今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
「あの『マヤノトップガン』、どこまで行けると思う?」
「そうですね……間違いなく持っているものは『天性』のもので間違いないでしょう。」
生徒会室。
ナリタブライアンは私用につき不在、この日はシンボリルドルフとエアグルーヴが二人で業務を行い、雑談の時間となっていた。
話題は、新たに『リギル』に加わった、マヤノトップガンについてである。
「他の入団希望者との選抜レースでは、駆け引きや仕掛けのタイミングなど、全てがずば抜けていました。そしてそれを支える……」
「速さや体力も一級品、か。将来的には『リギル』のエースになれる、とみて間違いなさそうだな。」
ただ……と、ルドルフが加える。
「あくまで他の連中が有象無象ならば、の話だな。……以前ブライアンが報告してくれた連中と比べた場合、どうなるか……」
「ええ。彼女が現在持つ能力は、あくまで天性の素質ですし、それが果たして他の者達に通用するのか、あるいはレースを重ねていく中で、どのように変化していくのか……」
「確かおハナさんと『スピカ』のトレーナーは旧知の仲だったな?メジロマックイーン辺りとは、デビュー前に競わせてみたいところだが……」
「メジロの令嬢は、入学時から天皇賞の勝利を目的としていましたね……ならば、あの娘がゆくゆくは大きな障害になるかもしれませんね。」
「いずれにせよ、G1で勝利を目指すのであれば、中途半端なレベルでは公言することも憚られるだろう。彼女の覚悟と意志、手並拝見といったところだな。」
コンコン
ふと、扉がノックされる。
「どうぞ。」「たのもーっ!」
と、元気良く入ってきたのは、青い髪にオッドアイが特徴的な、小柄な少女。
「君は……ツインターボ君、で合っているかな?」
「そのとーり!今日はターボが率いる『チーム・レグルス』の結成について報告に来ました!」
「……?」
ツインターボについては、特徴的な外見とブライアンからの報告もあり、二人とも『ああ、この娘は……』と理解する。
一方で、何故この娘が一人で、チームの結成の報告……?と、疑問符を浮かべる。
……と。
「失礼する!ターボ君、順を追って説明しなければ、シンボリルドルフさん達にきちんと伝わらないぞ!」
小柄な童顔の男性が1人、送れて生徒会室に入ってくる。
「改めて自己紹介させていただく!ボクはカール学園よりトレーナーとして赴任した『子岸 中』!本日より、チーム『レグルス』を結成する報告に伺わせていただいた!」
「「……」」
……ルドルフとエアグルーヴは、何となくこの二人がやりたいことについて理解できた。そして、その根本的な問題点について、説明を試みようとした、次の瞬間……
「はーーーっはっはっはっは!真打ちたる王者というものは、遅れて現れるのが世の真理!
ただ今よりチーム『レグルス』の栄光は、この『世紀末覇王』テイエムオペラオーと、その円卓を囲みし素晴らしき英雄達によって永遠に約束されたものとなる!」
「「……」」
ああ、なるほど……と、色々と二人が察するのを尻目に、寸劇が始まる。
「むっ!?何ということだトレーナー君!このボクが満を持して現れたというのに、二人の顔から輝きが失われているではないか!
この覇王の君臨する世界において、そのようなことが許されて良いのだろうか!?
否!断じて否だ!トレーナー君!速やかにこの不吉な雷雲を振り払う、タンホイザーをも赦したウルバヌスの杖をこの場に用意しなければ!」
「案ずることはないぞ、オペラオー!」
「何っ!ま、まさかキミには、この四方を包囲されし窮地をも容易に打開できる、そんな策があるとでもいうのかね!?」
「任せてくれ!……二人とも、これを!」
「「これは……」」
子岸が取り出したのは、まごうことなき『にんじんキャンディー』であった。
「こんな時間まで皆の為に頑張ってくれているんだ、疲労だって溜まっているだろう!そこで、ぜひお二人にはこれを食べて、少しでも元気を取り戻してほしい!」
「おおっ!これは何という……何という盲点だっ!戦士達も、時には剣ではなく……スプーンを手にとって活力を得なければ、戦い続けることはできない!
そのような気遣い……やはりキミは覇王を支える存在として、必要不可欠なようだね!」
「あー!ターボもほしい!」
「大丈夫!ちゃんと二人の分もあるからね!」
「「わーい!」」
4人のウマ娘達がにんじんキャンディーを口にし、美味しさにほっこりする様と、それを見て得意そうな子岸。
「……ごちそうさま。さて、改めて君達に伝えなければならないことがあるのだが……」
「む?」
キャンディーを舐め終えたルドルフが、訪問者達に伝える。
「……チームの設立のような手続きは、ここではなくて『事務部』の管轄になるのだが……」
「「…… あっ」」
子岸とオペラオーが、ルドルフの指摘に我に返る。
「……なんという……なんということだ……この覇王ともあろう者が、夜明けすら訪れる前の静寂の中、決闘の地を間違えるなどという、あってはならぬ失態を……」
「いや……君達は悪くない……完全にボクのミスだ……」
(……うむ、今回のミスは貴様が悪いな。このたわけが)
責任者が手続きの申請先を間違えたら駄目だろうが。
エアグルーヴは、子岸の発言に心の中で同調していた。
ーーー
「……あの子岸という奴は、アンタレスに所属している奴とは別のトレーナーなのだな?」
「はい。……あれが阿万校長のお墨付きだとは、正直思いたくありませんし……」
「ただ、キャンディーの差し入れなどは……正直有り難かったのも事実、かな?」
「そこは、流石にカール学園出身の者、と思うべきなのかもしれませんね……」
キャンディーのお礼代わりに、シンボリルドルフが事務部に連絡をとってみたところ、今からでも伺って大丈夫、とのこと。
3人揃ってお礼を述べた後、『今度こそ伝説の始まりだー!』と、笑いながら去っていった。
シンボリルドルフとエアグルーヴが、揃って溜め息をつく。
「……それにしても、『年間無敗』を公言するとは……肝が座っているのか、無謀の極みなのか……」
「ただ、オペラオーの実力……無謀、と言い切れないのも事実でしょう。」
「……幾らオペラオーが優れたウマ娘だとしても、年間無敗など達成できるものなのか……」
「現在彼女はクラシック級ですし、途中まではクラシック三冠を達成するなど、難しいことは事実ですが不可能とまでは言えませんね。
現に会長、あなたが達成しているではありませんか。」
「そういえばそうだね。……となると、後半、シニア級と混合で行われるレースが、上手いこと『うんめえ』に係わってくるかもしれないね。」
「……」
「……さらっと流して貰えるかな?」
「……畏まりました……」
……今日はもうマジで勘弁してください。
そう言いたげなエアグルーヴの目線に、流石に反省するルドルフ。
「勝ち続ければ、そのシニア級の相手も、クラシック級の相手も、彼女を止めようと一致団結してでも襲いかかるはずだ。それを果たしてどのようにはね除けるだろうか……」
「『奇跡』、でも起こらなければ、正直不可能に近いかもしれませんね。」
「そうか、『奇跡』、か……」
「……」
ふと、揃って同じ想像をしていたことを、二人は理解していた。
こういう話に飛び付きそうな者が、学園内で要職を務める者の中に存在する……その事実について。
「……おハナさんに相談しておくか?」
「いや、『彼女』の場合、万が一の際にはきちんと自分の意志を告げるでしょうし、その辺りは我々が介入する必要はないかもしれません。」
「ただ、ああ見えて彼女は、結構悪戯やドッキリのような行為が好きだから……」
「……オペラオーのことも前々から気にかけていましたからね……」
数日後にはひょっとしたら『レグルス』の一員になっているかもしれない1人のウマ娘を想像し、二人は揃って本日何度目になるのか分からない溜め息を吐いていた。
個人的に師匠に踊ってほしいMJの曲は断トツで『They don't care about us』。
何気にえっぐい歌詞の下で無邪気に天真爛漫に踊ってほしい