爺口調な男子高校生が、のじゃろりになってTSライフを送るだけの日常   作:九十九一

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日常94 調査。研究色々1

 体育祭となぜか途中から記憶のない打ち上げを終え、日曜日と振替を挟んだ最初の登校日。

 

 その日は、いつも通りの平日であり、学園の授業中じゃった。

 

 授業を受けておると、不意に儂の携帯が鳴る。

 

 儂が通う学園は、スマホの持ち込みやゲーム機等の持ち込みがOKではあるものの、当然授業中などは鳴らないようにするのが常識。

 

 儂も、授業中になるのは問題だと思い、マナーモードにしておった。

 

 しかし、そのスマホが鳴った。

 

『ん? 誰だ? 授業中はスマホを鳴らさないようにしろよ』

 

 と、授業中にスマホが鳴ったことで、授業中の教師が眉をひそめるながら注意する。

 

『で、誰だ?』

 

 教師がそう尋ねるも、全員が顔を見合わせるだけで、手を上げない。

 

 ここは、素直に言うべきじゃな。

 

「儂じゃ」

『桜花が? なんだ、珍しいな。切り忘れか?』

 

 素直に名乗り出ると、教師は珍しいと言った表情に変わる。

 

「いや、普通に切っておったんじゃが……」

 

 そう言いながら、儂はスマホに表示された名前を見る。

 

 そこには、『神』と表示されておった。

 

 ……あー、なるほど。

 

「どうやら、国の方からみたいじゃ」

『国……あー、病気の件か? それなら、電話してきていいぞー。大事な要件かもしれないしな』

 

 電話がかかってきた理由を察したようで、教師は電話してくるように言って来た。

 

 実際、発症者は割とこういう時緩いっぽいからのう。

 

「そう言う事なら、ありがたく……」

 

 一言言ってから、儂は一度教室を出た。

 

 ちなみに、儂は普通に教師相手にも同じような話し方をするが、許可を得てこうしておる。

 

 というか、この学園の教師はかなり寛容なところがあるのでな。

 

 それ故、ため口で話す者も多く、儂もその一人、と言うわけじゃ。

 

 とりあえず、学園の教師以外はちゃんと敬語で話すように、そう言われておるので、問題は無し。

 

 

 というわけで、一度教室に出た儂は、踊り場までやって来ると、ずっとなり続けている電話に出る。

 

「もしもし?」

『お、繋がった。すまないね、授業中であろう時間に電話して』

 

 電話に出ると、神が謝罪の言葉を伝えてきた。

 

「気にするでない。おぬしは忙しい身。この時間でないとできないのじゃろ?」

 

 もとより、神が忙しい身分であることは知っておったので、儂は気にしないでいいと告げる。

 

 一応、研究責任者らしいからの、日本支部の。

 

『正解。この後も色々と忙しくてね。なんとか時間を見つけて、君に電話を、と思ったのさ』

「そうなのか。して、用件は?」

『ああ、それなんだけど、君、明日研究所の方に来てくれないかい?』

「研究所? ……あぁ、もしやあれか? 儂の能力を改めて調べると言う」

『そうそれ。本当なら、五月下旬頃だったんだけど、私の方が忙しかったからね。で、明日、なんとか一日時間が取れそうなのさ。だから、できれば君に来てもらいたいんだ』

「日曜日は難しいのか?」

 

 土曜日は健吾たちとの約束がある故、さすがに行くことはできんが、日曜日なら問題はないのじゃが。

 

『すまないね。生憎と、私にも時間がなくてね。TSF症候群は、かなり特殊な病。特に、能力に関する研究も多いし、なんだったら相談の受付や、アドバイスなんかもしている。その関係上、なかなか時間を空けることができなくてね』

「……え? 何? それじゃあおぬし、休みはないのか!?」

『まあ、そうなるね』

 

 何でもないかのように、儂の質問に対し肯定する神。

 

 休みがない、という事実に、儂はそれはもう驚愕した。

 

 や、休みがない……それはつまり、だらだらする時間がないという事。

 

 布団に寝転んだり、寝ころんだままゲームしたり、特にやることもなくぼーっとするような、そんな時間がない、じゃとっ……?

 

「お、おぬし、それは大丈夫なのか……?」

『ん? 心配してくれるのかい?』

「そ、そりゃそうじゃろ! 休みないとかブラックすぎじゃろ、その職場! 労基に訴えた方が良いのではないか!?」

『ははは! まひろ君は優しいね。だが、心配する必要はないよ』

「……それはどういう?」

『いや、休みがないのは自業自得……というか、好きでやっていることなんだ』

「む?」

『私は研究が好きでね。自分が研究し、解明した物が誰かの役に立つ、これが好きなのさ。だから、休む暇が惜しくてね。それで、日々研究に勤しんでいる、というわけさ』

「な、なるほど……しかし、それでも休みはいれた方がよいと思うぞ? それで体を壊せばおぬしのしたい研究だけでなく、倒れてしまうやもしれぬ。そうなれば、周囲に迷惑がかかるからの」

 

 かなりの研究好きのようじゃが、それでも休みを取らないのは問題じゃな。

 

 仕事が大事でも、自分の体もそれ以上に大事にせねば、色々とダメじゃからのう。

 

 ……実際、過去にそうなった者がおるし。

 

 まあ、アリアなんじゃがな。

 

『はは、それに関しては耳が痛い。……そうだね。今度からは、適度に休みも入れることにしよう』

「うむ。それがよい」

 

 ワーカーホリックなのかもしれんが、やはり休みは必要じゃからな。

 

 言葉通り、休みを入れることを願うわい。

 

『さて……話を本題に戻して、だ。明日、来れるのかい?』

「儂は一向にかまわんのじゃが……これは、公欠などに含まれておるのか?」

 

 儂が心配することとして、欠席が上げられる。

 

 この場合の欠席は、果たして公欠扱いになるのか、ということじゃな。

 

 できることならば、欠席はしたくないという気持ちからの質問であったが、その心配はいらないらしかった。

 

『あぁ、それについては問題ない。発症者はそもそも、仕事や学校などは、検査などの理由であれば何の問題もなく欠席できるようになっているのさ。『TSF症候群』に関する法が作られた際に、会社や学校は対応するようにと法で定められているんだよ。だから、公欠になる』

「そうなのか。ならば問題ないな。明日、そちらへ行くとしよう」

『ありがとう! 時間だけど、十時頃に君の家に迎えを出す……って、そう言えば君、引っ越ししたんだったかな?』

「うむ。一応、住んでいる街自体は変わらぬよ」

『ならよかったよ。たしか、羽衣梓グループが建てた屋敷だったかな?」

「その通りじゃ。儂が家の者に話しておくので、家の門前に十時でどうじゃ?」

『OK。それでいこうか。じゃ、明日はよろしくね』

「うむ。こちらこそ。ではな」

 

 通話を切り、スマホをポケットにしまう。

 

 明日は、学園は欠席か。

 

 それから教室に戻った後、儂は事情を説明。

 

 特に引き留められるようなこともなく、明日は研究所の方へ赴くこととなった。

 

 

 そして翌日。

 

「来たぞ、神」

 

 儂はO3に所属する職員の迎えで、研究所――それも、神がいる部屋に来ていた。

 

 まぁ、部屋というより、病院の診察室に近いが。

 

「あぁ、よく来たね、まひろ君。じゃ、早速だけど能力の検証と行こうか」

「うむ。……で、それはあれか? 専用の部屋に行くのか?」

「そうなるね。まあ、君の能力はどれも平和的な物ばかりだ。暴発して周りが壊れる、なんてことはないけど、君の能力……特に、『成長退化』に関しては謎が多い。……とは言っても、発症者がなぜ能力を得るのか、それがわからない以上、どの能力も不思議なんだけどね」

「……それ以前に、『TSF症候群』が一番の謎じゃろ」

「それもそうだ」

 

 実際、この病が出現するようになってから、十年経った今でも、病や能力に関することは何一つわかっとらんからな。

 

 その上、解明した者には多額の賞金が出ると言う話もある。

 

 なので、世界中の科学者の約四割が賞金を得ようと頑張っているという話は有名じゃな。

 

 とはいえ、好奇心で解明したい、というのが大体の科学者の考えらしいがな。

 

「さて、時間も惜しい。調査、始めようか」

「うむ」

 

 さて、ある程度わかればよいが。

 

 

「最初に、前回話していなかった……というか、私がつい最近解明した情報の講義と行こうか」

「おぬし、今さらっととんでもないことを言わんかったか?」

 

 解明した情報とかなんとか……。

 

 その部分が気になり、神に尋ねると、神はいつもの冷静な笑みではなく、誇らしそうな笑みを浮かべて話す。

 

「はは、これでも日本支部の責任者なのでね。それほどの頭脳を持つ、ということさ」

「う、うむ。そうか……」

 

 儂、こやつと親戚同士らしいが、儂にもその頭脳くれんかのう……。

 

「それで、私が解明したことがいくつかあってね。全部で三つ。一つは、能力の中には効果が変わるものがあること。二つ、隠し仕様のようなものがあること。そして三つ。一部の能力に限り、実は自分自身だけじゃなくて、周囲の物や人に効果を及ぼすことができること。以上の三つだ」

「……すまん。え? ちと待ってほしいんじゃが……え、何? そんなとんでもないことが発覚したのか!?」

 

 神の口から飛び出した衝撃の事実に、儂は思わず大きな声で聞き返していた。

 

「うん、実はそうなんだ。……まぁ、判明した、とは言うけど、サンプルが少ないから確定、というわけではないけどね」

「な、なんじゃ、そうか……って、ん? の、のう。おぬし、何やら儂を変な目で見ておらぬか……?」

 

 確定ではないという事に、ややほっとしている(?)と、何やらぞくっとした。

 

 見れば、神が獲物だぜ! と言わんばかりの目で、儂をジーッと見つめておった。

 

 あと、なんか手をわきわきさせとるのが怖い。

 

「ふふふ……私がなぜ、君を今月呼び出そうと思ったか、わかるかい?」

「む? それはあれじゃろ? 儂の『成長退行』の能力が、純粋に成長させたり、退行させたりするのとは違うかもしれぬ、という……」

「あぁ、それもある。だけどね……今私が言った三つの情報……君、全部当てはまってるから♪」

 

 うわー……なんともまぁ、いい笑顔じゃなぁ……。

 

「って! それ結局儂、おぬしの知的好奇心を満たすために呼ばれたようなもんじゃよな!?」

「イグザクトリー!」

「儂、帰ってもよいか……?」

「だーめ♥ 実験台になってね♥」

「うわぁ……未だかつて、実験台になれというセリフの後に、ハートマークを付けたセリフがあったじゃろうか」

 

 いやない。

 

 ……こやつ、儂をモルモットか何かだと思ってそうじゃなぁ……。

 

「じゃ、早速やろうか」

「……お手柔らかにな」

 

 

 そんなこんなで、調査開始。

 

 まず最初にするのは、『成長退行』……ではなく、『獣化』の方。

 

 なぜ獣化なのか? と思ったのじゃが、理由は単純で、

 

「一時間もインターバルがあるから」

 

 らしい。

 

 まあ、『獣化』に関しては、一度変身した後に解除すると、再び使用するのに一時間かかるからな。

 

 先に時間のかかる物を終わらせてしまおうと言うところじゃろ。

 

「それで、これは一体何を調べるのじゃ? 言っとくが、儂が変身できるのは、狼、猫、兎の三つじゃぞ? これ以外に何を調べるのじゃ?」

「あぁ、それね。君、その能力で何か変わったことはなかったかい?」

「む、変わったことじゃと?」

 

 そもそも、耳と尻尾が生える時点で変わっとるじゃろ、これ。

 

「そ。なんでもいいよ。精神的に野生になりかけたとか、耳と尻尾以外にもどこか変化があったとか」

「あー、うーむ……そうじゃなぁ…………あ、そう言えば一つあったぞ」

 

 記憶を探り、何か変わったことがないかを探っておると、一つだけ該当するものがあった。

 

「ほう、それは?」

 

 儂の言葉に、興味津々と言った様子で訊いてくる神に、儂は話した。

 

「一時間以上変身したままでおると、どこかのタイミングでその動物に変身する」

「なに? それは本当かい?」

「うむ。あの時は、兎に変身し、ボーラを的確に投げてくるメイドや謎のどろどろとした白濁した液体(?)を飛ばしてくるロリコンとメイドに追われておったんじゃが――」

「ごめん。え? 何それ? まひろ君、一体何でそんな武闘派メイドのような人たちに追われてるんだい?」

「……ロリコンじゃから」

「納得」

 

 それで納得するんかい。

 

「しかし、本当に兎に?」

「うむ。桜色の兎になったぞ?」

「戻り方は?」

「戻り方?」

 

 ……む? そう言えば儂、どうやってあの時戻ったんじゃ?

 

 夜寝て、朝起きたら元の姿に戻っておったが……。

 

「もしかして、不明?」

「う、うむ。あの時は、小学生時代の姉的存在の者との再会で忘れとった」

「姉? ……もしかして、五人目の?」

「うむ。……って、なんじゃ、やはり結衣姉のことは知っとるのか」

「当然。婚姻届が受理されると同時に、こちらにも情報が行くからね」

「個人情報保護法とは」

「まぁ、この辺りはしっかりと調べないといけないからね。悪いね」

「……あーいや。別に構わん。十中八九、儂ら発症者が危険な目に遭わないためというのと、よからぬことを考える人間かどうかを調べるためじゃろうからな」

「その通り。話が早くて助かるよ」

 

 儂の回答に、神は安心したような笑みを浮かべた。

 

 まぁ、儂らはかなり特異な力を持つ。

 

 故に、その力を悪用しようと考える者は少なからずおる。

 

 実際、そういった犯罪もないことはないからの。

 

 国によっては日常茶飯事らしく、日本もそれなりに発生する。

 

 これでも、世界で一番多いからの。

 

 しかしまぁ、日常茶飯事とは言ったが、実際は人数も少ないので、年に十数件と言ったところじゃがな。

 

 ……いや、それではむしろ多いか。

 

 ま、その辺に関しては、儂の旦那共は信用できるんで問題なしじゃな。

 

「おっと、話が脱線したね。それで、戻り方はわからない、と」

「うむ。……なんじゃったら、その時にいた者と電話してみるか?」

「そうだね。時間的に就業中かもしれないけど、ちょっとお願いしようか」

「了解じゃ。ちと待っておれ」

 

 というわけで、一度結衣姉に電話してみることに。

 

 時間的に、授業中じゃが……まぁ、病気に関わることなので問題なかろう。

 

 申し訳なく思うが。

 

『もしもし、ひろ君~?』

「おぉ、繋がった。儂じゃ」

『突然どうしたの~? 私今、授業中だったんだけど~……』

 

 いきなり電話されて、不思議そうな声の結衣姉。

 

 どこか、困惑しているようにも聞こえるが、おそらく気のせいではないじゃろう。

 

「うむ、すまぬが、病気の件でおぬしに訊きたいことがあっての」

『病気の~? それなら、何でも聞いて~。私に答えられるかはわからないけど~……』

「助かる。訊きたいことがあるとは言っても、訊きたいのは儂が兎の時におぬしの家に入り込んだ時のことじゃ」

『あの時のこと~? それがどうかしたの~?」

「うむ。儂はあの時、おぬしに拾われ、一緒に寝たじゃろ? で、次の日に人間の儂に戻った」

『そうね~』

「それで、じゃ。儂はあの時、兎から人間に戻る方法がわかってなかったんじゃよ。故に、おぬしに訊きたい。儂に何かしたか?」

『何か?』

「うむ。なんでもよい。何か変わったことを儂にせんかったか?」

『う~ん…………あ、そう言えば寝る時に、ひろ君のおでこにキスをしたわ~』

 

 う~んと頭を悩ませた後、結衣姉は少し楽しそうにそう話した。

 

「キス? ほんとか?」

『そうよ~。他にしたことは、お風呂に入ったくらいだし~……だから多分、キスじゃないかしら~?』

 

 ふぅむ、さすがに風呂に入った、では儂が次の日に戻っておったのが変であるからして、キスと言うのは一理あるな……。

 

「なるほど……うむ! ありがとう、結衣姉」

『いえいえ~。あ、ねぇひろ君~』

「む、なんじゃ?」

『切る前にね~? お礼として言ってほしいことがあるの~』

 

 電話の向こうの結衣姉が、どこかそわそわとした物に変わる。

 

「ふむ? まあ、構わんが。仕事中に電話してしまったしの。儂に言えることならば」

『ほんと~!? じゃあね~? と~っても可愛らしく、『お姉ちゃん大好き!』って言って~?』

「ぬぐっ……!」

 

 な、なんじゃと……!?

 

『ダメ~?』

「あー、い、いや、ダメではない、のじゃが……」

 

 ちらり、と近くでタブレットを弄っている神を見る。

 

 一応、聞いてはいないようじゃが……。

 

 可愛く言うとなると、そこそこの声量で言わねば満足しないじゃろう。

 

 そうなれば確実に、神に聞かれてしまうわけで……は、恥ずかしい! 恥ずかしいぞ!?

 

 くっ、し、しかし……。

 

『……そっかぁ~。ひろ君、儂が言えることなら、って了承してくれたのに~……』

「うぐっ」

『ひろ君は、旦那さんの小さなお願いも叶えてくれないのね~……』

「くぅぅっ……!」

『残念だわ~……これじゃあ、またあのお部屋を~……』

「わ、わかったっ! 言う! 言うからあれは勘弁じゃ!」

『それならよかったわ~!』

 

 くぅっ、なんて嬉しそうな声なんじゃ……。

 

 しかしまあ……あの部屋で色々されるよりかは、ここで恥ずかしいセリフを言う方がまだマシ、じゃな……。

 

 はぁ、仕方あるまい。

 

「あー……こほん。言うぞ?」

『いつでもいいわ~!』

「……お姉ちゃん大好き♥」

「ぶふっ」

『はぁぁぁ~~~~っ……! ありがとう、ひろ君~! おかげで、この先の授業も頑張れそう~! 録音した音声も、楽しませてもらうわ~』

「うむ……って、録音!? 今、録音と言ったか!?」

『じゃあ、ひろ君も頑張ってね~。私も大好きよ~』

 

 ブツ。

 

「き、切れた……」

 

 おのれ結衣姉、しれっと儂の恥ずかしいセリフを録音しおって……!

 

 ……まぁ、最後の大好きで許したが!

 

「くふっ……君、あんなこと言うんだね……ふふっ」

「わ、笑うでないっ! べ、別にいいじゃろ!?」

「いやいや、悪いとは言ってないさ。仲睦まじいようで何よりだよ」

「ええい、ニヤニヤするなっ!」

「こればっかりは無理だね」

 

 面白いネタを見つけた! と言わんばかりのにやけ顔。

 

 ……はぁ、最悪じゃ。

 

「さて。笑うのはこれくらいにして……どうだい? わかったかい?」

「あー、うむ。おそらく、キスではないか、とのことじゃ」

「ふむ。なるほど。元に戻すには、女性のキス、と言った感じかな?」

「いや、そこまではわからぬが……というか、開示薬を飲めば早いと思うのじゃが、無理なのか?」

 

 先ほどから思っていたことを神に指摘する。

 

 しかし、神は軽く頭を左右に振って否定の言葉を吐いた。

 

「いや、無理だね」

「どうしてじゃ?」

「実はあの薬さ、作れるの、私とある発症者の二人だけでね。海外のO3支部に回してるんだよ。で、今は在庫切れ」

「そうか……」

「おや、私が薬を作れることに対しては驚かないんだね」

「まあの。おぬしは何でもありじゃから」

 

 少なくとも、さほど結衣姉と年齢が変わらなさそうにもかかわらず、日本支部の責任者。

 

 その時点でそれくらいできても不思議ではないしな。

 

 というか、前に開発したと公言しておったろうに。

 

「しかし、そうか。まあ、キスが戻る方法であるのなら、それは君の旦那さんや、親族、関係者の人たちに伝えた方がいいね」

「そうじゃな。あくまでも、可能性ではあるが、言わないよりかはマシじゃな」

「その通り」

「……して、これで終わりかの?」

「いや、ここからが本題と言っていい」

「これからが?」

「あぁ。君に訊きたいんだけど、その能力に変身できる動物は、君が個人的に好きな動物三種類なんだよね?」

「うむ。開示薬を使用した際に出た結果はそうじゃな。それがどうかしたのか?」

「そうそこだ。これは可能性だけど、君の好きな動物が変わった場合、能力も変わるのではないか、そう思ったんだ」

「……ふむ。なるほど」

 

 たしかに、その可能性はあるやもしれぬ。

 

 好きな動物三種類、とは出たが、必ずしも固定とは限らぬ。

 

 故に、神が指摘した可能性もあるわけじゃが……。

 

「可能性はあるな。しかし、どうするのじゃ? いきなり好みを変えると言うのは不可能じゃぞ?」

「そこは考えてある。実は、催眠術のような能力を保持した人がいてね。その人が使う催眠術を解析して、ある程度使えるようにしたものがあってね」

「おぬし、なんかおかしくね?」

「ふっ、私だからね」

 

 うむ、なんか納得。

 

 ……というか、能力を解析して、普通に使えるようにするって、結構おかしいと思うんじゃが……。

 

 実は神も発症者で、能力を保持してる、とかない?

 

「しかし、なるほど……つまり、その催眠術で、儂の好みを改変する、ということか?」

「そう言う事。早速頼みたいんだけど、いいかい?」

「うむ。了解じゃ」

「ありがとう! それじゃあ、早速これを」

 

 そう言って神が手渡してきたのは、所謂VRゴーグルと言われる物であった。

 

「これを身に付けて、横のボタンを押せば準備は完了。適当に流れる催眠を受ければ、君の深層心理に刻まれた好みが変わるはずだ」

「わかった。では試してみよう」

 

 早速ゴーグルを装着し、儂は横のボタンを押す。

 

 すると、目の前に何やら黒と白で構成されたぐるぐると回る何かが映し出され、言葉に表すことが難しい音声も流れ出した。

 

 な、なんじゃこれは? なんか、視界がぐるぐるするというか、妙にふらつく……。

 

 そうして、しばらく映像と音声を見聞きしておると、ぷつり、と突然消える。

 

「終わったみたいだね。とりあえず、外してくれ」

「うむ。んー、特に変わった感じはしないが……これ、どうなったんじゃ?」

「とりあえず、今の君の動物の好みを三つ言ってみてくれ」

「うむ。そうじゃな…………儂は今、鳥とチーターと熊かのう?」

「ふんふん、どうやら成功しているみたいだね」

 

 ……あ、ほんとじゃ。

 

 少し前まで狼、猫、兎が好きだったはずじゃが……なぜ儂、この三種が好きなんじゃろうか?

 

 うぅむ、まさか本当に催眠が?

 

「それじゃあ、早速変身してみようか。まずは……鳥でいいんじゃないかな?」

「了解じゃ。では……」

 

 儂は目を閉じて『獣化』の能力を発動させる。

 

 変身する動物は神が指定した通り、鳥じゃ。

 

 催眠が効いておれば鳥の特徴が現れるはずじゃが……。

 

 そう思っておると、ふと儂の体に異変が起こる。

 

 違和感が発生したのは背中。

 

 まるで、背中に新たな骨格や神経、肉、皮膚が形成されていくような奇妙な感覚が発生する。

 

「おぉ、鳥だとそうなるのか」

 

 傍から見たらわかりやすい変化をしているようで、目の前の神が感心する様子を見せる。

 

「え、儂今どうなっとる?」

「簡単に言えば、背中に白い翼が生えているね。まるで、天使のようだ」

「え、マジで!?」

 

 神言われ、儂は驚きと共に首を後ろに向ける。

 

 すると、確かに儂の背中には純白の翼が生えていた。

 

 なんじゃこりゃ!?

 

「それ、動かせるかい?」

「あ、あぁ、試してみる」

 

 神に訊かれ、儂は試しにと背中の翼を動かそうと試みる。

 

 ただ、如何せん今までなかったはずの場所を動かすもんじゃから、かなり戸惑った。

 

 そもそも、背中に翼とか……ないじゃろ、普通。

 

 多分無理そうじゃろうなぁ、などと思っておったんじゃが……なんと、いとも簡単に翼を動かすことに成功する。

 

 バサバサ、と軽く動かしてみるが、まるで生まれて来てからずっとそこにあったかのような奇妙な感覚に陥る。

 

「ふむ、動かすことは問題なし、と。……それ、飛べるのかい?」

「うむ、それも試してみよう」

 

 鳥の能力を発現させてはいるが、正直飛べるとは思っとらんが……まぁ、これも検査のためじゃ、やるとしよう。

 

 飛べることを期待せずに、翼を大きく動かしてみる儂じゃったが……。

 

「……え、なんか浮いたんじゃけど!?」

 

 徐々に体が浮かんでいき、気が付けば足が地面から離れていた。

 

 どうやら儂、今浮いとるらしい。

 

「ほう、どうやら鳥の能力と言うだけあって飛べるみたいだね。……でも、人間ほどの重さをどうやって浮かべているんだろう?」

 

 た、たしかにそれは気になるけども。

 

 しかし、今はそんなことはどうでもよい気がするのじゃが……。

 

「とりあえず、降りてよいかの?」

「ん、あぁ、構わないよ。ありがとう」

「……ふぅ、少しヒヤッとしたわい」

「はは、だろうね。そもそも、空中に浮くなどと言う事自体、飛行系の能力を保持しない限りはあり得ないし、ましてや君はそう言った物を所持したわけではなかったからね。焦るのは当然という物さ」

「そうじゃろうなぁ……というより、飛行系の能力とかあるのか?」

 

 神の言葉の中に気になるセリフを見つけ、儂はそれに対して神に疑問をぶつけていた。

 

「もちろん。以前話していた魔法を使うことができる能力、という物を所持している人は、魔力と呼ばれる特殊な力を利用すれば割と何でもできるんだよ。その過程で、飛行魔法を開発したみたいだけど」

「普通に天才じゃね!?」

「まぁ、そうだね。誰かが教えてくれるわけでもなく、扱えるのは自分だけともなれば、その人物は一種の天才さ」

 

 じゃろうね。

 

 しかし……魔法、のう。

 

 魔法を扱えるようになる能力、ということは、この世界には魔力なる不可思議な力があると言うことの証左ではないのだろうか?

 

 そもそも、この病自体が謎すぎる。

 

 突然何の前触れもなく出現し、更には発症すれば確実に何らかの常識外れの能力に目覚め、中には物理法則さえ無視するような能力すらある始末。

 

 開示薬事態もおかしいし、何より……自身の理想とする異性になる、と言うのもよくよく考えればおかしいのではないか。

 

 その体が異性になった場合の延長線、というわけではなく、理想。

 

 その時の年代は千差万別。

 

 儂のように小さな少女の姿をしとる場合もあれば、高校生くらいである場合や、大人である場合もあるわけじゃが……。

 

 うぅむ、謎じゃな、本当に。

 

「どうしたんだ? まひろ君」

「いや、ちと考え事をな」

「そうか? では、能力を切ってもらってもいいかい? インターバルの間に、次のことを検証しておきたい」

「あぁ、うむ」

 

 頭の中に浮かぶ考えを一度片隅に追いやり、儂は能力を切る。

 

 さっきまであった翼が無くなり、変な気分になる。

 

 むぅ、本来はこっちが正しいんじゃがな……。




 どうも、九十九一です。
 現在、気分がすんごい落ち込んどります。14年も一緒にいた愛犬が旅立ちまして、涙は出ないのに、こう、喪失感が半端なく、クッソ辛い。
 ものすんごい懐かれていただけに、すんげぇショックだし、気分が下落し続けているのがわかるくらいです。
 まぁ、だからこそなんですが、こう、少しでも気分を上げるべく、こんな頭のおかしいもんを書いてるんですがね。いやほんと、不意打ちはしんどい。
 ……ともあれ、次回ですが、まぁ一応ある程度は書けてるんですが、なんか今回の話長くなりそうなんですよね……どんなに長くとも三話程度に収めるつもりではいますが、伸びたらすみません。なるべく、早めに出すつもりですので、少々お待ちください。
 では。
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