今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
『ダイの大冒険』のキャラについては、名前を現代風にアレンジしています。
今回の該当者はこちら。
・如月 火丸←ヒム
・黒子台先生←クロコダイン
元々こういうノリなんです、ええ。
ダービーは何とか土日に前編だけでもアップしたいところ。
南つよしと岸本ますおと北野あらたの会話がそもそも膨らむのなんの
ーーー
5月下旬の日本優駿開催より遡ること約2週間前の日曜日。
カール学園の下宿寮において、1つのドラマが生まれていた。
ーーー
「……姉貴達さあ……わざわざ俺の所にまで押しかけて、テレビとか……どうなの?というか、練習とかは?」
「今日は完全休養日だ、全く問題ない。」
「ええ。私もオフの上、行き先はきちんと告げてまいりましたので。」
「……姉貴達の部屋での観戦じゃ駄目なん?」
「お前……そんなことをしたらどうなるのか位、分かっているのだろう?」
「寮の皆さまに迷惑がかかってしまうじゃありませんか、ヒムちゃん?」
「オレの迷惑は!?そもそもオレらの実家やメジロさんの家は!?」
「「母上(お母様)に怒られたらどうするんだ(ですの)?」」
「知らねえよそんな事!」
実姉とその親友の口から放たれる暴論の数々に頭を抱える火丸。
「……いいかヒム。今日の試合だけは、私とマックイーンが共にこの目で結果を見届けなければならないのだ。」
「その通りです。交流戦前の直接対決、今日が正に今後を占う天王山、といっても過言ではありませんのよ……」
「……あ、そういや首位攻防戦なんだっけ。アストロズの先発は……シンジか。」
ユタカが率いる『ビクトリーズ』と、シンジがエースを務める『アストロズ』。
3連戦の結果はここまで1勝1敗、今日勝った方が首位のまま交流戦に突入するという状況。
両チームのファンとしては、是が非にも今日の試合は勝ってほしい……というものであった。
「……マックイーン、帰るならば今のうちだぞ?我がアストロズの絶対的エースであるシンジが、輝かしくも無慈悲極まりない投球でビクトリーズを完璧に封じ込めてしまう未来が待っているのだからな?」
「あら、シグマさんにはどうやら幻覚がお見えになっているようですわね?今日の試合も華麗なるユタカの攻守にわたる大活躍で、ビクトリーズの勝利待ったなしですわよ?
そしてアストロズは毎年恒例の『星が輝く季節は早くも終了』という風物詩にその身をお委ねに……」
「……ビクトリーズこそ、この時期の躍進に伴い『Vですわ!』などと優勝を確信して勇み足をとるのが通例だったな?儚い夢に浸るのはさぞ気分が良いのだろうが、いかがかな?」
「……あ、でも結局去年って、ビクトリーズもアストロズも優勝逃してんじゃ……」
火丸の一言。
……それは、自らの命を省みない、あまりにも不用意なものであった。
「ここ学園の寮で俺の部屋!マックイーンさんストップ!『マックインフェルノ』は壁痛めるからダメ!
姉貴も壁蹴って『シグマドロップ』とかやろうとすんな!下手すりゃ壁破れるから!」
「いやですわヒムちゃん、私達がそんな野蛮な真似に興じるとでも?」
「全くだ。スポーツ観戦で取っ組み合いなど、そんな礼節に欠ける行為を私達がするとでも?」
「うふふふふふ」
「クックックック」
「……」
咄嗟に自身ではなく部屋の被害を懸念する一言を放った火丸に、鞘を納めるマックイーンとシグマ。
……姉貴、お前の持ってる鏡で自分達の顔見てみろよ。そう口から出かかるのを、火丸は我慢した。
いずれ、このままでは俺の身がヤバい……直感した火丸は、電話を手に取って連絡をとる。
「……もしもし?すいません日曜日に。用事とかは……
あ、それなら今日、野球のビクトリーズ戦があるのはご存知……
良かったら俺の部屋で……いや、来てもらえれば……」
ーーー
「改めてすんません、お休みの日なのに……」
「いや、別に構わんが……」
「今度の俺の実家に届いた、高そうな酒をお譲りしますんで。」
「待て待て、理由もなく生徒からの贈り物など……それもお前の実家にある酒など、かなりの高級品だろう?そんなものは受けとれんぞ。」
「理由なら……ほら。」
「……」
火丸に電話で呼び出された黒子台先生。
直通での連絡に、何事かと思って火丸の部屋を訪れたところ……
「……完全試合まで、どうやらあとアウト20個のようだな。」
「いえいえ、どうやら2巡目への布石……どうやら勝負どころでは我らがビクトリーズがビッグイニングを形成するのが、今から目に浮かぶようですわね。
打者が2巡……いえ、3巡してしまいそうな予感がしますわねえ。」
「君のお姉さんと、あちらはメジロマックイーン殿か。……何故、どちらもあそこまで不穏な空気を纏っているのだ?」
「どちらも真剣なんです……間違った方向に。」
「?」
4名が試合の行方を見守る……正確には試合に固唾を呑む2名と、その様子に固唾を呑む2名という構図だが……中、中盤に大きく試合が動く。
ビクトリーズの先発をアストロズの打線が攻略。リリーフ陣も打ち込まれ、5回終了時には……
「『9-0』……首位攻防戦でも、こういうことが起こるものなのだな。」
「こりゃ、流石に決まったかな……?」
黒子台先生と火丸のような、熱狂的な野球ファンでなくとも大勢が決まったことを確信する展開。
では、熱狂的な野球ファン、それも贔屓チームを応援する者となると……
「……あー、流石にこの展開は私でも想定の範囲外だ。」
「 」
「こういう状況だからこそ、シンジは慢心することなく最後まで投げ抜くだろう。……だが、マックイーンよ。」
「 」
「応援する者がいる以上、勝ちを諦めて良い試合など存在しない。最後まで全力で戦うのがプロフェッショナルというものだ。」
「 」
「……とはいえ、今日のような試合でも勝敗は1つずつしかカウントされない。切り替えも時には必要ではないかな?」
「……あなたの仰る通りですわね……」
「む?」
「私、決して最後まで勝負を諦めませんわよ……?」
本気で逆転を信じている様子のマックイーンに対し、シグマは肩を竦めて火丸の方に向き直る。
「ヒム。と……黒子台先生か。先日はお世話になった、改めて感謝する。」
「いやいや、礼には及ばんぞ。」
「姉貴、どっか行くのか?」
「うむ、ここまでの展開になれば、あとは結果を見るだけだろう。マックイーンやお前達にも何か買ってこようと思ってな。」
「別にそんな気遣い、しなくても良いぜ?」
「……正直、この展開は流石に少々私としても気後れが生じてな。丁度試合が終わる位に戻ってくる。」
「気を付けてな。」
「何なら二人共、試合を見ながらマックイーンの、愚痴なども兼ねるであろう野球の話に付き合ってやってほしい。」
ーーー
「紅茶は……スーパーで売ってるようなものはこんなものか。まあ、野球観戦の席で飲むようなものだ。品質は二の次だな。」
時間潰しを兼ねた買い物から戻ってきたシグマが、火丸の部屋の入り口に立つ。
……と、携帯にメールが入った着信音がした。
メールを見る。
『姉貴、今日はそのまま帰れ。戻ってくるな。 火丸』
同時に、
『シグマさあああん!お帰りなさいませえええ!』
メールの着信音を耳にしたマックイーンが、部屋の入り口に突進していた。
ーーー
「ささ、祝勝会場はこちらでしてよ!」
「……戻ってきちゃったのかよ……」「我々だけでも手に負えんというのに……」
「?」
テンション最高潮のマックイーンに手を引かれ、部屋に通される。
部屋には何故か疲れきった様子の火丸と黒子台先生。そして、テレビには丁度試合が終わったばかりの結果が表示されていた。
「『9-12』」
……んん?
シグマには、画面に表示された結果が理解できない。
「あの後、シンジはピッチャー強襲の打球で緊急降板しちゃってな……」
「おそらくアストロズも今日のシンジが交代するなど、予想外だったのだろう。その後出てくるリリーフが打ち込まれて……」
「……なるほど……」
火丸と黒子台先生の説明に、徐々に理解を果たすシグマ。
「……しかし、アストロズには『リュージ』もいるのだぞ?彼でも止められなかったというのか……?」
「あ、リュージは7回をしっかり抑えてたぜ。」
「本来は8回を担当する投手なのだろう?アストロズも流れを止めようと先手を打とうとしたが、結果的に裏目に出てしまったようだな。」
「そうか……」
典型的な『風呂試合』であった。
大勢が決まったと思い込んで、その後席を外してから結果を見たら、試合がひっくり返っていた……ある意味、野球醍醐味の一つと言える。
「8回裏のユタカの逆転打の時なんて、マックイーンさんが黒子台先生に感極まってな……」
『ユタカあああああ!やはりあなたこそが宇宙最強打者ですわああああ『ぐわああああ!?』!!!』『く、黒子台先生ー!?』
屈強な大男といえど、ウマ娘が自重しない渾身のパワーで抱きついたのだから、たまらない。
「……黒子台先生、良く骨とか折れませんでしたね……」
「ああ、この程度で怪我など負っていては、カール学園の教員など務まらんさ、ハッハッハ。」
「(……ヒム。お前が言ってた通り、先生にはその内何かお渡ししよう。)」
「(そうだな……うん。)」
姉弟がアイコンタクトで意思疏通を行った後、火丸が続ける。
「試合が終わってからも、マックイーンさんのはしゃぎっぷりがホントに凄くてな……姉貴、メール送ったろ?もしくは買い物の途中で試合経過とか見なかったのかよ?」
「……」
……外出時、この展開でまさか負けるなどとは微塵も思っていなかったシグマである。
戻ったら落ち込むマックイーンにどうやって声をかけるか……シグマの脳内はそのことで一杯であった。
改めて、シグマはこの『9-12』について、呆気にはとられつつも『こういうこともある』と受け入れていた。
「ねえねえシグマさん、どのようなお気持ちかしら?今、どのようなお気持ち?」
……その場に同席していた、『やられた側』とは真逆の『やった側』、それも相対するチームの熱狂的なファンがいなければ、話はここで終わっていたのだが。
「『応援する者がいる以上、勝ちを諦めて良い試合など存在しない』って仰ってましたわよね?
正にその通りでしたわ!このような奇跡を目の当たりにできたなんて、私ったら何という幸せ者なのかしら!」
「……」
「シグマさんもこの喜びを共に……あららいけませんわ、シグマさんはアストロズのファンですから、あなたにとってこの奇跡は『悲劇』になってしまうのではなくて?
……ああ!そちらの手にお持ちのものは!ひょっとして私の為に買ってきてくださったのかしら?負けた側が勝った側に塩を送られるなんて、どれだけサービス精神に長けていらっしゃるのかしらこの方は!」
「マックイーンさん……」
流石にその辺にしておいた方が……と、火丸が止めに入ろうとする。
と、シグマが口を開いた。
「……マックイーン、一つ頼みがある。」
「何でしょう?勝者が敗者のお願いを聞くというのも、妙な話ですけれどねえ?」
「ちょっと移動して貰えるか?……そう、その辺りの壁を背に。……その位の位置ならば丁度良い。」
「姉貴……そ、それは!」
壁を背にしたマックイーンに、シグマが『構え』をとった。
その刹那。
「シグマさ……(ぺちっ)んんっ!?」
「ほわちゃあ!」
マックイーンのおでこ目掛けて、シグマの右手から繰り出される『突き』が炸裂する。
「何を(ぺちっ)、するん(ぺちっ)、ですの(ぺちっ)!」
「ほわちゃ、ほわちゃ、ほわちゃあああ!」
シグマの連続して繰り出される突きに、マックイーンは反撃ができない。
「あれは……『ヒットマンスタイル』からの『フリッカー』!」
「む、何だそれは。」
「姉貴が静かにキレてるときの得意技だ!あの構えから、目にも止まらぬ突きを連続して繰り出すことで、相手に延々とダメージを与えるんだ!」
「確かに、1発毎にマックイーン殿が壁に背中を打ち付けているな。」
「力が込もっていない分、肉体よりも精神的なダメージの方が大きい技だ!
相手の心を折るまで、突くのを、止めないっ!」
「……痛そうに見えんのが、逆に厄介というわけか。」
技の解説を終えたところで、火丸が我に返る。
「つーか、止めねえと……」
「問題(ぺちっ)ありま(ぺちっ)せんわ(ぺちっ)!」
「へ?」
ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ
いつまでも続くシグマの猛攻……のように思えた……が。
ガシッ
「何……!?」
「効かぬ……効かぬのですわ!」
いつの間にかシグマの右手を掴んでいたマックイーン。
次の瞬間。
ばたり。
「あ、姉貴……?」
エネルギーが切れたかのように、その場に倒れるシグマ。
「……はしゃぎ過ぎてお疲れになったようですわね。ヒムちゃん、シグマさんを暫く休ませてあげなさいな。」
「あ、ああ。」
「……」
……黒子台先生には、マックイーンがシグマの首元に強烈な一撃を加えていたのが見えていた。
(恐ろしく早い手刀……私でなければ見逃しているな。)
「ところでお二方、宜しければこの後カラオケにお付き合いいただけるかしら?
ビクトリーズの劇的勝利を祝して、応援歌メドレーに興じさせていただきますわよ!」
「ああ、うん……」
「メジロの令嬢に、こんな一面があったとはな……」
その後、上機嫌のマックイーンは、翌日喉を枯らすまで歌い続けた。
なお、シグマの意識が戻ったのは、火丸達がカラオケから帰ってきてからであった。
「何故私も連れていかなかったのだ!」
「そっちかよ!?」
元ネタがある試合だから恐ろしい(細かい展開についてはところどころ事実と異なりますが)
一連の元ネタが全部分かったら凄いと思う。
一応シグマのヒットマンスタイルやフリッカー連打は、『一歩』じゃなくて『鉄拳』の方ね。4で永久が成立する奴(実用性は低いけど)