爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常 作:九十九一
「おはようじゃ」
理事長の許可をもらい、屋上で軽く日向ぼっこをした後、授業終了のチャイムを聴き、教室へと向かい、挨拶と共に中に入ると、やけに見られた。
まあ、遅刻じゃしな。
「おはようと言う時間はとうに過ぎてる気がするけどね」
「おお、美穂。昨日ぶりかの?」
教室に入るなり、すぐに近づいて来て、儂に話しかけてくる美穂。
やや呆れているような気がするが、まあ、いつも通りじゃろう。
「ほんとよ。昨日なんて大変だったんだから。まさか、行方不明になるとは思わなかったし」
「ははは、いやすまぬな。ちと、困ったことになったもので。して、アリアは?」
「ここだよー」
「おぉう、背後にいたんかい」
「うん!」
アリアの場所を尋ねた直後、背後から声がして振り向くと、そこには金髪碧眼の美少女が。
「心配したんだよ? まひろ君」
「いやぁ、本当に色々あってのう。じゃが、この通り無事なので、安心するがよい」
「うん! 安心だよー!」
「おっと。おぬし、本当によく抱き着いてくるのう」
がばっと嬉しそうな様子で抱き着かれた。
おおぅ、瑞姫ほどではないとはいえ、胸がでかいのう、アリアも。
やはり、アメリカ人の血が入っているからじゃろうか?
「えへへー、だって昨日はあんまり会えなかったんだもん! それに、まひろ君はお嫁さんだし、やっぱりいなくなったら心配だからね! 今日は、ぎゅっとしてるの!」
「いや、それでは儂、動きにくくなるのじゃが」
「でも、瑞姫ちゃんは抱っこしてるよ?」
「あやつのは病気じゃから」
「あんた、よくもまあ、堂々と旦那の悪口言えるわね」
「悪口ではないじゃろ。本当のことじゃからな」
「たしかにそうだけど」
「ほれ見ろ。否定できとらん」
「だって、瑞姫だし」
おぬしもおぬしで大概だと思うんじゃがのう。
まあ、旦那同士仲がよいのは、いいことじゃ。
これで険悪な状況になれば、それこそ儂の気苦労が絶えなくなる。
死ぬまで添い遂げるつもりじゃからな、儂。
『まさか、リアルな百合を見れるとは思わなかったよな』
『控えめに言って、最高すぎる』
『最初は、桜花の奴が羨ましかったけどよ、あいつの状況を見ちまうとなー』
『見守りたくなる』
『『『それな』』』
『まひろ君の周りって面白いよねー』
『そりゃそうだよ。下手な恋愛漫画なんかより、全然面白いに決まってるって』
『だって、ラブコメ主人公ですら滅多に見かけない境遇なんだよ? 性転換して、複数の女の子と結婚しちゃうんだもん』
『リアル百合ハーレムラブコメ主人公……』
ちょっと待て。なんか、また儂に変なあだ名が付いとらんか!?
なんじゃ、リアル百合ハーレム主人公って。長すぎじゃろ!
というか、周囲の奴とか、思いっきり儂の生活を見て面白がってるよな!?
くっ、見世物のパンダの気分じゃ。
「それで? 朝の件はどうなったのよ」
「…………まあ、了承した」
「そ、了解。あんたが了承するような相手なら、悪い人じゃないんでしょ? もっとも、瑞姫がGOサイン出してる時点で、善人なんだろうけど」
「そもそも、儂が女であることを知りながらも、約束を果たそうとする相手じゃぞ? 信用に足る。……まあ、当時は儂が小学四年生で、相手は中学三年生だったんじゃが……」
「え、何? 相手って大人なの?」
「うむ。歳の差はざっと五歳差と言ったところか。なので、今は二十二歳じゃな」
「……うっそでしょ。あんた、大人の人すらも落としてたの?」
「おー、まひろ君、本当に女たらしだね!」
「……たらしこんでるつもりはないんじゃがのう……」
女たらしとか、最近よく言われるようになったのじゃが……うむむ。儂にそんなつもりはないし、そもそも口説いているわけでもないのにそう言われるのは、本当に心外じゃな。
「……って、ちょっと待って。ねえ、まひろ。今、二十二歳って言った?」
「言ったな」
「それ、犯罪じゃないの……?」
「犯罪て」
いやまあ、常識的に考えたら、社会人の女性が、男子高校生と付き合うとか、普通に考えたら……犯罪じゃね?
しかも、今の儂と言えば、小学生くらいの幼い少女。
一応、結衣姉はほんわかとした性格じゃし、そもそも優しそうな外見であるから、警察に補導されるようなことはないはず。傍から見れば、姉妹とか、親子にしか見えんし。
間違っても、夫婦に見えることはない。
……が、年齢的に考えたら、十分アウトの範疇な気が。
「まあ、両家公認なら問題ないじゃろ。実際、二十歳の男と二十五歳の女が結婚するようなものじゃからな」
「そりゃそうでしょうけど」
「でも、結婚すれば問題ないんじゃないの? だって、まひろ君はお嫁さんで、その人は旦那さんになるんだからね!」
「その通りじゃな。なんでまあ、今日か明日にはもう一人新しい入居者が来ると思うが……仲良くしてやって欲しい」
「了解」
「はーい!」
うむうむ、こやつらならば問題なかろう。
二人が笑顔で承諾している姿を見て、儂はうんうんと満足げに頷く。
「……その人、どんな人?」
「うむ。そうじゃな、ちとぽわぽわしているが、頭のいい奴じゃよ。あと、優しい」
「……それならいい」
「そうか。……って、ましろん!?」
「……やほ。遊びに来た」
いつの間にかクラスに来ていたましろんに驚く。
そんなましろんは、いつも通り無表情ではあるものの、どこか嬉しそうな雰囲気。
まあ、本来のこやつは、お茶目な方じゃからのう……。
「……と言っても、時間がないからすぐに退散するけど」
「じゃろうな。何せ今は、普通の授業が終わった後の十分休みじゃからな」
そもそも、三年の教室は四階じゃし。
階段の上り下りを考えると、話せる時間は五分もあればいい方と言ったところか。
「……とりあえず、今日はお仕置き」
耳元で囁かれた。
「待て、マジですんの!?」
「……当たり前。まひろんのせいで、昨日は散々だった。許すまじ」
「ちょっ、儂悪くなくね!? 悪いのは瑞姫じゃろ!?」
「……まひろんが逃げなければよかった。透け透けの服くらい、問題ない」
「いやあるぞ!? 儂、おぬしらに見られるのが嫌で逃げたんじゃからな!?」
「へぇ~、そうだったの」
「あ、そう言う理由だったんだ」
「……ハッ!」
「……ふふ。まひろん、墓穴掘った」
しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
逃げ出した理由がバレた!
ま、まずい……非常にまずい!
「あ、あの、じゃな、き、昨日のあれは……!」
「大丈夫よ。大方『こんな恥ずかしい姿を見られたら、襲われて死ぬ!』とか思ったんでしょ?」
「ぬぐっ……それは……」
「大丈夫だよ、まひろ君。怒らないから!」
「アリア……」
うぅ、本当にアリアは優しい……。
無邪気故に、一番まともだと思っておる……。
やはり、アメリカ人の血を引いているから、おおらかなのかのう?
「……実は、そうなのじゃ。だって、マジで本気になった時のおぬしら、怖いし……」
アリアならば、儂の味方をしてくれるはず。
であれば、正直に言っても問題ないな!
「だって、美穂ちゃん、真白ちゃん」
「ほっほ~う? 私たちが怖い、と」
「……まひろん、いい度胸」
「あ、あれ? なんで、黒いオーラを……?」
何故、そのように怒っておるのじゃ……? というか、無表情のましろんが小さく笑みを浮かべてるんじゃが!?
いや、そんなことよりも……
「あ、アリア? 一体どういうつもりじゃ……?」
「うーんとね、あたしは別に怒る気はないんだけど、美穂ちゃんと真白ちゃんは違ったから! それに、瑞姫ちゃんが『まひろちゃんは、アリスティアさんを頼るような面がありますので、もしも後ろめたい気持ちがまひろちゃんにあるのでしたら、アリスティアさんが尋ねればいちころですよ』って言ってたので」
「み、瑞姫ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」
おのれ、ド変態ロリコンめぇ! なんちゅーことをアリアに吹き込んどるのじゃ!?
いや、たしかにこういう時は頼っちゃうけど! じゃが、それを逆手に取るようなことをしないで欲しいのじゃが! 何してくれてんの!?
「……まひろん、今日は逃がさないから」
「い、いいいや、儂はその、と、図書委員の仕事がっ!」
『あ、桜花―、今日は図書委員の仕事なしでいいってよー』
「テメェ、空気読めよ!」
『ひぃっ、すんません!』
思わず語気が強くなる程、空気の読めない同僚がぁ!
ま、まずい、仕事がないとなると、儂はどうすれば……!
「おはようございます」
……し、死んだっ!
「あ、瑞姫、ちょうどよかったわ」
「どうしたのですか?」
「ま、待て、絶対に言うでないぞ!?」
「真白さん、羽交い絞め」
「……任せろ」
「ちょっ、おぬしそう言うキャラじゃ――むぐぅっ!」
ガバッと後ろから羽交い絞めにされた上に、口元を塞がれた。
くっ、ましろんは儂に近い体型なためか、こういう時すごくちょうどいいサイズ感!
あと、ましろんの手、ミルクの匂いがするのじゃが。いい匂いじゃな。
いやいやいや、何考えてるのじゃ儂! なんとしても、止めなければ!
「んっ~! んんっ~~~~!」
「……まひろん、黙る。あと、暴れない」
じたばたしていたら、羽交い絞めの直後なのに、羽交い絞めから即解放。
と思ったら、ガシッと両頬を掴まれる。
「ぷはっ、え、ちょっ、おぬし、何をしようと……って、待て待て待て! それはまずい! さすがにここでそれは――んむぅっ!?」
『『『おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』』』
『『『きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』』
ディープキス、再び。
……や、やりやがった!
「んむぅっ! んむむ~~~~!」
「……ぷは、まひろん、静かにする。ん……」
「んふぁっ……や、やめっ……ぁむぅ」
や、やばい、こやつ、日に日にキスが上達しておる……!
おかげで、まだ十秒程度じゃと言うのに、頭がぼーっとしてきた……。
「……ふぅ。黙った」
「ふゃぁ……」
全身の力が抜け、だらんとする。
倒れそうになったものの、すぐさまましろんが抱き抱えたので、なんとか倒れなかった。
が、儂の頭はぼーっとしていた。
「うっわ、見事に骨抜き。さすがに、旦那の中で一番のキス魔なだけあるわー」
「ですね。わたしも自信はある方ですけど、真白さんにはまだまだ敵いませんね」
「おー、大人のキス!」
ツッコミを入れようにも、ぼーっとしているため、上手く喋れない。
というかこれ、話そうとしたら絶対にされる、と本能的に感じ取っていた。
「……みほりん、続きどうぞ」
「OK。瑞姫、昨日まひろが逃げた理由は、単純に私たちに襲われるのが怖かったからだそうよ」
「ふふふ、そうだったのですね。たしかに昨日、わたしを見てすぐ逃げ出していましたし。まひろちゃん、覚悟してくださいね?」
「…………ゆ、許してぇ」
「「「無理!」」」
「り、理不尽……」
儂に安寧などないのか……。
『唐突に女同士のディープキス見せられるとか、俺、マジでこのクラスでよかったと思ったわ』
『ロリ生徒会長とTSロリ美少女のキス……やっば。真っ直ぐ立てねぇ……』
『ってか、生徒会長大胆過ぎじゃね』
『桜花も羞恥心ないけどよ、生徒会長も大概だわ』
ぼんやりとしているため、周囲の声はあまりよく聴こえないが、なんとなく言っていることはわかる。
正直、ましろんはその辺り薄いから、平気でしてくる。
……こんな公衆の面前でディープキスをしてくるとは思わなかったが……。
『すごい……大人のキスって、ああやってやるんだ』
『ものすごく勉強になる。彼氏ができた時とか』
『動画なんかよりも、圧倒的にいい資料!』
そういう講座じゃないんじゃが……。
くそぅ、色恋沙汰大好きな女子たちは、完全に教科書としか思ってないんじゃろうな、これは……。
男子は、普通に興奮した様子じゃし……。
『でも、とりあえず、あとで男子たちの記憶は奪っておきましょう』
『『『賛成』』』
……理不尽。
「おーっす、そろそろ席つけよー……って、うおっ、桜花どうした!?」
「き、気にしないでくれ……」
「そ、そうか。……って、生徒会長? あぁ、そういや生徒会長もそうだったか。氷鷹、とりあえず、自分の教室戻れよー」
「……はい。じゃあ、まひろん、またね」
「が、学園ではマジでやめて……」
「……善処する」
ひでぇ。
「……じゃ」
最後に軽くそう言い、儂を瑞姫に渡すと、ましろんは部屋を出ていった。
嵐のような奴じゃった……。
「よし、お前ら全員いるな? って、どうした男ども。若干前屈みになって」
『ちょ、ちょっと腹痛なんす!』
「は? 集団でか?」
『そうっす! さっき男子連中で食った菓子に多分中りました!』
「そうか。やばかったら保健室行けよ。まあ、お前らも健全な男子高校生だからな。そんな光景を見れば、腹も壊すだろうよ」
ニヤニヤとしながら、男子に言い放つ。
……こやつ、さては見ていたな!?
顔から見るに、面白がっていたのか? この野郎……。
ということは、さっき驚いたのも演技じゃったということか……!
「で、桜花の方は大丈夫なのか? 若干ぐったりしているが」
「だ、大丈夫、じゃ……」
瑞姫に自分の席に座らされた後、若干突っ伏しながらも大丈夫と伝える。
大丈夫じゃないと言えば、間違いなく保健室に連れて行かれるからのう……。
「そうか。まいいや。とりあえず、授業の前に軽く連絡事項だ」
『先生、どうして朝じゃないんですか?』
「ついさっき決まったからな。あー、お前らも知っての通り、今年この学園に新しく来た教師の中で、英語の教師が例年よりも少ないことは知っている通りだ」
そう言えばそうじゃったな。
なんでも、あまり来なかったとか。
正確に言えば、必要なラインに到達する者が来なかった、というのが正しいかもしれぬが。
「で、さっき新しい英語教師がこの学園で働くことが決まったんで、それを伝えておく」
結衣姉じゃな、絶対。
『せんせー、それどんな人っすか?』
「んー、とりあえず、かなり若い先生とだけ言っておこう。歳は、今年で二十二だ」
『ってことは二十一!? え、なんで!?』
歳の差が五歳じゃったから、美穂たちに二十二歳と伝えたが、そう言えば結衣姉の誕生日はもう少し先じゃったな。
正確に言えば今年で、じゃからな。
まあ、間違いではないじゃろ。
「海外の大学に行っていたらしい。ちなみに、お前らと同じ歳の頃には、すでに大学二年生だったそうだぞ」
『飛び級……』
『そんな人、ほんとにいるんだ』
儂も、身内にいるとは思わなかったけどな。
「ちなみに、その先生とは割とお前らと接点を持つことになるだろうから、覚えておいてくれ」
ふむ。ということは、このクラスの英語の授業を担当することになるのかの?
まあ、儂としては、結衣姉の教え方はわかりやすいので、是非ともこのクラスで授業をしてもらいたいものじゃがな。
『マジか。男か女か、どっちだろうな?』
『やっぱ、美人な女教師だと、すげえテンション上がるよな!』
『そしたら俺、ぜってー勉強しまくっちまうぜ』
『うーん、この時期に新しい先生かー』
『変な時期だよね。それを言ったら、アリスちゃんもそうだけど』
『……ということは、まひろ君絡みか……?』
『『『あり得るし、面白そう!』』』
女子、鋭くないか……?
男子に知られれば、どのような状況になるか。
……怖いな。
「ま、かなり近いうちに会うことになるとは思うがな。よし、んじゃ、授業はじめっぞー」
なんじゃ、今の意味深なセリフは。
……ふむ。まあよいか。
変なことにはなるまい。
ともかく、遅れた分を取り戻さないといかんの。
どうも、九十九一です。
相変わらず食われるまひろである。話が進むごとに、どんどんエスカレートしている気がするんですが。うーん、めちゃくちゃ。
明日も投稿出来たらしますが……ちょっときつそうです。まあ、頑張って出すつもりです。時間的には10時か、いつも言っている17時か19時ですので、よろしくお願いします。
では。