爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常   作:九十九一

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※ この話の後半分、やけにアレな内容になってますが、別にこの作品がシリアスになることはほぼ無いです。というか、私がシリアスを書きたくない。つれぇもん。


日常105 酷い国(?)。シリアスはねぇ!

 翌日。

 

 ぱち、と目を覚ました儂は、むくり、と体を起こせば、びしょびしょになったシーツや、床、その他にも汚れまくったレンタル衣装に、体の節々に残る痛み、他にも未だぼーっとする頭をなんとか動かして、儂はでかいベッドから降り、シャワーを浴びるべく、風呂場へ直行。

 

 神――祥子姉さんを起こさないよう、細心の注意を払ってなんとか体の汚れを落とし、さっぱりする。

 

「くそぅ……あやつめ、強く縛りおって……」

 

 自身の素肌に残る赤みがあるとある痕を見ながら、ぐちぐちと文句を零す。

 

 ……まあ、六割くらいじゃが。

 

「うぅ……なんだかまだ違和感があるのう……未だに慣れんわい」

 

 そういう行為の影響から、儂は自身のとある部分にある違和感を覚えつつ、体を成長させ、この部屋に入った時と同じ服に着替える。

 

 さすがに、ロリ状態で行くのはまずいので……。

 

「にしても……はぁ、平日であるにもかかわらずこうして宿泊することになるとは思わんかったのう……つーか、今日普通に学園なんじゃが。今から祥子姉を起こしたり、準備したりせねばならぬことを考えるに……家に到着する頃には七時を超えとるじゃろうなぁ、これ」

 

 そこからさらに朝食を摂らねばならんから……絶望的なまでに遅刻コース、じゃな。

 

 まいったのう……。

 

 ともあれ、まずは日光を浴びるか。

 

 一日の始まりは、軽い日光浴からと定めとる儂は、シャーとカーテンを開け放ち、日光を浴びるべく外を見たら……。

 

「……あれ、なんか、明るくね?」

 

 そこには、早朝とは思えん明るさが辺り一帯を照らし、儂を照らした。

 

「……ま、まさか……」

 

 ギギギギ、と油切れの機械のような動きで、首を壁掛け時計へ回すと……。

 

『9:23』

 

 と、表示されておった。

 

 九時二十三分…………あかん、これ遅刻やんけ……。

 

 間違いなく遅刻であることを悟った儂は、安らか~な笑みを浮かべて全てを諦めた。

 

「ん……くっ、ふぁああ~~~~~……んん……朝か……? あれ、まひろ君がいないな……ん~……あ、いたいた。おはよう、まひろ君」

 

 後ろからもぞもぞと布が擦れる音が聞こえると共に、色々と熱く激しい夜を過ごした相手こと祥子姉が起床し、同時に儂に朝の挨拶する。

 

「……あぁ、おはようじゃ、祥子姉」

「ん、どうしたんだい? 安らかな笑みを浮かべて? もしや、激しすぎて頭がパーになってしまったのかい?」

「そうではない。そうではないんじゃが……すまん、儂、学園遅刻した」

「へぇ~~~……あぁ、なんだこんな時間なのか」

「いやもっと驚くところじゃね!? なんぜ冷静なん!?」

 

 興味ないね、とでも言いたいげな反応の祥子姉に、儂はビシィ! とツッコミをぶつけた。

 

 一応、こうなった元凶がなぜ何も言わんの!?

 

「まあ、焦っても仕方ないからね。まあいいさ、どのみち今日の君は欠席だったんだから」

「じゃから、もう少し! ……って、ん? 欠席? 儂が?」

 

 もう少し焦れ、と言おうとした儂じゃったが、すぐに祥子姉の言葉の違和感に気付き、はたと首を傾げた。

 

 欠席とは?

 

「ん、あぁ、そう言えば君は精も魂も尽き果てて眠っていたからね、気付いていなかったか。あ、いや、例の連絡が来たのは……あぁ、放置プレイの時か」

「ド直球に言うのやめてくんね!? 昨日のことが想起されてクッソ恥ずかしくなるからぁ!」

「ははは! いやなに、気にしない気にしない」

「まったく……して、連絡とは?」

「あ、うん、それなんだけどね……まず第一に、これから家に帰宅し、私たちは婚姻届を提出しに行くことになっている」

「まあ、そうじゃな。他の面子ともしとるし」

 

 美穂と瑞姫は同時に、アリアはましろんと同タイミングで、結衣姉は桜小路邸を訪れた数日後に。

 

 故に、今現在の儂と祥子姉の関係性と言うのは、言わば事実婚のようなもの。

 

 内縁の夫的な? まあそんな感じなわけで。

 

 まあ、実は結衣姉の婚姻届を提出しに行くときは、なんと言うか……今度は大人のお姉さんを虜に!? とか、それはもう大層驚愕されたからのう、役場の者に。

 

 次はこんな知的美人のような外見のマッドサイエンティストじゃからな、多少の驚きはあれど、さすがに今までよりは小さそうじゃがな。

 

「その後、実は羽衣梓グループの会長殿に呼ばれているんだよ、私たち全員」

「あ、そうなのか。ふぅむ、瑞姫の父がのう……理由は?」

「簡単に言えば、結婚式の日取りが決まった、とのことらしいけど、詳細はまだ」

「……あー、そう言えば六月に結婚式をするとか言っておったのう……なるほど、このタイミングでその話をすると言うことは、近々ということか」

「そうなんじゃないかな? あと、私は滑り込みで入り込んだからね、だからタキシードの採寸もあるんじゃないかな?」

「いやおぬしもかい」

「そりゃあね。そもそも、私たちが夫であり、君がお嫁さんだから、当然と言えば当然じゃないかい?」

「むぅ……別に、儂が夫でも良い気がするんじゃがのう……」

「そこほら、君の適性が明らかにお嫁さん寄りだったと言うことで」

「なーんか納得いかんのう……」

 

 いつもあやつら、儂を嫁だ嫁だ言って来るが、そんなに儂って嫁っぽいか?

 

 た、たしかに、そう言う方面とかも受け身ではあるが……それに、なんか儂が一番家事能力が高いと言うのも原因じゃろうなぁ……うむぅ、なんか納得いかん。

 

 いやまぁ、別に女性じゃから嫁じゃなければいかん! とかはこれっぽっちも思ったりせんが……それはそれとして元男としては複雑。

 

 最近は性格やら趣味やらがどうも女性寄りになっとる気がするしのう。

 

「あぁ、ところでこれは聞きたいんだけど……」

「うむ、なんじゃ?」

「まひろ君、君は私と言う存在を受け入れたわけだけど……それを撤回する気も、嘘であったと言うこともないね?」

「そ、そりゃそうじゃろ? 普通、了承したのに、今更なし! とかどこの鬼畜じゃ。それに、昨日散々儂にあ、あのようなことをしておきながら、今更そんなことを訊く意味はあるか?」

 

 実際、あの五人に引けを取らぬあれこれをされたからな、儂。

 

 ……おかげで、儂と言う存在がどんどんおかしな方向に向かっとる気がやたらとするがな。

 

「いや、もしかしたら私をからかっているだけ、と言う線も捨てきれないからね」

「んなエロゲ主人公がおったら、儂はディスクを叩き割った上で、制作会社に送り返しとるよ」

「随分と実感の籠ったセリフだけど……実際にあったのかい?」

「……あれは、悲しい事件じゃった」

 

 遠い目をしながら儂は当時のことを思い出す。

 

 あれは、中学二年生の時……全体的にイラストの完成度が高く、世界観やストーリーの大筋などから、かなりの神作という予感を与えたとあるエロゲがあった。

 

 その会社の処女作ではあったが、有名絵師やシナリオライター、プログラマーなどを多数呼び、この規模であれば間違いなく神作が世にリリースされ、儂らエロゲー好きたちにとって伝説を生み出す瞬間と、誰もがそう思っておった……。

 

 しかし、いざ蓋を開けてみれば、延期に次ぐ延期に一時制作の停止。その停止期間が終わり紆余曲折あった後、ようやく発売日が決まったと思えば、発売の翌日に社長が失踪。いざゲームをプレイしてみたら、スッカスカな容量(現代で解凍した後のデータ容量が1.2GBとかあり得る? しかも、フルプライスで)とストーリーであり、さらには立ち絵も使い回しで、エンディングはまさかの無音(バグではなく仕様)。OPムービーなんてもんはなぜか実装されておらず、動画サイトでなければ見られない始末。そして何よりも……主人公がクソ。

 

 もともとが、『素晴らしくも温かく綺麗な純愛を』というキャッチフレーズじゃった。

 

 当然、エロゲーマーたちからすれば、さぞかし主人公やヒロインたちとの甘酸っぱく、そして温かな純愛を追体験できることだろうと思ったら……肝心の主人公がクッソヘタレのチキン野郎で、更には無自覚なクズ。

 

 その一例を挙げるとすると、

 

『俺、君のことが好きだよ』

『嬉しい! 私も!』

 

 という形でベッタベタな告白が成功し、同時に性交シーンへ移り、まああれやこれやして、初めての行為を終えた主人公のセリフがこちら、

 

『……ご、ごめん、やっぱりなんかその、怖いから、付き合うのはやめよう……?』

 

 とか言い出す始末。

 

 儂らプレイヤーの第一声と言えば『は?』であり、その次が、『なんだァこのクソ野郎はァァァァァァァッッッ!!!!』である。

 

 しかも、何が酷いかと言えば、この主人公、全ヒロインのルートでこれやるからな!? さらには、ヒロインたちもお前頭大丈夫か? 精神科行った方がいいぞ? と心配になるレベルであり、こんなクズ発言をした主人公を許した挙句、確かにとなぜかあっさり引き下がるんじゃぞ!? どうなっとんのじゃマジで!

 

 さらに言おう! このゲーム、全ルートをクリアすると、おまけのルートがいくつか追加されるんじゃが……そこになぜかハーレムルートが存在する!

 

 いやまぁ、別にハーレムルートがあるのは一向に構わん! それがさ、かなり好感を得られる主人公であり、ヒロインたちも魅力的で、尚且つバカゲー的なノリであれば一向に問題はなかった! なのに……なのに! あのクソ主人公のノリ、まさかのメインルートと同じじゃからな!? 全員と散々ヤリまくった挙句、この関係はなかったことにしようとか……ふざけとるじゃろ! どこのスクール〇イズじゃマジで!

 

 しかも、質が悪いことに、この主人公は結局ハーレムルートだと、なぜか見知らぬモブ女性と結婚した挙句? 子宝に恵まれると言う謎END!

 

 他のヒロインがどうなったかと言えば…………うむ、正直あまりにも救いのないオチなので、伏せさせていただきます。強いて言えば……自と殺になったものが数名、そしてそう言う方面の店に堕ちた者が数名と……いやもう、本当に救いようがない。

 

 いやもう……温かな純愛はどこへ行った!? が、儂らプレイヤーの心の叫びじゃった。

 

 そんなクソすぎる特大の詐欺をくらった結果、儂らユーザーはブチギレ、会社は大炎上、殺害予告や爆破予告まで出すような者が出る始末。

 

 ゲームタイトルが『陽だまりと純愛の青空』というタイトルだったのじゃが、ユーザーたちはこのタイトルを弄って『血だまりと愛欲の曇空』、通称『黙れクソ』と呼称されることになった。

 

 当然、ユーザーたちが何もしなかったわけではなく、それはもうキレ散らかした挙句、ディスクを叩き割って制作会社に送ると言う行為をし、儂も便乗した。いや、あれはマジで許さん。

 

 ちなみに、良い点がなかったかと言えばそうではなく、サブキャラのルートだけは普通に良かったし、BGMの完成度も高かった。あとは……特典の画集とCDくらいじゃろうか。

 

 そして、更なる余談として……このゲームを製作した会社の社長、横領やら詐欺やらその他にも様々な犯罪を犯していたことがわかり、国外逃亡を図ろうとしておったところを逮捕されると言う、なんとも言えぬオチがあったが……『最悪で残酷な汚い犯罪を』というキャッチフレーズでもってこの事件は終息した。

 

 この出来事は『ダマクソ事件』と呼ばれることとなり、今でこそ一種の笑い話ではあるが、ゲーム制作の闇と言う闇が露呈したとんでもない事件となった。

 

 ……尚、あまりにクソっぷりから、その年のクソゲーの対象を決める祭典において、次点のゲームに圧倒的大差をつけて見事に大賞に輝いた。

 

 あのゲームの被害者は間違いなく、制作に携わった有名且つ人気のイラストレーターとユーザー、あとはプログラマーじゃろうか……ちなみに、シナリオライターもなかなか香ばしい前歴を持っとることが判明し、なんかもう……色々散々じゃった。

 

 クソが。

 

「……あー、まひろ君? なんだか愛憎入り混じった凄まじい表情をしているところ悪いんだけど、そろそろホテルを出ないかい?」

「……おっとそうじゃった。すまん、超弩級のクソゲーを思い出しとったら、なんか色々と芋づる式で記憶がな……」

「どれだけ酷かったんだい? そのゲームは」

「儂としても、あの酷さをどう言葉に表せばよいかわからんが……そうじゃのう……おぬしで言うと、とある研究者が画期的な物質を発見したかと思ったら、実はそれがガセで、それを発表した者が色々と金をだまし取っておった状況……みたいな?」

「度し難いね。死んだ方がいい」

 

 おおう、通じた。

 

 しかも、かなり顔が怖いが……なんじゃろうか、妙に儂と同じく実感が籠っとるような……え、まさか祥子姉もか?

 

 ……ははっ、まさかな。

 

 まるで般若の如き表情故、ちっとばかし変なことを考えてしまったらしい。

 

「さて、一度君の家に行き、他の人たちと合流しようか」

「じゃな。……そう言えばおぬし、美穂たちに会うのは初めてか?」

「直接対面する、と言う意味では初めてだね」

「む? その言い方じゃと、それ以外では会っとるのか?」

「君とデートする前日に、ビデオ通話でね」

「そうじゃったのか」

「あぁ。君とのデートにあたり、知っておくべきことを教えてもらっていたのさ。君の性格や、好きなこと、趣味、性癖、告白するタイミングに、その使用するべき言葉などなど、色々ね」

 

 なるほどのう、と頷いたところで、はたと気付く。

 

「ほうそうか……って、ちょい待ち。今なんか、性癖とか聞こえたんじゃが、気のせいか?」

「気のせいじゃないが?」

「なんちゅーことを聞いとんねん!」

「はっはっは、まあいいじゃないか。おかげで君も満足だろう?」

「あれはもう満足とか言う次元じゃないからな!? まったく……」

 

 儂としてはある意味では悲惨じゃったからな?

 

「というわけだ。そろそろ出ようか」

「……はぁ、それもそうじゃな」

 

 なんか知らん間に欠席になっとったが……うぅむ、まあよいか。

 

 

 ホテルをチェックアウトした儂らは、歓楽街を後にする。

 

 ちなみに、さすがに今の髪色では何かと問題なりそうだと思った儂は、黒髪黒目に変えておる。

 

 あと、調査の時に変えた祥子姉の髪色も戻してある。

 

 というわけで、歩きで帰宅。

 

 正直、体の節々が痛むがな。

 

 幸い、肌の表面に残っておった痕は幸い成長と同時に消えとったからいいんじゃが……。

 

 ちなみに、儂ら二人で出たら、なんかこう、まばらにおった者たちから視線がそこそこ来たが……ま、まあ、女二人じゃからな、仕方ない。

 

 歓楽街を後にした儂らは、そのまま真っ直ぐ屋敷へ。

 

 歩きながらふと昨日気になった話を祥子姉に尋ねてみることにする。

 

「そう言えば祥子姉よ」

「ん、なんだい?」

「昨日のデート中、たしか発症者が結婚しようとしない場合、お見合い婚があるとか言っておったが、あれはどういう意味じゃ?」

「あぁ、あれね。言葉通りの意味さ。んー……なんて言えばいいのか……まあ、君にはもう関係のない話ではあるんだけど……発症者は基本的に、ほぼ例外なく優秀な能力を保有しているだろう?」

「まあ、そうじゃな」

 

 儂ですら、変色以外の二つはかなり有用じゃからのう……。

 

 実際、『成長退行』は時を進める・戻すと言う能力で、『獣化』は動物の能力を得る能力。

 

 身体能力の向上が可能な『獣化』と、どんな物でも時を戻して修理ができる『成長退行』は、破格と言えるし、何より優秀じゃろう。

 

「まだ確証がある、と言うわけではないと言うことを念頭に置いてこの話を聞いてほしい」

「お、おう」

 

 念押しするように、そしてできればこの情報を漏らさないでほしいと表情で儂に伝える祥子姉に、儂は少したじろぎなら頷く。

 

 儂の反応を見て満足そうに頷き、祥子姉が話を切り出す。

 

「まず、現状実例が無さすぎてまだまだ確定情報、と言うわけではないんだけど……どうやら発症者が子供を作った場合、何らかの能力が発現するらしくてね」

「……は!?」

 

 とんでもない情報が祥子姉からもたらされ、儂はぎょっとする。

 

 儂のその反応に、祥子姉はだろうね、と苦笑しつつ話を続ける。

 

「能力はかなり有用である、というのは子供にも言えることらしい。まあ、親よりも強力かどうかと言われると……まだまだ実例の少なさから正確なことは言えないけどね。ただ、能力を持って生まれる可能性がある以上、国としてはただ遊ばせておくわけにはいかないだろう?」

「……な、なるほど、のう。つまり、国としては『は? 有益な能力を持った子供が生まれる可能性があるんだから、結婚して子供作ってくんね? あとそれで国に貢献してよ。保護してるでしょ? ん? ん?』ということか?」

「言い方に色々と悪意を感じるけど……ま、そう言う事さ」

「な、なるほどのう……」

 

 それはたしかに、お見合い婚をさせるわけじゃな……。

 

 現状、日本は少子化によって子供よりも老人の方が多く、将来的にはどんどんと人口が減ると予想されておる。

 

 国としては、たくさんの人が結婚し、そして子供を産んでほしいと思っとるが……ま、結婚自体にあまり大きなメリットがない、というか、そもそも無理して結婚しなくとも楽しい生活が送れる以上、しなくともよい、と考える若者が多いからのう。

 

 そのくせ、増税やらろくでもない法を整備するやら、本当にどうにかする気あるのか? みたいなことを平気でしてくる以上、結婚をしたい! なんて考えるのは、よっぽどお互いが好きか、行き遅れたくない、みたいな考えがあるかのどちらかじゃろうな。

 

 儂とて、この体にならなければ、おそらく一生独身の可能性があったからのう。

 

 今は全然結婚してよかった、と思わんでもないし。

 

 しかし、それ以外の人間はどうじゃ?

 

 将来的に働き手が少なくなる以上、どうしたってどうにかしなければならない期間まで刻一刻と迫っとるわけじゃ。

 

 なるほど、たしかにその分を能力で補うことが出来る可能性があるのならば、そこへ賭けるのも納得と言うものじゃが……

 

「なーんか、気に食わんのう……」

「ははっ、それは同感だね。自分たちの失敗を棚上げして、人生が大きく変わってしまった者たちへ変な責任を負わせる。本当に、度し難い」

「おぬし、一応国関係の者じゃろうに、言って大丈夫なのか? そのようなことを」

「問題ないよ。私は君と結婚した。ならば、文句を言われる筋合いはあるまい? それに、君はおそらく、日本で最も伴侶が多い発症者だから」

「え、マジで!?」

 

 まさかの儂の状況に、目を見開いて聞き返せば、祥子姉はうん、とにっこり笑って肯定。

 

「現在の未婚者を除けば、平均人数は大体二人か三人。一番多いのは、現状五人の君と世界で初めて発症させた、O3の創設者に、例の薬を開発した薬士創一、あとは……あー、なんだったかな、どっかの会社の社長だったかな。ま、こんな所だったんだけど、この後君が私との婚姻届を提出すれば、晴れて日本一、というわけさ」

「ま、マジかー……」

 

 さすがだね、と本気で褒めたような言葉を儂に言って来るが、儂的にはまさかの日本一という部分に何とも言えない気分になる。

 

 ……そ、そうかー、儂、多いのかー……。

 

「ま、世界一ではないんだけどね。多分、無理だろうし」

「む、そうなのか?」

「まあねー。具体例を挙げると……たしか、アメリカのO3支部で支部長を務めている人物が十九人で、その次がロシアの二十七名だったかな」

「バケモンか!?」

「ははっ、海外はスケールが違うよね。その話を聞く度に、日本は慎ましやかだと思わされるね」

 

 ははは! と海外の猛者たちと日本の発症者たちを比較して、そう話す祥子姉。

 

 感覚が麻痺しとる気がするがな、その感性はは。

 

 とはいえ、たしかに日本はまだ慎ましやかなんじゃなぁ……。

 

 二十七人に比べれば、六人など可愛いもんじゃな、マジで。

 

「で、話を戻すと……国としてはやはり、是が非でも能力を持つ可能性がある子供を産んでほしいわけだね。それも、できる限りたくさん」

「まあ、そうじゃろうな。じゃが……無理矢理なのか」

「実際問題、容姿が優れている、というのも理由の一つではあるだろうけどね。だって、すごく可愛い人、カッコいい人がいる! 結婚したい! と思うのは当たり前のことだろう?」

「まあ、そうじゃな。人並みの感性を持つのであればそうなのではないか? どんなに恋愛がどうでもいいと思っている者でさえ、少しは考えそうではあるしな」

 

 儂とて、大して恋愛に積極的ではなかったし、どちらかと言えばどうでもよいというスタンスに近かったが、それでも恋愛系のゲームをしとると、こんなヒロインと付き合えたら面白そう、とは思うことはあったからのう。

 

「そうだろう? 容姿さえ優れていれば、勝手に好きになってくれる人がいる。じゃあ、その誰かと結婚して子供を作ってほしい、と思うわけで。……はぁ、人の心を何だと思っているんだかね」

「まあ、あくまでもお見合いじゃろう? であれば、結婚したくないと思えばしなくても良いのではないか?」

「ま、そうなんだけどね。こう言っちゃなんだけど、国の法律なんて、発症者たちが暴動を起こせば無いに等しいよ。強力な放出系の能力を持っていれば、それだけで蹂躙されかねないし。しかも、国としては、数少ない発症者を減らすわけにはいかないから、殺せないと言う縛り付き。けど、発症者はみんな心優しい人たちばかりだから、誰一人として暴動を起こそうとはせず、普通に従うんだけどね」

「なるほどのう……」

 

 つまり、この病の選定条件めいた部分に助けられとるわけか。

 

 ただ、あまり付け上り過ぎれば報復されそうではあるがなぁ。

 

 普段温厚な者ほど、キレたら怖いしな。

 

「それに、少しでも発症者たちが問題を起こせば、発症者たち全員が危険人物、だなんて思われかねない。全体を考えれば、お見合い婚は大した問題じゃない、ってことだね」

「なるほどのう。なんと言うか、色々と面倒なんじゃな、改めてこの病は」

「まあね。あ、ちなみにだけど、結婚相手が一人だった場合でも、お見合い婚をさせられるよ」

「え、そうなん!?」

「うん。一人では、子供を多く作るにしても、色々問題だしねぇ……ペース的な意味で」

「はぁ~~……なんと言うか、本当にひっどいのう」

 

 こういう、TSしてしまう病が題材の物語とか、そんなバカみたいなことにはなることはないと思うんじゃがのう……異世界転生・転移ではない限り。

 

「同感。あと、君の能力が絶対にバレてはいけない理由の一つがこれなんだけどね」

「どういう事じゃ?」

「……正直、非人道的とも言えるかもしれないんだけどさ、君の能力『成長退行』は、言わば時間を進めることと戻すことがその本質だろう?」

「まあ、そうじゃな」

 

 あの調査の日、儂の体だけでなく、祥子姉の体や、壊れたスマホを修復することもできたからな。

 

 たしかに、こんな能力があるとわかれば、色々と厄介なことになるじゃろうが……。

 

「……これは、あくまでも仮説だよ? 仮にもし、君が妊娠したとしよう」

「う、うむ。正直、儂自身が妊娠したいとはあまり思わんが……」

 

 ただ、あやつらは絶対に儂に仕込みそうじゃが……。

 

 ま、その時はその時じゃな。

 

 中絶など絶対にせん。

 

「……時間を進めると言うことはさ……君の体内にいる胎児の時間も進む、と言うことではないかい?」

「――ッ!」

 

 祥子姉の仮説に、儂は体をびくっと震わせ、息を呑んだ。

 

 その声音は非常に真剣な物であり、儂の体の熱を奪うかのような感覚に陥らせる。

 

「もしこの仮説通りならば、君はその……一瞬で出産が出来ることになるわけだ」

「……ま、マジもんの非人道じゃな……」

 

 儂がそう感想を零すと、その声は震えておった。

 

「だろう? 私は研究者だ。だからこそ、様々な視点で考え、様々な仮説を立て、それを立証するべく研究する。しかし、この仮説は私だけでなく、割とかなりの数の者が思い至る可能性が高い。これが国にバレたことを想像してほしい。なんかもう……ろくなことにならない気がするだろう?」

「うむ、ものすごくな。むしろ、そんな発想が出て来るおぬしも怖いし……何より、儂もなんとなくそうなのではないか、と思っておったんで、自分も怖い」

 

 正直な所、儂ももしかすると薄々そうなのではないか、と考えたことはあった。

 

 時間を進める、戻すと言うのは、できる幅が広すぎるのではないか、と。

 

 故にこその考え。

 

 うわぁ……絶対バレたくないのう。

 

「ま、そんなことはさせないために、君のそのデータは消去してあるよ。バックアップすら残さず、君の能力についての記録は消した。色々と考えたら、残すよりも残さない方が何かと君の不利益にならないしね」

「ほんと、助かる。……というか、マッドサイエンティストな割にはまともな感性があったんじゃな」

 

 儂や自分自身を実験台にしようとするような性格じゃと言うに、そこはまともなのな。

 

 まあ、でなければ慕われんか。

 

「ははっ、私とて非人道的行為をするつもりはないさ。もしそんなことをするのであれば、それは研究者とは呼べず、ただの人を人とも思わない外道さ」

「それはそうじゃな」

「だろう? だから安心してほしい。このことは誰にも漏らさないし……というか、仮に漏らしたらこの作品の根底が揺らぐだろう」

「おぬしは何を言っておる」

「ははっ、気にしなくていいさ。というか、そんなドシリアス方向に行くと思うかい?」

「……ないな」

 

 そもそも、あやつらとの生活は、それはもう騒がしくも楽しいものじゃからのう。

 

 こんなことを言われても、それがどうした? としか言えんわい。

 

「そうだろう? つまり、私がデータを消した時点で、このことを知るのは君と私だけ、ということさ」

「じゃなー。……しかし、うぅむ、結婚が強制か……それ、何かメリットはないのか?」

「あるよ?」

「あるんかい」

 

 てっきりないと思っておったが、どうやらメリットはあるらしい。

 

「うん。まあ、結婚した人数に応じて、祝い金がもらえるね。一人頭……たしか、十万だったから、君は六十万だね」

「ほ、ほう」

 

 普通に多いな……。

 

「あと、子供が出来たら、一人につき二十万くらい」

「多くね!? え、そんなに貰えるのか!?」

「そうだね。だって、希少だからね。というか、これでも少ない方だと思うよ? ただでさえ、国は発症者たちに妙な責任を負わせてるんだからね。やれ結婚しろだ、子供作れだ、国に貢献しろだ……元々、ごく普通の一般人ばかりだったのに、そんなことを言ってくるわけだからね。もっとあってもいいと思うよ。しかも、これって継続じゃなくて、子供が生まれた際だけでもあるし」

「あー……それはまぁ、たしかに」

 

 日本には百五十人ほどしかおらんが、それでも少数にやらせるには色々と問題じゃろうなぁ……。

 

 儂らにも、能力にデメリットが存在するんじゃから。

 

「とはいえ、君はあまり意味ないと思うけどね。だって、結婚した相手の一人が、あの羽衣梓グループのご令嬢なわけだから」

「そうじゃのう……」

 

 正直、瑞姫と結婚した時点で、マジで金銭面の心配がないと言う状況になっとるからのう。

 

 あー、いや、それは儂の家も同じか?

 

 なんか、会社やっとるみたいじゃからなぁ、両親。

 

「ま、実際のところ『TSF症候群』に関する法律と言うのは、まだまだ試用期間みたいな物だし、今後変わっていくと思うよ。だからま、最悪の方向に行くことはないんじゃないかな? 事実、政治の部分に発症者の人もちらほらと入り込み始めてるし」

「へえ、それは応援したくなる事柄じゃのう」

「だろう? 私も、是非ともその人たちには頑張ってほしいね」

「うむ、同感じゃな」

 

 そのような者たちがおるのならば、色々と安心じゃろう。

 

 にしても、お見合い婚、のう……まあ、善悪だけでは国は運営出来んし、利益を求めることも大事なんじゃろうが、なんとも言えん、複雑な問題じゃのう。

 

「あ、そうだ、実は昨日の出来事全て、映像記録として残してあるんだけど、君の旦那さんたちに見せていいかい?」

「見せていいわけあるかぁぁぁぁ、バカ者があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

 

 ほらな! やはりシリアスでは終わらんよ!




 どうも、九十九一です。
 前書きにある通り、本作は基本的に、まひろを中心としたバカみたいな日常の作品なので、発症者絡みで戦争が!? とか、危険だから隔離される? んなことさせねぇ! デモするぞデモ! とか、そのようなことは一切考えておりません。あと、マジでまひろの能力の可能性がものすごい生々しくえぐいことになってますが……作中のメインキャラ、及びサブキャラたちはしっかりと道徳心を持っていますので、そのような使用法は絶対にしませんのでご安心ください。むしろ、絶対にさせねぇからなぁ!? とか思ってます。
 次回も、可能であれば明日も投稿したいなと考えております。まあ、期待しない程度以下略。
 では。
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