「うぅ…痛い…辛い…」
「笑止!甘ったれるな!」
俺は今、学園の地下のプールにいる。ウマ娘たちが使うような大きなプールとは違って、とても小さいプールだ。そこで俺は水中に潜ってエアロバイクを漕いでいる。どういうことかって?そのままの意味だよ。こんな拷問があるなんて思いもしなかった。
水中に潜って、息が続く限りエアロバイクを漕ぎ続ける。息が切れたら水面までいって息を吸ってまた水中に戻りエアロバイクを漕ぐ。これの繰り返し。下半身が痛いというのもあるけど何より呼吸が辛い。水中だからかペダルもとんでもなく重い。そして何よりそれが何回何十回と続くから絶望感がすごい。はぁ…これ、電気通ってそうだし感電したりしないの?知らんけど…
そもそもエアロバイクは有酸素運動のはずなのに何で水中でやらせているんだろう、効率が悪くないか?何の意味があるんだ?と思ったそこのあなた。これはお仕置き、いや拷問なのだ。俺はこの前のレースでウイニングライブをすっぽかした。とんでもないことなのは確かだが、過去の実例からして生徒会長に一晩中怒られるとか、そんなレベルの罰で終わると思っていた。しかし無理を言って出走させてもらったにも関わらずたった数度のレースでこんな大問題をやらかしてしまった自分に対しての理事長の怒りは凄まじいものがあり、このような恐ろしい拷問をさせられている。
「次30!早く漕ぎに行け!」
もうやだ…
5日間に渡るこの拷問が終わった頃には尻が岩の様になっていた。
最終日にはどこから話が広まったのか数十人のウマ娘達が怖いもの見たさに見物していた。
「見てみぃ!尻がたこ焼きみたいなっとるで!」
「たこ焼き!?美味しそうだな…」
「…マジで言ってるん?」
物騒な声が遠くから聞こえていた。
しかしとにかく恥ずかしかった。こんな意味の分からない拷問をされてるのも恥ずかしいが、エアロバイクを漕いでいる男こそウイニングライブをすっぽかしたあのトレーナーであると示されている状況が本当に恥ずかしかった。
最終日の夜は、一人布団にくるまりながら静かに泣いた。
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時刻は午前三時、起きるには少し早い時間だ。
しかし、昨日は歯磨きも風呂も入らずに寝たこともあり、虫歯菌の増殖と体臭を少しでも防ごうと浴室に向かう。
体中が痛い。
全身が痛いとはまさにこのことだろう。
風呂からあがり、歯磨きを終えた俺は朝刊の新聞を開いた。お目当てはウマ娘コーナーだ。
理事長の謝罪コメントから目をそらしながら各レースの結果を見ていると俺が昨日出たレースの結果が乗っていた。あれ…?一昨日か、まぁいい。
そんなことを思いながら記事を見ていると、「3着はキングヘイロー。」このワードが目についた。
俺の記憶ではこいつはかなり出遅れていたような覚えがある。こんなことを思いながら勝者以外のレース展開を思い浮かべるのが俺の日課だ。
一昨日のレース。芝生がトランポリンのように弾む感覚、あれが先頭の景色なのだろうか。
支離滅裂な考えかもしれないが、なんとなく納得できてしまう自分がいる。先頭でなければ気付かない。前や横、後ろにいるバ群を気にしながらの走りでは絶対に感じ取れないものが「それ」だとしたら、スズカも同じことをかつて感じていたのだろうか。
「…トレーナーなのに分からないなんてな。」
ウマ娘のことを一番わかってなきゃいけないトレーナーがようやく愛バの感情の一端を理解しかけている、そんな程度の低さに我ながら呆れてしまった。「いや、今更そんなこと気にしてちゃダメだ。」気持ちを切り替えるために俺はカレンダーに目をやった。カレンダーの下の方には「G1」とでかでかと書かれたレースがある。
目指すは3月の下旬、高松宮記念。
狙うはG1初勝利!
これを節目に一度スズカにいいところを見せてやらないとな!
気持ちが高ぶってきたところでなんとなくカーテンを開けてみた。空は暗いままだった。