爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常   作:九十九一

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日常29 図書委員長。特権あり、仕事多め

 呼び出しを受けて、一人で図書館へ。

 

「ふむ……やはり、ここの図書館はでかいのぅ……」

 

 無駄に凝った作りである上に、馬鹿みたいにでかい。

 

 数日前に軽く触れたように、この街にある市営の図書館よりも、遥かにでかいし、収められている書籍の量も多い。

 

 しかも、マイナーな専門書やあまり人目につかないラノベやマンガ、さらには同人誌までもが置かれておったりする。

 

 それ以外にも、お金がない者のために、参考書やら学術書なんかも数多く収められておるので、生徒の利用率もそれなりに高い。

 

 普通の高校ならば、あまり図書室の利用率は低いのかもしれぬが、この学園においてはむしろ利用率は高い。というか、下手をしたら在籍している生徒軒並み、個人的な理由で一冊以上借りたことがあるのではないか、というレベルじゃ。

 

 儂とて、たまに利用するしの。

 

 ラノベやらマンガなどだけではなく、時代小説なども好きじゃからな。あと、クロスワード系の本も置いてあったりするので、それをコピーしてもらったりなど、様々な用途で利用しておる。意外と、使い勝手が良いのでな。

 

 とは言っても、貸出カードは全く使用してはおらんがな。その場で読む程度で十分なのじゃ、儂は。

 

 ともあれ、ここの図書館は儂は好きじゃ。

 

 そう言う意味では、図書委員が遥かにマシだった、とも言えるな。

 

 ……もっとも、委員長になったのは想定外じゃったがな。

 

「すまぬ、ちとよいか?」

『あ、委員長! こんにちは!』

「うむ、こんにちはじゃ」

 

 呼び出された理由を知るべく、カウンターにて委員会業務をしておった女子生徒に話しかけると、元気よく挨拶をされた。

 

 たしか、一年じゃったな。

 

『とりあえず、飴いりますか?』

「何故飴なのじゃ? ……まあ、貰えるものは貰っておくが」

 

 挨拶の後に、なぜかとりあえずで飴を渡された。

 

 ミルクキャンディーか。

 

 ふむ……まあ、割と好きな飴じゃし、よいか。

 

 甘いものが最近はさらに好物になりつつあるからのう。

 

 しかし、ポケットに入っていたからか、ほんのりと生暖かく、溶けているような気がするのじゃが……まあ、よいか。

 

「して、儂が呼び出された理由とはなんじゃ?」

『えーっと、司書の屋本さんが委員長を探していましたので』

「了解じゃ。屋本司書はどこにおるのじゃ?」

『奥の司書室にいますよ』

「ありがとう。では、早速行くかの」

 

 早く済ませて、儂はさっさと帰りたいのでな。

 

 おっと、飴をいただくとするか。

 

 

「失礼するぞ」

「あ、まひろちゃ――もとい、桜花さん、待ってましたよ」

 

 司書室に入ると、何かの作業をしていた屋本司書が手を止め、振り向きざまに笑いかけて来た。あと、まひろちゃんと言いかけたこともセットでな。

 

「……おぬし、今『まひろちゃん』と言いかけおったな?」

「はは、滅相もない」

「……はぁ。まあ、儂のことは別にどう呼んでも構わん。まひろちゃんでもなんでも」

「では、まひろちゃんと呼ばせてもらいます」

 

 にっこりと笑いながらそう言う司書。

 うちの学園には、まともな奴はおらんのか。

 

「それで? 儂を呼び出した理由はなんじゃ?」

「それは簡単ですよ。お仕事です。委員長の」

「委員長の仕事じゃと? それは、すぐに終わるものなのか? 生憎と、儂はさっさと帰りたくてのう」

「そう言えば、新婚さんでしたね」

「……いやまあ、そうなんじゃが」

 

 もしやあれか。儂が結婚したという事実は、教師だけでなく、用務員の者たちも知っておるのか?

 

 ……め、めんどくさ!

 

「お仕事、とは言っても、そう大したものではないですよ。説明がほとんどですので」

「そうか? 言っておくが、儂は図書委員は今年が初なんで、複雑な仕事は出来んぞ? というかおぬし、最初の図書委員会の時に、仕事は貸出期限が切れた者の名を放送で言う、とかじゃったよな? それ以外にあるのか?」

「もちろんありすますとも」

「なぜ、あの時に言わなかったのじゃ!」

 

 あの時に言わなかったことに対し、軽く憤りを感じながら尋ねる。

 

 すると、飄々とした態度で説明される。

 

「あの時言ったら、絶対に誰もやりたがりませんよね? あと、まひろちゃんの性格から考えると、仮に委員長に就任したとしても、あの時のような自身の可愛さを武器にして、押し付けようとしましたよね?」

「ぬぐっ……」

 

 実際その通りじゃ……。

 

 あの時、仕事内容を色々と聞いていた場合、儂はあの時に『お願い☆』などと言うやり方で、誰かに押し付けていた可能性が……と言うか、絶対にやっていたであろうな。

 

 儂はとにかく、面倒ごとが嫌いじゃ。

 

 仕事も、極力最低限でしかしたくはない。

 

 ……なんか、儂の将来、ヒモになりそうなんじゃが……。

 

 だってあやつら、明らかに儂に仕事をさせようとしないんだぞ? 儂は嫁だから、働かなくてもいい、とか何とか。

 

 じゃが、儂は既にバイトをしておるんじゃがなぁ……。

 

 っと、そう言えば明日はバイトがあったはず……。

 

 ……ただ、私用でしばらく休むと言って休み、それが明けての初のバイトとなる。

 

 一応、儂が発症したことはまだ伝えてはおらぬ。

 

 じゃがまあ、店長はいい奴じゃし、問題はないじゃろう。強いて言えば、同僚の男どもが問題、と言ったところか。

 

 男女比、大体4:6くらいじゃからなぁ。

 

 一応女の店員の方が多いが、まあ……何とかなるじゃろ。

 

 っと、そんなことを考えている場合はなかったな。

 

「……して、儂の仕事とはなんじゃ? 場合によっては、心の底から拒否をしたいのじゃが?」

「委員長に拒否権はありません」

「……副委員長に押し付ければよいと思うのじゃが?」

「それはそれで問題でしょう。定期報告会の時に、委員長が知るべき情報を知っていなかったら、どんな白い目で見られるかわかりませんよ?」

「そんなもの、副委員長が変わりに行けばよいと思うのじゃが」

「……どんだけ仕事したくないんですか」

「儂は基本、寝ていたいのじゃよ。ほら、よく会社にもいるじゃろ? 自分の仕事をきっちりこなして、定時に上がる奴。儂は、あれじゃ」

「まあ、有能な人ほどそうですが……残念ですが、ここは学園です。そんなことは許されません。学園とは、責任感を育む場所でもありますので」

「……チッ。仕方ない。嫌々! 仕事するかのぅ……」

「どんだけですか……」

 

 めんどくさいのう……やりたくないのう……。

 

 儂を委員長に仕立て上げた他の委員たちは、その内〆たいものじゃな。

 

 できないこともないし。

 

 ……ハッ! もしや、『獣化:猫』は暗殺向きなのでは? 夜目も効き、体も柔軟。運動能力も向上すると考えれば……いや、やめておこう。犯罪者になるつもりはない。

 

 その方が面倒じゃ。

 

「では、仕事の説明をしましょうか」

「うむ」

「前回の委員会に言った内容がほとんどにはなりますが、それ以外にもあります。委員会からお知らせをする際の放送も委員長の仕事です」

「それは、あれか? よくこの委員会が行っている、古本市やらなんやらか?」

「そうです。生徒から、いらなくなった本の回収をしているあれです。まあ、大規模なものは、学園祭でやりますが」

 

 そう言えば、去年見かけたのう。

 

 ふらふらと健吾や優弥と共に、学園祭を見て回っている際、図書館にも立ち寄った。

 

 そこで、儂も以前から探しておった時代小説やマイナーなラノベやらを見つけて、ほくほく顔じゃった。

 

 あれは、なかなかによいものだと思ったものじゃ。

 

「それ以外ですと、書類業務ですね」

「……書類業務? なんじゃ、この学園の委員会には、会社の仕事のようなものまであると言うのか?」

「はい。この辺りも、学園の方針でしてね。今の内に、社会でやりそうな仕事を経験させておく、と言うものです」

「……じゃが、儂のように自ら委員長になりたいと思わずになった者もいるじゃろ? その場合は、むしろ酷くないか?」

 

 そう言った書類業務と言うのは、平社員というより何らかの役職を持った者が多いような気もする。いや、平社員でもやるとは思うが、重要なものは基本役職持ちじゃろう。

 

 それならわからんでもないが、将来的にそう言った業務がない仕事に就く者もいるはずじゃ。

 

 特に飲食店の店員などはその最たる例じゃな。

 

 そう考えれば、無意味になりそうなのじゃが……。

 

「いえ、うちの学園の委員会で委員長になるような生徒は、意外とそう言った仕事に就く人が多いんですよ」

「なぜじゃ?」

「カリスマですよ」

「カリスマ、のう……」

 

 儂にそんなものは無いじゃろ。

 

 なんじゃカリスマって。

 

「言っておくが、儂には人を引き付けたり、魅了したり、特別な資質を持ったような人間ではないぞ? 『TSF症候群』を発症させた、どこにでもいる元男子高校生じゃ。今は、ちょっと可愛い美幼女じゃが」

「何をおっしゃいますか。それも十分立派なカリスマと言う奴ですよ」

「どこがじゃ。儂は単純に、元のスペックがそこそこ高かっただけじゃ。運じゃよ、運。儂の家系は、色々とおかしいのでな。本家だけでなく、分家も」

 

 神だって、うちの親戚らしいからな。

 

 あっちは分家だそうじゃが……。

 

 しかし、神という名字は、分家というよりも本家な気がするのじゃがのう……。

 

「へぇ、まひろちゃんは結構強い家系なのですか?」

「両親や亡くなった祖父が言うには、本家らしいぞ。他はよく知らぬ」

「今時珍しいですね、そう言うのがわかっているのは」

「知らん、興味ない」

「まひろちゃんらしいです。……さて、仕事内容の説明が途中でしたね。書類業務、とは言っても、そこまで難しい物じゃありません」

「本当か?」

「はい。基本的には生徒会の方から来る書類に目を通し、ハンコを押すだけです。ちなみに、こっちはそこまで頻度は高くないので、月一程度です」

「ほほう」

 

 それならば、たしかに楽そうじゃな。

 

「その他にも、図書委員会で許可を出さなければいけないものもあります」

「……ちょっと待て。おかしくないか? それは」

「どこがですか?」

「そもそも、図書委員会で許可を出すような事柄とはなんじゃ!?」

 

 聞いたこともないわ! 数ある委員会の内の一つが許可を出さねばならないような委員会など!

 

 どういう状況なんじゃい!

 

「図書館を利用したい部活動や他の委員会、生徒会などがこちらに申請をしなければいけません。一応、ここは僕と図書委員の管轄なので」

「……普通、生徒会がする仕事ではないのか?」

「学園長先生曰く『生徒会に権力を集中させすぎるのもよくないし、仕事を一ヵ所にまとめるのは負担がかかるからNO。権力は分散させないと』だそうです」

「……理にかなってはおるが」

「でしょう? 生徒の自主性やらなんやらを育みたい、だそうです」

 

 ……そこだけ聞いておると、普通に生徒想いの学園長だと思えるのじゃが……この学園の学園長と考えると、色々とやらかしてそうでのう……。

 

 あまり、信用しない方がいい気がしておる。

 

「……して、その利用中では貸し出しは可能なのか?」

「一応可能ですね。その代わり、テーブルなどがほぼ使用不可になります。何せ、この学園の部活動は活発的ですから。何かと利用しやすいんですよ、ここの図書館は」

「そうか。……しかし、図書館の利用申請とはどういうことなんじゃ? ここを大規模に使うようなこともなかろう」

「んー、ほら、テストで振るわなかった場合、補習があるじゃないですか?」

「あるな。いつも、部活動に参加したり、健吾の奴が焦っておるな。その時期になると」

「でしょう? 中には、部活停止を喰らってしまう部活動もあるわけです。そんな時に使用するのがこの図書館というわけです」

「なるほど。ここならば、参考書などには困らぬからな。しかし、それだけでは申請をする意味がないと思うのじゃが? 普通に勉強をすればいいわけじゃからな」

 

 この図書館は市営の図書館よりも広いため、当然座って勉強できる場所も多い。

 

 それならば、わざわざ申請してまで使うような場所でもないはずじゃが……。

 

「ええ、まひろちゃんの言う通りです。ですが、まひろちゃんは図書館の奥の方を御存じでない?」

「奥の方じゃと? 何かあったかの?」

 

 図書館を利用したことのある、少ない記憶を掘り起こして思い返してみる。

 

 ……そう言えば。

 

「たしか、図書館に入って真っ直ぐの行き、突き当りを左に曲がると、普段は開いていない扉があったな」

「そこです。実はあそこ、勉強部屋のような形になっていまして、中はかなり勉強するための環境が整っているんですよ」

「ほう? して、内装はどうなっておるのじゃ?」

 

 勉強するための環境が整っている、と言うのはちと興味があるな。

 

 いくら儂とは言え、勉強はそれなりにはする。

 

 テスト前だって、軽くではあるがするからの。

 

「まず、ドリンクバーがあります」

「……それはおかしくね?」

「その他にも、デリバリー的なものができまして、実はそこで食べ物を注文すると、学食から専用のコンベアに乗って届くんです」

「無駄にハイテクじゃな!?」

「それから、各学年で習う単元についても全て網羅した本が数多く収納されています」

「至れり尽くせりすぎないか!?」

「でしょう? そんなわけなので、当然申請が必要なわけです。なかったら、常に取り合いになりますし、不良たちのたまり場になってしまいますから」

「……まあ、隠れ家にもってこいじゃからな」

 

 自由解放なんざした日には、そこに入り浸る、もしくは授業中もそこで隠れる輩が出るじゃろうな。なるほど、たしかにそれは、申請が必要じゃな。

 

「あとはまあ、勉強以外にも会議にも使われたりします。この辺りは、生徒会や選挙管理委員会がそうですね。あそこは、防音設備も整ってますから」

「すごいな、うちの図書館……」

 

 というか、どこに力を入れておるのじゃ。

 

 ……まさかとは思うが、他にもここのように無駄に設備が徒とのなった場所とかなかろうな? 図書館だけ無駄に設備が整っておる、というのもおかしな話じゃからな。

 

 もしやあれか? 保健室なんかも、実は地下があって、そこで手術などもできるような設備が整ってる、なんてこともあるかもしれぬな。

 

 うちの学園じゃからなぁ……。否定できぬ……。

 

「ちなみに、料理のデリバリーに関しては、お金がかかります。ドリンクバーは無料です」

「あほすぎる」

「まあ、それが利用できるから、学力が向上するようなこともあるわけなんですが」

「現金な生徒が多いのう……」

 

 しかし、そうか。

 そんな勉強をする環境があるのであれば、たしかに学力は向上するかもしれぬな。

 なにせ、至れり尽くせりで勉強ができるのじゃから。

 

「あぁ、図書委員会の委員長は、申請などをスキップで利用することができますよ。特権と言う奴です」

「ほほぅ。つまり、儂はあそこに自由に出入りができると?」

「そう言うことです。なので、これを持っていてください」

 

 そう言って、屋本司書は緑色のカードを手渡してきた。

 

 サイズ的には、クレジットカードほどじゃろうか?

 

「これはなんじゃ?」

「あの部屋に入るための鍵が、司書室にあるんですよ。あそこにあるでしょう? なんかよくわからない小さな扉が」

 

 屋本司書が指差したのは、司書室の入り口の反対側。そこには、屋本司書が言うように、小さな黒い扉があった。

 

 その横にはよく見ると、カードを差し込むような穴もある。

 

「もしや、これを差し込めば鍵がとれると?」

「そう言うことです。あ、ちなみに、二重のセキュリティになっていまして、指紋認証が必要だったりするんですよ。なにせ、たまにカードを盗んで取ろうとするお馬鹿さんがいるので」

「なるほど。しっかりしておるのじゃな」

「まあ、結構お金のかかった設備ですからね」

 

 たしかに。

 

 かなり高水準な設備と言えるじゃろう。

 

 しかしそうなると……

 

「セロハンテープなどで指紋を取られたりはしないのか?」

「その心配もご無用。実はですね、指紋を認証する際に、熱源感知も一緒に行われるんですよ。その間に何らかの隔たりがあれば、一発アウト、というわけです。セロテープくらいの薄さなら、問題ないと思いますよ」

「どんな技術力をしているのじゃ!? 普通、そこまでは出来んじゃろ!」

「できてるんですね、これが」

 

 ……やはりこの学園おかしいぞ!

 

 どこに金をかけておるのじゃ!

 

 いや、イベントごとにもかなり金はかかっておるが!

 

「ですので、あそこを利用したい時なんかは遠慮くなく使用してください。まあ、予約が入っていたらダメですが……」

「じゃろうな。……しかし、教室からちと遠いしのう……。そもそも、勉強などは家や授業の時間で事足りる。儂が使用するメリットは――」

 

 ないと言いかけた時、屋本司書はニヤリとした後にこう言った。

 

「布団、ありますよ」

「――なんじゃと!?」

 

 ふ、布団? 布団と言ったか!?

 

 い、いやまさか……勉強するための部屋に、そんなものは……!

 

「ベッドタイプと敷布団タイプの二つがあります。ふっかふかですよ? ベッドは。敷布団タイプは、なんと畳です」

「なんという好環境! え、マジで? 布団あるの!?」

「あります。一応、仮眠室として用意されています。疲れた状態で勉強しても、頭に入りませんからね」

「な、なんと……!」

「歴代の図書委員長は、結構使用してますよ。なんだかんだで、激務だったりもするので」

「ふ、布団……布団かぁ……うむぅ、それは素晴らしいのう……」

 

 まさか、図書館にそんな素敵な空間があったとは。

 

 これはもしや、図書委員長になってよかったのでは?

 

 ……いや、待て。落ち着くのじゃ、儂。

 

 こういう美味い話には裏があると言うのは定石。

 

 きっと何かあるに違いあるまい。

 

「で、なにかデメリットはあるのか?」

「おや、冷静ですね」

「ふっ、たしかに今、儂は睡眠の誘惑にやられそうになったが……裏があるかも、と思い直してな。で、どうなのじゃ?」

「裏、というより、先ほども言いましたが、まあ激務だったりするんですよ、図書委員長って」

「ふむ。しかし、放送をしたり、申請を許可したりするだけじゃよな?」

 

 それがどうして激務に繋がると言うのか。

 

 他にも何かあるのか?

 

「特権があるからには、相応の仕事もしなければいけないのは理解できますよね?」

「まあ、権力がある代わりに仕事は人一倍多いじゃろうな」

「つまり、そう言うことです。申請を許諾するということはつまり、部活動や委員会、生徒会の全てのスケジュール管理をしなくてはいけません」

「……つまり、被らないようにしつつ、不安が出ないように上手くタイムスケジュールを組まなくてはいけない、と?」

「そう言うことです。特に、テスト前の二週間は激戦区ですね。まあ、部活動もそこそこ多いので、結果的に多くなるというわけです」

「うへぇ……」

 

 屋本司書の発言を聞いて、めんどくさいと言う気持ちがありありと浮かぶ声を漏らす。

 

 そんなめんどくさいことがあるのか……?

 

 たしかに、この学園に存在する部活動はマジで多い。

 生徒総数的にも一般的な高校よりも多いからな。

 そうなれば、学園に存在する部活動が多くなると言うのも自明の理。

 

 中には、ヘンテコな名前の部活動もあるくらいじゃ。

 

「あぁ、安心してください。基本的には、早いもの順ですので」

「そうなのか?」

「さすがに、後から来て『俺達を先にしろ!』と言われても困惑するでしょう?」

「たしかに」

「なので、先着順なんです」

「なるほどのう……。しかし、そうなってくる疑問がある」

「なんですか?」

「いや、申請とはどうすればよいのじゃ? まさか、儂にずっと図書館にいろとは言うのではあるまいな?」

 

 さすがにそれは勘弁じゃぞ? 儂の帰宅時間がかなり遅くなる。

 

 睡眠時間が削られるのはマジで勘弁じゃからな。

 

「スマホです」

「スマホ? これか?」

 

 きょとんとしながら、儂は自分のスマホを取り出し、屋本司書に見せる。

 

 すると、その通りとばかりに頷き、説明しだす。

 

「その通りです。まひろちゃんは、学園生専用のアプリなどは入れていますか?」

「うむ。入学した日に、入れておけと言われたので、一応入れてはあるぞ」

「ならよかったです。では、そのアプリを起動してください」

「うむ」

 

 言われた通りに、アプリを開く。

 

 そこには、儂のプロフィールについて書かれたページ、所謂マイページのような者が表示される。

 

 画面下部のバナーには、掲示板、ニュース、申請、チャット、メール、マイページがある。

 

 マイページには、儂の名前や学年、クラス、出席番号だけでなく、生徒番号もあり、さらに言えば自身の所属する部活動や委員会、役職などについての記載の他に、フレンドリストなるものまであった。

 

 そう言えば、開くのは初めてじゃったな。

 

 ほほう、こうなっておったのか。

 

 しかし、フレンドとな。

 

 つまりこれは、生徒同士でのみ可能なチャットでもある、というわけか。

 

「開いたぞ」

「では、そこに自身の役職が書かれていると思いますが、そこをタップしてください」

「うむ」

 

 言われた通りに、役職の所をタップすると、画面が切り替わった。

 

 そこには、『図書委員会』と書かれたページが表示され、そこには四つの項目があった。

 

 それぞれ、『貸出期限』『業務連絡』『勉強部屋予約確認』『勉強部屋申請・承諾』と言ったものじゃった。

 

 ふむ。

 

「なんじゃこれは?」

「それは、図書委員会のページです。ちなみに、他の委員会や生徒会もそれぞれ専用のページがあります。あ、部活動の方もあったりしますよ」

「ほう、結構便利なんじゃな」

 

 こんなものがあったとは。

 

 この学園、色々と便利なもので溢れかえっておるのじゃなぁ。

 

「何かと、連絡をする機会もありますから」

「まあ、そうじゃな。……それで? これについてはどう捉えればよいのじゃ?」

「ええ、一つずつ説明しましょう」

 

 そう言って、屋本司書が説明を始める。

 

『貸出期限』というものは、貸出期限が残り三日になった者や、貸出期限が切れておる生徒を表示する場所なのじゃそう。

 これを見て、放送しろ、ということらしい。

 

 プライバシーとは。

 

 次に『業務連絡』。これはまあ、名前の通りじゃな。委員の間で連絡事項があれば、ここで連絡するらしい。チャットやらなんやらはあるが、そこで出来ないような連絡をするのじゃと。

 まあ、中には内密にしなければならない話もあるからのう。

 

 次『勉強部屋予約確認』。こっちもまあ、字面通りじゃな。

 単純に、どこの団体がどの日付、どの時間に使用するかが書かれておる。

 これを見て、どこに入れるのかを決めるそうじゃ。

 

 そして最後『勉強部屋申請・承諾』。

 ここには、各団体の代表者、主に委員長やら生徒会長やら、部長などから申請書が来るらしい。

 申請書には、第一希望~第五希望までの日付と時間と、利用人数、デリバリーの使用の有無、それから使用理由についてが書かれておるそうじゃ。

 これが不十分であると、申請は通らない。

 

 と言っても、この辺りは儂の匙加減らしい。

 

 例えば、『この部活は最近問題起こした』という情報を知っておれば、こちらで棄却することができる、というわけじゃ。

 

 情報が不確かであれば問題なく承諾するが、それが本当であった場合、こちらでは承諾できない、ということじゃな。

 

 ちなみにじゃが、正当な理由が書かれておらん申請書も、棄却することができる。というか、そっちの方で棄却することが多いようじゃな。まあ、不透明な理由で承諾するわけにもいかんからな。どうも、かなり金のかかった設備のようじゃし。

 

「――というわけです」

「なるほどのう。責任重大な仕事、というわけじゃな」

「その通りです。あ、一応この勉強部屋には使用条件あるんです」

「そう言うことは、先に言うものではないか?」

「忘れてました」

「……まあよい。それで、内容は?」

「基本的に、生徒会、委員会、部活動、この三つのどれかに参加していることですね。なので、原則として一般生徒は使用不可となっています」

「原則、ということは例外もあるということじゃな?」

「はい。赤点すれすれな生徒や、赤点補習に呼ばれてしまった人たちが集まって使用することはできます」

「なるほど」

 

 それはたしかに、使用せねばらないような状況じゃな。

 進級や留年がかかっておるわけじゃし。

 むしろ、使えと言いたくなる程じゃ。

 

「申請書を送ることができる時間は、朝の九時~夕方の六時までとなっています」

「ふむ。して、申請を承諾する期限は?」

「その辺りはまひろちゃんに一任します」

「それじゃと、儂が忘れておった場合、大問題ではないか?」

「ええ。ですので、こちらから一応の期限は言いますよ。大体、申請してから二日を目安にしてください」

「うむ、了解じゃ」

「理由としましては、それくらいが申請した生徒たちの方も心配になりにくい時間だからですね。うちの生徒は、おおらかな人も多いので」

「たしかに」

 

 二日程度ならば許されそうじゃな。

 

 ……まあ、儂は基本的に早めにやる質じゃが。

 

「あいわかった。それで、仕事の内容は以上かの?」

「えーっと……そう、ですね。大体はこれくらいです。一応、申請が始まるのは明日からなので、ちょこちょこアプリを確認してください。まあ、アプリ通知という形で表示されますので、いちいちアプリを開かなくてもいいんですけどね」

「うむ、わかったのじゃ。……では、儂はそろそろ帰るとするかの」

「すみませんね、新婚さんにこんな時間まで残らせちゃって」

「いや、別に構わぬ。はめられたとはいえ、なってしまったのならばしっかりやるぞ。責任と言うものじゃ」

「ありがたいです。では、お気を付けてお帰りください」

「うむ。ではの」

 

 最後に軽く挨拶をして、儂は図書館を後にした。

 

 外に出てみれば、そこそこ暗くなっておった。

 

 意外と話は長かったようじゃな。

 

 時間は……

 

「六時か。ま、こんなもんじゃろ」

 

 さっさと帰って、儂の旦那……じゃなかった。嫁たちに夕飯を作らねばな!

 

 ……にしても、仕事、めんどくさいのう。




 どうも、九十九一です。
 二日休んでしまい、すみませんでした。理由は体調不良です。頭痛とかが酷かったんですよね。それで休んでました。一応、今日から復帰できますので、ご安心を。
 明日も10時だと思いますので、よろしくお願いします。
 では。

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