今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
『ダイの大冒険』のキャラについては、名前を現代風にアレンジしています。
今回の該当者はこちら。
・大円 世良←ポップ
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「メディカルチェックはどっちも大丈夫のようだな。」
練習を終えたチーム『シリウス』。
北原が、皐月賞を走った二人ークレイジーロデオとホットスフィアーに告げる。
「ロデオは……まあ、向こうからも言ってくるだろうが、ダービーに出走で決まりだな。」
「はい。」
「さて、スフィアだが……」
皐月賞では入着を果たしたロデオに対し、9着と沈んだスフィア。
順当にいけば、共にダービー挑戦……という流れだったが、こういう結果では話が変わってくる。
北原の方でも、彼女にどうやってこの先のあり方を受け入れさせるべきか……慎重に告げるべき言葉を考える。
「……そもそも、無理に走る必要もないんだがな……」
弥生賞、皐月賞ときて、更にダービー。
1ヶ月程度のインターバルで、3度も本気で走るレースに出場を続けることは、想像以上にウマ娘達に負担を強いることになる。
「……走るなと言ってるわけじゃねえ。だが、やはり今の段階から無闇にレースに参加する必要は無い、ってことだ。」
「ですが……」
ホットスフィアの納得しきれていない様子に、現状における一番の懸念を投げかける。
「何より……お前の場合、『心へのダメージ』が残ってるだろ?」
「……っ」
先の皐月賞。
彼女は背後からのプレッシャーを意識するあまり、走りを大きく崩した。本番の舞台で得意の逃げを披露できず、実力を発揮しきれずに負けたのだ。
この事実、そしてダメージを、どのようにして払拭するか……
北原は考える。
と、スフィアが口を開く。
「……目黒杯に出たいです。」
「何……?」
「今回の借り……ダービーでは無理だけど、菊花賞で絶対に返したいから……」
「……なるほど。」
自分の走りを取り戻し、且つ長距離に挑んで、先に菊花賞への足掛かりを掴んでおきたい、ってわけか。
あまり『これ』は言いたくないんだがな……北原が口を開く。
「……ハッキリ言っておく。オペラオーは、怪物だ。オグリのような、な。」
「!」
「多分、ジュニア級の内は、あいつに勝つのは難しいだろう。」
オグリキャップと共に歩んだ、北原本人からの言葉。
『残酷な事実』となって、重くウマ娘にのし掛かる。
少しの沈黙の後、だがな……と北原は語り出す。
「俺としては、『怪物?そんな連中ウチの奴らがやっつけてやるぜ!』って方が本音でもあるわけよ。」
「チーフトレーナー……」
「まずは、お前の言う通り目黒杯で結果を出してみろ。但し、決して侮るんじゃねえぞ?
まずは相手だ、ダービーに出ない奴らにも実力のある連中は幾らでもいる。
何より目黒杯の『2500メートル』を舐めるなよ。」
「はい。」
「確かに距離そのものは、ダービーと比べたら100メートルしか違わねえ。だが、その100メートルが全然違うんだ。
G2とはいえ、長距離で本番を走れる機会は中々無いんだ。G1の気持ちでしっかり走って、勉強してこい。」
「はい!」
「……そうだな、折角なら『有馬記念』のつもりで走ってみろ。」
「良いですね……何だか燃えてきました。ロデオ!」
「何だ?」
「ダービーは任せた!私の分も、よろしくな!」
「ワタシはワタシの走りをするだけ……だが、その気持ち、確かに受け取ったぞ。」
「……」
(メイクデビューでさえ、9名のうち8名が負けるんだ。勝つ奴よりも負ける連中の方が圧倒的に多い世界。
だからこそ、レースに勝ったときよりも負けたときの方が大事なんだよ。その点、こいつらは大丈夫そうだな……)
さて、俺もできることをやらねえとな……と、気合いを入れ直し、北原は立ち上がった。
ーーー
「……何?そこに吊るされている物体は。」
「暫くそっとしておいてくださいな。」
チーム『スピカ』控え室の隅っこ。
ロープで縛られて『反省中』の張り紙を貼られた逆さ吊りの物体に、沖野が疑問を呈したところ、紅茶を飲みながらマックイーンが答えた。
「先日のレース、最終コーナーからの様子に関して、オミクロンさんにも『領域』が見えていた、とのことでしたので……」
ーーー
「『見えていた』ということは、あなたにも何らかのものが備わっている。そう考えて間違いないですわね。」
「うん……正直、あそこまで凄いものを見るとは思わなかったけど。」
「ご自身の『領域』がどのようなものかは、まだご存知ないということでよろしいかしら?」
「そう。
できれば私も、自分にどんな力があるのか知りたいんだよね……競技場で走っていても、全然そういう感覚に入れそうにないから。」
「ただ走るだけでは難しいでしょう。あれは競走の中、自らの気持ちを高めることで入ることのできるものでしょうから。」
何か良い方法は……と考える二人。
そこへ、
「おっ、何々?『ゾーンプレス』のやり方か?そりゃおめえ、まずは5人に分身してだなー!」
「……折角ですし、協力してもらおうかしら……」
「うん……」
ーーー
「オラオラァ!これがゴルシ様の必殺技だ!おそれおののけどよめけ6万の大観衆共!」
「それ実物のロープと錨じゃない!」
芦毛のウマ娘が鈍器をぶん回しながら、前を走るマックイーンとオミクロンをハイテンションで追いかけ回していた。
「逃げますわよ!」
「どこまで!?」
「そんなもん、アレですわ!」
「アレって何よ!」
「そらそうですわよ!」
「何言ってるのか全然分からないんだけど!」
「いっそのこと、ラッキーゾーンの向こう側でもよろしくてよ!」
「マックイーン!あなたもゴールドシップに隠れてるけれど大概よねえええ!」
ーーー
「……それ、何の成果があったの?」
「速さと根性を鍛えられた……のではないでしょうか。」
「あとは……反省文を考える賢さ?……どうして私達まで……」
沖野の問いに、ペンを動かしながら答えるマックイーンとオミクロン。
……競技場内で錨をぶん回しながら走り回るゴールドシップの様子は、早々に警備担当者へと通報の連絡がなされ、当事者の3人はエアグルーヴから説教の上、反省文の宿題を課せられることになった。
「アタシ、この状態だと反省文書けないからさー、沖野ー、代わりに書いてくれよー。」
「それじゃ反省文の意味無いだろうが……」
「じゃあ、今から信号送るからその通りに頼むぜー。ツーツーツー、トントントン、ツーツーツー、」
「SOSとか送る前にきちんと反省しろ。」
「そんなー。この神様仏様ゴルシ様ともあろうものが、こんな罠にハマって……」
「「「自業自得だ。」」」
「……次も頑張ろう。」
「どうしたの?ミリオン、入り口で。」
「チケゾー先輩……いえ、ウチのチームはどんな時もウチのチームだな、と。」
「なんだそりゃ?」
ーーー
「……あ、あの……アヤベさんのチームのトレーナーさん……ですよね?」
「……えーと、君は確か……『カノープス』の、メイショウドトウさん、で合ってる?」
「は、はいぃ~。知ってていただいて光栄ですぅ~」
競技場。
訪れていた大円に、間延びした口調で話し掛けたウマ娘がいた。
「アヤベさん……ってことは、彼女の友達?」
「え、えーと、アヤベさんはそうは思っていないかもしれませんが、私はそう思ってくれていると嬉しいな、なんて……」
「あはは。」
気弱そうな娘だな……と思いつつ、そんな娘がどうして自分に話し掛けてきたのか。大円はドトウからの次の言葉を待つ。
「あの、私が本日、あなたにお伝えしたいことは……」
「?」
「わ……」
「わ?」
「私もオペラオーさんに挑みますううう!!!」
「……へ?」
突然の宣言、それもベガではなく、オペラオーに対する。
呆気にとられる大円。
「……えーと、確認させてもらえるかな?」
「ふぇ?は、はいぃ!」
「次のダービー、ドトウさんは出走するの?」
「出ません!」
ずっこけそうになるのを我慢する。
「そ、それじゃあ、君がオペラオーに挑戦するのは……」
「今はまだ無理かもしれませんが、きっと一緒に走れるよう、頑張ってます!」
「あー、なるほど。つまり君が言いたいのは、『私もオペラオーさんに挑めるように頑張るから、アヤベさんも頑張って』ってことで合ってるかな?」
「その通りです!」
「……」
何だよそのドヤ顔は……と思いつつ、大円は続ける。
「あ、でもでも、頑張ってほしいのはアヤベさんだけじゃなくて、今度のダービーでオペラオーさんと走る皆さんと、そのトレーナーさんやチームの皆さんにも、ですので!」
「ああ、了解。ありがとう。」
「あ、それだけじゃなくて!」
……この娘、一度走り出したら止まらないタイプか。
当初とのテンションの違いに圧倒される大円。
「オペラオーさんの友達として、次のダービーではこの前みたいなことにはなってほしくなくて!」
「この前……皐月賞のこと?」
「はい!走り終えた時のオペラオーさんの顔、結果に満足していない時の顔でした!」
「……友達だから分かったのかな?」
「はい!……あ、でも、友達というのはひょっとしたら私の一方的な思い込みで、オペラオーさんの方は確かに友達と言ってくれたことはあっても、もしかしたらそう思っていないかもしれなくて……」
「大丈夫。」
「え?」
「俺達もオペラオーのことは知ってるから。彼女が君のことを友達と言ってくれたのであれば、間違いなく君は彼女の友達だ。」
「ほ、本当ですかぁ!?」
「うん、間違いないよ。」
「す、救いは……救いはあるんですね……!」
そんな大袈裟な……と大円は思うも、ドトウの満たされた顔があまりに純粋すぎた為、彼女がトリップから戻ってくるのを待つことにした。
「……ハッ!?あ、アヤベさんのトレーナーさん……」
「はい、アヤベさんのトレーナーっすよー。」
「あ、ええと、つまり私が言いたいことは!オペラオーさんの為にも!今度のダービーは最高の勝負になってほしくて!私も絶対にみんなに追い付いてみせますので!」
「……ありがとう。」
「す、すいません!何だか出過ぎた真似を!」
「大丈夫大丈夫。」
ーーー
(……友達にとっても、あのレースの様子はおかしいと心配に見えた……ってことだよな。)
ドトウが去った後。先程までの会話を思い返す大円。
(あれだけ親身になってくれるような友達を持つような娘が、悪人である筈がない。そんな者が、周囲に心配されるようなことをしでかしてしまったら……)
大円の頭の中で、『手がかりの欠片』が徐々に集まってくる。
(……見えてきたぞ!『勝ち筋』が!)
もうすぐ10万字に迫るというのに、主人公がメイクデビューすらしていないってどういうことなの……