今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
ーーーいやあ、あのモルモット君は、私が最初に出会った時から色々と『人智を超えている』、としか言えない存在でねえ。
私がトレセン学園から身を引こうとした時も……
「……お前がアグネスタキオンか。」
「何だい、キミは?トレーナーならば他を当たってくれないかな?」
「そういう訳にもいかん。何故、お前は『諦め』ようとする?」
「『走るのに興味が無くなった』という回答では、納得して貰えないかな?」
「……悪いが、お前とシンボリルドルフの走りを見てしまった。あれ程の走りを見せられて、お前の『興味が無い』という言葉を信じられるほど、俺は単純ではない。」
「……もしそうだったとして、キミに何ができるんだい?」
「お前が走ることを諦めないのであれば、俺はお前に何をされても構わん。例え命をくれ、と言われても、それに従うまでだ。」
「おいおい、流石にそんな物騒なことは……
……フフッ、そうだねえ……それでは明日、競技場に来てくれたまえ。少し試してみたいことができたよ。」
「分かった。」
ーーー
「……別に来てくれなくても構わなかったのだがね。ところで、そちらの方は一体?」
「俺の通っていたカール学園の『黒子台先生』だ。何かあった時には見届けて貰おうと思ってな。」
「君がアグネスタキオンさんか。今日はこいつ、『音坂 蹴』に頼まれてな。
事情は良く知らんのだが……何かやったのか?こいつが。」
「いえいえ。ちょっとこの人が私に、色々とお節介を焼いてきているところでして。」
「そうか……」
(飄々としているようで、目に生気がない……これは、狂気でもない、何かを達観している者の目か。)
黒子台が心の中でタキオンを評価する。
こういう者に声をかけたということは……
「……どうやら、阿万校長の教えはしっかりと守れておるようだな。」
「守れているかどうかは、これから起こることが証明してくれるさ。」
……あの札付きのやんちゃ坊主が、よくぞここまで……と、黒子台が感心する一方、タキオンがおもむろに懐から、試験管に入った液体を幾つも取り出す。
「音坂くん……というのか。それでは、改めてキミにこの場でお願いしたいことがある。
私は以前からヒトとウマ娘が持つ『可能性』というものに、少々興味があってねえ……もし私がこの先も走るのであれば、学園でこういう研究も続けていこうと思っている。
さしあたっては、まずこの中の1本を…… えっ?」
タキオンが持っている試験管に全てを奪い取り、
「お、おい音坂!?」「え、えーっ!?」
何の躊躇いもなく、全てを一度に飲み込む。
それを見て驚愕する黒子台とタキオン。
そして……
「ぐ、ぐあああああ!?」
突然胸を抑えて苦しみ出す音坂。
「タキオン!お前、こうなることが分かっていて、こいつに……!」
「い、いや、待ってくれ!少なくとも苦しみ出すような効果は生まれない筈だ!そもそもあれを一辺に飲んでくれだなんて一言も……
……えっ?」
「な、何が起こっているのだこれは?」
突如音坂の体が明るく光ったかと思えば、反対にまるで闇に覆われたかのように暗く染まって……を繰り返し、その間も苦しみ続ける音坂。
「ま、まさかこれは……こいつの中の『光と闇』が戦っているとでもいうのか!?」
「え、何だいそれ」
黒子台の推測に理解が追い付かず、素の反応を見せるタキオン。
「さっきも言った通り、こいつも昔は色々とやんちゃしていてな……それが我が学園の阿万先生と出会ってから変わっていったんだ。こいつの体内から発せられる闇は、あの頃から残っていたこいつの心の闇なのかもしれん。」
「ああ、そうかなるほど」
無表情で返答するタキオンを尻目に、黒子台が音坂に叫んだ。
「音坂!オレはお前を信じている!例えこの身をお前に裂かれ、最後の一片になったとしても、お前を信じ抜くぞ!
だから戦え!悪い心と戦うのだっ!」
「……流石にそんな物騒な……いや、それにしても綺麗だねえ……」
オセロのように白と黒の発光を繰り返し続け、最後に……
「ぐおおおおおっ!」
一際大きく叫んで、倒れ込む音坂。
まるで死んだように動かない……
「……い、いや、待ってくれよキミ!私は決してそんなつもりじゃ……!」
駆け寄るタキオン。
そこに、足首をガシリ、と掴まれる。
「……俺はお前との約束を果たした。今度はお前が俺との約束を守る番だぞ……。」
「き、キミ……」
「音坂!やはり生きていたか!」
身体中から光を放ちながらタキオンに語りかける音坂と、狼狽えるタキオン。
当然だという様子の黒子台。
「俺はお前の為ならば、この身が砕けようとも構わん。
だから、お前も決して諦めようとしないでくれ……俺の、いや、俺達や学園の為に!」
「う、うぁ……」
「音坂……お前って奴は、本当に……」
真っ直ぐに宣言され、顔を赤くしながら返答に窮するタキオンと、教師としての目線から胸を熱くする黒子台。
暫くそんな光景が続いていた。
「……立てるかい?」「ああ、大丈夫だ。」
「……なら、さっさと行くぞ!」
「何処にだ?」
「……決まっているだろう!私とキミとのトレーナー契約を行いに、だ!」
音坂の手を引いて、早足になるタキオンと、それに従う音坂。
「タキオン君、音坂のことを頼むぞ。」
「……ああ、分かったよ。フン……こいつは随分と良い実験台が手に入ったものだ。」
「……しかし、さっきのあの薬、本来の効果はどういうものだったのだ?」
「いや、少しばかり筋肉の潜在能力を引き出す筈だったのだが……」
と、目の前の教師の図体に興味が湧いたタキオン。
「……黒子台先生、差し支えなければ、ひとつこの薬を飲んでみてほしいのだが。」
「大丈夫なのか?」
「1本ずついけば問題ないようには作っている。今回の見物料と思って、ぜひ。」
「ふーむ。」
タキオンから試験管を受け取り、物は試しと液体を口にした。
……それは、効果云々以前に、あまりにも苦く……
「ぐあああああ!」「く、黒子台先生ー!」
……口を抑えて転げながら悶絶する大男がいた。
ーーー
……本当に、何処までも無茶をするモルモット君さ、彼は。
人間であるかどうか、時折疑わしく思うことも多いね。
私が有馬を走ったときも……
ーーー
『さあ、最終コーナーを回って、先行するのはアグネスタキオン!しかし、後方の集団からマンハッタンカフェが飛び出してきている!
おーっと、これは!?マンハッタンカフェ、アグネスタキオンを捉えようかというところで、突然その勢いが止まる!
そして、観客席でトラブルか!?誰かが苦しんでいるようだが!?』
ーーー
……カフェ君が言うには、『あの子が私をどうしても勝たせたいと思うあまり、【墜ちそうになった】のを、あの音坂というトレーナーが【その身を犠牲にして、墜ちるのを救ってくれた】』らしいねえ。
……まったく、冗談はあの鈍感っぷりだけにしてほしいものだよ、本当にね。
モルモット君ときたら、私だけでは飽き足らず、他にも犠牲者を増やすんだからねえ……
さて、モルモット君についての話ならば、そうだねえ……確か私の次に『ポルックス』に入ったのは、タイシン……ナリタタイシン君じゃなかったかな?
ヒュン→擬音→音→音坂
ケル→蹴る→蹴
ノヴァの役割について「みなみとますおと『きた』」で思いついてしまったので、多分そっちよりはマシ