「私の家族も助けて下さい!」
峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ。よほど必死なのか、先程から相当強くユエに蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。
ハジメは足を引っ張ってもなかなか取れないその吸着力に驚きながら風の錬金術でシアを離す。というか吹き飛ばす。
「…………」
シアは吹き飛ばされ地面に激突した痛みに悶えながらこちらを鼻水と涙を流しながらジリジリと四つん這いになりながら寄ってくる。ハジメはそれを見て罪悪感と怖さでいっぱいになる。
「に、にがじませんよ~」
ゾンビの如く起き上がりハジメの脚にしがみつくシア。そのガッツに心底驚きながら錬金術でまた吹き飛ばそうとするが……
今度は風を喰らわずに一旦離れてからすぐにまた走りよってハジメの足にしがみついてきたのだ。
「なんて知略を……!」
「……ハジメが困ってる、離れて」
苦戦するハジメに今まで静観していたユエが動く。静観していたというより見たことの無いほど厚かましい存在にびっくりしていただけなのだが。
ユエはシアの足を引っ張ってハジメから離そうとするが思ったよりシアの吸着力が強くて離せない。
「くっ、仕方ありません。話を聞きましょう」
これ以上やっても埒が明かないと判断したのかハジメは地面に目線をやり即席の石のテーブルと椅子を作り出す。
「……ハジメ?」
「話を聞くだけです」
だから別に大丈夫と、ハジメはユエに邪魔しないよう言う。
「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」
語り始めたシアの話を要約するとこうだ。
シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。
故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。
女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。
全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。
しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。
そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……
「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
ハジメは少し悩む。助けるべきか助けないべきか。助けなければハウリア族は全滅、だがそれは助けなくていい存在だ。気にしなくてもいい。だが助けなければいけないだろうと考える。
手を伸ばさなければユエの時、助けなかった場合と同じく後悔することになるだろう。ハジメの判断は早かった。
「いいでしょう」
「ハジメ?」
「(いえ、無償でやるつもりは無いですよ?)」
「(……わかった)」
「助けることは約束しましょう、ですがそちらには対価を払っていただきます」
「え、身体ですか?」
「あ、それは要らないです、ユエ居ますし」
「ハジメ……!」
対価と聞いて身体が目的かと宣うシアを無視してユエの肩に手を回す。ユエはハジメのことをキラキラした目で見る。
「……わ、私じゃ不満なんですか!」
「言っているでしょう、ユエが居るからその対価は要りません、私が言っているのは違う「そっちの娘はぺったんこじゃないですか!」……あぁ……」
ハジメがシアの言葉を否定していると言ってはいけないことをシアが言ってしまった。
ユエが香織の話を聞く度に胸をぺたぺたと触っているのも、たまに風呂に入る時にもぺたぺたと触って苦悩しているのも知っている。成長期こないかなーとユエが言って、
それだけユエが気にしていることをシアはなんの躊躇いもなく言ってしまったのだ。
「(終わった……完全に終わった……)」
ギリギリとシアを、シアのたわわに育ったその胸を睨みつけるユエ。その目は親の仇を見るかのように鋭かったがシアは全く気づいてない。
だが奇妙なことにユエは魔法も、なんなら攻撃をしなかった。ただ歯ぎしりをしながらシアを睨むだけだ。
「た、対価は、ハルツィナ樹海の案内です。出来ますか?」
「で、できます!やらせてください!」
取引は成立したと、ハジメはシアにアナザートライドロンに乗るよう勧める。
そしてハジメは残っていたユエに言葉をかける。
「……どうして、手を出さなかったんです?」
「邪魔をするなって、言ってたから……」
「……!すいません」
「大丈夫」
謝るハジメにユエは朗らかな笑顔を向ける。
「……後で必ずやり返すから……!」
「(……怖い。めちゃくちゃ怖い)」
拳を握り、シアにやり返すことを宣言するユエにガクガク震えながらハジメはアナザートライドロンに初めて乗り、楽しそうにするシアに憐れみの感情を向けるのだった。
どうでもいいことなんですが、ハイスクールDxDの作品を書こうとして断念、また書こうとして断念、シンフォギアを書こうとして断念しました。というかそのせいで投稿の間が空いたんですけどね……