか?そりゃ勿論」

「それがコイツだよ」

 

成程、とファタールは呟いた。夢理民ーそれも伝説に謳われる程の存在ーともなれば先程の威容も得心がいく。

『例のブツ』の所在地候補。数ヶ月前から捜索を続けていたそれと並んで調査及び監視させていた最重要事項、各地に存在する『遺産』。目の前の夢理民はその管理者だろう。

盟約、というのは文字通り今回の計画に対しての契約。

何せ『遺産』は今回の計画の要。ファタールの知る限り、千終はそんな物に関わっていると知って放置する様な人物ではない。立案した時点で既に接触していた可能性すらあった。

 

「(一体何時から繋がっていたのか全く分からない…!)」

 

同格であるが故に引けを取らず、凶報を知っても尚笑みを絶やさない千終の計画性と予測力に戦慄が止まらない。同時に酷く高揚もしている。

ある種の感動で言葉を失っているファタールは、とある指示を受け醒めぬ興奮の儘に部屋を飛び出していった。

 

「想定外予想外計算外……良くあることさ。果報は寝て待てと言うし聞かせてくれよ、莫迦の喜劇を……()()()が来るまで」

「汝は怖いのぅ。仮にも()()()()()()()()()でありながら、()()()()()()を与えぬ外れ者、正しく()()()使()()よ…」

 

閉まる扉の後ろで交わされた会話がその耳に入る事はなかった。

 

side change

 

天保山山頂、邪神教団本拠『万混殿(パンテオン)』。

その最も広い部屋である祈りを捧げる為の礼拝堂(生贄を焚べる処刑場)、祭壇に腰掛け()()()()に勤しむ部下を眺める者が一人。

何やら悍ましい見た目をした人型の描かれたステンドグラスと磔刑を兼ねる十字架を背に西洋剣を腰に提げた姿は、着ている外套の暗い色も相俟(あいま)って絵の様だ。

 

「はい、司徒様」

 

怪しい格好ともとれる装いの人物の耳に着信音が届く。

男にも女にも聞こえる不思議な声だった。大きな外套によって身体の線も隠れ、傍目には性別が全く分からない。

彼女(かれ)は端末に耳を当て相手の言葉を待つ。

 

「…主教の始末、恙無(つつがな)く終わりました。反秘石の鉱脈も手筈通りに……はい」

 

必要事項のみを淡々と伝える声は、しかし聞けば判る程には喜色が混じっている。

 

「…全て『遺産』の賜物です。そんな、恐れ多い……いえ、謹んでお受け致します」

 

事後処理を終えた部下達が集う。

彼らも彼女(かれ)と同じローブ姿に仮面を被っている。

通話を終えた彼女(かれ)は静かに跪く部下達を睥睨する。

 

「全て、全てが順調に進んでいます。これも皆さんのお陰でしょう…」

 

部下の一人が彼女(かれ)に旗槍を差し出す。

彼女(かれ)はそれを受け取ると巻かれていた旗を広げカンッと石突で音を立てる。

はためく布地には十字架に二重の円が重なり内側の円の中に更に3つの円と六芒星が描かれ、それらの周囲を環の様に同様の小円が連なった紋章が刻まれている。

同じ紋章が全員の仮面にもあり、彼らが志を共にする組織である事が示されていた。

 

「在るべきカタチを、理想郷を()()()()時は、近くに来ています」

 

部下達へ語り掛けながら祭壇を離れる彼女(かれ)

一歩進む度に部下達は道を開け、彼女(かれ)の一挙一動を見逃すまいと集中する。やがて彼女(かれ)は礼拝堂の中央で足を止める。そこには巨大な魔法陣と大穴。

それはつい先日までこの神団が生贄を捧げていた祈りの象徴。

神団が神と崇めていた肉触手ーその残骸ーと、大量の槍や磔刑台で組み立てられた剣山。

剣山には、全身の至る所を執拗な迄に痛め付けられた亜人達が滅多刺しにされている。

 

「これは偉大なる一歩。司徒様の願いの始まり」

 

彼女(かれ)が旗槍の穂先を向けると左右に控えていた部下が大きな容器の中身を剣山に浴びせかけ、別の者が松明を投げ込んだ。

火は瞬く間に巨大な炎柱となり亜人達の死体と人工の偽神を焼き尽くす。

 

人間(ヒト)の……人間(ヒト)による人間(ヒト)の為の楽園……」

 

火が弾け火の粉が降るのも気にせず旗槍を掲げる彼女(かれ)

 

「救いましょう……私達の手で、私達の世界(エデン)を……」

 

変わり果てた世界で研ぎ澄まされた牙を剥くのは、果たして誰なのか。

善意と悪意の思惑の蠢動を知るものはまだ居ない。

一つの終幕が迫っている事を知るものも、また同じ。

 

 

To be continued...




補足
・バグアイテム=反秘石=例のアレ
 とある事情で敵陣営と千終が狙っている。
・『遺産』
 詳細不明。形ある物が該当する。
・スカイレイル
 かつて荒れた大地を捨て空へ登った人間達。
 この世界では翼族との戦争に一時期有利だった。
 がその後調子に乗りすぎて滅んだ。
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