爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常 作:九十九一
それから日は流れ、六月、体育祭に。
それまでの練習風景とか、特にこれと言ってなかったので、カットじゃカット。
面白いことも特になかったしの。
……いや、強いて言えば儂のコスプレの採寸があったくらいじゃな、うむ。
まあ、そこはええじゃろ。
ちなみに、五月下旬頃に、儂の能力を調べることになっておったが、神の方にどうしても外せない仕事が入ったという事で、日にちがずれることとなった。
と、そんなことがありつつ、当日の朝。いつもよりやや早めに起き、弁当を作る。
作ったのは儂じゃ。
さすがに、こればかりはメイドたちに譲るわけにはいかぬ。
一応、まあ……不本意ながらも、儂は嫁じゃからな。
であるならば、旦那共の胃袋を満たすのも、儂の役目というものよ。
……本音を言えば、儂の作る弁当で満腹に、それでいて笑顔になってほしいから、なんじゃが、これを言おうものならば、儂は確実に襲われると思うので、絶対に言わぬがな。
「ねえ、まひろ」
「んむ、なんじゃ?」
朝食を食べ、学園へ向かう途中、ふと美穂に話しかけられる。
「今日の二人三脚だけじゃなくてさ、今日一日、その姿でいるの?」
「む? あぁ、これか? まあの。正直な話、この状態でいなければ、二人三脚は苦労するからのう。まあ、騎馬戦と仮装リレーだけは平常時に戻るがな」
「むぅ、そのお姿も可愛らしいですけど……やっぱり、まひろちゃんと言えばロリロリですよ……」
「おぬし、そんなに儂がロリじゃなきゃ嫌なのか?」
「……九割くらいは」
「比率重いのう」
そう、今の一連の会話から察することができると思うが、今の儂、実は成長しておるのじゃ。
理由は儂が言ったことが全てじゃ。
健吾たちと共に特訓をしておったんじゃが、あれのおかげでそれなりに体力を底上げできてな。
そのままで参加するよりも、成長して参加した方が、身体能力的にもかなり高くなる、ということがわかる。まああれじゃ。ロリ状態で鍛えれば鍛えた分だけ、成長時にそれがプラスされる、ということじゃ。
とはいえ、この姿のままでおるのは、かなりのカロリーを消費する。
通常であれば、かなり腹が空くため、朝からこの姿でいるのはリスクの塊じゃ。
じゃが。儂のこの能力には抜け穴がある。
一定時間、定着させればOK、ということじゃな。
その一定時間、と言うのが最近まで不明だったが、つい最近その時間の把握に成功してな。
結果は二日じゃった。
つまり、二日間、ものすごい飢餓感を感じながらも、それを耐えた先にこの姿のままでいる、という事が可能なわけじゃな。
で、今は成長したまま、というわけじゃ。
ちなみにじゃが、その二日間で儂が感じた飢餓感の強さがどれくらいかと言うと……今にも吐きそうなくらいの吐き気や、視界が歪んだり霞んだり、果ては体がふらつき、下手すると動けないくらいになるレベルだったりする。
「じゃが、これもよかろう? 身長は……まあ、やや低めじゃが、これならば高校生に見えるじゃろ」
「……まあ、見えないこともないけど……腹立つわ」
「……ん、みほりんに同意」
「何故、おぬしら二人は儂に敵意の籠った視線を向けとるのじゃ……?」
「……チッ、これだから持つ者は……」
「……持たざる者の気持ち、絶対に理解しない」
舌打ちする美穂に、ただでさえ無表情のましろんが余計に虚無の表情に。
なぜか胸に視線を感じるが…………ふむ。まあ、あれじゃな。
女特有の悩み、というものじゃろ、これは。
そっとしておこう。
「でも、ひろ君~。よく、その姿の制服があったわね~?」
「あぁ、これか? つい最近、仕立ててな。今後、この姿で登校しないとも限らんからの。それに、あった方が何かと便利か、と思ってな。なんじゃ? 似合わんか?」
「ううん~。ひろ君、高校生姿、とっても可愛いわ~。ついつい、甘やかしたくなっちゃうわね~」
「……この姿でなくとも、結衣姉は儂を甘やかしとるよな?」
主に、やべー方面で。
結衣姉の母性は半端じゃないからのう……。
「うふふ~。それはそれよ~」
ぺろり、と舌なめずりをする結衣姉。
妙に色っぽいのがのう……。
「でも、クラスメートのみんなは驚くだろうね! だって、まひろ君のこの姿、見せてないもんね」
「まあの。土日で定着させたからな」
「明日が休みだからこそ、今日体育祭なわけだしね」
「そうじゃな。でなければ、儂はこの姿にならんかったよ。とはいえ、気分で戻る場合もあるがな」
「「「なら今から小さいままで!」」」
「何故そこまで食いつく!?」
儂の発言に、美穂、瑞姫、ましろんの三人が食いつき、いつもの姿がいいと希望してきた。
「私より胸が大きいのがムカつく」
「……同じく」
「幼い姿こそ至高だからです」
「自分の欲にド直球すぎんか……?」
「ってか、なんで男だったあんたの方が、生まれた時から女の私たちよりもでかいのよ」
「そ、そう言われてものぅ……。しかし、瑞姫やアリア、結衣姉なんかもでかいぞ? 儂だけに言われても……」
むしろ、そっちの三人に文句を言わないのは、軽く理不尽じゃろ。
儂とて、好きでこうなったわけではないしの。
「そっちは別にいいのよ。ムカつくのはあんただけ」
「……同感」
「酷くね……?」
ある意味、性差別になるのではなかろうか。
いや、今の儂は女ではあるんで、差別……にはならないとは思うが。
「まあまあ、二人も違う可愛さがあるんだからいいじゃん! あたしとしては、スレンダーで羨ましいなぁ。運動しやすそうだし」
「まあ……大きい人は運動しにくい、とは聞くけど……」
「そうですね、わたしも運動時は苦労します」
「私もね~」
「あたしも」
と、巨乳組三人は、困ったように笑いながらそう話す。
まあ……うむ。わからんでもない。
儂も、成長状態で動いたことがあるが、あれはたしかに運動がしにくい。
「「……くっ、格差社会っ……!」」
社会ではないじゃろ。
「それにしても~……なんだか、ひろ君がその姿で投稿するのは新鮮ね~。というより、一緒に歩いて登校すること自体、新鮮かも~」
「普段はおぬしらに変わりばんこで抱かれて登校しとるからな。最近は運動がてら、歩くようにはなったが」
あの日以来、儂は旦那共に頼み、歩き登校を希望した。
予想通り、瑞姫と結衣姉の二人はそれはもう渋った。
しかし、儂が体力をつけるためと言えば、仕方なし、ということで歩き登校を許されたんじゃが……それは美穂、アリア、ましろんの三人だけで、二人は納得しなかったため、五日の内、二日は抱っこされることになった。
まあ、全部抱っこ登校ではないという事に関しては、よかったと思うべきじゃろう。
「とはいえ、儂としてはこうしておぬしらとほぼ同じ目線の高さで登校できるということは、素直に嬉しいがな。こう、妻婦っぽいしな」
「でも私たちって、傍から見たら、ただの仲良しグループじゃない?」
「んー……まあ、儂男じゃないしな」
男であれば、『なんだあのハーレム野郎』という風に思われたことじゃろう。
が、今の儂らは明らかに仲のいい女子グループが一緒に登校している光景にしか見えないことじゃろう。
儂とて、見る側であればそう思ったと思うしな。
ま、仲がいいと思われるのは嬉しいが。
「そうだね。でも、まひろ君は今の方が似合ってるよ? 性格的に」
「む、そうか?」
「うん。エプロンが似合うし」
「そこ?」
「うん、そこ」
エプロンが似合うから今の方が似合うってのもおかしくね?
しかし、周囲から見た儂はそんな感じなのかの?
「っと、そろそろ学園が見えてきたな。それに伴い、周囲の視線も増えてきたが」
「……まひろん、いつもよりも大人っぽく見えるから余計。多分、『誰?』と思われてる」
「普段は小学生くらいじゃからな、儂」
「でも、あれが一番可愛いんだけどね~」
「一番は言い過ぎかもしれぬが……まあ、儂としても、あの姿は割としっくりくるからの」
「それって、まひろちゃんが抱っこされていることに対して、当たり前と思っているからではないですか?」
「そんなことはない…………と思う、ぞ?」
「疑問形じゃない」
いや、うむ。なんじゃ……正直、瑞姫の指摘は的を射てると思う。
儂も最近、抱っこされていることに何の違和感も抱いとらんからな。
ふむ……イメージ的には、某転生したスライムの主人公が、秘書に抱かれている状態じゃろう。
……案外しっくりきたな。
儂、毒されとるのう……。
「まひろちゃん」
「ん、なんじゃ? 瑞姫」
「ふと思ったのですけど……まひろちゃんが成長した姿でいることって、タイトル詐欺になりません?」
「おぬしは何を言っとるんじゃ」
変態の発言は、よくわからんかった。
「おはようじゃ」
「おはよー」
「おっはよー!」
「おはようございます」
ましろんと結衣姉と一旦別れ、儂、美穂、瑞姫、アリアの四人は儂らの教室へ。
教室へと歩く途中では、やたらと視線を受けたが……やはり、この姿は変なのかの? とは思ったが、まあ、問題なしじゃな。
『『『……!?』』』
ふと、儂らが挨拶をしたにもかかわらず、特に反応がなかった。
「む? どうしたのじゃ? おぬしら」
『『『……ダレェェェ!?』』』
あぁ、なるほど。
儂を認識できずに、固まっておったのか。
ふむ。
「あー、儂じゃ儂。桜花まひろじゃ」
『『『……いやいやいやいや! 大人な桜花(まひろちゃん)とか知らないんだけど!?』』』
「おー、おぬしら息ぴったりじゃなー。うむうむ。これならば、優勝できそうじゃなー」
『『『そこじゃないっ!』』』
「はっはっは!」
うむ、これなら心配など不要じゃな。
その後、クラスメートの女子たちに詰め寄られることとなった。
『うっわー、本当にまひろちゃん?』
「うむ。儂じゃ。ほれ、髪色や髪型も同じじゃろ?」
『いやいや、それだけじゃわかんないって!』
『うんうん。というか、まひろちゃんって成長するとボンキュッボンなんだ……くっ、羨ましい!』
「わかるわ。まひろのこれは反則よね」
クラスメートが儂の胸を羨むと、それに美穂が便乗し、ジトーっとした目で儂の胸を凝視していた。
「そうは言うが、瑞姫の方が大きいじゃろ? ついでに言えば、アリアも同じか儂以上じゃし」
「それはそれよ」
『まぁ、つい最近まで男の子だったしねー』
『それが今じゃ、こうなるなんて……ほんと、不思議な病気だよねー』
『というかあれって、病気って言っていいのか謎だよね』
『『『たしかに』』』
それは儂も思う。
病気と呼べる部分など、性別が入れ替わるくらいの物で、能力などに関してはむしろ病気ではない。
なんなんじゃろうな、これ。
『あ、その姿っていう事は、今日一日そのまま?』
「いや、これはあくまでも一部の種目だけじゃ。まあ、借り物・借り人競争と、二人三脚だけじゃよ。他の二種目は、いつもの姿で臨むつもりじゃ」
『へぇ~。便利なんだね』
「そうでもないぞ? しばらくこの姿でおらねば、ものすごいカロリーを消費し、腹が減るからな。この土日で、なんとか固定したまでよ」
『地味に嫌だね……』
「まあの」
しかしまぁ、それのおかげで今回は体力的な問題がいつもよりかはマシなわけじゃが。
『なぁ、桜花やばくね……?』
『わかる。普段は普通に可愛い幼女、って感じだけどさ、あれはなんつーか……すげぇ』
『体が自由自在とか、やっぱすげぇな、『TSF症候群』』
『まさか、あの桜花があんな美少女になるとは……』
む、なんか男子共視線がすごいのう。
やはり、この姿は新鮮なのか。
キーンコーンカーンコーン
「む、放送か?」
『えー、生徒の皆さん、おはようございます! 本日は、年に一度の体育祭! 今日のために練習をしてきたと思いますが、大丈夫でしょうか? まあ、筋肉痛だろうがなんだろうが、全力で楽しんでください! ……さて、これからこの後の流れについて連絡します。今回、全生徒が参加するため、更衣室が大変込み合うでしょう。ですので、今日は三クラス分けで、着替えをしてもらいたく思います。各学年、一組~三組が男子。四組~六組が女子。というように分けます。その際、男子は一組と二組の生徒が一組を。三組と四組は二組を。五組と六組は三組を使用してください。女子は、一、二組が四組。三、四組が五組。五、六組が六組を使うようお願いします。男子生徒、女子生徒共に、間違っても覗こうと思わないようにしてくださいね? 当然、見張りの先生方もいらっしゃいますので、くれぐれも、しないようにお願いします』
何気に男女両方に注意喚起する辺り、平等と言える。
しかし……まぁ、男子は基本的に見られても恥ずかしくはないと思うがな。
女子はさすがに問題じゃが。
何せ儂、元男じゃから。
とはいえ、それはあくまでの儂の考えで、恥ずかしいと思う者は恥ずかしいからの。この注意喚起は正しい。
『着替えに関しましては、九時までには終わらせるようにしてください。九時十五分から開会式をしますので、それまでに、グラウンドに出て、各クラスごとに並んでいるよう、お願いします。……以上が、この後の流れになりますので、各々着替えて出るようにして下さい。以上です』
と言ったところで放送が終わった。
「ふむ。では、ささっと着替えに行くとするか」
「そうね。早いとこ、着替えましょ」
「そうですね」」
「うん!」
しかしまぁ……ちと、楽しみじゃなぁ。
可能であれば、優勝を目指したいものじゃ。
どうも、九十九一です。
えー、前書きにある通り……クソほど遅れてすみませんでした!
遅れた理由についてなんですが、読んでいる方はわかるかと思うのですが、この小説のR指定が入ってる方の小説にかかりっきりになったり、私の新しい仕事が始まった……と思ったら、勤務開始前日に、生まれてからずっと一緒に暮らしていた上に、すごくよくしてもらっていた祖父がコロナで亡くなって、精神的に落ち込んだり葬式をしたりなど、色々あったからです。
今、さらっととんでもないことを書きましたが、今は何とか精神が持ち直しております。まぁ、今回投稿する話、実はそこそこ前に書きあがってはいたんですが、色々あったもので……。
ですがまぁ、とりあえず投稿はできました。
次の投稿は……早ければ今月中には出せるかもしれません。新しく始める仕事が、実はまだ開始されていない上に、上記の件で少々遅らせてもらっているので。ですのでまあ、気長に待っていただければと思います。
では。