今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中)   作:R主任

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【作品を読むにあたって】
『ダイの大冒険』のキャラについては、名前を現代風にアレンジしています。
今回の該当者はこちら。
・大円 世良←ポップ
・子岸 中←チウ
・音坂 蹴←ヒュンケル

アヤベさんの掘り下げという、今回一番大事なことをやるのを忘れていました


第42話:一等星の輝き~東京優駿⑤

……私には、一緒に産まれてくる筈だった妹がいた。

だけど……彼女は私と共に歩むことができなかった。

 

『ウマ娘』として産まれてきた意味。

私だけが何故、この世に生を受けられたのか。

何故私が残り、彼女はそうならなかったのか……

 

 

 

 

物心付いた時から、私の目標はただ1つ。

 

誰よりも速くなり、その姿を天国の妹に見せてあげること。

 

その為に、私は歩み続ける。

あの娘の分まで、たとえ一人でも……

 

ーーー

 

「こんな……はずじゃない。私は……誰よりも、速く……」

「……ステータス確認。マスター、明らかなオーバーワークによる能力低下と見られます。いかがしましょう?」

「チッ……」

 

……入学後も、我流のトレーニングと理論できっとどうにかなる、一人でもやっていける……そんな考えが通用するほど、トレセン学園は甘くはなかった。

コミュニケーションを積極的にとる方ではない性格と、焦りのような負の感情を隠そうともせず走り続ける私。

学園内には同じくらいか、それ以上の実力を持っていても未デビューの娘は幾らでもいる。

私に声をかけようとする、暇で物好きなトレーナーはいなかった。私の方で声かけを無視したり、拒絶していたのかもしれないけれど。

 

ある時、そんな私が参加した選抜レースの後、結果が出せずにいた私に、声をかけてきたのが「アンタレス」の黒沼トレーナーと、ミホノブルボンさんだった。

 

「毎年必ずいるな、こういう奴。生半可な才能を過信して、一人で全て解決しようとした結果、壊れちまうような奴がな。」

「……あなたに、何が分かるっていうのよ……!」

「分かるぜ?何よりも雄弁に語っているじゃねえか。『結果』がな。」

「くっ……!」

 

悔しさで、涙が溢れる。

 

「……何を焦ってやがる。選抜レースに出たってことは、まだデビューもする前なんだろ?そんな内からそこまで気張って、お前の身体以上に心が持たねえぞ?」

「私は、勝たなきゃいけない理由があるのよ……!絶対に……!」

「この学園にいるウマ娘なら、全員がそう思ってる筈だ。なあ、ブルボン?」

「……少々その仮説には、語弊があります。私が走る理由……それは、皆と共に全力で勝負を楽しむ為です。」

 

黒沼からの問いかけに、一瞬間を置いた後に答えるブルボン。

 

「鍛え上げたこの身でレースに挑む……その結果が常に最良のものになるとは限りません。ですが、互いに力を出し切った者同士でなければ、分かち合えないようなものも確かに存在します。」

 

……随分雄弁に語るじゃねえか。こいつなりに何か伝えたいことでもあるのか?

黒沼は考える。

 

「『皆と勝負を楽しむ』か。もう1つ聞くぞ?それ、何時から考えるようになった?」

「……過去のメモリーバンクと照合中……少々お待ちください。」

「……あー、無理に思い出さなくて良い。

質問を変える。お前がこいつ位の時期から考えてたか?それ。」

「いえ。ですが……この方のような『無意味に自らを追い込む』ような行為、当時は想定しませんでした。」

「……!」

「あー……」

 

……不味い。

俺よりもこいつにダメージ与えにかかってるだろ、これ。

藪蛇になりそうな状況を打開すべく、フォローに舵を切る黒沼。

 

「分かるか?ブルボンみたいな『先輩』にも、お前の姿はそう見えてんだ。

さっき伝えた身体以上に心が持たねえってのは、そういうことなんだよ。

きちんとした目標や、それを達成した喜びがあるから厳しい訓練ってのは耐えられるもんだ。」

「……」

「お前の場合、きちんとした目標無しで、闇雲に鍛えてる気になってるだけだろ。それを続けるとどうなるか、教えてやる。

デビュー前に壊れるか、運良くデビューできても速攻で壊れて引退だ。」

「……じゃあ、どうしろって言うのよ……!」

 

自分のやってきたことを正面から否定される。

それが何よりも辛くて、叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

「……マスター、この方のステータスを確認。マスターのような威圧感を持つ相手に正面から感情を露にする様相……『憤怒』、その中でもレベル『激おこ』状態に該当……」

「いきなり割り込んできて話の腰を折るんじゃねえ!」

「マスターの感情レベルも『激おこ』に該当……」

「お前は少し黙ってろ!」

 

……ブルボンさんの介入、そこからの良く分からないやり取りで、場の空気がおかしくなったのを感じた。

 

この人、『マスター』とか、無機質っぽい喋りとか、確かに学園内でも噂に聞く『サイボーグ』みたいに振る舞っているけれど……

ひょっとしてただの『天然』なのかしら?

 

「……悪い、何か調子狂っちまったな。で、何の話だったっけか?」

「……私に聞かれても困るんだけど……」

「おっと。」

 

一見強面の風貌をした相手が見せた、くだけた雰囲気に対し、アドマイヤベガが素の反応を見せる。

 

「今、こっちじゃ1つ分かったぞ。お前、無愛想だが素直なタイプだろ。」

「そういうことにしといてちょうだい……」

 

「どうだ?『アンタレス』でトレーニングしてみるか。

俺らの評判は聞いたことあるだろう?」

「『アンタレス』……」

 

非常に厳しいトレーニングを課す、という話は耳にしたことがある。そして、それについていけずに辞めてしまうウマ娘も少なくない、という話も。

 

その一方で、一緒にいるブルボンさんを見る。

現在もなおトゥインクル・シリーズの主役の1人を務める、紛れもなく一流のウマ娘。

 

 

 

 

「自分なりに自分を追い込むことには慣れてるんだろ?だがな、このまま闇雲に続けたところで、何も変わらんぞ?だったら、騙されたと思って俺らのところで1から鍛えてみろ。

……まあ、まずはチームの入団テストに受かって貰う必要があるんだがな。」

 

「……分かったわよ。騙されてみる。」

 

ーーー

 

トレーニングは確かに厳しかったけれど、それ以上に充実した時間を過ごすことができた。

メイクデビューでも1着をとり、上々のスタートをきることもできた。

 

昨日よりも速くなる自分。明日はきっと、それを更に上回る自分がいる。

それを想像するだけで気持ちが高ぶって……

 

ーーー

 

「止められなかった俺らにも責任はある。すまなかった。」

「……なんでトレーナーが謝るのよ。」

 

医療施設。

練習中に疲労骨折を起こした私に、トレーナーが頭を下げていた。

 

「ウマ娘の限界を見極められずに練習させ続けて怪我させたんだから、そりゃ間違いなくトレーナーの責任だろうが。」

「でも、勝手な真似をしたのは私の方で……」

 

 

 

 

「……状況を確認。『修羅場』に該当。」

「「全っ然違うから(な)。」」

 

黒沼とベガが揃ってブルボンに突っ込む。

 

「……そのリアクションも想定内。なので、続行に差し支えはありません。」

「それなら、そのあからさまに悲しそうな表情は止めてください。お願いだから。」

「ベガさんの特殊能力『世話焼き』発動。テンションが回復しました。」

「……分かっててやってるの?どっちなの?」

「……コイツなりの気遣いってことにしといてやれ……しかしお前、妙な奴に好かれやすいよな……」

「言わないでください。悲しくなるので……」

 

改めて思うところがあるのか、遠い目になるベガ。

 

「……まあ、不幸中の幸いなのか、キレイに折れてたようだな。これならば、クラシック級への参戦は間に合いそうだ。

……くれぐれも、焦るなよ?」

「分かってる。ここまできて、チャンスさえ掴めないのは流石に笑えないから。」

「チームのメンバーも、あなたのことを心配している。私も早く、又あなたと走りたいから……」

「……また焦らせるようなことを言うんじゃねえっての。」

 

……厳しくも、優しさのあるチームやトレーナー。

いつの間にか、『あの娘の為に一人でも頑張る』が、『あの娘やみんなの為にチームの一員として頑張る』に変わっていた。

 

ーーー

 

『アンタレス』の練習後、大円が黒沼に話しかける。

 

「師匠、アヤベさんの状態はどんな感じですか?」

「悪くはねえ。……だが、このままだと辛いな。」

「え?」

「練習相手、それも本番を想定した走りを任せられる奴が足りねえんだよ。」

「本番の想定 ……あ!」

「『仮想オペラオー』をこなせる奴がな。」

 

ブルボンもシグマも、得意な戦法は『逃げ』である。

『先行』あるいは『差し』の戦法で、且つ『オペラオーのような走り』を再現できる相手が、今の『アンタレス』には不在だった。

 

「何か方法は無いか?」

「あ、何なら子岸に連絡をとって……(ゴツン)ってえ!」

「本末転倒も良いところだろうが!次にアホな提案したら力込めっからな!」

「失礼しやした。……それなら……」

 

大円は考える。

オペラオーに匹敵するような実力のウマ娘の『当て』……

 

「……ちょっと時間くれますか?」

「あるにはある、って感じだな。だが、時間はほとんど無いようなもんだからな?そこだけは理解しておけよ。」

「っす。」

 

ーーー

 

黒沼の言った通り、大円にとって当ては『あるにはある』という状況だった。

 

その中で最も適していたのが……

 

 

 

 

(……頼みたくねえっ!!!)

 

……よりによって、大円にとって最も『借りを作りたくない相手』である。

 

 

 

 

(そもそも『アヤベさんを勝たせるから見てろ!』とか啖呵切っておいて、今から『助けてくださいお願いします!』なんて言えるわけねーだろ!何やってんだよあの時の俺!)

 

頭を抱えて葛藤する大円。

……そこへ。

 

 

 

 

ちょいちょい。

 

大円の背中に感覚が。

振り返ると、そこには。

 

 

 

 

「あ……あのね?お兄様が、『アイツも色々と苦労している頃合いだろう。困っているようであれば、力になってやってくれ』って……」

「ああああああチックショオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

……見透かされたかのような音坂の配慮に、様々な感情が入り交じった絶叫を披露する大円だった。




レースは次の次くらいかな(デジャヴ)
いやホンマサーセン
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