今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
ハドラー一家は「仲良しなザビ家(一部例外有り)」って感じ。事故の件とか含めて
ーーー競技場内は、ブライアン達による競走に「充てられた」新入生達が走り続けた末、死屍累々の様相を晒していた。
幸い怪我した者はいないようだが、食堂での夕食会など、まだまだこの後も予定がある。
多くの新入生達がダウンして参加できない……という事態は避けねばならないところであった。
「あれだけ『皆がバテないよう注意して見ていてくれ』ってルドルフから言われてただろうさ!それを……!」
「すまん。」
「……はぁ、全く。皆を起こすよ。」
今は口論なんてしている場合じゃない…と、学園の施設『美浦寮』寮長を務めるヒシアマゾンが、新入生達に声掛けを始める。
「増援を連れてきたよ。」
「フジ…」「おお、流石だね。助かるよ。」
そこに、『美浦寮』および『栗東寮』寮内にいた者達を引き連れ、『栗東寮』寮長のフジキセキが現れる。
人員が増えたことで、新入生達への声掛けが順調に進んでいった。
「……これで、とりあえずは大丈夫そうだね。」
「二人とも、恩にきる。」
「お礼は協力してくれた皆に頼むよ。」
「……まあ、ルドルフもこうなることは予想していたみたいだからねえ。
ブライアン、あんたにゃ伝言を預かってるよ。」
「何だ?」
「『今日戦ったレースと相手について、後できちんと報告するように』だとさ。」
「……」
「私の方からも言伝が。『協力してくれた寮の皆へのお礼は、生徒会の経費からは出さん。にんじんジュースで勘弁してやる』ってさ。」
「 」
固まるブライアンを見て、互いに笑みを浮かべる寮長二人であった。
ーーー
「父上は?」
「テニスの勝負の後、そのまま武郞と共に空港へ向かわれました。」
「そうですか……」
着替えを済ませたところで、丁度競技場周辺に保護者とおぼしき集団がちらほらと現れ始めた。
シグマは家族の姿を見つけ、合流する。
「しかし、本当にすげえ戦いだったぜ。親父以上に、俺の学校の阿万校長が……」
火丸が興奮冷めやらぬ様子で、試合の様子を語り始める。
ーーー
「……さあ、早く始めよう。オレには時間がない。」
テニスプレーヤーというよりもラガーマンにしか見えないような、隆々とした体格で、ハドラーがラケットを構える。
「いやー、折角の機会ですし、もっと楽しんでいきませんか?」
対するは、体格は平均よりも少し上程度……といった、眼鏡をかけた理知的な風体の男。中世音楽家のような髪型が、テニスプレーヤーとしては異彩を放っていた。
「いや、既に十分楽しそうですぞ。この方は。」
審判台……に座るには体が大きすぎる為、腕を組みながらネットの横に立つのは、カール学園の体育主任・黒子台(クロコダイ)先生。
「余計なことは言わずとも良い。」「ハッハッハ!これは失礼!」
ハドラーの一言にも陽気に笑って答える。
「……まあ、良い。それでは……いくぞ!」
ボールを高くトスし、サーブ。
次の瞬間、『火の球』が阿万に襲いかかった。
「ーーーふっ!」
それを、いとも簡単にレシーブする阿万。ボールの勢いに押される風でもなく、角度のついたボールを打ち返す。
数度のラリーを経て、阿万の打球が僅かに逸れ、アウトとなった。
「ありゃりゃ。やっちゃいましたね。」
「……運が無かったな。」
「ですが、次はこうはいきませんよ?」
「すげえ……親父の全力を、阿万校長、悉く打ち返してる……」
母親とは離れ、コートの近くで試合の様子を見守る火丸。
「まさしく『動と静の鬩ぎ合い』よ。」
「そうそう、そんな感じ……って、ドーベルさん!?」
「火丸君と同じく、私達も今日は入学生の父兄になるわけだからね。」
火丸の隣にいつの間にか陣取っていた、メジロドーベルとメジロライアン。
「それにしても……ハドラーさんの筋肉、本当に凄いね。憧れちゃうなあ。」
「いや、幾らライアンさんでも、あそこまでは……」
「ヒムちゃん、試合を見て。」
「あ、はい。」
「ハドラーさんの打球……生身で食らったら下手したら命に関わる程の威力。それを阿万先生がインパクトの瞬間、完全に殺しきっているわ。まるで『時が凍った』かのような……」
「そんな漫画みたいなことが……」
……目の前で現実離れしたラリーが行われていることに気付き、火丸は反論することができない。
「力と技の戦い。これはどちらが勝つか分からないわね。持久力含めて考えると、ハドラーさんの方が有利かも……」
「でも、本当に一進一退だね。」
「親父……」
……これは本当に『テニス』なのか?ドーベルさんは目を輝かせながら試合を見ているし……
明後日の自問自答を行う火丸であった。
と。
「ぬうんっ!」
ハドラーが放ったスマッシュが、阿万のかけていたスピンによって大きく逸れ……
「ぐわああああ!」
『く、黒子台先生ー!』
……打球が直撃した審判の悲鳴と、それを心配する観衆の悲鳴が同時にコートに響き渡った。
ーーーその後、勝負はデュースへと持ち込まれるも、本日6度目となる打球の直撃を受けた黒子台先生がダウン。
代わりの審判役も立候補者がおらず、結局引き分けに終わった。
「……なあ、テニスって、試合後にコートのあちこちに焦げ跡とかができるようなものだっけ?」
「というか、黒子台先生も、良くあれだけ審判続けられたわね……」
「カール学園の体育の先生達って、みんなあんな感じなの?」
「いや、流石にあの先生が特別……というかおかしいです。」
思い思いに試合の感想を口にしつつ、互いの家族や新入生の元へ向かう為、3人は別れた。
……なお、試合中にメジロの姉妹と同席し、談笑していた様が中継映像や動画を通じてすっぱ抜かれ、カール学園でその映像を見た生徒達から色々追及されることを……この時の火丸はまだ知らない。
ーーー
「シグマ、あなた宛にハドラー様から贈り物を預かっています。」
「む……」「こちらです。」
それは銀色の、綺麗な『盾』が型どられたブレスレット。
「『期待しているぞ。』とのことです。」
「……」
腕に付け、目を閉じる。
涙は浮かばない。
先程まで凌ぎを削った好敵手達、あるいは更なる相手との勝負に想いをよせ……
ふと、違和感に気付く。
……そういえば、競技場には先程まで新入生が集まって競走していた。
ならば、あの娘……『オミクロン』は?
記憶を辿るも、どうしても見かけたシーンを浮かべることができなかった。
シグマそっくりなウマ娘は、思い詰めた表情で歩いていたところを麻袋に入れられて拉致されました(予告)