今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
『ダイの大冒険』のキャラについては、名前を現代風にアレンジしています。
今回の該当者はこちら。
・子岸 中←チウ
ライブラ杯に本気になりすぎて、そもそもゲーム始めたきっかけを暫くすっかり忘れてました。サーセン
ーーー負けることが怖くなる者がいる。
一方で、勝つことが怖くなる者もいる。
ーーー
「失礼します。」
トレセン学園から少し離れた病院。
その病室を、子岸は訪れていた。
「お忙しい中、わざわざお越しいただきありがとうございます。」
「こちらこそ。まだ療養中だというのに……」
子岸が対峙しているのは、オペラオーの前トレーナー。
フジキセキを通じてオペラオーに新たなトレーナーが見つかったと聞き、一度会いたい……と連絡してきたのである。
ーーー
「……それで、二人して危うく死にかけてしまいまして。」
「ははは、本当にあの娘らしい。」
自己紹介の後、オペラオーに関する雑談等で和やかな雰囲気が続いていた。
と、
「……そう。あの娘は、天才……いや、天才の中の天才。まさしく覇王……」
「……?」
前トレーナーの雰囲気が変わる。
「……私は……私は……そんなあの娘の才能を理解できた筈だった……だけど、私はその規格外の彼女が眩しすぎて……大きすぎて……!」
「だ、大丈夫ですか!?」
うわ言のように呟き、震え出すトレーナーに、子岸が慌てて声を掛ける。
「……ごめんなさい。ご迷惑かけて……」
「心配ないですよ。ここにはボクしかいませんし。もしものときは看護師さんを呼びましょう。」
「……はい。」
前トレーナーは『精神を患っての入院』とフジキセキから聞いていた。そして、週末の皐月賞に向けて、どうしても話がしたいということであった。
相手が落ち着きを保てるよう、笑顔で穏やかに子岸は話しかける。
「ボクで良ければ、何でも仰ってください。」
「……あなたは、イップスをご存じですか?」
「あ、はい……ある1つの失敗が強烈に無意識として残って、拒絶反応を起こすようになる……といったところでしょうか?」
「ええ。スポーツだと良く聞く話です。学園でも、時々勝てないことで健康なのに走れなくなってしまうウマ娘がいるみたいで……」
「そのイップスが、一体どうしたのです?」
「……私は、強烈な成功経験によって、トレーナーとしての仕事ができなくなってしまったようなのです。」
「え……」
失敗ではなく成功でイップスを発症した……と目の前の相手に告げられ、驚きを隠せない子岸。
「……初のウマ娘との契約、そしてトゥインクル・シリーズへの挑戦。オペラオーはデビューから圧勝を続け、私もトレーニングメニューを考えながら、彼女の指導を行うのに必死でした。」
「オペラオーが一人の時に行ってきたメニューは……」
「あの娘の並外れた才能を引き出すこと、それ以上に普通のメニューではオペラオーはもて余しうる。そう思い、彼女と一緒に考えたものです。」
トレーナーが続ける。
「……そして、ホープフルステークス……初めてのG1。2位に大差での圧勝。……怖くなってしまったんです。心の底から。」
「『怖い』……」
「はい。この先、ジュニア級からクラシック、シニアと続いていく道のり。そこで私が……私が原因で、あの娘を負けさせてしまったら……いや、そもそもあの娘の勝利に、私の力なんて……」
「それはない!」
『必要ない』、その言葉を子岸が遮る。
「オペラオーの才能はチーム『リギル』でさえ認めていたと聞いています。ですが、オペラオーに明確な目標を定めさせ、やる気にさせたのは紛れもなくあなたの指導と努力あってのものです!オペラオーが今、こうして大きな挑戦に挑もうとしているのは、あなたのおかげです!」
胸を張って告げる子岸。
しばらくの沈黙の後、トレーナーが口を開いた。
「……あなたは、彼女と一緒に『この1年間を無敗で駆け抜ける』と宣言したそうですね。それが……どれだけ重い宣言であるか、分かってますか?」
「勿論です!二人三脚でトップを走り続ける!それがボクとオペラオーの進むべき道ですから!」
目を真っ直ぐ見つめ、子岸が答えた。
その様子を見て、トレーナーが微笑み……涙を流し始めた。
「……どうか、オペラオーを……お願いします。
私には……あの娘と一緒に並び立つことが、できなかった……怖さと重圧に、耐えられなかった……」
「そんなことはないですよ!」
「……?」
「今でもそれだけ彼女のことを考え、思いやっているあなたは、オペラオーに並び立とうとずっと頑張っているじゃないですか!」
「……」
「オペラオーが信じたあなただ!ボクだって信じますよ!会ったばかりで恐縮ですけど!」
「……オペラオーが、あなたを選んだ理由、私にも何だか分かった気がします……」
涙を流しながら、穏やかにトレーナーが告げる。
「どうか今度の『皐月賞』、そしてその先のクラシック三冠……あの娘にこの先も、勝利をもたらしてあげてください。」
「勿論です!」
「……今回お呼びしたのは、あなたに皐月賞でオペラオーが勝つための方法をお伝えする為です。あなたが信頼できる相手であれば託そうと思っていました……」
「え……」
「おそらくグラウンドで指示を出すことは、この先ずっとできないままかもしれない。それでもあの娘の為に、私が考え抜いた作戦……どうかこちらのノートをお持ちください。」
「……ありがとうございます。ですが……」
「『ただ勝つ』だけならば、あの娘には難しくはないでしょう。」
子岸の疑問を見越して、トレーナーは話を続ける。
「ですが、オペラオーにとっては……そして、皐月賞だからこそ『ただ勝つ』だけでは駄目です。覇王らしく勝つこと、それをどうすれば実践できるか……」
曲がりなりにも一度はオペラオーの傍らに並び立った者。
それを理解しながら、子岸はトレーナーの話に耳を傾けた。
前書きのキャラ名前アレンジ一覧は今後テンプレにしていく予定。