爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常 作:九十九一
翌日。
その日もいつも通り(?)に一日が始まり、昨夜のあれこれで疲れ果てた儂は、昼頃に起きて来た。
ちなみに、あれだけしておいて、ましろんと結衣姉の二人は、なぜかいつも以上につやつやしている上に、元気に見える。なぜじゃ。
儂なんて、体のあちこちが痛いんじゃが。
くそぅ、まさかあんなプレイをやらされるとは……。
とまあ、そんな夜の生活的なあれこれは、いずれ向こうで語るとして。
起きてきた儂は、ちょうど食堂に揃っておった旦那たちと昼食を摂っておった。
「そう言えば忘れてたけど、今ってゴールデンウィークなのよね」
すると、美穂が今がゴールデンウィークであると零す。
「そう言えばそうじゃな。たしか、今年は土日に被っておるので、学生は五連休じゃったな」
大人は有給を上手く使えば、十六連休にできるみたいじゃがな。
……そう言えば、儂の両親はどうなんじゃろうか?
いつも家には帰って来ず、会社近くのマンションで生活しておるようじゃが。
ふむ。後で連絡でも取ってみるか。
それから、ゴールデンウィーク中に家にも行った方がよさそうじゃな。家の方もたまには掃除をせんと埃が溜まるし、何より泥棒が入っておったら困るしのう。
……いや待て。その辺りを瑞姫――というより、瑞姫の父上が考えないわけがない。
「瑞姫よ、一つ聞いてもよいか?」
「なんですか?」
「儂の家って今、留守じゃよな?」
「そうですね」
「……まさかとは思うんじゃが、羽衣梓グループが何かしておったりする……?」
「もちろんです。しっかりと、警備員を就かせておりますのでご心配なく。それから、週に一度は家事代行サービスを用いて、家の掃除もさせておりますので」
「……マジかー」
予想通りと言うかなんというか……そこまでしておったとは。
「どうかしたのですか?」
「いやなに。ゴールデンウィーク中に一度は帰った方が良いかと思ってのう」
「そうでしたか」
「ま、その様子ならば別に行かなくともよさそうじゃな」
もとより、掃除や点検のつもりで行こうと思ったわけじゃからな。
面倒ごとをやらなくて済むのならば、行かなくてもよいじゃろ。
「して、美穂よ。唐突にゴールデンウィークのことを思い出したようじゃが、どうしたのじゃ?」
「いやね? せっかくの大型連休なわけだし、どこか行きたいじゃない? 考えてみたら私たち、旅行行ってないじゃない」
そんな何気ない美穂の発言が、食堂に響いた。
すると、キラリ、と美穂以外の面子の目が輝いた……ように見えた。
「まあ、何のかんの言ってごたごたしておったし、何より結衣姉を除き儂らは学生じゃからな。行く暇などあまりない」
それに、美穂と瑞姫のみと儂は思っておったからのう……。
増えるなぞ、考えたこともなかった。
そもそも、予想すらできぬ。
……もっとも。以前から親しかった者たちは、今の旦那たち以外にはおらんがな。
多分。
「でしたら、旅行に行きますか?」
すると、唐突に瑞姫がそんな提案をしてきた。
「でも、ゴールデンウィーク中じゃ旅行しようにも難しいんじゃないかな? だって、予約してないわけだし、さすがに近場だと空いてないような」
「そこはご安心を。羽衣梓グループと提携している老舗旅館がありまして、そこならば問答無用で宿泊可能です。元々、ゴールデンウィークの間は、いつわたしの家族が泊まれてもいいように部屋が空いておりますので」
「おー、さすが羽衣梓さんの会社ね~」
「……改めて思うが、ほんと儂、とんでもない者の所に嫁いだんじゃなぁ……」
「まひろちゃん、嫁いだ自覚あったのですね」
「そりゃまあ、おぬしらが散々儂のことを嫁とか言うし、何より扱いが完全に嫁じゃろ? ならばもう、受け入れるしかなかろう」
夜のあれとかも、完全に儂が嫁側じゃもん。
おかげで、大変じゃがな。
「……まひろん、苗字変える?」
「いや、さすがにまだ変える気はないぞ?」
「まだ、ってことはいずれは変えるのね」
「そうじゃな。と言っても、高校卒業後くらいかのう。もちろん、誰の苗字にするかは決まっとらんが……」
ただ、可能性として一番高いのは瑞姫の苗字じゃろうな。
なんとなくじゃが。
「苗字を変えること自体はまひろちゃんの自由ですけど……たしか、まひろちゃんの家系は由緒ある家系でしたよね? いいのですか? 嫁いでしまっても?」
「む? 儂の家が由緒ある家系? ははは。ないない。たしかに、うちは爺ちゃんや母上曰く、本家らしいが、それ以上でもそれ以下でもないと思うぞ? なんか、分家とかもあるらしいが、そんなもの、どこの家庭でもあることではないのか?」
「ないわよ」
「ありませんね」
「ないと思うな」
「……ない」
「ないと思うわ~」
「なんっ、じゃとっ……」
ないの……?
え、でも昔、
『まひろよ。家は本家で、分家がそこそこの数あるが、それはどこの家でも同じことじゃぞ』
とか言っておったんじゃが……。
え、もしや儂、爺ちゃんに騙された……?
そ、そんなバカなっ!
儂が世界一敬愛しておった爺ちゃんが、儂に嘘を……?
…………………いや、よくよく考えてみれば、あの時の爺ちゃん、別段儂を騙すような素振りはなかったような?
ということは、爺ちゃんもそう思っておったのでは?
……なら解決じゃな!
「……でも、普通に考えて、まひろんの家は地味にすごいと思う」
「む、どうしてじゃ?」
「……よく考えてほしい。いくら両親が共働きだからと言って、ごくごく一般的な家庭では、一人暮らしが問題なくできるほどの金銭を振り込めないと思う。だって、親にも暮らしがあるはずだから」
「そうかの? 普通なのではないか?」
「ちなみに、あんたの月の仕送りっていくらくらいなのよ?」
「額か? んー、たしか…………四十万くらい? じゃが、一人暮らしの仕送りならば、これくらい普通ではないのか?」
「「「普通じゃない!」」」
美穂、アリア、ましろんからツッコミが入った。
「マジで!?」
四十万って普通じゃないのか!?
「ってか、あんたそのお金全部使ってんの!?」
「そんなことあるわけないじゃろ! 儂はな、睡眠大好きなんじゃぞ? そんな儂が、睡眠以外に金をかけるとでも思うか!?」
「思わないわ」
「じゃろ? それに、儂は小食でもある。料理に関しても、なるべく節約しておるのじゃよ。上手くやれば、一日千円でどうにかできるからのう」
「あんたの主婦スキル、高くね?」
「ふっ、小六くらいの頃からの経験よ」
実際のとこ、それ蔵の歳から家事をするようになったからのう。
爺ちゃんが死んだ後じゃったか。
それまでは、両親が家にいない時は爺ちゃんが色々としてくれておったが、ある日亡くなり、その日以降からは儂が家事をするようになった。
もちろん、最初は失敗ばかりじゃったがな。
じゃが、それも続けている内にできるようになり、今では主婦顔負けの家事スキルがあると自負しておる。
何事も、経験じゃ。
「性格に似合わないスキルだよねー」
「アリア、言うようになったな」
「ふふふー。これでも、一年近くの付き合いだもんね」
「そうじゃなぁ。そろそろ、バイトも一年に……ってバイト?」
アリアとの軽口の言い合いで、ふと嫌な予感が頭を過った。
……そう言えば儂、引っ越しの日以降のバイトって、どう入れてたっけ?
「の、のう、アリアよ」
「なぁに?」
「……儂ら、バイトのシフト、どうなっておったっけ?」
シフトの存在が気になり、儂は同僚であるアリアに尋ねた。
と言うのも、儂とアリアは基本全く同じシフトじゃからな。
なので、シフトがどうだったかを思い出す際、儂はアリアに尋ねることにしておる。
「んーっと……………………あ」
「おい、なんじゃ。今の不安になる、『あ』、は」
「…………え、えーっと、ね。まひろ君。現実を受け止めてね?」
「……ば、ばっちこい」
ほんとは覚悟はできとらんが、アリアのこの反応を見るからに、とんでもなくまずい、ということだけはわかる。
「…………十時から」
「……rarely?」
「朝の……十時から……です」
「……いつの?」
「……今日の」
「「………………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」」
儂とアリアの二人は、揃って女らしい悲鳴を上げた。
そんな儂とアリアの二人を、他の四人は生暖かい目で見つめていた。
……やっちまったぁ。
「「はぁっ……はぁっ……お、おはよう、ご、ございま、すっ……!」」
「おう、お二人さん。お前たちが遅刻ってのは珍しいな」
二十分後。
そこには、汗だくになって店に来た儂とアリアの姿があった。
あの後、儂とアリアは大慌てで身支度を済ませ、家(屋敷)を飛び出した。
最悪だったのは、家から喫茶店までの距離が伸びておったこと。
ただでさえ、体力がない儂はきつかった。
しかし、
「まひろ君は、あたしが連れて行くよ!」
そう言ったアリアが、途中から儂をお姫様抱っこで喫茶店まで走ってくれた。
その時、儂の胸がキュンとしたのは言うまでもない。
……儂の旦那たち、なんか儂をお姫様抱っこする時、若干イケメンになるんじゃもん……。うぅ、儂、色々と女子化が進んでおるなぁ……。
「で? 遅刻理由は?」
「……引っ越し後に、ちとひと悶着あって、な? そのごたごたでシフトを忘れておった。すまぬ……」
「お、同じくです……」
「ほー。無遅刻無欠勤の二人がそう言うってことは、よっぽどだったんだなぁ。まあ、お前らは結構頑張って来たしな。大目に見るさ」
ふっと笑って許す店長。
「ありがとうじゃ……」
「ありがとうございます」
店長の対応に、儂とアリアは揃って礼を言う。
「ま、できることなら、こういうのはなるべくないようにしてもらいたいが、オレとしては二人にかなり助けられたようなもんだしな! それに、二人がいないくらいで音を上げるようなバイトなど、オレの店にはいないな! はっはっは!」
「「店長……」」
本当に、いい奴じゃなぁっ……。
一応儂、バイトリーダーじゃが……そうじゃな。儂ら二人がいなくてもなんとか回せるはず――
「て、店長! て、手が回りませんッ! 桜花先輩と時乃先輩はまだなんスか!」
『七番卓に料理来てないって!』
『なにっ!? オーダーあったか!?』
「「「……」」」
……前言撤回。
「二人とも、すぐに入ってくれ! このままじゃ色々とまずいッ!」
「「りょ、了解(じゃ)!」」
てんやわんやな同僚たちを助けるべく、儂らは大急ぎで仕事に入るのだった。
「いらっしゃいませじゃ!」
『おっ、まひろちゃんがいるぞ!』
『ほんとだ。まひろちゃん、一週間近くいなかったけど、どうしてたの?』
「んー、まあ、プライベートでちとな。ほれほれ、お客様、何名じゃ?」
『三人だけど、一人は後から来る』
「了解じゃ。では、奥のテーブル席へどうぞ」
『はいよー』
「いらっしゃいませ!」
『ラッキー! 今日は時乃ちゃんもいる!』
『時乃ちゃんも一週間近くいなかったけど、何かあったのかい?』
「お引越しをしていたものですから。それで、何名様でしょうか?」
『二人だけど、大丈夫かな?』
「はい、そちらの通路を進んで、三番目のテーブル席へどうぞ!」
仕事に入るなり、テキパキと仕事をこなしていく儂とアリア。
この店に来るものは、大体が常連。
とはいえ、この店はこの辺りじゃそれなりに有名であり、初見の客もよく来る。
この辺りは、儂がバイトに入りたての頃に比べればかなりの人数と言える。
例を挙げるならば、入りたての頃は昼時に客が八人やそこらじゃったが、今ではかなり増え、満席になる日の方が多い。ちなみに、この店はなかなかに広く、カウンター席が十席、四人席が六、二人席が八、つまり、合計で四十人は入れることになる。
それを考えれば、去年からいかに繁盛するようになったかがわかるじゃろう。
あと、今しがた儂とアリアが接客しておった相手は常連で、ちょこちょこ会話するくらいの仲じゃ。
『すみませーん』
おっと、注文じゃな。
「お待たせじゃ。ご注文かの?」
『えーっと、ハムチーズホットサンド一つと、シーザーサラダ。あと、アイスコーヒーを一つ』
「ハムチーズホットサンドが一つと、シーザーサラダが一つ。それから、アイスコーヒー一つじゃな。かしこまりじゃ。少々お待ちを」
『噂通り、のじゃろりウェイトレスがいるとは……』
儂、噂になっとるの?
「ほれ、注文じゃぞー」
「そこに置いといてくれ」
オーダーが書かれた紙を持って行き、厨房に声をかけると、黙々と料理を作り続ける葛井先輩が反応した。
「了解じゃ。……で、葛井先輩よ、そっちは大丈夫か?」
「正直、二人で回すにはきついが、まぁ何とかするさ」
動かす手は止めずに、こっちにふっと軽く笑みを浮かべ、そう返す。
ふむ。やはり、寡黙な男と言う感じがして、かっこいいのう。
人気があるのも頷ける。
「やはり、頼りがいがあるのう。……それに引き換え」
「な、なんすか? 俺、ちゃんとやってますが!?」
「……おぬしはなんと残念なことか」
「ちょっ、俺がなにをしたと!」
「……ついさっき、注文を取り間違えたのはどいつだ?」
「すんませんッ!」
呆れ混じりの葛井先輩の言葉に、高畑は瞬時に謝った。
しかも、綺麗な九十度のお辞儀でな。
「お前は、桜花や時乃を見習った方がいい」
「ぐっ……」
「まあ、なんじゃ。おぬしも……頑張れば儂やアリアくらいにはなれる、と思う、ぞ?」
「疑問形じゃないっすか! ってか、あんたら二人レベルは無理っすよ!」
「そうかの?」
「そうっすよ! だって、二人ともどこの席の人がどの注文をしたか丸暗記してるじゃないっすか! しかも、細かいオーダーも全部記憶してるし、なんだったら、満席状態になっても、あとどれくらいで席が空くか、ってのも把握してるじゃないっすか! あんなん無理っすよ!」
「のう、葛井先輩よ。儂、異常?」
「あー、そうだな……まあ、そう言うのは、その道うん年の人ができる芸当なんじゃないか? 俺が働いてきた飲食店には、桜花や時乃レベルのホールスタッフはいなかったしな」
「そうなのか」
儂としては、当たり前じゃとばかり……。
ふぅむ。じゃが、異常ではないと思うんじゃがのう……。
「ほい、六番テーブルの料理、よろしくな」
「うむ、了解じゃ」
ともあれ、仕事仕事。
どうも、九十九一です。
馴れ初め話が終わり、通常の話に戻ったわけですが、なんかね。馴れ初めが原因でどう書くか定まってなかったため、ちょっと遅れました。許して。
一応、今日は二話投稿です。時間は、17時になると思いますので、よろしくお願いします。
では。