爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常 作:九十九一
交流会を終えてから二日後の朝。
「やあやあモルモ――こほんっ、全裸姿のまひろ君、元気かい!」
「……夏休みという、学生にとっての至福の時と言うべき惰眠タイムを邪魔し、尚且つ嫁のことをモルモットと呼ぶとんでもねぇ旦那に邪魔をされたことを除けば、まあ元気じゃな」
一度目を覚ましたものの、学園がある普通の平日ではできない、二度寝という至福の時間を邪魔する声と発言により起こされた儂は、当てつけの意味も込めてそう返す。
ちなみに、マジで全裸じゃ。
夏場はこれが楽でな。
とはいえ、今はロリコンのメイドたちやド変態の瑞姫がおるし、他の面々も儂を襲うので、自室だけじゃがな。
「ははは、いやぁ、それはすまないね!」
「反省0かい」
「当然だろう?」
「まったく……で? 何用じゃ? 見ての通り儂、二度寝しようとしてたんじゃが?」
「あぁ、実は君に頼みがあってね」
「頼み? なんじゃ、儂でないといかんのか?」
「正確に言えば、君でなくとも問題は無いが……身近にいるのが君だったからね。というわけで、これを飲んでくれたまえ」
すんごい理不尽な理由で頼みごとをされたが……そんな祥子姉が儂に手渡してきたのは、何やら淡い水色の謎の液体が入った小瓶。
飲んでくれ、と言っておるから……まあ、薬なんじゃろうが……。
「のう、これは一体何じゃ?」
「君は、薬士創一を知っているだろう?」
「まあの。というか、発症者であれば確実に知っとる名前じゃよな? 例の開示薬もおぬしとその者の合作じゃし」
「そうそう。で、彼は様々な物を調合して薬を生み出す能力『調薬調合』を用いて、世のため人のためになるような薬を創り出しているわけだ。以前、美穂君たちに渡した生理による体調不良等を抑える薬や、開示薬、他にも気付け薬のようなものから、仮死薬のような特殊な薬まで、ありとあらゆる薬を調合し、調薬する人物で、人生を薬に侵されたのでは? と思えてしまうくらいの薬バカなんだが」
「すっごい不安になる紹介じゃなぁおい」
というか、仮死薬ってなんじゃ。
あれか? 実際に仮死状態になる薬か?
そう言えば、フグの毒は案外仮死状態なると聞くが……え、それ創ったの? マジで? やばー……。
「で、だ。彼は時折謎の薬を創り出してしまうことがあってね」
「ほ、ほう」
それはそれですっごい不安になるんじゃが。
「時たま、O3の人間……つまり、君たち発症者、もしくは私たち研究者がその実験をするわけだねHAHAHA!」
「何してんの!?」
「で、今回その薬が私の下に送られてきてね。どうやら、どのような薬なのかを調べてほしいらしい。そこで、君の出番というわけだね」
「なぜに!」
「当然だろう? この屋敷には、最新医療設備が整っているし、何より私がいる。TSF症候群の先頭を行く研究者であり、外科手術もこなせるこの私がね」
「ちょい待って!? え、おぬし外科手術できんの!?」
「できるよ? 当然だろう?」
「どこが!? というか、おぬしのスペックは絶対おかしい!」
ほんと、この人絶対おかしいから! なんで儂と結婚したのマジで意味不明なんじゃけどぉ!
「ハハハ、まあいいじゃないか。で、だね。それをくいっとやってほしいんだ」
「そんな酒をくいっと、みたいなニュアンスで言われても、普通に嫌なんじゃが!」
「大丈夫大丈夫。少なくとも、一日で効力は消えるらしいから」
「んん!? それ、明らかに薬じゃなくね!? 薬というか、何かヤバいドーピングする何かじゃね!?」
「まあまあ、何があっても私が君の命を助けるから」
儂がひたすらに薬を拒否しとると、突然祥子姉がイケメン顔+発言を儂にぶん投げて来た。
「くふっ……」
あ、やべ、ドキッとして変な声が出た……。
「おや、どうしたんだい?」
「い、いや、すまん、不意打ちにドキッとした……」
顔が熱くなり、少しそっぽを向きながら、不思議そうな顔をする祥子姉にそう返す。
「不意打ち? ……あぁ、そう言えば君は、イケメン的行動と言動、それから表情がツボだったっけか。ふふふ、ならば私にも考えがあるぞ」
「か、考え、じゃと……?」
「あぁ。失礼するよ」
「む? ――ひゃん!?」
突然、祥子姉が近づいて来たと思ったら、いきなり儂をベッドに押し倒し、覆いかぶさって来た。
え、な、何この状況!? すんごいドキドキする!
か、顔近い! いつもの冷静な笑みだけではなく、なんかこう……すっごいイケメン味を感じる妖しくも色気のある表情! あ、やばい、心臓がものっそい早くなっとる!
「おやおや、どうしたんだい? そんなに顔を赤くさせて……? それに、体も強張っているよ……?」
と、耳元で甘く囁かれ、ぴくんっ! と体が反応する。
え、な、なんじゃこれ……す、すっごいドキドキするというか……頭がふわふわしてくるんじゃが!?
「ふふふ、さて、お願いだけど……この薬、私の頼みなら……聞いてくれる、よね?」
脳が痺れそうなくらい甘い囁きに、なんだか頭が白くなっていき……。
「は、はいぃぃ……」
つい、OKしてしまった。
すると、今まで妖しい笑みを浮かべておった祥子姉の表情が、パッ! といつものようなマッドサイエンティストな笑みに変わり、
「よっし言質取った! じゃあ早速飲んで飲んで!」
やたら高いテンションになった。
儂が了承した途端、さっきまでの妖しい雰囲気を纏った祥子姉はどこへやらと言わんばかりの豹変っぷりに、風邪を引きそうです……。
で、儂はと言えば、
「……(かぁぁぁ~~~~っ)」
あまりの破壊力に顔を真っ赤にして両手で顔を覆っておった。
は、反則じゃろ、あれ……。
というか、儂のツボ、完璧に抑えられとる気がするんじゃけど……。
祥子姉、あんなことができるのか……ASMRの動画とか作って売ったら、跳ぶように売れそうじゃな……いや、旦那共のそういうことは、儂のじゃから、絶対に許さんがな!
……なんか儂、めんどくさい彼女みたいなことを考えたな、今。
むぅぅ~~~……どんどん精神が女性化していくのう……男の名残とか、この口調とエロゲをプレイすることくらいじゃね? 他、何かあるか? ……ないな。
そう考えると儂、案外男的要素が少なかったんじゃろうなぁ……。
……それと、これは非常にあれなんじゃが……儂、今全裸なんじゃけど。
どう見てもさっきの状況、そういうことを致す前振りみたいじゃね? 客観視すると。
それに……正直かなり危なかった、とだけ言っておこう。何が、とは言わんがな……。
……あとで、タオルとか用意してもらおう。
「おやおや、かなり可愛らしいことになっているが……そんなことよりも、この薬を! 早く!」
「わ、わかったわかったっ! わかったから、落ち着けぃ!」
狂気的なまでの笑みで迫って来る祥子姉を宥めつつ、ふぅ、と一息。
なんか、すんごい疲れる……。
「……まあ、了承してしまった故、約束通り飲むが……本当に大丈夫なんじゃろうな?」
「もちろんだとも。薬士創一君が作り出す薬はね、体に害がないと判断されない限り実験しないのさ。だから、安心して実験台になるといいよ!」
「いい笑顔でとんでもないことを言うなおぬしは!」
これが愛すべき嫁に対して言う旦那のセリフじゃからな? いや、そんな者と結婚した儂も儂じゃけども!
「はぁ、まあよい。では、くいっといくぞ」
「あぁ! 頼んだよ!」
「すっごいいい笑顔じゃな……では、まあ……ごくっ」
南無三! と意を決して薬を口の中へ流し込み、食道を通って胃へと流れ込んでいった。
味は……ラムネ味であった。
なぜに。
「……む? 何もない、が…………うっ……」
「まひろ君!?」
何事もなく拍子抜けした途端に、何か熱い物が体内を駆け巡り、ぱたり、とベッドに倒れた。
それを見た祥子姉が近寄って来て、儂の体を揺さぶる。
意識は全然あるし、特段体に不調はない……と思うんじゃが……なんじゃろうか、この言い表しようのない不安感は……。
が、熱い何かが嘘のように消えると同時に、儂はもぞもぞと体を起こす。
「まひろ君、大丈夫かい?」
「……はい、大丈夫なのです」
祥子姉に心配されつつ、いつも通り大丈夫じゃと言おうした儂の口から発せられた声は、いつもの口調ではない儂の口調であった。
「……え?」
「……あら?」
聞き間違いか? とお互いに顔を見合わせる。
「あー……こほんっ。まひろ君、体に異常はないかい?」
「問題ないのですけれど、わたくしの口調が少々おかしく……あら?」
え、なんか言おうとした言葉が、なぜか別の口調に変換されて言葉になって出て来るんじゃが!? え、なにこれ、気持ち悪っ!
「……あー……なるほどなるほど、薬の効果はそう言う……」
そして、明らかに異常事態が発生している儂を見ている祥子姉は、色々と察したようで苦笑しておった。
「これがどういうことかわかるのです?」
あぁ! やっぱり口調が変っ!
「とりあえず、それを確認するために、色々話してみよう」
「は、はいなのです」
くうっ、な、なんなんじゃ、この気持ち悪い違和感はっ……!
「まひろ君、まずは自分の名前と生年月日、それから血液型に……あとは好きな食べ物を言ってみてほしい」
「わかりましたなのです。……わたくしは桜花まひろと言うのです。お誕生日は、2006年の2月14日なのです。血液型はA型で、好きな食べ物は和菓子なのです」
な、なんじゃっ、本当になんなんじゃぁっ……儂ではない、儂の口調で、儂の声が出てくるぅっ!
「な、なるほど……それじゃあ次は好きなことを言ってみてほしい」
「好きなことは、眠ることとクロスワード、時代劇鑑賞、それからマンガやライトノベル、アニメなども好んでいるのです」
……く、くそぅ、いつもの儂の口調がぁ……爺な口調が出ないのじゃぁ……。
「ふむふむ……では、私の好きな所を挙げてくれたまえ。あ、一つでいいよ」
「どうしてなのです!?」
「面白そうだからというのと、もう一つ知りたいことがあってね。さあさあ、口にしたまえ」
「はぅぅ~~~……い、一度だけ、なのですよ……?」
あ、あれ!? なんか、否定できない何じゃけど!? なぜか、恥じらいながらの了承になっとるんじゃけどぉ!?
「あぁ、それで構わないとも」
「し、祥子お姉様は――」
お姉様!? お姉様ってなんじゃお姉様って!
なんか、明らかにおかしなことになっとるんじゃけどぉ!
「研究が大好きで、時たまわたくしに対して理不尽なことをなさいますけれど、わたくしたちのために様々なサポートをしていただいたり、ふとした時に見せる柔らかくて、無邪気な笑顔がとても魅力的なのです……」
ぬおぉぉぉ~~~~っ、いつぞやの結婚式の告白と同レベルの恥ずかしさが儂襲っているぅぅううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!!
「なるほど……もしや今、嘘が吐けないのかい?」
「そうなのです……」
あれぇ!? 否定しようとしたら、反対の言葉が飛び出たんじゃがぁ!?
な、なんじゃこれ……なんなんじゃこれは!?
「あー、なるほどなるほど……うん、おおよその薬の効果がわかったよ」
「そ、それはどのようなものなのです……?」
うぅぅっ、気持ち悪いよぉ、違和感じゃよぉ~~~っ……。
「おそらくなんだけど……二次元にいるような、中途半端なお嬢様口調になる上に、嘘が吐けなくなる薬、なんじゃないかなぁ、と」
「……つ、つまり?」
「簡単に言えば、今日一日、君は嘘が付けなくなるし、いつも通りに話そうとすると、謎なお嬢様口調に変換されるということだね。まあ……うん、ドーンマイ☆」
てへぺろ、と可愛らしい声と共にドンマイと言われた儂は、わなわなと体を震わせ……
「な、なななっ、なんなのです、それはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!???」
一気に、感情を爆発させた。
――夏休みのある日の朝、儂のアイデンティティがなんか失われました。
どうも、九十九一です。
こういうふざけた回の方がすんなり書ける辺り、やっぱり便利なんだなぁ、TSF症候群と強く感じます。やっぱり、ファンタジー要素は楽ですね。色々と。
次回も以下略です。
では。