プロローグ
「ねぇ、あの子。可愛い」
「巫女服?コスプレ?」
「この前、シスターみたいな子が歩いていたよね」
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花ってのをああ言う子が言われるんだろうな」
町中の一角にてその様な声が飛び交う。道行く人達の視線はある一点に向けられていた。町中では非常に珍しく映る白衣に緋袴と言う巫覡の格好を美少女が細長いケースを背負い歩いて居た。右腕には手提げ鞄、左手には地図らしきモノが握られていた。
「……えっと、道は……此方で合って、居るのかな」
数多の視線を浴びている巫女服の少女は地図を見ながら歩いている。多少、内側に跳ねる緩めの癖毛がある黒髪に捨子花を模した花飾りと一緒に鈴を3つ付けた青眼の少女。
恐らく百人中百人が美少女だと称するだろう。身長も同年代の者達と比べて少し低く、和服故に分かり難いが身体も華奢であり白衣の裾から覗く腕も細く青白い。背負っている細長いケースが重く見えてしまう位の華奢で弱々しい印象を受ける。
『おい、上下裏表反対やで‼︎ そんなんじゃ辿り着く事すら無理だっつーの‼︎』
その時、白衣の胸元の襟……つまり白衣の内側から小さな影が飛び出す形で現れた。上半身は狐の姿で下半身は霊魂の様に尻窄みな形状をしている。所謂、日本版幽霊の様な姿をしていた。
「え?はわわッ‼︎ そうだった……‼︎」
『おまはん、本当に大丈夫かいな。今更、心配になって来たで』
呆れた様子の狐、管狐は溜息の仕草を見せながら向きを変える巫女服の少女を見る。
「……た、たまたま」
『ほんまか〜?素で間違ってた気がすんで。おんなじ所、グルグル廻る所やったで』
「む〜……」
管狐に忌憚なく言われて巫女服の少女は頬を膨らませる。側から見れば可憐な巫女服の少女が虚空を見ながら頬を膨らませていると言う『ナニカ見えている』と言う印象を受けて不思議ちゃんな認識を持たれる事だろう。
『町中にまで来て虫喰いは勘弁やで〜。おまはんのゲテモノ喰いは悪夢以外、何も無い』
「む、誠に遺憾」
『それ、言いたいのはコッチの台詞や。何処に蝗を生で平然と食う巫がおんねん。同世代の連中はもうちっとマシな飯を食うわ』
何度目かの溜息。巫女服の少女は余程、アレな食事事情を抱えているらしい。
「じゃ、今日は百足……」
『止めんかい‼︎ 引くわッ、ドン引くわッ‼︎』
漫才の様なやり取りをしながら見方を戻した地図を見ながら巫女服の少女は歩いて行く。
『全く……呑気なんだか天然なんだか、怖くて仕方ないで。まぁ、おまはんがポカやらかして
「私が、死んでも……代わりは幾らでも
『あーはいはい。そうやったなー……おまはん、ちょっとは他にも目を向けた方がええで、結構見て来てるけどよ、言っちゃアレやけど痛々しいで?』
半ば軽蔑を込めた視線を向ける管狐。その言葉に対して巫女服の少女は黙殺。聞き飽きた言葉には要件が無いからである。
「……迷った」
『おい、ちゃんと見てんのか?と言うか現在位置分かってんのか?分からんかったら交番に聞け、交番‼︎』
手書き地図で見るも迷うばかり、呆れた管狐は交番の駐在員に聞けと提案する。管狐に背中を押される形で交番へと足を運ぶ。
「あの、すみません」
「おや、巫女さんか?珍しいな……この付近じゃ神社は寂れた所しか無いんだが」
交番に訪ねると其処には中年くらいの年代の警察官が駐在していた。この町でなくても町中で巫女服は目立つ。
「いえ、今日引っ越して来たばかりで……道が分からなくなって」
「そうなのかい?えっと、新居の位置が分からないのかい? その年で親元を離れて一人暮らしかい?となると駒王学園に編入か転校って形かい?」
「はい。巫女服しか持っていなくて……」
「ははは、成程。そりゃ目立つな。で、建物か番地は分かるかい?」
「えと、はい」
「ああ、コレかい?えーと、うん、此処から直線して三つ目の信号を右に行って直線した先の集合住宅地だよ。ああそれと、近くのデパートで私服なり揃えた方が良いよ。流石に目立ち過ぎるからね」
「ありがとうございます」
中年警官はお節介か、『巫女服は流石に目立つから私服なり用意した方が良い』と助言も渡した。お礼を伝えた後、再び歩き出す。
『気の良いおっちゃんやったな』
「仕事してるだけだと思う……」
『わっかんねぇかな〜。まぁ、しゃあないわなぁ〜……あんな連中ばかり相手してたらそうなるわ。哀れでならんな』
教えられた通りの道筋を伝っていくと目的地の引っ越し先の集合住宅地であるアパート前に到着した。
『部屋番何処や?』
「3階、306号室」
『ほな、行こか。あ、腹減ったな』
「蜚蠊の1匹でも居れば」
『止めい‼︎ つか、止めてください‼︎』
恐ろしい事を口にしそうになる巫女服の少女に対して管狐はすかさず静止に入る。明らかに少女が言って良い言葉なんかでは無い。
新居となるアパートの扉の鍵を開けて中に入る。一般的なアパートで一人暮らしには丁度良い部屋であった。主となるのは六畳間の部屋であった。巫女服の少女は基本的に私物と呼べるモノは殆ど持っていない為に非常に殺風景な光景が広がっていた。申し訳なさ程度に置かれているのは転校先の駒王学園の制服一式と教科書の類であった
『分かっている……と思いたいんやけど、お浚いしとこか。おまはん、結構、聞いて無さそうやからな』
六畳間でダンボールを机代わりにしてそのダンボールを挟んで巫女服の少女と管狐が相対して向き合う。構図としては生徒と教師の様な構図。最も、そんな気はしないのだが。
『ほな、質問や。この町には何がある?』
「悪魔と堕天使、天使の影響が強い?」
『何で疑問系やねん。おまはん、何しに来たんや。まぁ、あっとるけどな。三大勢力と名乗る盆暗共や。まぁ、耶蘇教の聖書の連中やな。でや、ソイツらの中で悪魔連中は日本の各所で不法占拠して植民地化しとる。其処は分かってんな?』
「ん。領主と名乗って管理した体をしている。顕界に明確に干渉し悪影響を及ぼしている……」
駒王町は悪魔陣営の悪魔『グレモリー』が領主を名乗りこの地一帯を『領土』を認知して我が物の様に振る舞っている。
『まぁ、この地以外にも『領土』化されている所はあんねんけど、おまはんが関与する所やない。其処は別の草なり雑兵に任せとけりゃええ。少なくともお上はそう言うやろ』
「……ん」
『領土も懸念やけど、他にも『三大勢力』絡みの問題は山程、ありゃてな。特に1番、鬱っといのは人間、日本人やな。それらと、日本の数の少ない妖達の拉致問題やな。神器持ちとか見た目が良い童が良く狙わねんな。んで、転生させて悪魔として使用する。同意ならばまだしも強制が多いと聞けば難儀な話やで。後『領土内』にゃ幸い、みかじめは徴収しとらん様やけどな』
更に厄介な事に『認知』を干渉して記憶をすり替える魔法を好んで使う。その結果、無理矢理転生悪魔と転生させて退路を塞ぐ。逃亡すればはぐれ悪魔として葬られる。非業の死と呼べる。
「駒王学園は悪魔が占拠している学園」
『せやな。ある意味、懐に飛び込む様なモンやな。それにおまはん自体も言っちゃアレやが見目麗しいからな。そう言う意味でも気ぃ付けや』
「その場合、割腹する。
『ハッキリしとんなぁ……まぁ、好きにすりゃあええけど。自分の不始末は自分で着けりゃええ。介錯くらいしたるわ』
もし、自分の不手際で『転生悪魔』となりし暁には割腹して果てると告げた。その為、懐には常に小刀を忍ばせている。自前の霊力を圧縮した自刃用にしか使わないと決めた小刀を。
『さてと、お浚いは一先ずはコレで終いや。で、おまはんはお上から何か聞いとらんのか?』
「……?」
『おい……何も聞いとらんのか⁉︎』
「……『駒王学園に行け』、終わり」
巫女服の少女はコップに入れた水を飲みながらそう言い切る。本当にそれだけであった。
『……あー、後は勝手にやれって事か? 放置主義も此処まで行けば関心するわ。裁量不明って酷ぇ話だな』
「そうでも無いよ」
『あーはいはい、わーたわーた。で、今日はどうすんや?見てたけどよ、ぎょうさん魂が彷徨っておるで?よもや、此処までとは思って無かったわな』
「分からない?」
『あん?何が?』
「駒王町には不自然な龍脈が通っている。理由は調べないと分からないけれど、恐らく惹かれて集まっている可能性が高い……」
『何やと、この俺様が気付かないとは余程異質な龍脈の様やな。よう分かったな、おまはん』
「三大勢力の邪気の魔力に当てられて異形化していて感じ取り難かった……何かしら実験を行ったのかも知れないね……。一先ず、餉を済ませて鎮めに行くよ。高い場所を調べておいて」
『別にそれはええんやけど……餉は、何や?』
「アパートの壁にコガネムシが居たから、それにする」
『うぉい⁉︎ ほんのちょっとでもマシなモンにしろや⁉︎』
此の儘では世にも奇妙なコガネムシが食卓に並ぶ事となる。管狐としてはソレは阻止せねばならない。
「じゃあ、蚊?」
『もっと悪いわッ⁉︎ ワザとかワザとなのか、おまはん⁉︎』