今日の勝利の女神は、横っ面を引っ叩く(更新停止中) 作:R主任
『ダイの大冒険』のキャラについては、名前を現代風にアレンジしています。
今回の該当者はこちら。
・音坂 蹴←ヒュンケル
・大円 世良←ポップ
・子岸 中←チウ
今回の結末は今回限り……にしたいところ。
『さあいよいよ残り400メートル!テイエムオペラオーにアドマイヤベガが迫ってきた!これは分からなくなってきたぞ!3着争いはスペースミリオンか!まだ勝負を諦めていない様子!どの娘が最初にゴールを駆け抜けるのか!』
『くっ……!』
『悪いけど、ここで決めさせてもらう!』
残り400メートルの位置。ここで脚色を緩めてしまったことが、オペラオーを非常に苦しい立場へと追い込むことになった。
これが平坦な直線であれば、すぐにでも再加速して立て直せていたところだった、が……
「……不味いね。」「オペラオー……!」
フジキセキと子岸が、揃って天を仰ぐ。
彼女が脚に力を入れ直す、その位置は『上りの勾配』だった。
後ろからトップスピードで追ってくる相手が、勢いのままに坂道を走り抜けようとするのに対し、一度速度を落とした者が坂の途中で速度を上げようと力を込めれば……
「何とか坂を上りきっても、そこからの最終直線でスパートを最後までかけ続けられるか……」
スタミナとパワー、その両方を消耗した状態で最初にゴール板を駆け抜けることができるだろうか。
そんなふたりの不安を他所に、上り坂の終点ではいよいよオペラオーにベガが差し迫ろうとしていた。
「良しっ!」「凄い……」
左手を握り締める大円と、鮮やかとしか思えないベガのスパートに目を奪われる葵。
「……大円さんは……こうなると分かっていたんですか?」
「んーと……正直俺ん中じゃあ、最初は半信半疑な部分もあったんだけど……」
「半信半疑、ですか……」
葵の言葉に、だけどさあ……と続ける大円。
「そんな俺の意見や作戦をアヤベさんや師匠達も信じてくれて、一緒に練習なんかも頑張ってくれたみんなもいてさ……
全部が全部良い方向に動いてくれて。ここまできたら、むしろ疑う方が無理ってもんですよ。」
「なるほど……」
「ここまでやって、ようやく勝ち筋を見出せた……ってレベルのオペラオーも、やっぱ半端ないっすけどね。
……子岸、悪いが今回は俺たちが、貰うぞ。」
ーーー
『残り200に迫ろうというところで、遂にアドマイヤベガがテイエムオペラオーに並んだ!だがテイエムオペラオーも粘っているぞ!完全にふたりのイッキ打ちだ!果たして勝つのは覇王か!一等星か!決着まであとわずか!』
「決まったか!?」「このままいけば勝つのはアヤベさんか!?」「オペラオーは流石に厳しいか!?」
観客席の最前列で叫ぶ、みなみとますおときた。
「ミリオンさん……!」「まだだ!最後まで諦めてはいけません!」「頑張れー!」
「ロデオー!」「いけー!」「今5番手でも、ゴール板を最初に駆け抜ければ勝てるぞー!」
『スピカ』や『シリウス』では、メンバーが懸命に走るチームメイトに大声で声援を送り続けている。
その一方で。
「あー!もう、どっちが勝つかワカンナイヨー!」
『ポルックス』の面々は、トウカイテイオーが画面の前で叫ぶのを、怪訝そうに見つめる。
「……ふたりの走りに自分の走りをイメージする、って話じゃなかった?」
「ゴメン、ムリ!今度にするよ!」
ナリタタイシンの指摘に堂々と答えるテイオーに、音坂とアグネスタキオンが続けて訪ねる。
「……まあいい。しかし、『どちらが勝つか分からない』だと?」
「シミュレーション通りならば、このままアヤベ君が差し切って勝利する筈だけどねえ?」
「えー?だってさ、オペラオーさんの顔!」
テイオーが、映し出されたオペラオーの表情を指差す。
「すっごい楽しそうじゃん!負けそうな娘のする表情なんかじゃないよ、これ!」
ーーー
『……正直、情けないことにボク自身が、ここまでか……と思ってしまったよ。』
『……!』
このまま、競り負けると思われたオペラオーの脚が、息を吹き返した。
『覇王としてのボクの挑戦も、素晴らしい好敵手達の前に、第一章がカーテンを降ろす……そう、思ってしまった筈なのに!
そんな情けないボクを!嗚呼……何ということだろう!奮い立たせてくれる声が!みんなの声援が!』
「オペラオー!頑張れー!」
「二冠まであと少しだ!ここまで来たら負けるなー!」
力尽きようとしていた世紀末覇王に、レース場の至るところから応援の声が聞こえていた。
「オペラオー!」「信じてるぞ!」
フジキセキや子岸も、声の限りにエールを送っている。
『そうだ……!絶体絶命の状況を、乗り越えてこそ覇王のあるべき姿!アヤベさん!そして我が素晴らしき好敵手達よ、感謝する!
今、ボクの前には見果てぬ栄光が、どこまでも続いているよ!』
オペラオーが、最後の最後でベガに差を付けようと力を振り絞る。
『何ということだ!ここにきてテイエムオペラオーが再スパート!覇王に限界はないのか!?』
『く……!ここまでなの「いけー!」……っ!?』
一瞬、勝負への執念を失いかけたベガの耳に、若い男性の声がはっきりと届く。
「そうだ!ここまで来たら行け!限界を超えろ!」
「……いけー!走れ!勝ってくれアヤベさん!」
続けて、耳慣れた声と、先に聞こえた声が再び耳に入る。
本能的に、ベガの体はその声に従っていた。
『……いや、アドマイヤベガも更に加速!このままゴール板を駆け抜けるのはどっちだ!?
両者、全く譲らないまま……ゴール板を駆け抜けた!』
ーーー
「大円……さん!?」
葵が、ゴールの瞬間まで叫び続けた大円の顔を見て、驚愕する。
「葵ちゃん……俺……おれ……いま、『いけ』って……」
大円は、両目から涙を流していた。
「アヤベさん……怪我して、リハビリが終わって、ようやく本気で走れるようになって……
それなのに、おれ……今、ギリギリのアヤベさんに、『いけ』って……」
ーーー最終局面、大円の目には、明らかに限界の力を越えようとしているベガの姿が映っていた。
(これ以上の無茶は駄目だ!これで怪我なんかしたら……!)
『もういい、これ以上の無理は駄目だ。』その言葉を告げようとして、大円の目には、ベガの表情が映った。
『ここまでなの……』無念と悔しさの入り混じった表情が見えて……大円は、叫んでいた。
「いけー!」と。
「おれ、おれ……ほんとうは……(ガシッ)ってえ!?」
泣きながら、言葉に詰まる大円の頭に、大きな手が添えられる。
「黒沼さん……」「し、ししょお……」
「……あまりこういうのは柄じゃねえが、一言だけ言わせろ。
……『良く言った』。」
「……う、うわあぁぁぁ……」
黒沼からの言葉に、子供のように泣き続ける大円。
黒沼は、大円の頭に置いた手を離さず、サングラスの奥の目でレース場をじっと見つめていた。
ーーー
「……こ、故障でしょうか……?」
「いや、審議中なんだろう。」
全員がゴール板を駆け抜け、既に5着から3着までの順位が電光掲示板に映し出されていた。
しかし、2着と1着、そしてその差が中々表示されない。
地下バ路で、メイショウドトウが呟き、ナイトシグマがそれに応える。
「……正直、私にもどちらが勝利したのか、全く分からない。同時にゴール板を駆け抜けたようにしか見えなかった……」
「これは……どっちが勝ったのだろうね……トレーナー君?」
「オペラオー……凄かった、凄かったよお……」
フジキセキの横で、涙が止まらない様子の子岸。
「キミが最後まで決して諦めようとしなかったというのに、ボクは、ボクはあ……負けてしまうんじゃないかと思ってしまった……
あまりにも情けないボクを、どうか許してほしい……」
「……フフ、大丈夫だよ、トレーナー君。」
何処からか取り出したハンカチを、子岸に差し出すフジ。
「彼女が今日、これだけ走れたのは、ずっとキミや『レグルス』の皆で力を合わせて頑張ってきたからじゃないか。
まずはそのことに胸を張ろう?」
「うん……」
遠目には、お姉さんが弟をあやしているようにしか映らない様子のふたりが、結果の表示を待つ。
ーーー
「どっちだ?」「分からん……」「しかし、凄い勝負だったな……」
掲示板の発表が中々されず、レース場の至るところではざわめきが続いていた。
「体勢の感じも、どちらも全く同じタイミング……」「というか、3着のスペースミリオンの記録が既にこれまでのレコードと僅差、ってことは……」「……マジか、レコードか……」
最前列で驚きを隠せない3人。そこへ、
「えー、本日お集まりいただいた皆さん、この度は多大なる声援を私達にお送りいただき……ありがとうございます。」
4着のキンイロリョテイが、何処から取り出したのか、マイクを片手に大声で叫んでいた。
『……なんでお前(君)がいきなり仕切ってるの?』
レース場にいる者達、全員の心が一つになる。
「この勝負……私は惜しくも4着という結果に終わってしまいましたが……これもひとえに、私の不徳と実力不足によるもの。
折角本日は直前の『ワオ、芭蕉』で……」「『青葉賞』なー。」
大声でのゴールドシップの突っ込みに、『スピカ』にどよめきが起こる。
(あのゴールドシップに突っ込ませる、だと……!?)
「そう、青葉賞での結果を引っさげての参戦だったというのに、思い通りの結果を出せず……私を応援してくれた皆さんには、言葉が見つかりません。
……そう、言いたいことを言えないこんなキンイロじゃ……「すいません、結果が出るまではこういうのは無しで。これ以上続けるならば失格も有り得ますので。」アッハイ。」
中に入ってきた警備員とスタッフに注意され、この日のキンイロリョテイのパフォーマンスは幕を閉じた。
ーーー
「……はっはっは、愉快な方もいるものだね。」
「いつもの高笑いはどうしたのかしら?」
「……流石に、今はちょっと厳しいね。」
「……そうね、聞いた私も悪かった。ごめんなさい。」
ゴール後のランを終えたオペラオーとベガが、並んで立ったまま掲示板を見つめていた。
ゴールの直後、両者共に勝利を確信し、観客席に向かって拳を掲げたり、手を振っていたのだが……一向に順位が確定しない。
「しかし、この大一番で、本当に素晴らしかったね……アヤベさんの末脚は。」
「あなたこそ、最後の最後であれだけの力を振り絞れたのは流石、という他無いわね。
……正直、あれで終わったと思ったわ。だけど……」
ベガが指差した、その先には『アンタレス』の面々。
「あそこで……ずっと泣いてるサブトレーナーや、チーフトレーナーの声が聞こえて、その瞬間に……不思議な力が湧いてきたの。」
「不思議な力……そうだ。最後の瞬間、ボクとアヤベさんはふたりで競り合っていた筈なのに……」
オペラオーが何かに気づいたようにハッとして、ベガに問いかける。
「何故か、『3にんで一緒に』ゴールを駆け抜けたような気がしたんだ。あれは……」
「……そう、あなたも感じたのね。あれはきっと……」
……『3つの体』が重なって目指した、ゴールというエンディング。それは一瞬の筈なのに、どうしてだろう。
『時間が止まってしまえばいい。』
いつまでも、いつまでも、この時間を彼女は『彼女』と、一緒に走っていたかった。
「最後の最後、私が届けたかったもの……その輝きを、」
『結果が出ました!……こ、これは……!
同着、同着です!それも、ふたり共にダービーのレコード記録を塗り替えての、同着!
今日、この東京レース場において、とんでもない記録が誕生しました!
今年の日本ダービーの覇者は、皐月賞に続いてのクラシック二冠達成、テイエムオペラオー!そして、アドマイヤベガの二名です!!!』
「『彼女』は、確かに受け取ってくれたのよ。」
発表された結果に大観衆がどよめきと歓声を上げる中、ベガはオペラオーに、そう告げていた。
禁じ手・同着。
一期のダービーでやってたこともあって、『クラシックでオペラオー無敗』と『アヤベさんダービー勝利』を両立させるにはこれしか無かった、ってことで。
ちょくちょくリアルでも起こってるみたいですし。
次でやっと最後の未登場ウマ娘が出てきて、序章終わり→設定&キャラ紹介かしら。