今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
「進学にあたって、シグマ。あなたに1つだけ私から命令があります。」
「命令……ですか?」
やる気を見せている双子に、母が一見変わらない抑揚で言葉を続ける。
「ええ。これだけは今から伝えておかなければなりません。」
「まだ入学も決まってないんだぜ?そんなに大事なことなのか?」
弟の疑問に、要領を得ない様子の姉。
「……『ユニフォーム』を寮に持ち込んではなりません。」
ぴしり。
部屋の空気に亀裂が入った音が、火丸には聞こえた気がした。
横を見れば、一見無表情に見えるが、内面では明らかに思考を停止している様子のシグマがいた。
それを見ながら、あー、そりゃそうだよな……と納得する火丸。
母の言う『ユニフォーム』は、シグマ本人が走るレースのものではない、シグマの趣味である『野球』のユニフォームを指す。
「……り、理由を聞いてもよろしいでしょうか?母上。」
ようやくフリーズから解け、疑問を口にするシグマ。
平常心を保とうとしているようだが、明らかに声は上ずり、うっすらと汗さえかき始めている。
先のマックイーンとの会話においても、学園で過ごす際の楽しみとして、余暇は二人で好きなだけ野球を満喫することを夢想していたのだった。
それを見透かされたかのような母からの一撃。冷静であるシグマが蠟梅するのも、無理はなかった。
「……その様子、あなた自身が誰よりも理由を分かっているのではないですか?」
「(……オレ、しばらく黙ってよ。)」
変わらぬ口調で続ける有美。その容赦の無さに内心震え上がる火丸。
「別に、応援や観戦を止めろと言っているのではありません。
『持ち込んではなりません』と伝えたのは、こちらに戻った時などの余暇で、ユニフォームを着て応援に行くのは自由だと言うことです。」
「よ、良かった……。」
考えがまとまらない様子のシグマに、全面禁止ではないということをフォロー気味に告げる有美。
それを理解し、あからさまに安心した様子のシグマを見て、更に続ける。
「ですが、学園での生活となれば話は別です。
あなただけならばまだしも、マックイーンさんとあなたを私たちの目が届かない空間で自由にさせるわけにはいきません。」
「あー……うん。」
『私たち』には自分も含まれることを理解し、無意識に相槌を打つ火丸。
メジロ家の室内などであれば、二人が野球観戦の中で『暴走』した時でも止めるのは容易だが、学園では関係者が不在である以上に、無関係である第三者を巻き込む可能性がある。
万が一学園、あるいは球場のどこかで『メジロとキサラギの令嬢が目を血走らせながら大声でシャウト』だの『ヒートアップした二人が周囲を巻き込んで取っ組み合いの大喧嘩』だのを頻繁に目撃されていては、両家の評判にどのような影響を与えるか、想像に難くない。
「自分の立場を改めて理解しなさい。まずは成すべきことを成すのです。」
「……承知しました。」
納得はしきれていないが、理解はできたという様子で返事をする姉の様子を見て、大きく息をつく弟であった。
元ネタでは皆無の日常・コミカルな側面を作れないか考えたら、マックイーンの友達→やきう仲間というネタが浮かんで頭から離れなくなった