ポケモンのぬいぐるみを持った人間の話を聞く話。
『ふしぎなぬいぐるみ』
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その日はとてもいい天気で、風は穏やかだった。日差しを浴びると暖かくて。でも森の中はひんやりしてて。それはとても気持ちが良かった。なのに誰もいなくて。
鳥ポケモンたちのかわいい声が。虫ポケモンたちのきれいな声が。森を駆け巡る野生のポケモンたちの存在が聞こえない。
僕は走った。昨日まで当たり前だった日常が突然変わった。それはその日だけの出来事でなく、これから先も二度と出会えなくなってしまうのではないかと焦ってしまった。
ここにずっといたい。ここにいるポケモンたちが受け入れてくれるなら、彼らと共に過ごしたいと思っていたから。
草木が視界を覆っても構わず走った。だからその先の障害物に思い切りぶつかってしまった。
「うわっ!?」
勢いそのままに倒れると、妙に肌触りがいい何かが頬を撫でる。顔を上げるとこれもまた妙に大きい目と目が合った。
「なんだったんだ・・・・子供?」
「え? ・・・・わっ!」
押し上げられるように倒れていた身体は何かを下にして座る姿勢になる。妙な目の何かは僕の同じ目線で僕を見つめている。すると上から笑う声が聞こえてきた。
「そんなにこのぬいぐるみが気に入ったか?」
「・・・・これがぬいぐるみなの?」
ぬいぐるみの頭に顎を乗せたその人は楽しそうにぬいぐるみの身体を撫でる。
「そうだよ。それで・・・・君はこの森に一人で来たのかい?」
「あ! ねえ! ポケモンを見なかった?! 今日ここに来てからひとりも会わなかったんだ!」
「ああ、そうか。それはすまない。ごめんね、それは私のせいだ。でも、ポケモンたちは姿を見せないだけで、ここにいると思うよ」
その人はぬいぐるみの身体から僕の頭に手を乗せて、申し訳なさそうに口をまた開いた。
「私はポケモンたちに・・・・好かれないみたいだから」
そんな人がいるのかと、きっと今初めて自分は出会ったんだ。ポケモンがいつも隣にいるこの世界で、その人は一人きりだったのだろうか。
「ポケモンに会ったことないの?」
「・・・・いや。人のポケモンは見かけたことがあるよ。自分のポケモンを捕まえるために、子供の頃もこうして森の中に入ったけど、野生のポケモンに会えなかったんだ」
最初に出会った時と比べて元気がなくなって、目の前にあるぬいぐるみの顔も押しつぶされて変な顔になっていた。
「・・・・そのぬいぐるみは?」
「この子はね、ミジュマルっていうポケモンだよ。ほんとうのミジュマルの大きさは、もしかしたらぬいぐるみより小さいかもしれないけれど」
「・・・・会ったことない」
「ふふ、私もまだ見たことないんだ。私がこの世界に生まれた時から、ずっと一緒にいるんだ」
嬉しそうに話すその人にとって、このぬいぐるみが支えになっているのがよく伝わる。
「まだ名乗ってなかったね。私はケンタ。この子に出会うために旅をしているんだ」
よろしくねと、ぬいぐるみのミジュマルはケンタに手を掴まれて挨拶した。