ワァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!
「なめてんじゃねーぞ!」「帰れたこすけ!」
割れんばかりの歓声と、唸りをあげる怒号。
「史上初の人間がダービー参戦か!?」
このニュースは瞬く間に日本中に広がり、このジュニア級メイクデビューはG1並みの前代未聞の観客動員数を叩き出した。
結果は全く期待してないもののトレーナーの走りを見に期待を膨らませ訪れたもの、ダービーを舐めてるのか!と先ほどから怒号を俺に浴びせてくる人その他多くの種類の人たちがこの会場に訪れている。
俺は今年からトレセン学園に入った新人ウマ娘とともにレース人生をスタートさせることになった。
そしてその新人ウマ娘が経験する最初のレースがこの、ジュニア級メイクデビュー戦。色んなウマ娘がウォーミングアップしている。
勿論その中には期待の新人もいる。
門別レース場で名を馳せたジャパンシンボルの妹、マンドリンギター。
その昔に川崎レース場を沸かせたタイヨウオリオンの娘、ベイス。
本来ならこの二人が一番人気になるはずなのだが…
愉快犯とも言うべきか、まだ何の実績もない俺に1着予想を入れた人たちが多いようで、一番人気は俺だった。
さて、そろそろ始まるな。
俺は4番からのスタートだ。
長野「実況は私長野がお送り致します!さあ各ウマ娘、一斉にゲートイン!注目の一番人気!謎大き男、トレーナーの結果は如何に!?」
ガシャコン
長野「今スタート!」
普通に走れば、ウマ娘と人間。人間が勝てるはずがない。
しかし相手は新人。まだこの距離すら全力で走りきれるスタミナはない。だからこそ…
逃げる!
長野「あーっと!4番トレーナー!序盤から猛スピードで後ろとの差を広げていきます!」
事前の情報によるとマンドリンギターはいわゆる差し型。
そしてベイスの母親は追込型のウマ娘。現役時代の最初の方はレースでいつも2着で「追いつかない程度の追込み」とか言われてたな。きっと彼女も追込み型のウマ娘に違いない。だからこそ今のうちに差を広げておく!
長野「あーっと!トレーナーにげるにげる!2位とは既に7バ身だぁぁぁぁぁ!!!!!」
逃げる、逃げる。
気付いたらあっという間に最後の直線。
残り200m。前にウマ娘はいない。
自分のすぐ後ろに誰かいるか確認する。
「え…?」
いない。
誰も、いない。
そしてそのまま…
長野「ゴール!大差!大差で1着トレーナー!2着はベイス!…」
走り終わった俺は男性更衣室の長椅子に座っている。
その時の俺は1着を取れたことよりも、他の事に驚いていた。
前には誰もいない。後ろを振り返っても誰もいない。
トレーナー「これが…先頭の景色……」
スズカが毎日のように追い求めていたもの。力を抑えるよう言っても「先頭の景色が見たいから」といって全く取り合ってくれなかった理由。あの時は理解できなかったが、今だからこそわかる。
これは、やみつきになる。
中毒になるのも無理はない。思い出すだけで体がぶるっと震えた。
きっと、この感覚は一生忘れられないのだろう。
そういえば昨日、麻薬を打ってしまったがために人生が狂ってしまった薬物中毒者のドキュメンタリー番組を観たのを思い出した。
あぁ、これも麻薬だ。でも、一度体験してしまったからには止められない。これから毎回、「逃げ」で行こう。
立ち上がった俺は男性更衣室から出てトイレに行くために通路を歩く
「ん…?」
そこで張り紙がしてあるのを見かけた。
「ウイニングライブ会場→」
あっ、俺踊らなきゃ。