一方、その頃の悪魔領、ライザー城。
「……………」
その一室。その部屋に於いてライザー・フェニックスは黄昏た様子で机に突っ伏していた。その周囲には山の様に積まれた資料。と言うか其れら全てはセラフォルー・レヴィアタンによる外交政策の結果資料であった。
ライザーは魔王サーゼクス・ルシファーより無理難題とも呼べる依頼を受けざるを得なかった。その内容は冥界から離反した純血悪魔の復縁。そしてもう一つは日本神話陣営との和平会談の締結。ライザーの一生の中で外交政策と言う物は行った事は一度たりも無いが故に一から手探り状態となっていた。
その模索の結果、最悪に近い事態に陥って居た事が判明してしまう。
・離反組は冥界と復縁する気が無い。
・リアス・グレモリーが余計な真似をしてくれた為に日本神話陣営に悪質な誤解を植え付けた(『全裸徘徊の露出狂』と言う先入観)
・『祟り神』の中に最重要主宰神、『天照大御神』が存在する。
・『祟り神』相手に対話は事実上、不可能状態。
・よって無理ゲーである。
この状況下では交渉など成功率は極めて低い。しかしながら魔王直々の勅命……退けぬ理由がある(或いはリアスとの婚約破棄による風評被害に対する間接的な嫌がらせかと勘繰りたくもなる)。
その為、ライザーは足掻けるだけ足掻こうと眷属達に『交渉のやり方』に関する情報を集める様に通達し、集めさせた。その結果……眷属達は文民か軍人かと言われると大半が戦闘特化故に、こう言った政治的な無縁な住人。右往左往するばかりで結局の所、セラフォルーの所に行ってしまったのである。
「ライザー様、お疲れ様です」
「ああ、政治と言うのはかくも難しいモノなんだな。フェニックスの不死の力も炎も風も、この問題を前には全く無力だ……」
眷属の中で文官寄りの美南風がライザーの執務室に入って来る。本人の戦闘能力は然程高くは無いが内政面では大いに役立ってくれている。事、元日本人であるが故に目下の問題とも言える日本神話との間の問題に関して助言してくれている。
「……皆様、結局……セラフォルー様の所に行ってしまった様ですね」
「ああ。良く考えなくても外交関連は全部、あのお方が取り仕切っているからな。『交渉のやり方』なぞ、他の場所に転がっている筈も無い……」
ライザーは『ヘンゼル製薬:狂式胃腸薬』を口に含みながら起き上がる。眷属の居る手前、苦戦しつつも無様な姿は見せられない。眷属達よりも先に倒れるのは恥である。
「……美南風。君から見てどう見る?」
ライザーは積み上げられた外交関連の資料をパラパラと捲りながら彼女にも意見を求める。戦闘員が多い他の眷属達では分からないと答えるのは目に見えているが彼女ならばまた異なる視点の意見をしてくれるかも知れない。
「……拝見致します」
美南風は資料の一部を手に取り内容を流し読み程度に確認する。その目元は細くなる。
「……気になる点があるのか?」
「はい。大変無礼に当たりますが宜しいでしょうか?」
「構わない。今は少しでも前進したい、多少の事は構わないさ。足踏みして踏み外す様な真似の方が失礼なモノだからな」
「では、まずセラフォルー様の外交のやり方では反発を招くのは目に見えて分かります。どうにも前傾姿勢過ぎます」
「ふむ?」
資料の内容から美南風はセラフォルーの外交の進め方では上手く行かないと指摘する。
「……こと日本は16世紀頃から不平等な条約や19世紀頃の占領下と言う辛酸を舐めました。日本神話陣営はその様な過酷な状況を見守りそして日本は見事、切り抜けました。セラフォルー様のやり方は事実上、その
「……やはりそうか。正直な所、悪魔陣営が一方的に得する様な内容だと俺も思っていた」
早い話が喧嘩状を持って会談に臨んでいる様なモノである。悪魔の癖に正義面とは如何なる了見か?
「……こと、交渉は商談とも呼べます。コレはお互いの同意……言うなれば損得勘定も含まれ双方に納得の行く内容でなければ締結されません。一方的な要求を押し通せるのは戦後会談や威嚇会談……後者はおススメ出来ません。悪魔陣営としては戦争を望まない以上、セラフォルー様のやり方はどう考えても宣戦布告寸前のやり方です」
美南風はセラフォルーの会談の進め方は強引かつ悪魔陣営だけが有利に働く内容だと指摘する。コレでは理解し合う事は不可能、悪魔であるが故に相手の事を考えていない。最も侵略目的ならば当然の思想ではある事にも留意されたし。
「リアスに加えてセラフォルーのコレまでの成果から、四方八方に喧嘩を売っている様な状態、か」
「……転生悪魔の問題もあります。悪魔陣営は兎も角、された方は堪ったモノでは無いのは明らか……日本神話もその件に関しては厳しい姿勢である事は確かと言えるでしょう」
「……弱ったな。この状況で会談を成功させるのはほぼ不可能な気がして来たぞ」
——その癖、『祟り神』は会話が成り立たない。戦争するしか無い、と言う姿勢だろう。怒れる神を相手に悪魔は何処まで持ち堪えられる?魔王や大王家は何処まで楽観視なんだ……。
「ライザー様、向こうの要求を大部分を呑んだ上で進める他に無いでしょう。セラフォルー様は『相互理解』とは言いますが……セラフォルー様自身が何も理解出来て居ない以上、詭弁と捉えられかねません」
「……だよな。状況柄、大半の貴族悪魔がヤラカシタのが大きな要因だからな。コレを踏まえると他の勢力も動く可能性がある」
悪魔による転生悪魔の量産の被害。それは日本神話だけじゃない。他の勢力も黙って見ているか?いいや、何かしらの形で動く可能性が高い。何せ発端は自分達だ、言い逃れは出来ない。開き直れば、最悪の場合、全方位に敵を回して悪魔は燼滅される事だろう。
「……既に日本神話陣営を怒らせている以上、苛烈な姿勢を強いられる事は確実でしょう。そして私達が相手せねばならぬのは『祟り神』……」
燼滅、破壊、滅亡の権化、会話が成り立たない殺戮者、皓咲 狐花。シトリーは会話が出来ないと言われている。
「どうしたモノか。考えても良い手が浮かばない」
その時、天井付近に転移魔法陣が現れて小さな影が2つ、降って来た。
「い、痛った〜い‼︎」
「な、何とか帰って来れたぁ……‼︎」
「ニィ、ミィ……? お前達、何処に行っていたんだ? それに転移魔法陣を天井に広げるモノじゃ無いぞ?」
「あ、ライザー様‼︎ ライザー様‼︎ 聞いて聞いて‼︎」
ニィとミィの双子の眷属がライザーにある報告をする。それは情報が少ない『祟り神』狐花に関する情報。八方塞がりに近しい状態の中、自分達も何かの役に立とうと双子は危険を承知で顕界の狐花の様子を偵察に向かったと言う。その危険な真似をした事を知ったライザーは頭が痛いのか呆れる。最も五体満足で帰って来れただけ僥倖。悪魔を見れば惨殺が必定、見敵即死の狐花を相手に何とか逃亡に成功した。
そして、その戦果としてある情報がライザーに齎された。
・皓咲 狐花は自分の意思では無く『あの人』の為に悪魔は愚か人間も鏖殺する。
・『あの人』は悪魔と人間の全て激しく憎んでいる。
・『あの人』は死亡している。原因は悪魔、神、人間にあると言う。
・皓咲 狐花は悪魔を滅ぼさないと気が済まない。『あの人』がそう願ったから叶える為に動いている。
・総評して皓咲 狐花の言動の原因は大部分を悪魔が占めている。故に会話が成り立たない。
「……全くお前達……‼︎ そんな無茶をしろと俺は命令した覚えは無いぞ……‼︎ 最悪の場合、死んでいたかも知れないんだぞ‼︎ コレはレーティング・ゲームじゃ無いんだ‼︎ 死んだらそれこそ本当に死ぬんだ‼︎」
ライザーは双子に叱る。ライザーは犠牲を伴うサクリファイス戦法を使うが、それはレーティング・ゲームでの話。今回の一件はゲームじゃない。故にそんな真似をするんじゃない、と叱る。
「「ご、ごめんなさい〜……‼︎」」
「……しかし、命懸けの結果はあったか、喜んだら良いのか分からないな」
「はい。少なくとも『祟り神』の心情の一部が理解出来ました。故に突破口が見えて来ました」
「本当か? 俺も同じかも知れんが、話してくれ」
美南風は双子が齎した情報を汲み突破口が見えて来たと告げる。その事はライザーも浮かんでは居る。
「……『祟り神』の怒りの原因が『悪魔』にある。コレは宜しいですね?」
「ああ、人間達の諍いで悪魔に八つ当たり、と言う単純な話では無かろう。心当たりがあり過ぎるから其方の件であると考えるのが妥当だ」
「はい。ともなればその悪魔に『祟り神』の身内が殺されたが原因で死んだ。その仇討ち……しかし、相手が分からないが故に全員纏めて滅ぼせばその相手も殺した事になる……復讐心と私は考えます」
「……そうか。俺もそう考えた。『祟り神』は悪魔に復讐しようと考えている。ならば会話をしようとしないのも納得だ。悪魔が憎悪する相手ならば会話する理由が無いからな。もしかしたらその相手が復讐の相手、かも知れないからな。疑い始めたら中々、拭えん」
復讐。美南風とライザーは狐花の行動の根幹が其処にあると考えた。その心は壮絶なモノになる事が多く剰え『悪魔』全てを滅ぼす勢いともになると相当な憎悪となる。途方が無くともやり切ると覚悟している時点で異常だ。
「……かと言ってみすみす殺されてやる訳には行かない。と、なると……」
——少なくとも『祟り神』の怒りを鎮める事は出来なくとも逸らす事が出来なければ降り掛かるのは破滅だ。ソイツの行動が原因で悪魔全体が被害を被る訳には行かんだろう。
「……その原因を作った『悪魔』を見つけ出して『祟り神』に突き付けて復讐心を解消する他にありませんね。どの道『祟り神』を説得出来なければ日本神話陣営の主宰神にも面会が叶いません」
狐花が『祟り神』と化した原因を作った悪魔を見つけ出して突き付けて『コイツが原因だ』と告げ他の悪魔は無関係だと弁明する他に彼女の憎悪を解消させる方法が無い。
「……だが、どうやって探す?」
——悪魔と一口に言っても純血悪魔かはぐれ悪魔か転生悪魔か分からない。分からないからこそ、見境なく殺そうと考えるんだろう。純血の悪魔の場合、純血悪魔の存続の問題上、話はそう簡単なモノでは無くなる。その癖『高々、マイナーの弱小神話風情が』と言う偏見があって事は上手く運ばん。
どの道、その悪魔を犠牲にする必要がある以上……魔王様達は恐らく納得しないだろう。転生悪魔だった場合、はぐれ認定して突き付けるだろうが……それで話が収まってくれるかどうかも分からん。
「それ以前の問題として、『祟り神』自体……初手の会話が成立するかどうかも疑問となります」
「だよな。ソーナの話やニィミィの話だと、見つかった途端に襲ってくる始末だからな……どうにかして話が出来る体勢を示さねばならん」
——仮に非武装だと、戦う気が無いだの言っても通じやしない。他の手段を講ずる必要がある。
「ら、ライザー様」
「何だ?ニィ?」
「……な、何かあげたらどうですか? ほら、お菓子、とか……」
「!」
ライザーはその何気ない言葉に天啓を得た気がした。そうだ、何故、そんな単純な事を見落としていたのか。初めて会う相手には手土産の一つや二つ、用意するのは貴族としては礼儀の1つ。何故なら今後とも付き合いがあるかも知れない相手……関係は良好な方が良い。ましてや全くの部外の者なれば尚更だ。
「……ははは、この俺とした事が何故、そんな単純な手段を忘れていたのか……そうだな、相手がどんな奴か分からんが、好きな物を見せれば……気を惹く事が出来るかも知れん」
——どの道、会わないと行けないんだ。やれる事はやっておきたいモノだ。
「しかし、菓子と一言で言っても数多い。それに冥界の菓子が口に合うかも分からん。嫌いな味だとその時点でアウトだ」
「となりますと日本神話陣営の日本のお菓子、となりますね」
「……が、『ビザ』が無い。ううむ、悩ましい事が数多いな」
——……ええい、こうなればダメ元で分家やパイモン家に連絡してデリバリーして貰う他、無い‼︎