爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常   作:九十九一

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日常31 アルバイト。割と順応が早い(店員の)

 儂が来たことで店内は騒然としたが、なんとか元の持ち場に戻ってもらうことに成功。

 

 めんどくさくはあったが。

 

「あ、あの、本当に桜花先輩なんすよね?』

「そうじゃよ。そう言うおぬしは、高畑じゃろ? 翁里(おきなり)高校の二年生じゃろ? よかったのう、進級できたようで。三月は、『赤点が……赤点がぁッ!』とか言っておったからの」

「ちょっ、なんでそれ知ってるんすか!?」

「そりゃ、儂じゃからな。というか、誰が相談に乗ってやったと思っておるのじゃ?」

「くっ、桜花先輩なら言うのをめんどくさがると思って言ったってのに、まさか暴露されるなんて……!」

「はは。ま、自業自得じゃな」

 

 そんな儂と後輩(実際はタメじゃが、バイト歴では儂の方が長い)のやり取りを聞いていた者たちは、高畑の反応を見てぷっと噴き出す。

 

 まあ、こやつは外見だけで言えば勉強できそうななりをしておるからのう。

 

 じゃが、中身のお調子者な性格と実際は外見とは正反対にややお馬鹿であるため、本人的には隠しておきたい事実だったそうじゃ。

 

 しかし、翁里高校に在籍しておることはバイトに入っておるの者なら知っておるし、それ以前に同じ高校出身の者もおるんじゃがな。

 

 それでなぜバレないと思っておるのじゃろうか?

 

 実の所、知っておる者おるし。

 

「……本当に、桜花君なのか?」

「おぉ、葛井先輩。ざっと、三週間振りかの?」

「そうだが……なんとも調子が狂う容姿になってしまったな。幼児とは」

「幼児ではない。小学生じゃ」

「似たようなものだろう」

 

 全然違うと思うのじゃが。

 儂の中での幼児と言えば、幼稚園や保育園に通う年頃の子供のことなんじゃが。

 

 小学生は幼児ではないじゃろう。

 

 さて、そんな儂のことを幼児と言ってきたのは、葛井先輩という大学生の男じゃ。

 

 くせっけの黒髪に、寡黙そうな見た目の男で、顔立ち的にはイケメン、というわけではなく、男らしいという言葉がピッタリな顔立ちじゃな。

 

 性格もよく、基本的に誰にでも優しかったりするし、さりげない気遣いもできるので、実はこの店の女店員からの人気は高い。

 

 あと、わざわざ葛井先輩を見に来るためだけに来店する女性客もおるしな。

 

 あまり異性にがっつかない、というのもポイントが高いとか何とか。

 

 実際は、単純に奥手で初心なだけなんじゃが。

 

「それにしても……あの中性的な顔立ちだったまひろ君がこうなるなんて。不思議な病気!」

「これこれ、ベタベタと触るでない。時乃よ」

「あ、ごめんごめん。滅多に出会えない発症者だったからつい」

「おぬしも学園の女子と似たようなことを言うのじゃな」

「じゃあじゃあ、やっぱり学園でも言われたの?」

「まあのう……。この姿が原因で、めんどうなことも発生したが」

 

 おもに、結婚という人生の墓場イベントがな。

 

「やっぱり、大変なんだ」

「そりゃあのう。儂はただ、だらだらと生活したいだけなのじゃが、この姿じゃ仕方ない」

「そっかー」

 

 こやつも相変わらず軽い性格じゃな。

 

 時乃という女子は、高畑と同じ高校に在籍する女子生徒じゃ。

 

 儂とほぼ同期で、結構仲がよい。

 というか、バイト先では一番仲がよいかもしれぬな。

 

 向こうはそう思っておるかは不明じゃが。

 

 ちなみに、時乃はあまり気づいてはおらぬが、割とこの職場では人気の女店員だったり。看板娘、というポジションに近いかもしれぬな。

 

 時乃はアメリカ人と日本人のハーフらしい。

 

 フルネームは、時乃=C=アリスティアとのこと。Cの部分はなんて読むのじゃ? と聞いたところ、『Clock』であると言われた。

 

 愛称はアリスらしい。

 

 まあ、儂は基本的に名前呼びすることはないので、時乃と呼ばせてもらっておるがな。何せ、こやつとの接点はほぼバイトだけじゃからのう。まあ、時乃の方はぐいぐいと行く性分なためか、儂のことは名前で呼んでくるがな。

 

 美穂に関しては、単純に付き合っていくうちに自然と名前呼びになっただけじゃ。

 途中、謎の言い合いがあった覚えがあるが、まあ、どうだっていい。

 

 さて、この時乃はまあ、美少女じゃ。

 

 ハーフ故に、金髪碧眼。

 整った目鼻立ちに、淡いピンクの唇。

 その辺はアメリカ人の血が強かったのか、背もそこそこ高く、ボンキュッボンじゃな。割と瑞姫といい勝負をしておるほどに、胸がでかい。

 それが原因かはわからぬが、しょっちゅう視線を向けられておる。

 本人はおおらかな性格なため、気づいてはおらぬ。もしくは、気づいておってもあまり気にしない、と言ったところか。

 

 そんな時乃は、儂とは妙に馬が合ったのか、割と近い距離感をしておった。

 仲が良い、と言うのはそう言うことじゃ。

 

 それが理由なのじゃろうが、バレンタインには、無駄に装飾が凝ったハート型のチョコレートを貰ったしの。義理じゃが。何せ、いつものようなテンションで渡してきたからのう。

 

 あと、何か文字が書かれておったが、何語かわからんかったし。

 

「ほー、へー、なるほどー……」

「なんじゃ時乃。人の周りをちょろちょろと」

「あはははー。いやー、本当に女の子になっちゃったんだなーって。だってほら、まひろ君と言えば、『めんどくさーい。何もしたくなーい。働きたくないでござるー』みたいな感じだったじゃん? しかも、髪の毛ぼっさぼさ。今とは似ても似つかないしー」

「いやまあ、自分でも思っておるが……というか、そろそろ仕事せんとまずくないかの? 客を待たせておるのではないか?」

「あ、そうだったそうだった! じゃ、あたしは戻るね!」

「んじゃま、俺も戻るかねー」

「仕事に戻ろう」

 

 とまあ、儂の発言を皮切りに、ここに集まっておった面子はほぼ仕事に戻って行った。

 

「さて、店長。儂の制服を貰いたいんじゃが」

「OKだ。とりあえず、これを着てくれ」

「うむ、助かる。……って、これは女子用の制服ではないか」

「そりゃそうだろ。だってまひろ君、今女だし。そんな状態でウエイターの服を着るつもりだったのか?」

「そのつもりだったのじゃが……」

 

 スカートはひらひらしておるせいで、ちとすーすーするしのう。

 

 別に、パンツを見られるのが恥ずかしい、とか生娘みたいなことは思わんが、多少は抵抗感があるのじゃ。

 

 学園の制服やら、普段着がスカートの時点で『今更だろ』とか言われるかもしれぬが、それはそれ。これはこれ。

 

 個人的には、ズボンの方が動きやすくて好きなのじゃ。

 

 スカートはスカートで、違った良さがあるが。

 

 あれは、脱ぎやすい。

 

 これだけ。

 

 それ以外にメリットがあるかと訊かれれば、ない、と答える。

 なにせ、防御力がかなり低い。仮に、自転車でこけたとしよう。むき出しの足なので、当然怪我をすること間違いなし。

 

 男の時ならば基本ズボンだったので大して気には留めんかったが、今となっては女じゃ。そうなると、色々と不都合が出てくるからのう。

 

「それはダメだ」

「なぜじゃ」

「まひろ君には、看板娘になってもらいたい」

「……店長、気は確かか?」

 

 突然わけのわからんことを言いだした店長に、訝しみを込めた目を向ける。

 

 儂の周りには、訳のわからん奴が多い。

 

「確かだ! そして思う。君は万人受けする可愛さであると!」

「いや、可愛いロリっ娘とか、受けない者には受けんじゃろ。特に年上好きとか、熟女好きとか」

「たしかにそうかもしれない。しかーし! 今のお前ならば、きっと大丈夫!」

「その自信は一体どころから来るんじゃ……」

 

 店長、儂が幼女になったことで頭がおかしくなったのか?

 

 ……いや、元々おかしいような存在じゃったな。

 

「ふっ、子供の魅力と言うのは、必ず大人に刺さるのだよ。特に、『定時で上がりたいけど、クソ上司のせいでなかなか帰れなくてイライラ……はぁー、やっと帰宅できるけど、なんか癒しが欲しいー……。どこかに可愛い少女が接客してくれる飲食店とかないかなー』なブラック企業勤めの方たちにはね!」

 

 ビシィッ! と指差しながら、テンション高く儂に熱弁してくる店長。

 

「細かいし、そんな奴おらんじゃろ。というかじゃな、その考え方とか思いっきり風俗的なあれじゃろ」

「気にしない! それにだ、やはり可愛い女の子に笑顔で接客される、というのはかなりグッとくるんだ! 想像してみろ。自分の理想の異性が接客してくれるシチュエーションを」

「理想の異性とは言うが、現に儂の容姿が理想の異性となっておるのじゃが?」

「……そう言えばそうだった」

 

 なので、仮に想像するとしても、儂の今の姿で想像せねばならぬ。となると、なんか……微妙じゃん。仮に、以前の儂の姿で接客を受けると想像しても、やはり理想の異性の姿と言うのは今の儂の容姿。それで考えると、自分で自分の接客を受ける、ということになるので、ハッキリ言って、とてつもなく微妙。

 

 多分、今の儂が女であることも、そう思う理由となっておろう。

 

 ……待て。逆に考えるのじゃ。美穂と瑞姫で考えればよいと!

 

 ………………いや、普段と変わらなくね?

 

 食べさせてもらったりするの、普段と変わらなくね? 実質、接客じゃろ? あれ。

 

 まあ、嬉しいか嬉しくないかで訊かれれば、嬉しいのじゃがな。

 

「だが! それでもオレは、まひろ君に看板娘になって欲しい!」

「あくまでも儂の理想であって、他の者の理想かと尋ねられれば、違うと思うのじゃが?」

「誰しも理想はある。ならば、どんな者でも可愛いと思うに決まっているんだッ! ほら、よく言うだろ? 千人中千人が振り向く程の美少女って!」

「それは多すぎじゃろ」

 

 千人も振り向くような美少女とか、どんな完璧な容姿なんじゃ。

 一周回って見てみたいわ。

 

「と・も・か・く・だ! 一度その姿で接客してみたらわかる! 絶対受ける! このオレが保証する!」

「店長に保証されてものう……。まあ、これも仕事じゃからな。それに、さっさと仕事に行かなければ、その分上がる時間がずれてしまうからの」

「ん? なんか予定でもあるのか?」

「まあ、ちとな。九時以降にここで飯を食べる予定があってのう」

「……ボッチ飯?」

「そんな憐れむような目を向けるでない! 嫁じゃよ嫁! 二人おるが、儂の嫁じゃ!」

「ははははは! なーんだ、嫁か! そりゃ、仕方ねーな!」

「じゃろ? はははははは!」

「「はははははははは!」」

「……ハァッ!? よ、嫁ェ!?」

 

 十数秒遅れで、店長がこの世のものではない物を見るような目を向け、同時に素っ頓狂な声を出した。

 

「……あ」

 

 しまった! つい勢いで言ってしもうた!

 

 言う予定はなかったというのに、なんてことじゃ!

 

 ど、どんな反応を……

 

「はははははは! まひろ君も冗談が上手いなァ!」

「……そ、そう! じょ、冗談じゃよ冗談! ちと、知り合いと約束があってのう! それが理由じゃ!」

 

 幸いにも、冗談と受け取ったらしく、儂は渡りに船とばかりにそれに乗る。

 

「やっぱりな! まひろ君に嫁ができるわけないと思ったぞ!」

 

 ……こやつ、何気に失礼なことを言いよるな。

 儂だって、嫁くらいおるわ! 変態じゃけど!!

 

 あと、快活そうに言うことでもない気がするぞ、店長。

 

「だってお前、マジで鈍感だからな!」

「……のう、儂、よく友人らにも言われるのじゃが、そんなに鈍感かの?」

 

 健吾や優弥、美穂にも言われたんじゃよなぁ。

 

「超鈍感」

「……マジで?」

「マジマジ。だって、お前、あ――」

「あ、なんじゃ?」

 

 何かを言いかけて止められた。一体何を言おうとしたのじゃろうか?

 

「……いや、止めておこう。なんか面白そうだし! と言うか他人の気持ちを第三者が言うのは口の軽いバカがすることだからな! オレは言わん!」

「ちょい待て。そう言うということは、何か? この店に、儂のことが好きな奴がおるのか?」

「さー? それはどうかなぁ?」

 

 くっ、言い方がムカつく!

 

 ニヤニヤと底意地の悪い顔をするわ、語尾が上がっていてムカつくわ、ほんとこの店長は色々とテンションが高い。

 

「……はぁぁぁぁぁぁぁ」

「お? なんだなんだ? クソデカ溜息なんかついて」

「……いや、ちと憂鬱になってきての。九時以降、もしかすると修羅場るかもしれぬ」

「修羅場? 何したんだよー、このこのー」

「ウザい友達のノリみたいに小突くな! もういい、儂はさっさと仕事に出るぞ!」

「おっと、そうだったな! ほれ、これが新しい制服だ」

 

 ポンと投げ渡された衣服を受け取ると、儂は眉をへの字に曲げた。

 

「……ウエイトレスの服、か」

「当然。明後日まではそれでな」

「明後日? 明後日に何かあるのか?」

「多分なー。じゃ、頼んだぜ☆」

「……へいへい、了解じゃよ。まったく、久々に来たと思ったら面倒なことに……」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、儂は更衣室へ入って行った。

 

 修羅場、ならなければよいのう……。




 どうも、九十九一です。
 まるで、三人目のヒロインの出現を仄めかすかのようなキャラがいますね。その場のノリで書いてはいますが、今後もしかすると、すでにまひろがフラグを建てた後のキャラが出てこないとも限りません。私の裁量しだいなので! まあ、出て欲しい属性のヒロインがいたら言ってみてください。(多分来ないだろうけどね!)
 明日も10時だと思いますので、よろしくお願いします。
 では。

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