爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常 作:九十九一
「ただいま!」
パン食い競争が終わると、美穂がそれはもうテンションが高い様子でこちらへ向かってきた。
その表情は、喜色満面であり、反対に儂の方は顔を真っ赤にしていた。
「……おぬし、唐突に愛を叫ぶでない。マジで恥ずかしかったんじゃぞ……?」
「そうは言うけど、あんたのパンを食べたらそりゃ愛を叫びたくなるでしょ」
「喜んでもらえたのは別に構わんが……単純に、それが恥ずかしいからやめてほしいんじゃが」
「とかなんとか言って、実際は嬉しいんじゃないの~?」
にやにやと、こちらを軽く小突きながら、そんなことを言ってくる美穂。
いや、うん、まぁ……。
「……そ、そりゃぁ、好きな旦那様から言われたら、嬉しくないわけないが……」
正直、嬉しい。
だが、TPOをわきまえてほしいというのもまた事実。
いくら嬉しかろうが、儂は別にバカップルというわけではない。
……いや、よくよく考えれば、儂は傍から見るとそうなのではあるまいか。
抱っこされたり、弁当を食べさせられたり、膝枕で寝かされたり……あれ? やっぱり儂、バカップルなのではないか?
おおぅ……。
「どうしたの? なんとも言えない表情してるよ?」
「あー、いや、うむ、まぁ……気にしなくともよい……」
やめよう。
儂が実はバカップルなのでは、ということは。
「ところで、美穂ちゃんが食べたまひろちゃんのパンとは、どのような物だったのですか?」
「あんぱんよ」
「……あんぱん。つまり、まひろんはあんぱんを作れる?」
「む? あぁ、うむ。作れるぞ?」
「まひろ君、パンが焼けるんだね!」
「まあの。昔、スーパーにて売られておったあんぱんを食べたのじゃが、あまり美味くなくてのう。じゃから儂、あんぱんを作ろうと思ったわけじゃな」
「普通そこまでする?」
「んー、ほれ、儂は変なところで妙に力を入れるじゃろ? それがたまたまあんぱんだっただけじゃ」
というより、儂のような考えに至るものは割とおると思うのじゃが。
よくよく考えてみてほしい。
極端な話、市内にハンバーグを食べられる店が一軒しかなかったとしよう。
じゃが、そこのハンバーグ自体、別段不味くはないが、美味しいとも言えないような、そんな微妙な味だったとする。
そうなると、何人かは美味いハンバーグが食べたくて、自力で美味いハンバーグを作るかと思う。
ようは、それが儂の場合あんぱんだっただけじゃな。
やはり、食べ物は美味い方がいい。
「……むー、まひろんのあんぱん、食べてみたい」
「そんなに食べたいのか?」
「……ん。メイドさんたちのご飯もいいけど、まひろんのご飯も最高だから」
「そ、そうか。あー、じゃあ近い内に作ってやろう」
「……ほんとっ?」
「うむ。そのような嘘は吐かんぞ」
「……約束!」
「うむ」
なんともまぁ、眼をきらっきらとさせよるのう。
まあ、無表情に見えて、わりかし表情があるからな、ましろんは。
「「「じー……」」」
ふと、視線を感じると、瑞姫とアリア、さらには結衣姉までもがこちらを見ていた……って、
「結衣姉? おぬし、いつの間に」
気が付けば結衣姉が、いつものほんわかとした笑みを浮かべて立っていた。
「ふふふ~、ひろ君が恥ずかしがっている辺りね~」
「ほぼ最初からではないか! というか、いたのならば声をかければよいものを……」
「ついね~」
正直、結衣姉は考えていることがわからない場合があるからのう。
このほんわかとした笑みの裏では、一体何を考えているのか、的なな。
……案外、ピンク色だったりするのやもしれぬな。
あの日とか、儂とんでもない目に遭ったしのう……。
「それで、ひろ君は私たちにもそのあんぱんを食べさせてくれるのかしら~?」
「そりゃな。むしろ、一個作るよりもまとめて作ってしまった方が楽じゃからな」
「「「よしっ!」」」
よして。
どんだけ儂のあんぱんが食いたいんじゃろうか、この旦那共は。
まあ、それだけ楽しみにしてもらえていると思えば、すごく嬉しいが。
「話は変わるけど、次はひろ君が出場する種目じゃなかったかしら~?」
「む。瑞姫、ちょいとパンフレットを見せてくれ」
「どうぞ」
ずるり、とやはり胸の谷間からパンフレットを取り出し、儂に手渡してきた。
なんか、妙に生暖かいし、微妙に湿っている気がするのじゃが……気にした負け、なんじゃろうなぁっ……!
あと、にこにこ顔なのも地味に嫌じゃな。
「ふむ……たしかに、『借り物・借り人競争』となっておるな。しかしこの種目、なぜか人気がなかったんじゃよなぁ……それに、おぬしらもなぜか微妙な反応じゃったし……」
未だにあの理由がわからず、なぜ敬遠されていたのかがわからぬ。
じゃが、ただの『借り物・借り人競争』でこうもなるものかのう?
儂的にはかなり疑問と言うか、怖いと言うか……うぅむ。
「ま、まあ、あんたの場合は大丈夫、だと思うわよ?」
「で、ですね。まひろちゃんならセーフかと」
「……むしろ、一般生徒の方がきついまである」
「なぜに!?」
一般人はアウトで、儂ならセーフとかどうなっとんの!?
い、一体どんな無理難題があるというのかっ……!
「なんか、出たくなくなってきたんじゃが……」
「大丈夫だと思います、よ?」
「疑問形の時点で絶対大丈夫じゃないと思うが!?」
「まあまあ、まひろ君。そろそろ始まるみたいだし、もう行った方がいいんじゃないかな?」
「なぬっ。たしかにもうすぐっぽいのう……うむぅ、仕方あるまい。では、儂も行ってくるとしよう」
「頑張りなさいよ」
「お気を確かに」
「……がんば」
「頑張ってね!」
「頑張ってね~」
「なんか瑞姫だけおかしくね!?」
不安しかないんじゃが!
儂の旦那共によって植え付けられた不安で、内心戦々恐々としながら集合場所へ。
そこに来ると、なぜか微妙な表情や、なぜか青ざめている者、他にもぶるぶると震えている者までいた。
一体何故そのような状態に……?
じゃが、なぜか観客側の生徒たちは、妙にニヤニヤとしているような気もするしのう・……。
うーむ?
『さてさて! 次なる種目、借り物・借り人競争に出場する選手の皆さんが集まったようですので、早速ルール説明をしたいと思います! まず、各レーンの先には白い箱が置かれているかと思います。あれが今回使用されるお題ボックスです。そして、その先にもお題ボックスが二つほど見えるかと思いますが、この学園における借り物・借り人競争はお題を三つ達成しなければなりません』
地味にめんどくさいな……。
じゃが、別段これが避けられおった理由ではない、よな?
となると、中身に問題があるのかの?
『尚、判定は最後に行われますので、一つ目をクリアしたら次のお題を引き、それも終えたら次を、という風にこなしていき、三種類のお題を達成した状態で、ゴールへ向かうようにしてください』
なるほど。
一つ一つ判定する、というわけではないのか。
面倒であるのと同時に、ちと面白そうじゃな。
……避けられている、などという事実がなければ、じゃが。
『いやー、この競技は地獄と称されることが多く、中にはあまりにもタイミングの悪いお題を引き続けたために、友情破壊競技、などとも呼ばれていますからね。そう言った部分にも注目したいところですね!』
友情破壊競技ってなんじゃ!?
え、マジでどんな競技なんじゃこれ!?
『ではでは、早速競技を始めて行きましょう! トップバッターで走る選手の皆さんは並んでください』
放送委員の指示が入ると、最初に走る者たちがお通夜ムードで並ぶ。
一応、なんでもなさそうにしている者もおるが、それはそれとしてもどちらかといえば、参加したくなさそうな者の方が多い。
一体、どのような無理難題が……?
そんな儂の疑問は、この後すぐに判明することとなった。
そうして始まった借り物・借り人競争じゃが……なんと言うか、本当に酷い、これに尽きるような競技じゃった。
一体どのような形で酷いのか、とりあえず二名ほど例を挙げよう。
まず一人目。
『第一のお題……恋人(いなければ、疑似の恋人)。ま、まあ普通……』
最初のお題をあっさりと達成すると次のお題箱へ。
『第二のお題…………元恋人(いなければ、恋人の父親)バカ野郎ッ……!』
明らかに悪意あるお題に、冷や汗だらだらで達成すると、最後のお題箱へ。
『第三のお題………………恋人の元恋人(いなければ、自分の父親)死ねというのかッ!?』
という、なぜか恋人に関するお題ばかりじゃった。
このお題を引いた者は、イケメンと称されてもいい容姿をした男子生徒じゃったが、元カノがおったらしく、今カノと一緒に連れて行く羽目になり、恋人の元恋人という頭のおかしいお題では、相手も相手で元カレがいたらしい。その元カレと言うのが、走っておった男子生徒と犬猿の仲の男子生徒じゃったという、なんともまぁ……アレな話じゃった。
精神が死ぬじゃろ、それ。
次、二人目。
『えっと、最初は……人生ゲーム……え、人生ゲーム?』
思わず二度見をする女子生徒。
会場内を駆けずり回ることで、どうにかこうにか見つけたようじゃ。
『つ、次は……平成から現在までに放映されたウル〇ラマンの名前を放映順に言える人……いそうだけどっ、いそうだけどっ……! でも、無理がある気がするんだけど!?』
二つ目のお題は、なかなかにきついものじゃった。
いや、所謂特撮オタクと呼ばれる者であれば行けそうじゃが……そう簡単にはおらんじゃろ。いやマジで。
そして、最後。
『さ、最後……最後こそはまともな……! えーっと……好きな人の使用済みの何か。…………いじめかっ!?」
う、うむ、まあ……公開処刑と同義じゃろ、その内容は。
しかもこれ、判定役の教師に好きな相手がバレる、という事でもあるわけじゃろ?
さらに言えば、その好きな相手にドン引かれる可能性もあるという……なぜ、学園側が生徒の恋路をぶっ壊しに来とるのじゃろうか。
儂、PTAが学園側に何か言いそうで気が気でないんじゃが。
いや、そう言えばこの学園のトップ、あのド変態の母親じゃったな……ま、まあ、理事長はまともじゃったからな! 何とかしてくれるじゃろ!
……そう言えば、理事長であるならば、当然体育祭にてどのような種目が行われ、さらにその中身についても同然知っておるはず…………。
うむ、今は気にしなくてもよいじゃろう!
絶対そう!
ともかく、このような二つの例を挙げた時点で、何故この種目が避けられたかがわかることじゃろう。
儂も強く理解した。
同時に、すっごい後悔した。
しかし、希望がないわけではない。
どうやら、酷いのは主に借り人の面であり、借り物の部分に関しては、場合によっては問題ないお題が多いらしい。
まず、借り物に関してじゃが……どうも、イロモノと言うべきお題が多いらしく、先ほど出ておったように、わけわからんものが選ばれるものの、まあ決して可能性が0ではない物が選ばれたりしておるわけじゃが(だとしても、人生ゲームはイカレとる気がするが……)。
ちなみに、妙なところで言うと、洗濯バサミやBL小説、他にも赤銅色の物とか、山葵色の物などもあったな。
が、これだけ見ればまあ、持っていない者は0ではない、というレベルに収まっているので、問題はないのじゃが……問題があるとすればもう片方、借り人の面じゃろう。
一人目の内容を見てわかる通り、明らかに悪意がある。主に、リア充と呼ばれるタイプの者たちへのヘイト的な。
しかも、中にはマジで浮気相手がいたらしい人物がおったのが殊更酷かった。
尚、その者はそれはもうぶん殴られており、周りから歓声が上がった。
あれ、明日からの学園どうするのかの……?
とはいえ、浮気者死すべし、慈悲は無い、という奴であろう。
……む? その理屈で行くと、儂も浮気者になるのでは…………い、いや、儂の場合ガチで結婚しておるから浮気とは違うはず……そ、それに、儂の場合はあの者らが仲良く共闘して、儂という一人の嫁を取ったと言うべきであって、決して浮気とは違う……と思いたい。
しかし、これである程度はっきりしたことと言えば、瑞姫とましろんの発言の意味じゃな。
一般生徒は平気、という部分は、おそらくリア充死すべし、とか、先ほどの浮気に関するあれこれであろう。
つまるところ、儂の場合は通常とは違う身の上であるため、さほど酷い物を引かない、という事なのじゃろう。
恋愛関係、特に浮気に関する物であれば、儂は五人と結婚しておるから問題なし。
仮に、リア充死すべし、というような内容であれば、儂は百合カップルとして認識されておるためか、そのような考えは持たれておらぬ。
……なるほど、じゃから儂はセーフ、と言っておったわけか。
まあ、うむ。そういうことならば、何も心配いらぬのじゃろう。
んー……ともかく、あれじゃな。
まずは準備をせねば、な。
というか、既に準備は終えているわけじゃが。
『す、すげぇ、マジで耳と尻尾が生えてる……!』
『美少女に動物の耳と尻尾はずるいよぉ』
『可愛い! 可愛すぎるっ!』
そう、準備と言うのは、『獣化』のことじゃな。
もとより、旦那共全員が一位を取っておるのじゃ。
嫁たる儂も一位を取らねば恥ずかしいというもの。
……まあ、一位じゃなかった場合、あやつらに何されるかわからない、というのが理由の一つではあるのじゃが……。
ともあれ、今の儂は高校生くらいの美幼女ならぬ、美少女の姿となり、さらに狼の耳と尻尾を生やしておる。
つまり……先ほどから、視線の量がえぐい。
主に、異性(この体としての)からの。
いや、うむ、まぁ……正直、儂はそこまで視線を気にするタイプではない。
でなければ、この体になった直後からパンツやズボンを穿かないで、Tシャツのみであの友人共の前に姿を現すことなど不可能。
さらに言えば、儂は全裸であ奴らの目の前に現れたりもした。
気心知れた仲であれば、まあ裸を見られてもさほど問題ないと言えば問題ない。
じゃが、なんというかこう……いくら儂でも、やたらと不躾な視線を貰えば、多少なりとも不快感はあるという物。
やはりこの姿、エロいのかの?
……あー、普通にエロい、か。
考えてみれば、瑞姫やアリア、結衣姉なんかがいい例じゃな。
あの二人、スタイル抜群故か、そういう気分になった瞬間の色気が半端じゃない。
それを言えば、他の二人もヤバいが……あの二人はある意味、その気にならなければならない。
じゃが、あっちの三人はスタイルがエロい。
……つまり、スタイル抜群である、というのは常時男どもに魅了のデバフをかけておる、ということか……っ!
うむ、自分で出した結論じゃが、納得。
故に、儂に来る視線はまあ仕方のないこと、と言えよう。
ま、儂は元々男じゃったからのう。男どもがそう言う目で異性を見てしまう、という事に対しては一定の理解は示しておるよ。
見目麗しい異性がいれば見てしまう、というのは自然じゃからの。
『さて、色々と不思議な出で立ちの方が一名いますが、次に出走する方々の準備は万端のようですので、早速始めましょう!』
『位置について、よーい……』
パンッ! という破裂音のような音が鳴り響くと同時に、儂らは走り出した。
基本、一レース五人で走り、儂以外に四人走っておる。
いつもの儂であれば、速攻抜かれ、儂はヘロヘロになりながら走っておったことじゃろう。
じゃが、今の儂は違う!
まず、幼女という体力がない姿ではなく、ちゃんと女子高校生くらいの体と体力(それでも基本スペックはやや低め)であり、さらには身体能力を大幅に上げることができる『獣化』による変身もある。
それ故か、自分でも驚くくらいの速度が出た。
実際、体育祭当日までの儂は、主に体力の底上げをメインでしておったので。
もともと、この能力は割と制御が面倒でな。
幼女時であれば、まだ体が幼い故か、『獣化』を使用したとしても、高校生や大学生の女性が平均よりも速く走れる、程度であるため制御が可能なわけじゃな。
しかし、この姿は幼女よりもある程度の基本スペックが高くなるためか、『獣化』と組み合わせるとえらい相乗効果を発揮し、制御がやや難しくなる。
下手に使用すれば事故る可能性があったんで、本番まで使用しなかったわけじゃが……ある程度の加減をすれば問題はなさそうじゃな。
などと考えている内に、儂は一つ目のお題ボックスへ到達。
早速とばかりに箱に手を突っ込み、適当に底の方にあった紙を一枚手に取って引き抜き、紙を開く。
「えーと? 『人間用の首輪(……)』? …………」
なんかおかしくね!?
え、ちょいと待ってほしいんじゃが?
いや、首輪だけならまだ百歩譲っても理解できよう。
しかし、しかしっ…………どこに高校の体育祭に、人間用の首輪を持ち込むバカがいるというのかっ!
儂は全く持って知らぬ!
いや、自宅(屋敷の方)にはやたら多種多様な首輪がある(使用用途は伏せさせてもらう)。
しかし、それはあくまでも自宅だからこそある物なわけであって、少なくともこんな公の場に、下手をすれば十八禁展開になりかねない道具を持ち込むとか、頭がおかしすぎて、下手すりゃ警察案件なんじゃが!?
そもそも、なぜこのお題にGOサインを出したんじゃい!
くっ、じゃ、じゃがしかし、これをせねばゴールが不可能っ……!
当然持ち主を探さねばならぬが……問題は、この場にそのような変態が存在するのか、という部分。
……いやまぁ、実は可能性がないわけではない。
実際、儂の頭の中には、旦那共のドSな表情が浮かんでおるからな。
くっ、じゃが、しかし……っ。
「……ええい! 仕方あるまいっ! あ奴らの元へ行くぞ!」
苦渋の決断とも言えよう判断に、儂は旦那共の元へと走った。
……尚、儂はこの時、お題の下に書かれた小さな注釈に気付くことができなかった。
「はぁ、はぁ……お、おぬしらっ……!」
というわけで、儂は愛すべきドS旦那たちの前にやってきた。
「どうしたの? 何か私たちに関係するようなお題でも来たのかしら?」
「もしかして、人ですか? 借り人ですか?」
「い、いや、そっちではない、んじゃがっ……はぁっ、ふぅ……あ、あー、おぬしらのうち誰か、人間用の首輪をもってはおらぬか?」
「「「「「持ってるわよ(ますよ)(るよ!)(てる)(てるわよ~)」」」」」
「…………」
無言で天を仰ぐ儂。
……Oh、Jesus……。
【悲報】旦那共、全員が首輪(人間用)を日常的に所持している模様。
…………儂、離婚を本気で考えたほういいのやもしれぬなぁっ……!
あ、今し方周囲からの視線が、なんかこう……エロい人を見る目であったり、え、マジで? みたいな二度見のような視線であったり、あとは温かく見守るような視線に変わったりしだしたのじゃが。
……うん、儂、明日から学園休もうかのう……。
「……あー、うむ、とりあえず……一つ、くれ」
「「「「「誰の?」」」」」
「いや誰でもよくない!? と言うか儂、さっさとこの状況から脱して、次のお題に行きたいんじゃが!?」
「「「「「えー」」」」」
「えーじゃないわい! そもそも、その手の物はこちらではなく、別のエリアじゃろうがいっ!」
「ノで始まって、ンで終わる的なですか?」
「わかっとるなら言うでないわいっ! というか、いいからさっさと寄越せ!」
「「「「「じゃあはい」」」」」
「五個もいらんて!」
目の前に差し出される五つの首輪に、儂はそうツッコミを入れると、適当に一つを受け取り、お題箱の方へ逃げて行った。
「はぁっ、はぁっ……くっ、まさかあの者共、とんでもない爆弾を隠し持っておったとは……!」
というか、どうやってあの首輪を持っておったというのか。
瑞姫に関しては、いつも通りと言うべきか、胸の谷間から取り出しておったが……。
正直、ましろんが取り出した時は、その外見からか犯罪臭しかしなかったんじゃが。
と、とりあえず、次のお題ボックスを……!
「よし……これじゃ!」
今度はまともな物を引き当てますようにと願いながら、勢いよく箱の中から一枚の紙を引っ張り出した。
「えーと? ……『年上の家族(ドS限定)』」
……死ねと?
あとこれ、確実に家庭環境をぶっ壊しに来るようなもんじゃね?
普通に前の文章だけなら問題はなかったぞ? じゃが、じゃがな? ……ドSという付け足し文のせいで、とんでもないことになっとるんじゃが!?
少なくとも、場合によっては家族会議が必要なレベルの!
くっ、しかし、儂はこれを達成することができてしまうっ……!
問題は、どちらの人物を連れて来るか、じゃが………………し、仕方あるまいっ。
「はぁっ、はぁっ……と、というわけで、結衣姉、来てくれ……」
「私~?」
「う、うむ」
「……他じゃダメなの?」
「まぁ、ましろんなら条件を達成しておるが……正直、結衣姉は教師で、競技には参加できんからの。故に、結衣姉なわけなんじゃが……」
ましろんのもっともな疑問に、儂は五割本音の言葉を伝える。
ちなみに、残り五割は、『ましろんだとなんか怖い』からである。
結衣姉もある種の恐怖的ポイントがあるにはあるが……まあ、ましろんに比べれば遥かにマシと言えよう。
「わかった~。じゃあ一緒に行きましょ~」
「助かる。……あー、というわけで、ちと結衣姉を借りてくぞ」
「了解。あと一個、頑張ってね」
「うむ。では、結衣姉行くぞ」
「は~い~」
なんだか気が抜けるのう……。
というわけで、結衣姉と共に三つ目のお題ボックスへと到達し、すぐに一枚の紙を引き抜く。
「さて、最後は一体何が……」
引き抜いた紙に書かれた文字に視線を落とす。
そこには――
『周りには言ってなかったけど、実は割とすごい会社の社長』
――と書かれていた。
「…………………………………………………………………………無理じゃね?」
長い沈黙の後、儂は率直な感想を漏らした。
いや、うむ、なんと言うか、じゃな……なんじゃろうか、このふわっとした内容のお題。
一つ目が首輪(人間用)で、二つ目が年上の家族(ドS)、そして最後が……社長。
どうしろと?
前二つも割かし難しいお題だと思うんじゃが……まさか、それを超えてくるお題が降りかかってこようとは。
うぅむ……これはもしや、あれか。
儂にリタイアしろと、そう言うのか?
「……結衣姉、これ、どう思う?」
とはいえ、今回はどっかの変態ロリコンお嬢と比べても、遜色ないくらいのお嬢であるとわかっている結衣姉に、これが達成可能かどうか尋ねる。
正直、無理じゃね? と本気で思っておったんじゃが……。
「行けるんじゃないかしら~?」
我が母性系ドS旦那は、行けると仰った。
……字面にすると、パワーワードすぎんか?
っと、今はそんなことはどうでもよい。
とりあえず……ふむ。
「え、マジで?」
素直に驚いておこう。
「そうね~。ひろ君は色々あって知らないかもしれないけど~……この学園、調べてみたらピンからキリまでだけど、結構ご令嬢やご令息がいるわよ~?」
「マジで!?」
「えぇ~。この学園、有名な進学校だし、そもそも経営者が瑞姫ちゃんのお母さんだしね~」
ま、マジかっ……!
二年目にして初めて知る事実に、儂は本気で驚いた。
し、しかし、見る限り、割かし普通の生徒が多かったような気がするのじゃが……。
「あ、そう言えばひろ君は今日、お父さんやお母さんは来ているのかしら~?」
「む、父上と母上か? むぅ、どうじゃろうなぁ……一応、LINNで今日体育祭をやる、とは伝えておるよ。ちなみに、返信内容は『行けたらいkkkkkkkkkkkkkkkkkkk(ry』となっておった」
おそらく、疲れで死んだんじゃな。
そもそも、仕事で滅多に帰ってこない存在じゃ。
来る気がせん。
というか、寝落ちしかけで打っておったとはいえ、『k』だけを押しっぱなしで落ちるとはまた器用な。
「ん~、とりあえず探してみましょうか~」
「?」
なぜ、儂の父上と母上を探さねばならんのか、いまいち理解できぬが……とりあえず、結衣姉の後をついていくとしよう。
結衣姉と共に両親を探すこと、約二分。
目的の人物はあっさり見つかった。
――なぜか十人以上もの人間に囲まれながら。
「……あー、父上、母上や」
なんとも話しかけにくい雰囲気じゃが、儂は少しだけ躊躇いながらも見つけた自身の肉親に話しかけると、二人は一瞬疑問符を浮かべた物の、すぐに笑顔を浮かべて口を開いた。
「んん? おっ、我が息子……じゃなかった、娘よ! 今日も可愛いな!」
「あら、まひろ。んー、久しぶり?」
「いやまぁ、最後に顔を合わせたのは……あー、発症した次の日以来か? たしかに、久しぶりと言えるな」
正直なところ、親として二ヵ月以上も息子(今は娘か)に会わなかったのはどうなん? と思わんでもないが、まあよい。
今に始まったことではなし。
とはいえ、この両親にも儂にかかりっきりだった時期という物があったんじゃがな。
主に、儂が産まれてから小学校に入学するまでの間。
生まれたばかりはともかく、一歳を超えてからはほぼ爺ちゃんが儂を育てておったらしいがな。
『桜花殿、この桜髪の少女はもしや……』
「ん、あぁ俺たちの元息子。今は娘だし」
『つまりゆくゆくは……?』
「あー、どうなんだろな? まあ、そこは本人にいつか尋ねるわ。っというわけで、俺たちはこれからこいつの応援をしなきゃならないんで、話はまた後日ってことで」
なんかよくわからん視線やら、父上の発言を呆けた表情で聞いておると、父上が話を切り上げた。
父上たちを取り囲んでいた者たちは妙にほくほく顔で去って行ったのが気になるが。
「んで? お前は確か『借り物・借り人競争』に出場中だったよな? なんでこっちに来たん?」
「あー、いや。なんか結衣姉が三つ目のお題に関して、なぜかおぬしらの元へ行くように言ったからのう。故に、こちらに来たんじゃが……」
「へぇ~? じゃあ、そのお題を見せてもらえる?」
「これじゃ」
「えーっと? 『周りには言ってなかったけど、実は割とすごい会社の社長』? あー、なるほど。たしかにお題の内容的に、私たちが適任かもね~」
「……え?」
ちょい待ち。
え、何今の発言。
思わず、思考が止まりかけたんじゃが?
…………そう言えば、なぜか父上が『殿』呼びされておったよな……?
普通、一般家庭の大黒柱(多分)が殿なんて敬称を付けて呼ばれるか? と訊かれると……答えは否じゃろう。
いくら儂とて、なんかおかしいと思うわい。
「それに……ふふ、羽衣梓グループだけじゃなくて、桜小路グループの令嬢も落とすなんて、さすがと言うか……根っからの女ったらしよね?」
「どういう意味じゃい!」
「言葉通りの意味だけど? というより、さすがお父さんの血、と言うべきかしら?」
にこにこと、しかしどこか困ったように微笑む母上。
む、爺ちゃん?
「あー、あの人、かなりモッテモテだったらしいからなぁ……なんか、まひろを見てると納得だぞ」
え、マジ? 爺ちゃんってモッテモテだったん?
生まれて十六年と数ヶ月。
大好きだった爺ちゃん、昔モッテモテだった模様。
「もう一度聞きたかったわねぇ。『桜花源十郎、地獄への投身自殺 ~修羅場を添えて~』」
「何それクッソ気になるんじゃが!?」
一体爺ちゃんの過去に何があったと言うんじゃっ……!
地獄に投身自殺かました挙句、修羅場も添えられるとか、マジで何したんじゃ爺ちゃんっ……。
「まあ、それはいつかね。で、お題よね? 私が一緒に行くわよ?」
「……あの、母上? 今、なんと?」
今、さらっと気になる話題を逸らしつつ、とんでもない爆弾を投下しなかったか?
「だから、私が一緒に行くわよ? って」
き、聞き間違いじゃない、じゃとっ……?
「……………………え、何? つまりは何か? おぬしら……このお題の内容に当てはまっとんの?」
そこそこの間の後、儂は疑問を二人にぶつけ、その疑問に対し二人は頷きながら、母上が口を開いた。
「正確には当てはまっているのは私の方よ」
と。
「…………あー、うむ。まあ、なんじゃ…………おぬしらが割とすごい会社の社長、と?」
「えぇ」
「……really?」
「うん、ほんとほんと」
「…………………じゃあ、何か? 儂ってもしかして……」
「まあ、所謂御曹司やらご令嬢って奴じゃないか?」
「……も、もしやこのことを知らなかったのって……」
ギギギギ……と、まるで油を差し忘れた機械の如き緩慢且つ、ぎこちない動きで結衣姉に視線を向けると……苦笑いが返ってきた。
「……実は、知らなかったのはひろ君だけだったり~……」
「……じゃ、じゃあ、他の旦那共は? 特に、美穂とアリア、ましろん辺りは……?」
「実はひろ君がいない時に、瑞姫ちゃんが話していたり~」
「……なんでやねん」
何故、当事者が知らず、その他が知っとんねん……。
思わず似非関西弁が出るくらいには、衝撃なんじゃが。
「……んー、とりあえず、ささっとクリアした方がいいんじゃない?」
「あ、それもそうじゃな。じゃあまあ……行くか」
「ひろ君その切り替え、素直に尊敬するわ~」
まあ、うん……だって、今は新情報の数々で頭がパンクしそうじゃからな……。
というわけで、三人でゴールへ向かう……途中で問題が発生!
そしてそれは、儂の学生としての地位を土台からぶっ壊した挙句、再起不能なまでに粉々にしかねない問題!
その問題と言うのは走っている途中のことである。
「あら? まひろ、紙が落ちたけど……えーっと何々? 『首輪(人間用)※ただし着用しなければ未達成とする』?」
「…………は?」
え、ちょい待ち? 一体本日何度目かのちょい待ちかわからぬが……ちょい待ち?
今、着用って言った?
「あ、あのー、もしもし? それはもしや、チャックYO的な?」
「おかしくなったの?」
「いや、儂は元々おかしい」
主に、旦那たちのせいでな。
「つまり儂……首輪を着けなきゃいかんと?」
「「うん」」
「……\(^o^)/」
「わ~、初めて『\(^o^)/』の顔の人を見たわ~」
「ふふ、さすが我が娘!」
どこがさすがだというのか。
というか、『\(^o^)/』という絵文字、実は人間が表現できるというのが儂自身で実証されたのう……。
「なるほど……ふふ」
……のう、今なんか、結衣姉がニヤァッとした笑みを浮かべた気がするんじゃが? しかも、妖しげな笑いも聞こえたんじゃが?
「ねぇ、ひろ君~」
「却下じゃ!」
「この首輪を~」
「嫌じゃ嫌じゃ! 絶対に着けんぞ!」
「でも、夜では――」
「わーわーわー! きーこーえーなーいー!」
「え、まひろ、あなたもしかして……」
「待って!? その生暖かい表情はやめて!? なんか、心の臓がパイルバンカーされる!?」
少なくとも、死ねる!
というか、実親に夜のあれこれ、しかも儂がどういうことをされているのか、という部分が片鱗とはいえ知られてしまい、儂は今にも死にたいんじゃが!?
「ふふふ、大丈夫よ~。恥ずか死ぬのは一瞬だから~」
「結局死ぬんじゃが!?」
くそぅ、さすがドS旦那その五!
じりじりと儂に首輪を持ちながら近づいてきおる……!
「くっ、わ、儂は逃げ――」
「はい、捕まえた」
「ちょぉっ!? 母上一体何を!?」
逃げようとしたところで、儂は母上に捕まった。
「ふふふ、まひろは知ってるわよね? 私がすごーく、可愛いもの好きだということに!」
「……お、おぬしまさかっ!」
「見てみたいなぁ! 狼の耳と尻尾を生やした美少女が、首輪を着ける姿!」
「こ、こんのド変態母親がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! って、あ、ちょっ、待って結衣姉! マジで止め――んにゃぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
母上、許すまじ……!
「あー……まあ、なんだ。ほどほどにな?」
「くっ、殺せっ……!」
結局、変態母親と母性系ドS旦那の(悪)夢のタッグマッチによって、首輪を着けられ、そのままトップでゴール。
哀れみと同情の籠った視線と表情を儂に向けた四方木教諭の言葉に、儂はなぜかテンプレ的女騎士の言葉を吐くのじゃった。
……尚、見た目狼の耳と尻尾を生やして、尚且つ首輪を着けた美少女という、どう見ても警察案件ですね、みたいな姿を公衆の面前で晒したことにより、儂は本格的に『ドMなのでは?』という噂が学園内にて蔓延することとなった。
くっころ!
どうも、九十九一です。
ふざけたぜ。いやまぁ、やっぱこの小説の良い所は、その場のノリではっちゃけられることでしょう。TS娘の非日常ではこうも行くまい……。あっちはあっちで、何気に設定を気にしながら書かないとなんで。
で、まひろが実は御曹司、もしくは令嬢だった、というのは断片的に仕込んであったので、気付いた方もいることでしょう! 多分!
まあ、その方が動かしやすいしね。
次の投稿は……まあ、一ヶ月以上も待たせる、というのはさすがにない(何度言ったんだこのセリフ)と思いますので、少々お待ちください。
では。