爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常   作:九十九一

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日常123 結婚式前夜。個別の語らい:上

 そんなこんなで一週間が終わり、金曜日。

 

 今日一日、朝から儂ら一家は全員がどこかそわそわとしており、学園でもクラスメート、とりわけ儂らと仲の良い者たちも妙に浮ついておった。

 

 答えはシンプルで、明日が儂らの結婚式の日じゃからじゃ。

 

 儂も朝起きて、なんと無しに明日が結婚式なんじゃなぁ、と思わずしみじみするほど。

 

 そのせいかどうかはあれじゃが、儂ら全員、いつもより言葉数が少なく、授業にも身が入らなかった気がする。

 

 まあ、通常起こり得ない催し物じゃからなぁ、学生時での結婚式など。

 

 しかしそれでも、明日は結婚式。

 

 今更狼狽えたところで何かが変わるわけでもなし。

 

 というわけで、なるべくいつものように学園での一日を過ごす。

 

 学園での一日を終えた儂らと言えば、屋敷には帰らず、そのまま明日の結婚式の会場である羽衣梓グループ直営のホテルへ宿泊することに。

 

 一応、予行という形で流れを確認したんじゃが……やっぱあれ、儂の嫁ポジが半端じゃないんじゃけど! という、ツッコミが発生したが、特に問題はなく予行を終えて夕飯を食べて、各々の部屋へ。

 

 一応戸籍上では既に結婚してはおるのじゃが、結婚式は一つの区切りということで、今日は各々一人で過ごすことになる。

 

 とはいえ、他の部屋に行ってはいけない、などということはなく、行き来は自由なんじゃがな。

 

 しかし、なんとなく全員が明日の結婚式を思ってか、今の所誰かが来る、ということはなかった。

 

 一人ででかいベッドに寝転び、天井を見つめながら明日のことを考える。

 

「……結婚式、か」

 

 ぽつり、となんと無しに呟く。

 

 儂がこの姿になってもう三ヶ月近く。

 

 気が付けば一生涯における伴侶が六名もいる状況となり、気が付けば明日には結婚式という日になる。

 

 まだ学生であるにもかかわらず、まさかこうなるとはのう……。

 

 人生とは、よくわからんもんじゃ。

 

「……しかし、儂はともかくとして、美穂たちはどう思っとるのじゃろうか……?」

 

 ふと、そんなことを考える。

 

 こう言ってはなんじゃが、儂らはまだまだ若い。

 

 特に、結衣姉と祥子姉の二人を除けばごりごりの高校生であり、青春真っ盛りとも言える時代でもあるわけで……果たして、こんなに早く結婚してしまっていいのじゃろうか? そんな心配が頭の中に浮かんでくる。

 

 特に、美穂とアリア、ましろんに関しては、一般家庭でもある。

 

 余計に心配になるわけじゃが……。

 

「……う~む」

 

 わからん。

 

 こういうのは、それぞれと個別に話すのが一番なんじゃろうが……なんか、聞きにくいんじゃよなぁ。

 

 などと考えておると、コンコン、と扉がノックされた。

 

「開いとるぞー」

 

 誰かはわからんが、少なくともこのホテルのワンフロアは儂らの貸し切りである。

 

 他のフロアは、明日の結婚式に参列する者たちが泊まっておるとか。

 

 あと、その者たちはこのフロアに入ることは禁止されておるようで、儂の部屋を訪れるのは、我が旦那共だけである。

 

 果たして誰が来るのか……。

 

「まひろー、私だけどちょっといい?」

 

 正解は美穂。

 

「どうしたのじゃ?」

「ちょっと、話をね」

 

 突然部屋を訪ねて来た美穂に用件を尋ねると、どこか恥ずかしそうに、けれどはにかんだような表情でそう言って来た。

 

 話、か。

 

「……うむ、では横に座るといい。その方がいいじゃろ?」

「えぇ、それじゃあ失礼して……っと」

 

 美穂は小さく笑うと、儂のすぐ隣に腰を下ろし、儂の手に自身の手を重ねた。

 

 ……なんじゃろう、この初々しいカップル的な状況は。

 

 すっごい今更感はあるが、なんともドキドキする。

 

「……で、話とは?」

 

 妙な空気が流れ、なんとも落ち着かない気分になったので、さっさと話しに入ることにする。

 

「あ、うん。……あの、さ。私たちって、明日結婚式するじゃない?」

「まあ、そう、じゃな。……なんじゃ、不安なのか?」

「不安じゃない……と言えば嘘になるかなぁ」

 

 儂の指摘に、美穂は一瞬否定の言葉を言おうとするが、すぐに苦笑しながら指摘を肯定する。

 

「……ま、そりゃそうじゃろ。儂らはまだ学生で、本来結婚式……いや、結婚自体は大人になってからやるものと、漠然と考えておったからな」

「そうね……」

「じゃから、不安になるのも仕方あるまい。……というか、儂も普通に不安じゃしな! はっはっは!」

「……あんた、ちょっとおちゃらけて励まそうとしてる?」

「バレたか」

「そりゃあね。一年とはいえ、あんたとは何かと一緒にいることはあったし、理解してるわよ。最近は一緒に住んでるんだし」

「ははっ、そうか、そりゃそうじゃな」

 

 自身のことを把握される。

 

 なんとも嬉しいと言うか、恥ずかしいと言うか……。

 

 いや、好きな者にそう言われるんじゃ、普通に考えて嬉しいじゃろう。

 

「……ねえ、まひろ」

「ん、なんじゃ?」

 

 ふと、美穂が真面目な顔をしだした。

 

 なんか、かなり真剣な様子じゃが……儂はいつも通りに振舞う方が吉じゃろう。

 

 変に真面目になってもちょっとあれじゃし。

 

「……今更なんだけどさ、まひろって私たちと結婚することに対して、思うところはないの? 自分たちで言うのもなんだけど……ほら、私たちってまひろを襲うし……」

「……ふむ。なんとも今更感のある質問じゃが……ま、ないと言えば嘘にはなる」

「……そっか」

 

 儂の返事に、美穂はどこか寂しい気な表情を浮かべた。

 

 一瞬心臓がきゅっとなるような気分になったが、儂は言葉を続ける。

 

「しかし、そんなものはどうでもよい」

「……え?」

「儂とて、嫌な物は嫌とハッキリ断る。おぬしらの告白だって、少なくとも儂に恋愛感情があったから応えたんじゃ。当然、この年齢、立場での結婚に思うところがないわけではないがな、そんなもん、時間がいつか解消してくれるじゃろ?」

「まひろ……」

「というかじゃな、おぬしらはあれじゃ。儂をこーんな体にした責任を取ってもらわねば困る。仮に、おぬしらが儂を捨てようものなら、儂はこの世から旅立つ自信があるわい」

「いやそれは絶対しないから一生涯まひろを愛し続けるから」

「お、おう、そうか……て、照れるのう……」

 

 冗談めかして言ったつもりだったんじゃが……真正面から馬鹿正直に言われると、すごく嬉しくなる。

 

「正直、思うところはあっても、それ以上に好きという気持ちと、一緒にいたいという気持ちが強いんじゃ。そんなことなど、どうでもよくなると言うものよ。しかしまあ……言葉で言っても不安になると言うのならば……こうするしかないわな」

 

 話の途中で美穂の顔を見るが、そこには微妙に信じ切れていないような顔があり、儂は苦笑しながらそう言って、

 

「ん、ちゅ――」

「――!?」

 

 美穂の唇に儂の唇を重ねた。

 

 まあ、キスじゃな。

 

 とは言っても、クッソ濃厚な奴ではなく、本当に触れるだけのささやかなものじゃがな。

 

「ふぅ……ほれ、これで安心できるじゃろ?」

「……え、ええ、なんと言うか、素面のまひろからキスされるとは思わなかったけど……うん、安心した。というかまひろあんた……」

「ん? なんじゃ?」

「……すっごいヒロイン力高いわー」

「どういう意味!?」

「いやほら、なんかこう、創作物だとさ、不安になるのって割と男の人な気がするわけよ、私」

「まあ、わからんでもないが」

 

 あれじゃよな、こう、将来幸せにできるのか、とか、ちゃんと養っていけるのか、とか、一緒に歩んでいけるのか、とか、そんな感じ。

 

「で、そう言う時ってヒロインが励ますじゃない? だから、なんとなーくまひろがヒロインだなーって」

「ま、おぬしらに散々嫁だ嫁だ言われて来て、考えも微妙に変わったんじゃろ」

 

 というか、どうも儂の恋愛の価値観とか、妙に乙女っぽいらしいからのう……旦那共や、健吾と優弥に指摘されたし。

 

 釈然とせんが。

 

「でも実際、明日はあんただけウエディングドレスじゃない」

「……ほんとにな。くそぅ、クラスメートたちも来ると言うのに、儂がウエディングドレスとか……今更ながら、恥ずかしくなってきたな」

「ふふふ、逃がさないわよ?」

「じゃよなぁ! まあ、儂もその辺は覚悟しとるが」

 

 とはいえ、それでも恥ずかしいんじゃがな。

 

「……さて、私はそろそろ戻るわ」

「もうよいのか?」

「えぇ、まひろに話したらすっきりしたし、これで安心して眠れるってものよ。じゃ、おやすみ」

「うむ、おやすみじゃ」

 

 そう言って、美穂は部屋を出て行き、儂は再び一人になる。

 

 不安、かぁ……そう言えば儂、美穂とアリア、ましろんの両親に会っとらんが……明日、挨拶せねばなぁ。

 

 いやまて、儂って嫁ポジなんじゃよな? ということは、儂って挨拶する側じゃなくて、される側なのか?

 

 ……わからん。

 

 結婚式など行ったことがないからのう……。

 

 まあ、その辺りは明日でよいか。

 

 などと考えておると、再びドアがノックされる。

 

「開いとるぞー」

 

 美穂が来てから大して間を空けずに来客か……今度は誰じゃ?

 

「まひろちゃん、わたしです」

 

 瑞姫じゃった。

 

「どうしたのじゃ?」

「少し、お話を、と」

 

 用件を尋ねると、どうやら瑞姫も美穂と同じ理由でこちらへやって来たみたいじゃった。

 

「おぬしもか」

「おぬしも……?」

「あ、うむ、ついさっき美穂が訪ねてきてな、ちっと話をしておったんじゃ」

「そうでしたか。えーっと、もしかしてもう寝る所だったりしますか?」

 

 もしかしたら出直した方がいい、などと思ったらしい。瑞姫らしくは無いが。

 

「なんじゃ、おぬしらならばもっとこう『まひろちゃんと二人きりになれるチャンス! 逃しませんよ!』くらいは言いそうなんじゃが?」

 

 似ていないものまねと共に指摘すると、瑞姫は苦笑いを零す。

 

「あ、あはは……さすがのわたしでも、今日ばかりは……」

「……ふむ。なるほど、おぬしも不安、というわけか?」

「わたしでも、不安に思うことだってありますよ」

「え、マジで? 全然信じられないんじゃが」

「どういうイメージをしているのですか!?」

「ド変態ロリコンお嬢」

「否定はしません。むしろ、喜んで肯定します」

「褒め言葉じゃないぞ?」

 

 こやつの思考回路はマジでどうなっとんのじゃ。

 

 しかし……そうか、こやつでも不安に思うことはあるのか……。

 

 ま、そうじゃな。

 

「ほれ、隣に座れ。少し話そう」

「あ、はい。では、失礼しますね」

 

 ワンピースの裾を抑えながら、上品に腰を下ろす瑞姫。

 

 こういうところは、育ちの良さを感じるんじゃがなぁ……普段があれじゃからなぁ……。

 

「……あれ?」

「どうかしましたか?」

「いや、いつもならば、儂を抱っこして、自身の膝に座らせる場面と思ってな」

「あー、そうでしたね。そちらの方がいいですか?」

「いや、別にそう言うわけではない」

 

 じゃが、瑞姫の膝に座るのは、密かに気に入っておるので……実はちょっぴり残念に思っていたりするが、絶対に瑞姫には言わん。

 

 言ったら、明日以降、ずっとこやつの膝に座っていそうな気がするから。

 

「で? 話とはなんじゃ?」

「……えっとー、ですね? その、お恥ずかしながら、本当にわたしがまひろちゃん結婚しても良い物なのか、と思ってです、ね? ほら、わたしって出会ったばかりの頃にあれしましたし……」

「あー……」

 

 瑞姫の話に、儂は当時のことを頭に思い浮かべながらなんとも言えない声を漏らした。

 

 たしかに、当時を振り返ってみると、こやつってなんかこう……あれじゃったなぁ。

 

 初めて出会った日は、いきなり美穂と共に儂を着せ替え人形状態にし、そこで仲良くなった儂らは春休み中にちょこちょこ遊ぶようになり、そして新学期になぜか告白……というか求婚される。

 

 結局、その短い間に儂はこやつに対して少なからず好意的な感情を抱いておったから承諾。

 

 ……あれ? もしかして儂、ちょろい? もしかしてチョロイン?

 

 いや儂男じゃから…………ま、まあ、今は普通に好きと断言できるから問題なしじゃな! うむ!

 

 ともあれ、瑞姫のこと。

 

 たしかに、旦那共の中で関係性が浅い状態で結婚に至ったのは瑞姫と祥子姉の二人。

 

 特に、瑞姫に関しては初手があれじゃからなぁ……そう考えると、結婚式というでかいイベントを前にして不安が出て来てもおかしくはない、か。

 

「だから、その、もしかするとまひろちゃんからは良く思われていないのでは? と、つい考えてしまいまして……」

「ふむ……ま、たしかに最初はあれじゃったが」

「ぐふっ」

「しかし、おぬしのおかげで今の生活になったとも言える」

「……へ?」

「というかじゃな、おぬしが美穂だけでなく、アリアにましろん、結衣姉に祥子姉と、儂を好いて、儂も好いた者たちとの結婚を勧めたからこそ、今の頭のおかしい日常があるんじゃぞ? 正直、感謝しとるよ、いやほんとに」

「……まひろちゃん」

 

 儂は基本的にめんどくさがりで、寝ることが大好きな人間ではあるが、非日常や楽しいことは大好きじゃ。

 

 もちろん、酷い目に遭うこともあるにはあるが、それでも今の生活はとても充実しており、心底楽しい。

 

 そんな状況を創り出した張本人が、瑞姫じゃと儂は思う。

 

「とはいえ、おぬしが色々とやらかしておるのは事実じゃからな! できれば今後は控えて――」

「それはできない相談ですね! まひろちゃんを襲う――ゲフンゲフン。可愛がるのは、わたしたちの特権であり、生き甲斐ですからね!」

「じゃよね!」

 

 即座に否定された。しかも、儂が言葉を言い終わるよりも早く。

 

「……よし。いつもの調子に戻ったな?」

「あ」

「やはり、おぬしは自身の欲望に忠実な方が面白いし、見ていて飽きんわい」

「まひろちゃん……」

「んー……まぁ、美穂にもしたし、おぬしにもしておくかのう」

「はい? 一体何をんむ!?」

「ん、ちゅ……」

 

 疑問を口にする瑞姫の口を塞いだ。

 

 正直、儂からこやつらにキスしたことなどなかったからのう。

 

 せめてこう言う時くらいは儂の方からしたい。

 

 ……というかまあ、儂の場合は明日はこう、受け入れる側じゃからなぁ……新婦の方じゃから。

 

 うぅむ、儂、男なのになぁ……。

 

「ふぅ、ほれ、儂からのキスじゃ。どうじゃ?」

「……」

「あれ? 瑞姫? おーい」

 

 突然固まった瑞姫の目の前で手を振ってみるも反応はない。

 

 どうしたのじゃろう、と思ったらぐらり、と瑞姫が後ろ向きに倒れ込んだ。

 

「ちょっ、瑞姫ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「……我が生涯に一片の悔いなしッ!」

「悔いばかりじゃろおぬしの場合! ってか、まだ結婚式前! せめて死ぬなら、老衰にしてくれ! あと、せめて子供は残せ子供は!」

「ハッ! それはつまり、今から作りましょうと言うお誘い!?」

「んなわけあるかい! あ、ちょっ、マジで今は止めろ! 明日の結婚式に支障が出る!」

「……むぅ、仕方ありません。別の機会にします……」

「別の機会というか、せめて卒業後にせい、卒業後に」

 

 大学ならまだしも、高校で色々不味いじゃろ……いやほんとに。

 

「……なんだか、まひろちゃんとお話していたらスッキリしました。わたしは部屋に戻って寝ますね」

「うむ。おやすみじゃ」

「はい、おやすみなさい。明日は楽しみましょうね」

「ははっ、うむ。そうじゃな」

 

 最後ににっこり微笑みながらそう言って、瑞姫は部屋を出て行った。




 どうも、九十九一です。
 ようやく結婚式の話です。長かったね、話が出てから。
 実は、この前夜部分の話はもう全部書きあがってるのですが、あまりに長すぎたので、三話に分割することにしました。正直、一日に三話上げるか、三日で三話にするか迷いましたが……一日で三話全部上げることにしました。
 時間は、15時と19時に上げます。
 次回の次回の次回は以下略……と言いたいところですが、正直結婚式の話とか難航しそうなので、期待しないで下せぇ。
 では。
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