爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常 作:九十九一
ぬぉぉぉぉぉぉ……!
な、なんなんじゃ、この空気は!?
というか、え? なんで、時乃がこんな呆然としておるの!?
原因はなんじゃ? や、やはりあれか、この二人とおるからか?
……いや、それはないじゃろう。絶対。
きっと、見かけない可愛い女子二人を見て、驚いただけじゃよな! まあ、儂の旦那――もとい、嫁じゃからのう! 可愛いのは当然!
って、違う違う。
そうではなく、どういう状況なのじゃ? これ。
「とき――」
「あの、あなたたちは誰なの!?」
儂が時乃に話しかけようとした瞬間、儂よりも一瞬速かった時乃が二人にそう尋ねていた。ちと、声がでかかったので、周囲も何事かと見ておる。
……しかし、なんじゃろうか。
周囲から――というより、女子たちからの視線が、妙に痛い。
男たちは、微妙ににやけているような気がする。
……ふむ。わからん!
「誰って言われても……えと、こいつと同じ学園で同じクラスの、音田美穂よ」
「同じく、羽衣梓瑞姫です」
尋ねられた方の二人はと言えば、美穂は苦笑いを浮かべながら自己紹介し、瑞姫はいつも通りのにこにこ顔で自己紹介をした。
「……音田、美穂? その名前、たしかまひろ君が前に話してたような……」
「そうなの? 一体、どんなことを?」
……む? 美穂の話、じゃと?
なんじゃろうか、とてつもなくいやーな予感……って!
「ちょっ、時乃絶対にそのことは言うな――」
「瑞姫、まひろの口抑えて」
「はーい! まひろちゃんの可愛らしいお口に手をドーン!」
「んむっ!? むー! むむー!」
くそう! 口を塞がれた!
「さ、話してくれるかしら?」
まずい! 美穂がとてつもなくいい笑顔で尋ねておる! あの状態の美穂はとてつもなくよろしくないことを言ってくるに違いない!
「あ、う、うん。まだあたしがここに入って間もない頃に、まひろ君のお友達のことを訊いたの。そしたら『こっちが二次元バカの健吾。こっちは、イケメンで交際経験が多い優弥。で、こっちは……まあ、知り合ったばっかのなぜか儂に対してよく怒る、よくわからん女子、音田じゃ。ちなみに、怒ると般若みたいじゃな! ははは!』って」
「……まひろ?」
にっこりと笑みを浮かべながら、美穂の口から底冷えするような声音で名前を呼ばれた。
こわっ!
「…………い、いや、これは、その、じゃな。き、帰国子女じゃった時乃に、面白いことを言って場を和ませようとした努力であって、け、決して悪口などでは――」
「ええい、問答無用! あんた、今日は寝かさん!」
「あ、美穂さんだけずるいですよ! わたしもまざります!」
「何を言っておるのじゃ!? というか、そこまで酷いことを言ってはおらんじゃろう!? あと、何故瑞姫も混ざろうとする! おぬしが混ざったら、とんでもないことになるに決まっておるわ!」
あれだけは本当に勘弁してほしい!
怖いんじゃよ、あれ! 儂、初めて『辱めを受けるなら死んでやる!』という言葉を使いたくなったぞ! むしろ、心の中で言っておったし!
なんて、そのような騒ぎを起こしていたせいか、周囲がざわつきだしておった。
『寝かさないってどういうことだ?』
『そりゃおめぇ、寝かさないっつったら……あれだろ。下的な』
『いやいやいや、あの桜花だぞ? 桜花と言えば、基本的にめんどくさがりであんなにツッコミを入れるような奴じゃないだろー』
『じゃあ、あの会話内容はなんだ?』
『『『うーむ』』』
何を悩んでろうのじゃろうか。
しかし、この状況を見て止めようとしないところを見るに、悩むそぶりを見せつつも内心はそこそこ面白がっているんじゃろうな、あれ。
で、反対に女子はと言えば、
『何あれ、修羅場? 修羅場じゃない?』
『まぁ、桜花君だしなぁ……。無自覚に女たらしを発動するし』
『わかるわかる。桜花君って下心とかない状態で話しかけるし、完全な善意で手助けとかしてくれるからね。あと、気遣いもできるし……』
『でも、桜花君って鈍感朴念仁睡眠大好きだったからなぁ。女の子の好意には本当に疎かったし、アリスちゃんのわかりやすいアピールにも気づいてなかったしね』
『そんな状態で、あの二人。どういう関係なんだろう?』
『でも、とりあえず――』
『『『修羅場希望』』』
なんじゃ、女子の方からは好奇の視線が半端ないんじゃが。
しかも、キラキラ……というより、ギラギラと言う言葉がピッタリなほどに見てくる。
何か、とんでもないものを期待しておるような気がしてならぬ……。
少々現実逃避気味に周囲の反応を伺っておったが、ついに核心を突くような質問が時乃から発された。
「そ、それで、お二人はまひろ君とどういった関係なんですか!?」
儂らの関係性である。
そして、時乃が質問した瞬間、周囲の者たちもそのことには興味津々だったのか、一瞬で静まり返り、聞き耳を立てていた。
……人様の事情に首を突っ込もうとするとは。野次馬根性丸出しじゃな。
しかしまあ、いずれ知られることでもあるやもしれぬ。
…………なんじゃが、なぜじゃろう。儂は今、猛烈に嫌な予感がしておる。
その原因は何かと考えても、全く持って思いつかぬ。
心当たりがないということは、それほどの問題は起こらない、ということに他ならない。
ならば、成り行きに身を任せるとしよう。
「私たちとこいつの関係性? まあ……家族?」
「そうですね。つい最近、家族になりましたけど」
「えっと、家族? ということは、二人はまひろ君のお姉さんとか?」
「……まあ、普通に考えたらそうね。でも、違うわよ。私たちはね……こいつの、旦那よ」
「まひろちゃんはお嫁さんですね。私たちの」
ビシッ! そんな音が聞こえそうなくらいに、店内の空気が固まった。
時乃はどうなったかを見れば、固まっていた。
むしろ、この空間におる者たちの中で一番固まっておった。
……なんじゃ、こやつは一体どうしたと言うのじゃ?
なんてことを思っておったら、時乃がぷるぷると震えだした。
そして、
「ま、まひろ君って、結婚してたの――――――――――――!?」
という驚愕という名の叫びが響き渡った。
同時に、
『『『な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!?』』』
『『『修羅場キタ―――――――――――――――――!』』』
男女別々の反応が響き渡ることとなった。
修羅場て。
「――なるほど。そんなことがあったんだ……。もー! まひろ君、そう言う大事なことは言ってくれてもいいと思うの! そこのところ、どう思う!?」
「いや、何と言うか、じゃな……その、すまんかった」
別に、おぬしに言う必要なくね? とか一瞬思ったが、考えてみれば、こやつとの付き合いもそれなり。
となれば、たしかに結婚報告事態は必要かもしれぬと思い直し、素直に謝った。
ちなみに、現在は儂、美穂、瑞姫で並んで座り、その反対側に時乃が座る形となっておる。
しかし、なぜじゃろうか。
まるで、儂が悪い、と言わんばかりの視線がグサグサと突き刺さっておるのじゃが。
「まあ、それはダメよね。聞けば、時乃さんとはそれなりに長いっぽいし。てか、あんた明らかに一番仲いいじゃないの、この職場で」
「そうですね。まひろちゃん、そういう大事な関係の方に報告しないのはダメだと思います」
「ぬぐっ……」
儂の両サイドに座る二人も、儂にジト目を向けながらそう注意して来た。
正論なだけに言い返せぬ……。
「……はぁ。でも、そっかー。まひろ君結婚しちゃってたんだー。あはは……」
内心で敗北感のようなものを味わっておると、不意に自嘲するかのようにそんなことを言いだした。
その様子は、どこか悲しげであった。
「時乃、どうしたのじゃ? 元気溌剌が売りのおぬしが、なぜそこまで悲しそうなのじゃ?」
「……まひろ君って、こういう時鋭いからずるいよね。普段は鈍感朴念仁睡眠大好きなのに」
「わかる」
「わかります」
「……どういう意味じゃコラ」
何故同意しておると言うのか。
儂はこれでも、割と鋭い方じゃぞ! 多分!
そう思った瞬間、なぜか三人が儂にジト目を向けた。それはもう、すごいジト目を。
くそぅ、なぜじゃ。
「……ところで、まひろが今尋ねたことに関して尋ねるんだけど、いいかしら?」
「あ、うん。オッケーだよ」
同年代ということもあり、時乃は敬語ではなく、いつものフレンドリーな口調に戻っておった。うむ、やはりこっちじゃな。
しかし、たしかにそれは儂も気になるし、静かに聞くとしよう。
「どうして、あんなに寂しそうに呟いていたのかしら? というかまあ、私はなんとなーく勘付いているんだけど……このバカは気づいていなさそうだからね」
「わたしも察してはいますが、体だけじゃなくてとある方面で外見相応の未熟さな幼女さんは気づいていないと思いますので、ストレートにどうぞ」
「おぬしら、絶対儂をバカにしておるじゃろ」
ジト目返しと言わんばかりに、儂は二人にそんな目を向けた。
しかし、二人は全くもって意に介すことはなかった。
なんか悔しい。
「仲がいいんだね。うーん、こうなるんなら、もっと早くに伝えておくべきだったなぁ……。あたしってば、いつもタイミング悪いし……チャンスも逃しちゃうし……」
む? こやつは一体、どのようなことを言っておるのじゃろうか?
全くもって意味がわからず、美穂と瑞姫を交互に見れば、二人は得心が行ったようで、あーと委員柄苦笑いを浮かべておった。
なんとなしに野次馬質の方も見やれば、二人と同じような反応をしておった。
え、何じゃ? これはもしや、儂だけが気付いておらん、ということか……?
そんなまさか。
「なるほどねぇ……。時乃さんの気持ち、すっごくわかるわー」
「そう、なの?」
「ええ。だってこいつ、あんなにアピールしてるのに気づかないのよ? しかも、こいつの幼馴染の超馬鹿な男子にすら気づかれていたのに、当人は気づかないし」
「わかるわかる! こう、あれだよね! 密着したり、一緒にプールに行ったりしたのに、全然気づかないの!」
「うっわ、マジで!? それで気付かないとか……こいつのは筋金入りどころか、前世でとんでもない業でも背負ったんじゃないの?」
「まひろちゃんならあり得そうですね」
時乃の言葉に、ドン引きする美穂と苦笑いを浮かべる瑞姫。
どこにドン引きする要素があったと言うのじゃろうか。
「……なんじゃなんじゃ。一体何の話をしておるのじゃ? というか、密着? プール? それはたしか、ちょこちょこ時乃が儂にしてきたことじゃよな? 特に後者。あれは、アメリカでよくある友達に対しての行動ではないのか?」
色々と言われ少々心外だったこともあるが、それ以上に密着とプールというワードに儂は食いつく。
そして、それは友人に対してするものではなかったのか? と尋ねると、美穂と瑞姫は呆れたような表情を浮かべ、時乃に至ってはものすごくしゅんとしてしまっておった。
……なんじゃ、この反応は。
しかも、周囲からもものすごい痛い視線が飛んでくるのじゃが。特に、同僚からの視線が一番酷い。
しかもそれらが伴うのは、間違いなく、非難。
儂、何か悪いことしたか……?
身に覚えのない非難を受け、儂は難しい顔をしながら首をひねっておると、その答えが出た。
「……まひろ君、だもんね。知ってた。知ってたよ……でも、なんかもう色々と後の祭りだし、そもそもまひろ君は結婚しちゃってたから……もう、ストレートに言うね!」
「お、おう。なんじゃ? 随分と、気合が入っておるが……」
気合が入っておるだけでなく、何やらゆでだこのように顔が真っ赤な時乃。
すぅ、はぁ、と深呼吸をした後、意を決したように口を開くと、
「だ、大好きっ!」
そんな、短いながらも大きな意味を持った単語が飛び出した。
……ふむ。大好き、と。
…………………………は?
「だ、大好き? と、時乃よ。それは……どういう意味、じゃろうか?」
なんじゃ、とてつもなく嫌な予感……いや、この場合は良い予感、になるのじゃろうか? しかし、しかしじゃ。これはとてつもなくとんでもない爆弾が放り込まれるのでは?
た、頼む時乃! 儂の予想が外れであってくれ!
「ま、まひろ君が大好きなのっ!」
Oh……Jesus……。
無情にも儂の当たって欲しくない予想が当たってしもうた……。
そんな、時乃の告白はと言うと、
『『『言った! ついに言った―――――!』』』
『『『修羅場! 修羅場を希望!』』』
とか言う謎すぎる声によってお祭り状態のような状況に成り下がっておった。
しかも、ついに、とか言っておる時点で、おそらくこやつらは時乃が儂に惚れているということを知っておったということじゃな? しかも、女子の方もそんな様子。
……では、何か? 儂は今まで、全く気付いておらんかった、ということか?
しかも、健吾ですら気づくような事柄に、儂が気付かなかった、と?
…………く、悔しい! なぜかはわからぬが、とてつもなく悔しい!
「やっぱりかー」
「でしたね」
両サイドの二人は、案の定とばかりに苦笑しながら呟いていた。
気付いておったのか……。
「でも、まひろ君は結婚しちゃってたみたいだしね……。はぁ。あたしの初恋も終わっちゃったなぁ……」
なんて、涙を浮かべながら悲しそうに俯く時乃。
ぐっ、なんじゃ。その姿を見ると、なぜかものすごく心が痛い!
時乃とは長い付き合いであったからか、その関係性に心地よさを感じておった。
時折来るスキンシップには、ちと戸惑いもあったが……まあ、それも許容。
この店では一番仲が良かったと言っても過言ではない時乃が、悲しそうに泣いておる姿は、ものすごく儂の心にダメージを与えた。
儂、こんなに女の涙に弱かったかのう……。
「ふむふむ……。時にまひろちゃん」
「む、なんじゃ?」
「甲斐性、ありますか?」
「……甲斐性? それは、あれか? 男の甲斐性、的な?」
「はい」
「ふーむ……そうじゃのう……。まあ、もうすでに二人と結婚したわけじゃからのう。あと……そうじゃな、二、三人くらいであれば、おそらくは……」
「それはいいことを聞きました!」
その言葉を待っていた、と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた瑞姫は、時乃に向き直ると口を開いた。
「時乃さん、訊きたいことがあります」
「……なにかな」
うっわー……時乃、ものすごい落ち込んでおるぅ……。
しかし、儂にはどうすることもできぬ……。こればかりは、何と言うか……仕方がないような……。
なんて儂自身も若干悲しい気持ちになっておったら、この後とんでもない爆弾が放り込まれた。
「時乃さん、まひろちゃんが大好きなら、いっそのこと時乃さんも結婚してはどうでしょう?」
「……え?」
「瑞姫!?」
け、結婚じゃと!? おい、とんでもないことを言いだしおったぞ、このお嬢!
というか、なんでこのお嬢は、恋人、というプロセスをガン無視で人生の墓場に導こうとするのじゃ!? こやつはあれか、人生の墓場へ招待するための死神なのか!?
「あの、羽衣梓さん。それってどういうこと、なの? まひろ君はもう将来を誓い合った二人が……って、あれ? 二人……?」
瑞姫の提案に驚き満ちた表情を浮かべながらも、戸惑うように瑞姫に訊き返す時乃じゃったが、終盤に差し掛かると二人、という部分に意識が行った。
どうやら、そこには気づいてはおらんかったようじゃ。
「はい。見ての通り、まひろちゃんは『TSF症候群』の発症者です」
「う、うん。そうだよね? だってこんなに可愛い女の子になっちゃってるんだもん」
それがどうかしたのか、と言わんばかりの返答。
それを見て、瑞姫は笑みを深めて言った。
「発症者は、多重婚が認められています」
「――ッ!」
稲妻が走った、もしくは天啓を得たかのような衝撃が走ったのじゃろう。時乃は思いっきり目を見開いた。
『マジで!? 発症者って、多重婚が認められてんの!?』
『……俺、てっきりあの二人は片方が内縁の妻でもう片方が本妻だと思ってだが、どっちも本妻だったか!』
「「夫よ(です)!」」
『『『あ、ハイ』』』
そこだけは絶対に譲る気はないのじゃなぁ……。
しかも、儂も儂で最近は自分を嫁だと間違えるようになる始末。これはもしや、洗脳されておるのでは?
……まあ、よいか。別に気にするようなことでもないような気も……しないわけではないな。うむ。元男として、そこはちと譲れぬ。
「こう言っちゃなんだけど、こいつは自分が少しでも恋愛感情を持っていれば、普通に受けれ入れてくれるわよ」
「……そんな人をよくある典型的なハーレム主人公みたいに言うでない」
「違ったかしら? 現に、こうして二人の美少女があんたと結婚してるわけだけど?」
「自分で美少女と言うか、普通。……まあ、たしかに美少女じゃけども」
「でしょ」
ふふんとご機嫌に胸を逸らす。
ふむ……やはりないわけではないのう。
「あの、お話を進めても?」
「「どうぞどうぞ」」
「はい。では。それで、どうしますか? もちろん、時乃さんだけでなく、まひろちゃんの気持ちも聞かなければいけませんけど……」
「えと、あの……ほ、本当に? 本当にあたしも、まひろ君と?」
「まひろちゃんが了承していただければ、ですね」
「……まひろ君、どうかな?」
じっ……とまるで祈るようにしながら儂を見つめてくる時乃。
見れば、周囲の者たち――特に、女子たちの目がすごかった。期待しまくっておる。男子の方も、『おら、桜花行けよ!』『テメェ、断ったらわかってんだろうな? アァ?』『くそっ、なんであいつばかり……』みたいな、そんな怨嗟の籠った声が聞こえてきた。
おぬしら……。
しかし、どうしたものか。
ここはやはり、自身の気持ちを理解するところからじゃな。
まず第一に、好きかどうか。
これはもう、好きで間違いない。嫌いであれば、ここまで一緒に仕事をすることもないし、一緒に出掛けるなどもっとない。
次、それが恋愛感情かどうか。
この辺は……どうなのじゃろうか? 儂は好きと言えば好きじゃ。嫌うなどまずない。それに、妙に懐いてるなーとか薄々思ってはおった。それ自体はまんざらでもなかった。あと、一緒に出掛けることも、激しめのスキンシップも。
ある意味、美穂から感じ取っておったことを儂は感じていたのやもしれぬ。
総評すれば、『告白されたら付き合うかな』という気持ちであると言えよう。
…………む? それはつまり、儂は時乃のことが好き、ということなのじゃろうか?
しかし、しかしじゃ。これでよいのか?
なんかこう……ここでOKしてしまえば、その先、儂はとんでもないことになるような……。つまるところ、おかしな前例を作ってしまうような、そんな気がする。
……じゃが、それは儂の都合と言うもの。しかも、この先にあるかどうかすら不明のことを心配しておる。それでだめだ、とバッサリと振ってしまうのもいかがなものか。
それはいかん。誠意には誠意で答えなければならぬ。
そうなると……。
「…………そうじゃな。儂は、受け入れてもよいと思っておる」
「ほんとに!?」
「う、うむ」
ずい! と身を乗り出してくる時乃は、今にもキスができてしまいそうなほどに近い。
くっ、なんかちとドキドキしてきおったぞ。
あれか、意識したからか?
儂、もしかして人を好きになりやすいのかのう……。
「じゃ、じゃあ、OKってことだよね!?」
「そうなる、かのう。まあ……なんじゃ、儂自身も、時乃のことは好きじゃからな。うむ。好きじゃ」
「や……」
「や?」
「やった――――――――――――――――――!」
俯いてぷるぷる震えだしたかと思えば、目端に涙を浮かべてそれこそ、大輪の花が咲き誇るかのような希望に満ちた笑顔を浮かべて喜んだ。というか、実際飛び上がっておるし。
どんだけじゃ。
なんて思っておったら、
『やりやがったあの野郎!』
『くっそ―! あいつばかり、マジでずりぃよ!』
『美少女の旦那が三人いるとか……あいつ、どこの主人公だよ』
『もしやこれは、あの病気になれば、モテモテということでは!?』
『『『それだ!』』』
……うーむ。そうはならんような気がするが。
あくまでも理想の異性になるだけであって、同性に好かれるかどうかと言えば微妙なところ。儂の場合は、元々好かれておった相手じゃからのう……。
『チッ、昼ドラのようなドロドロの修羅場にはならなかったか……』
『でもでも、アリスちゃんが報われてよかったよね!』
『うんうん! 何度も相談に乗った甲斐があったよ! 見て、あの満面の笑み! 綺麗!』
『でも、まひろ君も罪作りだよねー。ドストレートに言わないと気付かないんだもん』
『『『ある意味、女の敵』』』
おい、今舌打ちした奴がおったぞ。
しかも修羅場を希望していたとか……どんだけじゃ。
面白がり過ぎじゃろう、これは。
「ふふっ、成立してよかったです。では、明日辺りにでも色々としてしまいましょうか。では、婚姻届をどうぞ」
「ありがとー!」
「おい待つのじゃ!」
喜色満面と言った様子で婚姻届を受け取る時乃と瑞姫のやり取りを見て、儂は待ったをかけた。
「はい、どうしました? まひろちゃん」
きょとんとしながら首を傾げ、何か問題でも? みたいな感じで尋ねてくる瑞姫。
「なぜ当然のようにおぬしのカバンから婚姻届が出てくるのじゃ!? おかしいじゃろ!」
「えーっとですね。まひろちゃんは油断ならないですからね。もしかすると、美穂さんやわたし、時乃さんのように知らず知らずのうちに誰かを落としているとも限りません。しかも、それなりの付き合いであればなおさらです。なので、いつそのような方たちが現れてもいいように、わたしは常備しているのです。婚姻届」
「どういう理屈じゃ!? というか、儂にこれ以上そのような間柄の女子など――」
そこまで言って、儂は言うのを止めた。
「どうしたのよ。まさか、いるんじゃないでしょうね、まだ」
「い、いや、いない……はずじゃぞ? 多分、絶対に」
「多分絶対って……矛盾しまくってるわね。やっぱり、心配な相手でもいるの?」
「さ、さすがにあやつは違うと言えるので、大丈夫、じゃよ?」
「あやつって誰ですか? まひろちゃん」
「あ、あやつはあやつじゃ。まあ……ちょっと知り合い、じゃな」
大丈夫なはず。あやつとはそこまで深い間柄でもな……くはない、な。
あれは濃かったし……。
いや、今は置いておこう。きっと、こう言った件には関わらんじゃろう! 大丈夫大丈夫!
「そうなんですね。……さて、それでは必要な項目を書いておいてくれますか?」
「うん! もっちろん!」
「……のう、ちと疑問なんじゃが」
「なーに?」
「おぬしら、なぜ恋人という過程を吹っ飛ばして、結婚しようとするのじゃ? する意味ある? 今」
「うーん……好きだから?」
「そうよね」
「それしかないですね」
「…………そうか」
何を言っても、無駄なのじゃろうなぁ……。
嬉々として自分が今書ける項目を書き始める時乃を見て、儂は遠い目をした。
儂、嫁が増えた。
どうも、九十九一です。
やっばい。暴走しまくった。結果がこれだよ。ヒロイン増えちゃったよ……。うーむ。しかも、長いし。まあ、うん。私らしい。
明日も10時だと思いますので、よろしくお願いします。
では。