爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常   作:九十九一

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 あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!


日常67 馴れ初め。結衣の場合

「次は……まあ、結衣姉でいいじゃろ」

「私~?」

「うむ。正直、瑞姫はもうネタじゃからな。あと、実際のとこ儂の方にそこまでのエピソードがあるわけじゃないのでな」

「酷いですよ!?」

 

 事実じゃからなぁ。

 実際、接点があったのはほんの少しで、それ以外はこやつが一方的に知っておっただけじゃからのう。

 

「それで? たしか、小学生頃なんだっけ?」

「うむ。儂が小学二年生の頃じゃな」

「おー、結構昔なんだね」

「まあのう。そんじゃま。話すとするか。結衣姉とは――」

 

 

 あれは今から九年前のことじゃった。

 

 当時はたしか、小学二年生の夏休みくらいじゃったかのう?

 

 その頃の儂は、祖父の影響で散歩を好み、暑くとも街を歩いておった。

 

 結衣姉と初めて会った日は、雨が降るからと母上に傘を持たされておった。

 

 そして、儂はいつものように散歩をしておると、途中で雨が降り出し、傘をさして家に帰ろうとした時、その途中で通った公園で一人ベンチに座り込む年上の女性に目が止まった。

 

 雨が降っている中、なぜ傘を差さずにベンチに座っているのか気になった儂は、その女性に近づき、持っていた傘を目の前の女性に差し出しながら、声をかけた。

 

「どうしたのじゃ?」

「……君は……?」

「わしは、おうかまひろじゃ! 小学二年生なのじゃ!」

「小学生……でも、どうしてこんな雨の中に~……?」

「それはおぬしの方じゃ。なにゆえ、雨の中いすにすわっておるのじゃ?」

 

 当時の儂と言えばまあ、やはり年相応と言うか、空気を読むと言うことができず、ずけずけと言ってしまっておった。

 

 とはいえ、明らかに自分以上に年上な相手に話しかけてる時点で、危機感がないと言えるわけじゃが。

 

「……色々とあるのよ~」

「いろいろ? なんじゃ? けんかでもしたのか?」

「喧嘩……なのかしら~……」

「けんかじゃないのか?」

「そうとも言えるし、そうとも言えないわね~……」

 

 そう言って、曖昧な笑みを浮かべる当時の結衣姉。

 その様子を不思議に思った儂は、結衣姉が困っていると見抜き、

 

「なやみがあるならば、わしが聞くぞ!」

 

 そう言った。

 小学二年生が言うようなことではないかもしれぬが、これには爺ちゃんが関わっておる。

 と言うのも、儂の爺ちゃんは儂と同じでめんどくさがりじゃった。

 

 しかし、それでも困っている者には手を差し伸べるタイプであり、儂にもしょっちゅう、

 

『困っている人がおったら、助けてやるのじゃぞ』

 

 と言ってきておった。

 

 要は、誰にでも優しい人間になれ、と言うものに近いかもしれぬ。

 しかも、幼少の頃から言われておったので、この年の頃にはそれが当たり前と思っておった。

 結衣姉の方も、まさか五つも下の子供そう言われるとは思わなかったのじゃろう、思わず面食らっていた。

 

「……でも、難しいわよ~?」

「じいちゃんが言ってたのじゃ。『悩み事は、誰かに話すだけで心が楽になる』と! わしはよくわからぬがな!」

 

 小学二年生の子供には、ちとわかりづらかったのじゃろう。

 しかし、それでも聞いた方がいい、というのはわかっておったので、笑いながら結衣姉にそう言った。

 

「……そうね~。たしかに、君みたいに、内容がわからない子の方がいいのかもね~……。じゃあ、聞いてくれるかしら~……?」

「うむ! なんでも話すといいのじゃ!」

「ありがとう~。じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 そう言って、結衣姉は事情を話し始めた。

 

 当時の儂はあまりよくわかってはおらんかったが、まあ要約するとこう。

 

 中学生になり、少ししたらどうもお見合いの話があると聞かされた。

 しかし、そこはやはり年頃の女子と言うべきか、結衣姉自身は政略結婚のようなものではなく、恋愛結婚を望んでおった。

 当然、結衣姉はお見合いをしたくないと言った。

 ところが、父親が却下することはできない、そう言ったのじゃ。

 結衣姉は仕方なく了承し、そのお見合いに出た。

 

 その相手は、業績がかなり向上している会社の御曹司で、外見も普通にイケメンとのこと。

 しかし、結衣姉はその男と見合いをした際、直感的にその人はダメだと思ったらしい。

 

 だから、表面上はにこやかに話しておったそう。

 

 お見合い後、父親にその男と将来結婚させられることを告げられ、呆然とした結衣姉は、そのまま家を飛び出してしまったらしい。

 

 つまるところ、その結婚相手を直感的に嫌だと思った結衣姉は、つい逃げ出してしまった、と言ったところか。

 

「……と言う感じなの~。って、君に言ってもわからないわよね~……」

「うむ、これっぽっちもわからぬ!」

「ふふふ、そうよね~……」

 

 苦笑しながらの発言に、儂は全力で肯定。

 その返しを受けた結衣姉は、辛そうな笑みを浮かべて俯いてしまった。

 そんな姿を見た、この時の儂は、

 

「じゃが、おぬしがいやだと言っておらんではないか」

 

 そう言った。

 

「え……?」

 

 予想していないことを言われた結衣姉は面食らった。

 

「いやならば、言うのが一ばんなのじゃ!」

「で、でも~……」

「じいちゃんが言ってたのじゃ。『嫌なことはハッキリ嫌だと言える人間が一番強い』と!」

「……君のおじいさんは、すごいのね~」

「わしのじまんのじいちゃんじゃ! おぬしもおやに言うのじゃ! じいちゃんは『親や祖父母は自分の子供や孫が大事』って言っておったぞ」

「大事……。私、大事にされてるのかしら~……?」

「それはわからぬ。じゃが、おぬしの父上と母上はおぬしがすきだとおもうぞ!」

「……そうかしら~……?」

「うむ! おやとは、そういうものらしいぞ!」

 

 満面の笑みを浮かべながら、儂は結衣姉に力強くそう言った。

 言っていることが矛盾しているかもしれぬが、当時の儂は小学二年生。こんなもんじゃろ。

 

「………………うん。私、話してみる~」

「それがいいと思うのじゃ! きっと、だいじょうぶなのじゃ!」

「ありがとう~。なんだか、元気も出て来たわ~」

「そうか? それはよかったのじゃ。そういえばおぬし、かさはないのか?」

「お恥ずかしながら、着の身着のままで出てきちゃったものだから、ないのよ~……」

 

 ふふ、と苦笑いを浮かべる結衣姉。

 そんな結衣姉に対してとった儂の行動はと言うと、

 

「ならば、わしのこのかさをかすのじゃ!」

 

 自分の傘を結衣姉に差し出した。

 

「それは悪いわ~。君が風邪引いちゃう~」

「わしは強いからだいじょうぶなのじゃ! では、わしはかえるのじゃ!」

 

 当然断られたものの、儂は無理矢理に傘を押し付け、そう言って駆け出した。

 

「あ、私、明日もここにいるから~!」

 

 走り去る儂の背に向かってそう言った結衣姉に、一瞬だけ後ろを向いて笑顔で頷いた。

 結衣姉との出会いはこんな感じじゃった。

 

 

 その次の日。

 

 昨日の結衣姉の発言から、儂は再び公園に訪れておった。

 あまり来ない地区なので、ほんの僅か緊張したが、それ以上にわくわくしていた。

 公園に到着した儂は、きょろきょろと周囲を見回し、結衣姉を探す。

 

 すると、

 

「あ、こっちよ~!」

 

 昨日と同じベンチに座っていて、わしを見つけるなり笑顔を浮かべて手を振って来た。

 

「きのうぶりなのじゃ!」

「うん、昨日ぶりね~」

 

 昨日とは打って変わって、にこにことかなり上機嫌な結衣姉。

 

「どうだったのじゃ?」

「うん、君のおかげで白紙になったわ~!」

「はくし?」

「簡単に言うと、結婚させられることはなくなったのよ~!」

「おぉ、よかったのう!」

「君のおかげよ~。ありがとう~」

「わしは話を聞いて、じいちゃんのことばを言っただけなのじゃ」

 

 じいちゃん曰く『なるべく、恩着せがましくならないよう、謙虚であれ』と言われておったので、儂はさも当たり前と言わんばかりにそう返す。

 まあ、実際のとこ本気でそう思っておったわけじゃが。

 

「そう~? でも、何かお礼をしたいんだけど、何かある~?」

「おれい? う~むぅ……」

 

 唐突にお礼がしたいと言われ、儂はその場で軽く唸る。

 そして、儂が言いだしたのは、

 

「では、わしとともだちになってくれ!」

「それでいいの~?」

「うむ! 年上のともだちはなんかかっこいいからのう!」

「ふふふ、そっか~。じゃあ、お友達になろっか~」

「よいのか!?」

「もちろんよ~。だって、君は私の恩人だからね~」

「おおげさじゃぞ。わしはしたいことをしただけなのじゃ」

 

 今にして思えば、言動のせいで若干大人びていたかもしれぬな。

 普通の小学二年生はこんなことを言わないと思うのじゃが。

 いや、言うのか?

 

「……そう言えば、おぬしはなんて名前なのじゃ?」

「あ、そう言えば名乗ってなかったわね~。私は、桜小路結衣よ~。君の名前は昨日聞いたけど、もう一度教えてもらえると助かるわ~」

「おうかまひろなのじゃ!」

「おうかまひろ君ね~。ん~……じゃあ、ひろ君って呼んでもいいかしら~?」

「だいじょうぶじゃ! ならば、わしはゆいねぇとよんでもよいか?」

「結衣姉……うん、全然いいわよ~! むしろ、そう呼んで~」

「ありがとうなのじゃ! わし、一人っ子じゃから、おねえちゃんができたみたいでうれしいぞ!」

「ふふふ、そう言われると、私も一人っ子だから弟ができたみたいね~」

 

 とまあ、そんなこんなで儂と結衣姉の交流が始まった。

 

 

 交流、とは言ったが、実際はただ二人で遊ぶだけじゃ。

 

 もっとも、二人で出来る遊びなど限られておるわけじゃが。

 例えば、ブランコで遊んだり、二人でかくれんぼをしたり、シーソーをしたり。

 

 本当にそんなもん。

 

 そうして、交流が始まり一年経過したある日、

 

「私のお父さんたちがね、ひろ君に会いたがっているんだけど、大丈夫~?」

 

 と儂に尋ねてきた。

 特に深く考えなかった儂は、

 

「もちろんなのじゃ!」

 

 普通に了承した。

 その直後、結衣姉が電話をし始める。

 その光景を不思議に思っておると、不意に黒塗りの車が公園の前に止まった。

 

「じゃあ、行こう~」

 

 儂の手を取って、結衣姉と儂は車へと向かっていった。

 

 

 そうして、車に揺られること数分。

 儂は日本屋敷と言わんばかりの豪邸に連れてこられた。

 

「おー、なんじゃここは!」

「ここは、私のお家よ~。さ、お父さんとお母さんが待ってるから、行きましょ~」

「うむ!」

 

 いかにもお金持ちの家、と言った外観の家に入ると言うことで、幼い儂のテンションはかなり高かった。

 

 大して気にしないと言うのは、子供だからとも言える。

 いやまあ、今の儂も大して気にしないと思うが。

 ともあれ、儂は結衣姉に連れられて屋敷の中に入ると、奥の襖の前に来た。

 

「お父さん、お母さん、入るわ~」

『あぁ、大丈夫だぞ』

『いつでもどうぞ』

 

 結衣姉が部屋に入る旨を伝えると、襖の向こう側から、二人の男女の声が聞こえて来た。

 どのような人物がいるのか、当時の儂は能天気にも『どんな人なんじゃろうなぁ』とか思っておった。

 

 普通に考えて、あんなでかい家の一人娘の両親と会うなど、相当緊張するはずなんじゃがな。やはりというか、儂は割と楽観的思考じゃったからのう。

 

 だからか、二人で中に入る時も、さほど気にせず普通に入っていった。

 そして、部屋の奥にいる二人の男女の前まで行くと、結衣姉が腰を下ろした後に、儂も座った。

 

「えーっと、君がうちの娘に助言をしてくれた少年かな?」

「じょげん、とはなんじゃ?」

 

 小学三年生じゃからな。言葉の意味がわからず、訊き返しても仕方ないじゃろ。

 

「あぁ、すまないね。そうだね、誰かを助けるための言葉、かな?」

「おぉ、そう言うことか! じゃが、わしはべつに、じょげん、とやらをしておらんぞ?」

「ふふふ、そうでもありませんよ。あなたのおかげで、私たちは結衣の本心を知ることができたんですから」

「うんうん。僕はね、結衣には絶対幸せになってもらいたいと思っていてね。だから、去年のあのお見合いでは思うところもあったのさ。相手に難があったからね」

「なん……?」

「あー、つまり、いい人じゃない、ということさ」

「そうなのか」

 

 話の内容がやや難しく、当時の儂は意味を聞きながら話しておった。

 

 いくら、爺口調だとは言っても、それはあくまで口調がそうであって、言葉の量自体は年相応じゃったからのう。

 

「それに、結衣が言っていたよ。恋愛結婚がしたいとね。だからいつか、結衣が心の底から好きになった相手と結婚させてあげよう、と思ったんだ、僕たちは」

「ふむ?」

「あはは、まあ、よくわからないよね。仕方ないさ。……ただまあ、これだけはわかってくれ」

「うむ、なんじゃ?」

「娘を助けてくれて、ありがとう。君のおかげで、小百合が言ったように、結衣の本心を知れたし、毎日楽しそうに笑ったりしている。娘と仲良くしてくれて、ありがとう」

 

 深々と、冬治殿が自分よりも遥かに年下の相手に頭を下げてお礼を言った。

 今にして思えば、とんでもないことじゃったな、あれ。

 

「いいのじゃ! じいちゃんが『困っている人を助けられる人間になれ』と言っておったからな! それに、ゆいねぇいるのはたのしいのじゃ!」

「あらあら、結衣姉と呼んでいるのですか。ふふ、弟ができたみたいですね、結衣?」

「私も、弟ができたみたいで楽しいわ~」

「そうかそうか。どうやら、仲がいいようだ。年下の男の子とはいえ、異性の友人ができるのは初ではないか?」

「そうね~。中学からは、女子校だもの~」

 

 小百合殿の言う通り、結衣姉は中学時代、女子校に通っておった。

 

「異性の友人ができるのは、いいことだ。僕としては、将来的にも、と考えるがね」

 

 で、それが原因と言うかまあ、異性の友人は儂が初だと言う。

 当時はなぜかわからなかったが、おそらく自身の肩書が原因だったのじゃろう。何せ、社長令嬢じゃからな。

 変な奴しか寄ってこなかったのじゃろうな。

 

「あらあら、気が早いですよ。それに、まだこの子は小学生なんですよ? せめて、高校生くらいになってからです」

「ははは。それもそうだね。……ところで、君の名前をまだ聞いていなかったね。なんて言うんだい?」

「おうかまひろじゃ!」

「そうかそうか。まひろ君だね? 僕は冬治。結衣の父親だ。それでこっちが――」

「小百合です。よろしくね、まひろ君」

「うむ、よろしくなのじゃ!」

 

 大人相手にも、口調を変えずに相変わらずの爺口調。

 

 二人はそんな様子の儂を見ても、微笑ましそうに笑うだけで、全く注意することはなかった。おそらく、子供だから、じゃろう。

 

 それ以外にも、結衣姉の友人だから、というのもあったのやもしれぬ。

 

「それで、まひろ君。君にお願いがあるんだ」

「む? なんじゃ?」

「今後とも、結衣と仲良くして欲しいんだ」

「それならだいじょうぶじゃ! わしは、ゆいねぇがすきじゃからな! なかよくするのじゃ!」

「ははは。随分とストレートに話す子だ。いいね、まひろ君。僕は気に入ったよ」

「そうね、私も気に入ったわ。まひろ君。いつでもこの家に来ていいですからね?」

「そうなのか? じゃあ、あそびにいくのじゃ!」

 

 儂が馬鹿正直だったからか、それとも結衣姉と普通に仲良くしていたからかはわからぬが、儂は二人に気に入られた。

 

 その結果、いつでも遊びに来ていいと言われることとなり、子供の儂は、結衣姉の家で一緒に遊べる! とか思った。

 

 そして、次の日から儂は結衣姉と遊ぶ時は、よく結衣姉の家で遊ぶことになった。

 

 

 親公認の関係になって、儂と結衣姉は二人でよく遊びに行ったり、結衣姉の家にてゲームをしたりして遊んだ。

 一応、毎日なんて言う頻度ではなかったがな。

 儂にも同じ学校の友人やら、健吾がおったからのう。

 

 まあ、それでもそこそこの頻度で会っては遊んでいたがな。

 もちろん、遊ぶだけでなく、勉強を教わったりもした。

 

「あ、ひろ君、ここ間違ってるわよ~」

「む、ちがうのか?」

「うん、違うわね~。横棒が一本足りないし、こっちは部首が違うわ~。それと、こっちの読みも違うわね~」

 

 その日は国語……というより、漢字の勉強しており、漢字ドリルをしておった。

 宿題じゃったからのう。

 

「ほんとじゃ。結衣姉は頭がいいのう!」

「ふふふ、これでもお姉さんだからね~!」

「結衣姉はすごいのじゃなぁ」

「といっても、私くらいの人だと、これくらいはできるけどね~」

「じゃあ、大人と言うことじゃな!」

「そうかもね~」

 

 こんな風。

 

 もともと、勉強を嫌っている、などということがなかった儂。

 勉強が嫌いな者の大半は、単純にわからないからではないか、と思う。

 わからなければ、たしかにつまらないからな。

 謎解きゲームだって、解けなければ面白みがわからないからのう。

 しかしまあ、だからと言って勉強が好き、というわけではなかったので、

 

「むぅ~……めんどくさいのじゃぁ~……」

 

 問題が解けなくて、机に上半身を投げ出して文句のような言葉を言う時もあった。

 儂はめんどくさがりじゃからな。

 問題が解けないとなると、こうなる時もあった。

 そんな儂に対し、結衣姉がとる行動はと言うと、

 

「じゃあ、お姉さんがやる気を出させてあげましょ~」

「できるのか?」

「もちろんよ~。ひろ君が問題を全部解くことができたら、ご褒美をあげましょ~」

「ごほうび!」

 

 ご褒美である。

 勉強にやる気を出さない子供に対して有効なのが、このご褒美と言うもの。

 

 実際、これ目当てに頑張る子供はおるからのう。

 儂も例に漏れず、ご褒美という言葉に目を輝かせておった。

 

「なにをくれるのじゃ!?」

「そうね~……ひろ君は寝ることが好きだったわよね~?」

「うむ! だいすきじゃ!」

「じゃあ、ぐっすりと眠ることができるおまじないをしてあげるわ~」

「ほんとか!?」

「本当よ~。だから、頑張ってね~」

「うむ! がんばるのじゃ!」

 

 儂は本当に単純じゃった。

 

 普通、子供はそんな程度のご褒美じゃ喜ばないと思うのじゃが、生まれた時から睡眠大好きだった儂には、効果抜群じゃった。

 

 それにやる気を出した儂は、頑張って宿題を終わらせた。

 

「終わったのじゃ!」

「じゃあ、確認するわね~。ん~…………うん、ちゃんとできてるわ~。偉いわ、ひろ君~」

 

 にっこりと微笑みながら、結衣姉が儂の頭を撫でる。

 優しくゆっくりと撫でる手が気持ちよくて、儂は目を細めた。

 

「それでそれで、ごほうびじゃごほうび!」

「慌てないの~。じゃあ、ちょっとこっちに来てね~」

 

 ちょいちょいと手招きされて、儂は嬉々として少し移動した結衣姉の所へ歩く。

 結衣姉は儂が近づくと、その場で女の子座りをする。

 

「む?」

 

 その光景に儂は首を傾げる。

 そんな様子を見てか、結衣姉はぽんぽんと自分の膝を叩く。

 

「膝枕だよ~」

「ひざまくら……!」

 

 膝枕というワードに、儂のテンションは爆上がりした。

 

 と、ここで少し、儂の家庭環境について話そうと思う。

 

 儂の家は、両親が共働きの家で、儂の世話は基本的にじいちゃんがしておった。

 

 決して、儂の両親が仕事大好き人間とか、子供である儂を放置していた、などということはなく、単純に仕事が忙しいが故の状況じゃった。

 

 実際のとこ、儂自身両親――それも、母親の方に甘やかされた記憶がほとんどない。

 別に、厳しかったとかいうわけではなく、忙しすぎて時間が合わなかったりしただけなんじゃが。

 

 じゃあ、休みがあるだろ? とか思った諸君。

 残念ながら、儂の両親の仕事が忙しい時は、家で仕事をしている時もあったのじゃ。

 土日返上でな。

 

 それに、夜も遅いので、あまり話す機会はなかった。

 

 故に儂は、母親に膝枕をしてもらう、と言う経験がなかった。

 さすがに、じいちゃんにしてもらうのは違うからのう……。

 

 そんな折、結衣姉が膝枕をしてくれると聞いたため、儂のテンションが爆上がりした、というわけじゃ。

 

 ちなみに、この当時の儂は話には聞いていただけで、どういう感じなのかは知らない。

 

「よ、よいのか?」

「もちろんよ~。ご褒美だもの~。……私も甘やかしたいし~」

「む? 何か言ったか?」

「ううん、気にしないで~。それよりも、遠慮しないで寝転がって~」

「うむ!」

 

 嬉々として、結衣姉の膝に頭を乗せて仰向けに寝転ぶ。

 すると、慈愛に満ちたような笑顔を浮かべながら、頭を撫でてくる。

 

 後頭部は、ふわふわとした柔らかい太股があり、前頭部の方は結衣姉の少しだけひんやりとした手で撫でられる。

 

 まあ、睡眠大好きであり、尚且つ環境のいい場所で眠った儂はと言うと、

 

「くー……くー……」

 

 普通に寝た。

 

 

「ふふふ……やっぱり、ひろ君は可愛いわ~……」

 

 まひろ(小学三年生)が眠った直後、結衣は恍惚とした表情を浮かべながら頭を撫で、まひろの寝顔を直視していた。

 

 というかガン見である。

 

「それに、この膝にかかるほどよい重みがたまらないわ~……」

 

 と、どこか変態的な言動を見せる結衣。

 周囲に人がいないのをいいことに、結衣は軽く本性を見せ始めていた。

 

「まさか、ひろ君のような小さくて、可愛らしい年下の子と仲良くなれるなんて思わなかったわ~」

 

 優しく頭を撫でながら、結衣はそう呟く。

 

 なんだか、どこかで見たことがある変態のようである。

 

 しかし、勘違いしてはいけないのは、結衣はショタコンとかロリコンとかというわけではなく、単純に子供が好きなだけであることだ。

 

 ……まあ、もっとも、

 

「ふふふ、でも、ひろ君は可愛いだけじゃなくて、かっこいいものね~……。困っていた見ず知らずの私を助けてくれただけでなく、好きと言ってくれたんだもの~」

 

 完全にホの字であるが。

 

 年下と言えど、初めて会った異性であり、尚且つ小さなこととはいえ、助けてもらったた相手であるため、結衣はそれはもう、まひろに好意を持っていた。

 

 さすがに、表立ってまひろに恋愛的な意味で好きとは言えないが。

 

 中学生二年生が、小学三年生相手に恋をする、というのも……なんだかアレな気がするが、まひろはおそらく全く気にしない事だろう。

 

 あとはまあ、

 

「ついつい、ひろ君は甘やかしたくなっちゃうし~……いつか養ってあげたいわ~」

 

 だだ甘やかそうとしていたりする。

 完全に姉属性……というか、母親属性である。

 なので、結衣の父親が将来的にも、と言った際には内心、

 

『お父さん公認で、将来的に結婚できる~……?』

 

 と本気で思い、喜んだ。

 

「ゆいねぇ……すきじゃぁ~……くぅ……すぅ……」

「ふふっ、本当に可愛いわ~……」

 

 結衣は終始、眠っているまひろの頭を撫で続けていた。

 

 

 そうして、さらに一年経過したある日のこと。

 

「ねえ、ひろ君、少しだけお話いい~?」

「うむ、なんじゃ、結衣姉」

 

 気が付けば儂は、小学四年生になっておった。

 中学生と小学生と言う関係であるにもかかわらず、よくもまあ続いた物じゃ。

 しかも、結衣姉はこの時女子校、それもお嬢様学校と呼ばれるような学校に通っておったのにな。

 そんなある日、儂は何やらいつもと少し様子の違う結衣姉に話があると言われた。

 

「実は私ね、明後日には海外に行っちゃうの~」

「海外とは、外国のことか?」

「そうよ~。だから、ひろ君とは会えなくなっちゃうんだ~……」

「そ、そうなのか!?」

 

 結衣姉が海外へ行ってしまう。

 

 その話は、当時の儂にとって青天の霹靂であった。

 何せ、結衣姉とはもっとずっと長く一緒にいられると思っておったわけじゃからな。

 心情的には……そうじゃな。幼稚園の頃に、担任の先生に対し『先生と結婚するの!』とか言った園児が、先生が別の大人と結婚した出来事を聞いた時のような感じじゃな。

 

 ようは、ショックだったわけじゃ。

 

「ごめんね~……」

「……いなくなってしまうのか?」

「……うん」

「じゃ、じゃあ、なでてくれたり、ひざまくらをしてくれたりも……」

「ごめんね~……できなくなっちゃうわ~……」

「……」

 

 この時の儂と言えば、姉のような存在ができて、かなり喜んでおった。

 血の繋がりなどはまったくなく、一緒に住んでいるわけでもないが、それでも本当の姉のように慕っておった相手がいなくなると聞いて、儂はそれはもう悲しんだ。

 それほどまでに、仲が良かったのじゃ。

 

「うぅ……」

「あぁ、泣かないで~。私も、ひろ君と離れるのは悲しいの~……」

「……じゃが、いなくなるのじゃろ……?」

「……そうね~」

「わしは、結衣姉とはなれるのはいやじゃ……ずっといっしょにいたいのじゃ」

 

 子供とは我儘なもので、当時の儂もそんなことを言っておった。

 どうしようもないと言うことはわかりきっていたのにもかかわらず。

 結衣姉は悲しそうな笑みを浮かべる。

 

「本当に、ごめんね~……」

「…………もう、ずっと会えないのか……?」

「ううん、そんなことはないわ~」

「……本当か?」

「もちろんよ~。私は必ず帰ってくるわ~。ひろ君に会うためにね~」

「本当に、帰ってくるか……?」

「当たり前よ~。私も、ひろ君のことは好きだからね~」

 

 にっこりと笑いかけながら、そう言ってくる結衣姉。

 その笑顔は、儂にとって元気になるものであった。

 結衣姉の優し気な笑みは、何と言うか、元気が出たのじゃ。

 小さな儂が、年上でお姉さんな結衣姉に懐いた理由の一つでもあるのやもしれぬ。

 

「だからね、ひろ君さえよければなんだけど~……一つ、約束したいな~、って」

「わしでよければ何でも言うのじゃ!」

 

 約束と聞いて、儂はそれに飛びついた。

 約束とは必ず守るもの。

 結衣姉がおかしな約束をするはずがない、そう思っての発言じゃった。

 何より、約束と言う繋がりがあると、無意識に思っておったのじゃろうな。

 

「ありがとう~。それで、約束って言うのはね……その、ひろ君が大きくなったら、私と結婚して欲しいな~、って思ってるの~」

「けっこんとは、男と女が夫婦になるあれか?」

「そうよ~。……相変わらず、たまに古風な言い回しをするわね~、ひろ君は~」

「わしじゃから!」

「ふふっ、そうね~。……それで、どうかしら~?」

 

 今思い返してみると、そう尋ねる結衣姉の顔は、不安と期待が入り混じったような表情だったように思える。あと、顔が真っ赤じゃった。

 

「うむ! わしはよいぞ! 結衣姉といっしょにいられるのなら、うれしいのじゃ!」

 

 まあ、当然のように儂は了承した。

 結衣姉が好きじゃったからのう、この時の儂。いや、今の儂も好きじゃが。

 

「ありがとう~! じゃあ、約束ね~!」

「うむ、約束なのじゃ!」

「私が大人になって、ひろ君も大きくなる頃に帰ってくるからね~!」

「うむ!」

 

 そんな約束を儂と結衣姉の二人は交わした。

 

 

 そしてその二日後、結衣姉は海外へと旅立っていった。

 

 その間、儂と結衣姉は手紙のやり取りをしておった。

 とはいえ、送り先が海外であるため、それなりの誤差が生じてしまったがな。

 そんな手紙のやり取りは、文面からわかるほどに結衣姉が忙しそうであったため、頻度を落とすことになった。

 

 それでも、儂にとっては手紙は楽しみなものであった。

 

「――とまあ、こんな感じか」

「そうね~。ひろ君憶えていたのね~」

「いやまあ、思い出したと言うべきか。一度話し始めたら芋づる式で記憶がよみがえって来たわい」

 

 意外と覚えてるもんじゃな。

 

「「「「小さい頃から、女たらし……」」」」

「心外なんじゃが!?」

 

 儂、別に女たらしとかではないのじゃが!

 

「っていうか、なんであんた、そんな大事な約束を忘れてたのよ」

「ぬぐっ……いや、それは何と言うか、じゃな……一応、去年の五月くらいまでは憶えておったんじゃよ……?」

「じゃあ、なんで忘れたの?」

「……考えてもみよ。入学して一ヶ月経った後にバイトを始め、アリアと友人として付き合うようになり、九月には美穂の悩みを聞いたり、ましろんの悩みを聞いたり、たしか同じ月に瑞姫とも変な出来事があったな。それで時間が経過し、三月に女になり、四月頭にはまさかの結婚じゃぞ? しかも、その後も二人増えたし。いろんなドタバタがあれば、さすがに忘れても仕方ないと思うのじゃが!」

 

 多分、これらの出来事がなければ、普通に憶えておったぞ、儂。

 しかし、三月下旬の発症から始まり、僅か一ヶ月と少しで旦那が四人も増えるようなごたごたがあれば、のう?

 

「それはそれよ。約束を忘れるのはさすがにどうかと思うけど?」

「ぐっ……」

「……まひろんが悪い」

「じゃが、こうして約束は守ったわけじゃから、もうよくないか!?」

「それもそうね~。私は、ひろ君と結婚できたから全然OKよ~」

「ほらな? 結衣姉もこう言っておるし……」

「でも、忘れられていたのは少しショックだったわ~」

「え」

「だそうですので、これはもう、お仕置きされても文句は言えませんよね? まひろちゃん?」

 

 ふふふふ、と妖しく笑う瑞姫。

 あ、これ、さっきのことを根に持っておるな!?

 くそぅ、なんとめんどくさい奴じゃ!

 

「た、たしかに儂も悪いが……これは不可抗力じゃ! よって、情状酌量の余地がある!」

「「「「「ないです」」」」」

「ひっど!?」

 

 旦那五人に一瞬で否定されたんじゃが!

 こやつら、本当に儂の事好きなのか!?

 

「……とはいえ、さすがに理不尽にお仕置きするというのも、夫婦仲が悪くなる原因になりかねません。であるなら、今回は見逃しましょう」

「ほ、ほんとか!?」

「はい。私にも非がありそうですので」

「さすが瑞姫じゃ! マジで愛してる!」

「ありがとうございます!」

 

 お仕置き回避ができた。

 本当によかった……。

 正直、きっついからのう……あれらは。

 

「……まひろん、残念ながら私からのお仕置きが待ってる」

「なんで!?」

 

 と思ったら、ましろんが死の宣告をしてきた。

 

「……まひろんが逃げ出したせいで、私がみーちゃんに襲われた。そのお仕置きがまだ。なので、お仕置き」

「それはたしかに申し訳ないが、酷くないか!?」

「……酷くない。私は、ねちっこい。みーちゃん、あの部屋使っていい?」

「あの部屋と言いますと……あ、あのお部屋ですね! もちろんです! では、今日は真白さんに譲りますので。みなさんもそれでいいですか?」

「あ、私は混ざりたいわ~。私だけ、まだだからね~」

「それもそうですね。では、今回は真白さんと結衣さんということで」

「「「「「異議なし!」」」」」

「異議あり!」

「「「「「却下!」」」」」

「……ちくしょーめ!」

 

 おのれ民主主義!

 

 しかも、結衣姉も混ざるじゃと!?

 一体何をするつもりなのじゃろうか。

 

 あと、

 

「のう、あの部屋とは、あれか? この家に来た日に儂だけ入れなかった、あれか?」

 

 あの部屋がすごく気になるのじゃが!

 

「はい、あれです」

「ということは、ぐっすり眠れるベッドということか?」

「んー…………まあ、そうですね。疲れてぐっすり眠れると思いますよ」

「ほう! それならばよし!」

 

 さすがにそこまでのことはないじゃろ!

 回数を重ねるごとに、儂も強くなっておるからな!

 多分!

 耐えてみせよう!

 

「……ふふふ」

 

 ……今一瞬、ましろんが嗜虐的な笑みを浮かべたのは、見なかったことにしよう。




 どうも、九十九一です。
 新年が始まってすでに四日経過しています。少し遅れましたが、許してください。
 とりあえずこの小説の今年の目標でも言っておきましょうかね。
 んー……とりあえず、200話を目標にしようかなぁ。完結は多分無理だと思います。だって、何も思い浮かんでないしね! 終わり部分。まあ、いつか終わるでしょう。
 とまあ、そんな感じですかね。次の投稿は……いつだろう? まあ、早めに出します。
 時間は多分、10時か、17時だと思いますので、よろしくお願いします。
 では。
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