今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
というか今回自重せずに書いたら過去最長どころか普段の倍の量に……
ーーーアイツの話?あの『お節介焼きの鉄仮面』……できれば、手短に済ませたいんだけれど。
思い出すだけでムカムカしてくることばっかりなのよ。
「……焦ってるのか。」
「……何よ、アンタは。」
「そんな走りでは、幾ら練習しても意味がない。自分を追い込むのは、勝てる奴だけがやるべきことだ。」
「……っ!アンタに何が分かる!」
夕暮れのグラウンド。
模擬レースでも選抜レースでも勝つことができず、それでも自分を信じてトレーニングに取り組んでいたアタシ。
体躯の小ささ、そして何よりも『結果』……アタシに声を掛ける、物好きのようなトレーナーはいなかった……筈だった。
「お前のその目、何よりも『気迫』……あまりに見ていて不憫でな。
……まずは今言ったように、正しいトレーニングに取り組め。見るからにオーバーワークで走りが滅茶苦茶だ。
ゆっくり休んで、明日万全の状態でここに来てくれ。……お前が俺を、信じてくれるなら……な。」
「……」
第一印象は最悪。いきなり人の心にズカズカ踏み込んでくるようなことを遠慮もなくペラペラと……
顔?あんなこと言われたら、どれだけカッコ良くてもそれどころじゃないっての。
それでも、何も分からずもがいていたアタシに降りてきた『チャンス』……駄目元で、信じてみようと思った。
「もっと自分の良さを理解しろ。自分に合ったフォームや走り方が必ず見つかる筈だ。」
「……あ、アンタ……さっきから何度もアタシと並走しているけれど、大丈夫なの?」
「お前がまだまだ俺でも並走できるような走りしかできていない、ということだ。」
「……っ!この……」
「怒りは俺でなく自分自身に向けろ。……徐々に何かが掴めてきているんじゃないのか?」
「……っ」
基本となるフォーム、状況に応じた走り方。アイツが並走してくれたから、何となくだけれど『ただ走る』のではなく『競争する』ということが分かってきた。
それが暫く続いて……
……そして、本当に『ふとした瞬間』。
自分の身体の色々なピースが、まるで全て繋がったような感覚と……
「……!え、え……!?何よ、これ……!」
自分が、まるで『矢』になったような感覚。
「振り返るな!自分の走りに集中しろ!」
咄嗟のアイツの声も、あっという間に離れていって……
「……もう並走はできないな。」
息を切らせながら追い付いてきたアイツが私に言う。
「色々と嫌な思いをさせてきたのは悪かった。だが、それに見合うものを掴めた筈……」「……は?」
……『悪かった』、ですって……?
「アンタ、アタシにこれだけお節介焼いておいて、ここで何処かに逃げよう、とか思ってたりしないでしょうね……」
「……」
アタシが睨むと、仏頂面で目を合わせてきた。
コイツ……アタシと違って、色々『持っている』奴だ。並みの女子なら簡単に惚れてしまいそうな、『理想のイケメン』みたいな……
でも、だからこそアタシは……
「アタシと契約しろ!アンタみたいな連中をみんなやっつけて、アンタにも吠え面かかせてやる!覚悟しておけ!」
「……面白そうだ。期待しているぞ。」
あの時のニヒルな笑い……今思い出しても腹が立つ!
ーーー
トレーニングは正直、楽しかった。
自分がどんどん速く、強くなっていくのが分かった。
デビュー戦での「あの小さい体で……」という声を、後ろから相手をぶち抜いて黙らせたのは、本当に楽しかった。
皐月賞。
獲った時は本当に嬉しくて。思わずアイツに抱きついてしまった。
そしたらアイツ、何て言ったと思う?
「良くやったな……お前にしては。」
ム・カ・つ・く!
今思い出すだけで、ほんっとーにムカつく!
それだけじゃない!後で新聞で見せられた、アイツの顔……!
アタシから見えない角度で、嬉しそうに笑ってやがった!
何よアレ!ツンデレって奴なの!?
……何よ、急に笑いだして。何かおかしいことでもあった?
とにかく、そんなこともあったけれど、G1で勝ったことで、やっぱりみんなからの注目やマークも増えていくわけよ。
そうすると、そういう奴らってやっぱりアタシよりも体も大きくて、才能もある奴ばかりで……
「……アタシを笑う?」
「……笑ったところで、何かが変わるのか?」
オーバーワークで運ばれた病室。
アイツの仏頂面を見て、正直安心してしまった。
「……アタシ、これからどうしよう。このまま走れなくなったりでもしたら……」
「……今でも、周りが憎いか?タイシン。」
虚を突かれた気がした。アタシの力の源は……
「……憎むのは、せいぜい自分位。だって、みんな応援してくれるし、勝っても負けても喜んでくれるから……憎むなんて、できなくなっちゃったよ。」
「なら……『信じて』やれ。周りも、お前自身も。」
「……!!!」
そうだ。どれだけ結果を残して、周りが変わっても……アタシ自身が変わらないまま、……ずっとひねくれたままだったんだ……
「……憎むのは俺だけで良い。今は、思いっきり泣け……」
「ふぇ?」
「特別だ、胸は貸してやる。」
「……ぅ、うう、うわああああああ!」
……アイツには、正直本当に感謝している。
けれど、あれだけの醜態を晒してしまった以上、絶対にアイツの素顔もさらけ出してやる。
その為にも、出るレースは絶対に勝ってみせる……!
……そう、心に誓った矢先のことだった、あれは。
ーーー
「……何でアンタがいんのよ。」
「今日は客だ。お前の花屋の、な。」
「全く、何の用よ……」
「俺が通っていた『カール学園』で、式典が行われるんだ。その為の花束を注文したい。」
「ふーん……アンタにも律儀なところがあるのね。」
「ふん……」
お母さんがアイツのことを知っていたみたいで、豪華なものを見繕ったことに少し呆れながらも、花束を渡そうとした時だった。
「……っ!泥棒!」
突然横から現れた男が、花束を奪い取って走り出す。
トレーナーが咄嗟に反応できない傍ら、アタシはウマ娘としての能力を活かして泥棒に追い付き、加減しながらタックルを仕掛けた。
「下らないことしてんじゃないわよ。今回は見逃すわ。」
そう言って花束を取り返し、背中を向けた……
……これが不味かった。
ウマ娘とはいえ、小さな小娘にしてやられたことに逆上したのだろう。
泥棒が叫び声を上げながら、懐からナイフを取り出し、アタシに突進してーーー
ドンッ
「……っ!……あ、あれ……?」
衝撃はアタシには起こらなかった。
目を開けて、振り向くと……
「……ぐっ……!!」
「……お、音坂!?」
……アイツが私を庇っていた。
泥棒は、自分の仕出かしたことを理解したのか、そのまま這いつくばるように逃げていく。
「……無事か、タイシン……」
「……な、何してんのよ、アンタは!」
音坂の腹部に突き立てられたナイフ。
「す、すぐに手当てして、救急車を……!」
「……悪いが、その前に……花束は無事か?」
「そんなこと気にしている場合じゃないでしょ!!」
花束は無事だった。音坂はそれを手にして……
「式場に行くのが先だ。」
「アンタ、正気!?このままじゃ、アンタ死んじゃうでしょうが!」
「……心配ない。俺を変えてくれた学園の式典だ。それを祝福できないことは……俺にはできん。
それに……俺は死なんさ。まだまだお前との契約期間も残っているからな……」
「……っ……このバカ!」
アタシには、コイツを式場に連れていくことしかできなかった……
ーーー
「音坂くーん!今日はありがとー!」
「ベンチに座ったままだけれど、大丈夫かな?」
「シャイなあいつのことだ、照れくさいんですよ。」
カール学園の皆が、音坂を笑って出迎えた。
音坂も、アタシには普段見せないような笑顔でそれに応じていた。
写真撮影も終わったあと、ベンチで……
「空が……目に染みるな……」
「どうしたのよ、急に……。」
「俺達が、守っていく空だ……先生……タイシン……」
「……音坂?」
「どうしたんだ、音坂は……って、ぐわああああ!」
「く、黒子台先生ー!!」
音坂の様子が気になり、近づいた黒子台先生を、タイシンが蹴った。
不意打ちに悶絶する黒子台先生と、それを心配する周囲の物達。
「……静かにしてあげてよ……」
涙を流しながら呟くタイシン。
「今、こいつは、初めて安らかな気持ちで眠っているんだから……きっと、生まれて初めて、色んなことを忘れて、傷ついた心を癒しているんだから……
ねえ、音坂……」
「ナリタタイシン君、だな……。」
蹴られて悶絶していた黒子台先生が回復し、音坂の様子を見てタイシンに話し掛けた。
「……何?」
「……救急車を呼ぶべきではないか?幾らこいつでも、このままだと死ぬぞ。」
「……」
ーーー
……アイツは、二度と普通の生活には戻れない、と、診断された。
それなのに……アタシやみんなのレースは、いつも応援してくれる。
そんなアイツに報いて……いつか、心からの笑顔を引き出してやるんだ。
……ワタシの話はこれで終わり!もう良いでしょ!
これ以上アイツの話が聞きたければ、スズカさん……サイレンススズカさんに聞いてよね!
『実家が花屋』タイシンにこの設定さえなければ……!