今日は雨だった。外に出歩く人が少ない日だ。
視界の隅々まで整えられた景色はきれいだと、私はここにいて何度も思えるようになった。
足元の地面に揺れるミジュマルが写っている。大通りには誰もいない。こうしてぬいぐるみを抱えていても気にせず街中を歩くことができた。
「どこに、いこうか」
一人言が周りの雨音で聞こえなかったかもしれない。前の時には思いもしなかった腕の中の存在に、今は話しかけるようになった。
私以外の人も、何かもいない。けれど、かつてここにいてから本物を見た。本当を見た。それは人のポケモンだった。
その時からか、もしかしたら前から抱えていたものだったのかもしれない。私の夢を知った。叶いもしない憧れた現実を見た。
良かったと、私は思う。このぬいぐるみと私が共にいることに。
耳をすます。自分以外の動く存在を待っている。この子に会える瞬間をずっと待ち望んでいる。
ーーー
時間が過ぎていく。日が沈んでいく。でもまた時間が過ぎれば朝が見える。
今この時が過ぎてしまえば、その人と巡り会うことはないだろう。
僕はどうすればいいのか分からない。でもただ言うだけはしていけないことが分かってた。
その人といれば彼らに会えなくなるのも分かってる。
出逢って間もない人と棲家から出ようとするのは、僕も彼らと同じ存在だからだろうか。
「僕は、ポケモンが好きで。でも、いざポケモンが目の前にいると近づけなくなる」
全ては話せなくても、本当の思いを話せるように。
ケンタは僕が急に言い出したのを驚いて見ている。
その人にとって僕がどう見られているのか、どう思われているのか。僕という存在を気づくかもしれないけれど。
僕という存在をケンタに気づかせてあげたいと思ったから。
「僕はケンタの話しを聞いていたいって思ったんだ。それだけの目的と訳を聞いたけど、まだケンタの気持ちもこの瞬間の実感しか分かってない」
今僕は、話せているだろうか。間違っていないだろうか。
その人にとって僕はただの、変わった人の子でしかない。
「ケンタに出逢ったばかりの僕は、あなたに付いていきたいと思ってる。」
言ってしまってから、怖くなった。その人の声を聞くことが。どんな言葉で、感情で、去っていくのか。想像してしまう。思い返してしまう。
本当を言うのがこんなにも、怖いのか。同じ声で話しているから、伝えられる言葉がこんなに多いのに、出せたものが少なくて、拙くて。
きっといつか、その人は彼らに出逢える。でも、僕は二度と同じ人に会えない。僕らはそういう存在だ。
なのにどうして、僕はまた、引きずっていくのだろうか。人に成りきれたら。彼らに在れていたら。
「君が、現れる前まで森は静かだった。」
声と一緒に柔らかいぬいぐるみの彼に触れられる。
「ミジュマルを抱えて日向ぼっこしていたら、音が聞こえたんだ。初めて揺れた草むらを見たんだ。」
自分が顔を下に向いてたことに気づいた。ミジュマルとケンタが僕を見つめて待っていた。
「ポケモンがいるじゃないかって、どきどきしてた。今もね、この世界で旅の仲間になれるんじゃないかって、嬉しくて」
ケンタの目がきらきらと揺れながら輝いていた。
「会ったばかりの君が、話しを聞いてくれて、聞かせてくれて、同じように思ってくれたことが、嬉しい」
たえきれないと、口を噛みしめて笑う顔が眩しかった。
「一緒に来てくれないか」
その人はぬいぐるみを片手に抱えながら、もう片方の手が僕の前にある。
僕はケンタの手を捕まえるように、手を差し出した。