走れトレーナー   作:ゴールデンウィーク

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逃避

 

 

受付を済ませ病室に入ると、そこには横たわった俺の愛バがいた。

時計を見ると短針長針共に10の数字と重なっていた。

 

端正の取れた顔立ちと、それに見合う上品な立ち振る舞い。

そしてレース中は他のウマ娘とは格が違うと言っているかのように序盤から圧倒的な差を広げて勝利する。

断言できる、俺が実際に見た中で最強のウマ娘だった。

彼女と歩んだ一年間は夢のようだった。俺みたいなポンコツ新人トレーナーが宝塚記念を優勝することができるなんて信じられなかった。一生優勝なんかできないもんだと思ってた。

そして夢から醒めた今現実に、いや悪夢に引き摺り込まれてしまった。

あの時は夢でないことを確認するために頰をつねっていたが今の俺はこれが夢であることを祈って頬をつねった。残念、現実だ。

目の前のウマ娘は、おそらく二度と走れない。歩くことさえままならない。もし彼女が俺にこれからの生き方を質問されても俺は何も答えることができない。俺は無力だ。

 

「トレーナーさん…」

 

そんなことを考えていると急にスズカに話しかけられた。起きてたのか。

 

「トレーナーさん」

 

 

呆然としている俺にスズカは少しだけ笑みを浮かべて話しかけてくる。

 

「居てくれたんですね。」

 

残念ながら俺はついさっき来たばかりだ。本当は昨日から行かなきゃいけなかった。こんなトレーナーで申し訳ない。

 

「そんな悲しい顔しないでください…悪いのは私です。」

 

「顔を見れば分かります。きっと申し訳ない、なんて思っているんでしょうけど悪いのは私です。全部私の責任。」

 

サイレンススズカは今度は悲しい顔で俺に話しかけてきた。彼女が誤解している部分は指摘することができなかった。

 

 

「本当ならあんなに飛ばさなくても一位はとれた。それでも、私は『向こう側』が見たかったんです。迷惑をかけたのは私の方、ごめんなさい。」

 

あのとき俺は何を言えば良かったのだろうか。再起不能の怪我をしているスズカに謝罪までさせて。俺は大したことを言えなかった。出た言葉は「気にしなくていいよ」の一言だけだった。

 

 

 

その後、たわいもない雑談を繰り返して気がつくと夕方になっていた。

病室を出て、トレセン学園に戻る。帰路に着く途中でコンビニに立ち寄ってコンビニ弁当と雑誌を買う。

 

棚にはいろんな種類の雑誌が置いてある。成人向け雑誌もあれば、パチンコの本だとかファッションの本などだ。そんななか俺は一つの雑誌に目を向けた。「月刊メー」という雑誌だ。オカルト系を取り扱うよくわからないジャンルの本だがその表紙に大きく記載されていた文字に目がいってしまった。 「これからはウマ娘ではなくソラ娘!?空飛ぶウマ娘誕生の噂!!!!」

 

(はは、ばかじゃねーのw)

 

あまりの酷さに呆れながらも酒を飲みながら読むには丁度いいと思い購入した。

 

 

 

 

 

 

その時はまだ知る由もなかった。

本当にそんな化け物がいたということを。

 

 

 

 

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