ある日、ハジメが魔物肉を食べているのを見てユエの頭に電流が流れる。ユエは思った。
「ハジメに魔物肉以外のものを食べさせたい」
と。そう思ったユエは一目散に100階層から上の階層、この大迷宮で唯一美味しいものが取れる所へと駆けて行った。
ユエが向かったのはトレントモドキの階層。そこにはめちゃくちゃ美味しいとハジメから言われた赤い果実が実るトレントが沢山いた。
ユエはハジメからくすね…借りてきたシンクネットを使用して仮面ライダーアバドンを大量に作り出し、トレントを倒させて収穫を開始した。
ただ、アバドンは収穫なんて関係ないとばかりにトレントを倒しながら転がっている赤い果実を踏んでしまっていた。
「……『蒼天』」
その様子を見てユエはアバドンを燃やし尽くしてシンクネットを解除、回収した。地面に転がっていた赤い果実も燃えてしまった。
ユエはトレントを丁寧に魔法で倒し、きれいな状態で残っている赤い果実を回収していく。ユエが選別する赤い果実はどれも光り輝いており、とても美味しそうに見えた。
「ん、これであとは拠点にあるものを使えば…!」
ユエは現れる魔物を思考停止のギアスを、魔法を使ってなぎ倒しながら拠点へと急いで戻る。出口は知っているのでそこまでの時間はかからなかった。
拠点に戻ったユエは昔食べたものを思い出す。思い出すべきなのはスイーツだ。王族としてユエは美味しいものを血以外のものも食べていたのだ。
そしてユエはひとつのスイーツを頭の中に思い浮かべた。それは地球から来た転移者が見ればアップルパイと答えるであろうものだ。
「小麦粉…砂糖…これだ!」
ユエはキッチンの中にある小麦粉、砂糖を取り出した。さらにユエはキッチンの近くにあった冷蔵庫の中からバター、卵を見つける。
「調理開始…!」
ユエはタルト生地用と、クリーム用の2つのオスカーが作ったであろう金属製のボウルを用意。それぞれのボウルに、柔らかくしたバターと砂糖を目分量で入れる。
「入れすぎた…?まぁいいか」
次にユエはバターと砂糖を風魔法でしっかりまぜ、卵を加えてさらに勢いよく風魔法の出力を上げて混ぜる。多少の液が飛び散ったがユエは気にしない。
ユエはその後、小麦粉を計らないでドバーッとボウルの中に入れ、風魔法でさらに勢いよくしっかりと混ざり会うようにする。
「ん、いい調子♪」
生地を平たくしてそれをキッチンにあったまな板に載せ、冷やそうと氷魔法を使う。
「『凍柩』!!」
明らかにさっきから魔法の威力がおかしいが気にせずユエは魔法を使う。数時間経って、十分冷えたと確信したユエは凍柩から生地を取り出そうとする。
「…やりすぎた。『緋槍』」
炎の槍を使って氷を溶かして生地を取り出すユエ。生地が凍っていたので炎の槍で少し溶かす。
少し焦げた生地を型にはめて敷き詰める。タルト生地に赤い果実を敷き詰めてユエはそれを手に載っける。
「火力を抑えて…『蒼天』!」
ゴォーッと炎がユエの手のひらにあるタルトを包み焼いていく。少し焦げ臭い匂いがした頃にやっとユエは蒼天を解除して型を外してタルトを取り出す。
そしてタルトの上に砂糖をふりかけて完成させた。なんか焦げくさい上に黒っぽい果実が載っているが赤い果実のタルトの完成である。
なんか工程を何個かすっぽかして、料理に最上級魔法を組み込んでいたが、タルトである。ユエは初めて料理したには上出来だと自画自賛し、それを冷蔵庫の中に入れておく。
スイーツ以外にも何かを作ろうとユエは冷蔵庫から赤い果実を取りに行く道中、取ってきたサイクロプスの肉と畑で取れた野菜を持ってくる。
それらにキッチンから発掘した塩コショウをかけ、火力を調整した蒼天でまた焼く。また焦げくさい匂いが出てきたら蒼天を解除して皿にキレイに並べる。
「数が足りない…」
ユエが調理する前に切っておいた野菜の数と、焼き終えた野菜の数が合わないのだ。
それに焼いた肉も黒焦げであり、残った野菜も本来の色のところが少ないくらいだ。
「…まぁ大丈夫。よく焼いたから身体にも良い」
確かによく焼けば衛生的には大丈夫だろう。焼きすぎは良くないが。それらを皿に載せてダイニングへと運び、ハジメを呼ぶ。
ハジメはうきうきとしていた。香織以外から女子に料理を振る舞われるという経験がないため、とても楽しみにしていたのだ。
原作の描写的にユエは作らないかな?と思っていた矢先の事だったため尚更嬉しい。ハジメは心の中で小躍りしながらダイニングへ向かうと…
そこには黒焦げの野菜と肉が待っていた。
上がりまくっていたテンションは一気に下がった。なんか既視感あるなと。昔、転生する前の頃、2人目の恋人が作ってくれた料理に似たようなものがあった。
「えっと…ユエさん、これは?」
思わずユエにさんをつけてしまったハジメ。
「え?サイクロプスのステーキと焼き野菜」
「…へ?」
サイクロプスというのは見たことある。というか焼いて食べたが、こんな色はしてなかった。それに焼き野菜にしてもこんな黒くなるはずがない。しかも周りに何かのカスがある。
「(サーチャー)」
ハジメはサーチャーを起動してユエに見つからないようにキッチンを見る。するとそこには飛び散りまくったなにか黄色い液体に氷の欠片、そして天井が焼け焦げていた。
「(最上級魔法を使ったのか…!?)」
ハジメは驚愕した。あのユエが戦闘でつかう魔法はどう考えても料理で使う魔法ではない。そんなことを考えているとユエに無理やりテーブルに座らされ、肉を魔法で切り分けてフォークでハジメの口元に持っていく。
いわゆる、はいアーンってやつである。
「(見た目はあれでも美味しいはずです…!)」
脳裏に蘇るのは今世の父の言葉。
「女の子がアーンしてきたらどんなものでも食べなきゃダメなんだ」
恋愛アニメを見ながら幼きハジメに言う愁の姿が思い出される。確かにそうだとその頃は首を縦に振った。
怪訝そうにするユエを見ながら覚悟を決めたハジメはユエのアーンを受け入れ、黒焦げているステーキと焼き野菜を全て食べた。
その結果、ハジメはダイニングテーブルの上で顔を青くしながら気絶しそうになっていた。
ユエはハジメに食べさせ終えると新たな料理を持ってきた。
「…タルトか、助かった……」
よくタルトが見えなかったが形状からしてタルトと判断したハジメはユエが切り分けたタルトを食べると、さらに顔を青くした。
「(また、焦げている…!)」
甘いような苦いようなそんな訳の分からない味に混乱し、食べ終わった頃にはもうハジメは本当に気絶しそうになっていた。
「美味しかった?」
ハジメは一目散に酷評しようとしたが、ユエの不安そうにしている顔を見てその言葉を急いで飲み込む。
赤い果実はこの拠点には無かったはずだ。それを使えたということは持ってきてくれたということ。途中危険な階層もあっただろうに、1人でだ。
そんなことを考えれば、酷評してしまっては可愛そうである。
「えぇ、美味しかったですよ」
ハジメは青ざめた顔を元の普通の顔を戻してユエを抱きしめて頭を撫でる。それに嬉しそうにするユエ。
これでこの件は終わったとハジメは思っていた。だがそれは間違いだった。
ユエはこの件で味を占め、さらに料理を作ればハジメがもっと褒めてくれると思ったのだ。
最上級魔法調理は変わらず、毎度の如く黒焦げていた。ハジメはやはり優しめにでも注意するべきだったと思いながらユエの料理を食べてユエを褒めるのだった。
ユエ、ご多分に漏れない料理できないキャラ。シアが作ってた理由が分かります。五天龍をチョコにするあたりそれが伺えると思います(バレンタイン記念の2作目参照)