「…………」
ライザーが危ない橋渡をしようとしているその頃、首都ルシファード。
「……アジュカ。僕だ、サーゼクスだよ」
その首都には四大魔王の執務を行う為の城が聳えている。三方にはレヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブの城があり首都のその中央にルシファーの城が聳えている。四大魔王が1人、サーゼクス・ルシファーは四大魔王の1人にして友人でもあるアジュカ・ベルゼブブの居城に訪れていた。
『来たか、サーゼクス。扉は開いている』
今日、サーゼクスはアジュカに『見せたいモノ』があると言う連絡を受けて仕事の合間の時間を設けて訪ねて来たのである。扉を開けた先はアジュカが作り出した新しい部屋。
「ヤッホー☆ サーゼクスちゃん、こうして会うのは久し振りねー☆」
其処にはセラフォルーの姿も存在していた。彼女もまたアジュカに呼ばれたのだろう。何時も軽いノリであった。
「一応、ファルビウムも呼んだけど……何時もの様に怠けて来なかったよ」
部屋の中央付近にてサーゼクスを呼んだ張本人であるアジュカ・ベルゼブブがそう伝える。四大魔王が一堂に会する機会は早々に無いが、こう言う所なのだろう。
「それでアジュカ。見せたいモノとは何だい?」
サーゼクスは本題をアジュカに訪ねる。仕事があるが故に積もる話もあるのだが、コレでも合間を縫っている。要件を済ませたからでも遅くは無い。
「……ああ、コレを見てくれたまえ」
アジュカは自身の背後に聳えるモノをサーゼクスとセラフォルーに見せる。それは白い光を放つ機械の様な代物。円柱状であり見かけだけでは培養槽にも見える。
「アジュカちゃん☆ サーゼクスちゃんが来たら説明すると聞いたけど、アレは何かしら☆」
「簡単に言えば転送装置だよ。セラフォルー」
——転送装置? 転移魔法があるから態々、大掛かりな装置を用意する必要があるのかい? 一度に大量の人数やモノを転移させる事が出来る。
「サーゼクス。疑問かい?」
「ああ、そうだね。転移魔法があるのにその様な装置を作り上げる意図が、ね」
「コレは次元を超える転送装置だ。この世界には冥界や冥府、人間界、天界……複数の界がある。だが、我々の常識と異なる……それこそ『異世界』の存在があっても不思議じゃない」
「つまり、僕達が全く知らない世界と繋げる為の装置と言いたい訳かい?」
サーゼクスの言葉にアジュカは頷いた。流石の転移魔法であっても全く異なる次元の先にある異世界にまでは転移する事は出来ない。
「わぁ、凄いわね☆ 異なる世界の人とも仲良くなりたいわね☆」
——可能ならば交流を持ちたい。そうすればお互い有益な関係になる筈だろう。だが、問題は山積みなのは確かだ。タダでさえ三大勢力でも和平にまで至って居ない。
「……アジュカ、大丈夫なのかい?」
「サーゼクス、君の心配も分かる。一応、試運転と言う形だ。何分、私も初めての試みだ。上手く行く保証は無い」
アジュカもこの試みが上手く行く保証は無いと見ている。しかし試す価値はある。
「……仮にもその異世界が私達にとって有害な存在が居るかも知れない。故にその場合、君達の助けが必要かも知れない」
——冥界と異世界が繋がった時、何が起こるか分からない。試運転とは言うけど、何かの拍子でナニカが来てしまうかも知れないと言う訳か。
「成程、何が起こるか分からないと言う事だね」
「ふふん☆ 私とサーゼクスちゃんが揃えば怖い物は無いわ‼︎」
「……ああ、では始めよう。流石に現段階では何処に繋がるか分からない。分からないからこそ面白いとも言うだろう?」
アジュカは転送装置を稼働させる。装置の柱から眩い光と虹色の雷光が溢れ出して行き装置全体がガタガタと震えて行く。その光の強さにサーゼクスとセラフォルーは腕で目を覆う。
「あ、アジュカ⁉︎ だ、大丈夫なのかい⁉︎」
「ちょ、流石にヤバく無いかしら⁉︎」
「私の計算ではまだ許容範囲内だ。安心してくれて良い。本当に危ない時は破壊してでも止める‼︎」
アジュカの言葉とは裏腹に転送装置自体が煙を上げ始めた。今にも爆ぜかねない程の勢いとエネルギーが集まり始めて居る。
「……世界と世界が繋がる……‼︎」
アジュカがそう告げた直後、転送装置の各所が爆ぜて破片が吹き飛ぶ爆轟が響き渡った。
「アジュカ⁉︎」
見事な迄の大破。爆轟と共に爆ぜ飛んだ装置の残骸が部屋中に飛散する。高負荷に耐えきれず転送装置自体が自壊してしまい煙が濛々と立ち込めている。
「……大丈夫だ。そうか、世界に満ちるエネルギー自体に装置が耐え切れなかったか。コレでは転送自体難しいな」
世界と世界を繋げる際に生じるエネルギーに転送装置自体が耐え切れなかった。この点はアジュカの想定以上の結果であった。
——良かった、無事だったか。アジュカが1番前に居たからな。もしもの事があればと思っていたが杞憂に終わって良かった。
「っ‼︎ サーゼクスちゃん、アジュカちゃん‼︎ 誰か居る⁉︎」
「「⁉︎」」
その時、セラフォルーは気付いた。自分達以外の誰かが居る。濛々と煙が立ち込める転送装置の残骸の方角。煙に巻かれて人影が見えた。
「奇妙、な光、が見えた、と思えば、異なる、界……」
声が聞こえた。辿々しい発音の幼さが残る声。高い声、それは幼い子供の様だが、危うさを抱かせる。
——……こ、子供……?
煙が立ち込める場所から跫音を鳴らしながら現れたのは幼い子供であった。
ダボダボでサイズの合っていない白衣を羽織りその下に紫色と白色を基調とした服を身に纏っている。だが、その服は彼方此方が返り血を浴びた様に赤い色やピンク色が混ざりあって黒く汚れて居る。その基盤の服装で唯一、一点だけ緑色の六角形のエンブレムの様なモノが余計に眼に付いた。
色素が完全に抜けて溶け逝きそうなまで穢れ無き煌めく白銀の長い髪は左右に枝分かれている。その髪に黒ずんだ天蓋花の髪飾りを付けているのも目に付く。
その双眸はまるで碧玉を嵌め込んだ透き通るかの様に蒼い双眸。その表情は凍えているが如く無表情である幼女と言っても大差ない小柄な体躯。もし、此処にリアスやソーナが居たら『皓咲 狐花』と見間違える程に顔立ちや体躯が酷く酷似した姿をしていた。違いが有れば髪の長さと色と服装。
「……ッ‼︎」
——見た目は至って普通の人間の幼い子供に見える。だが、
その姿を見たサーゼクスは内心、僅かに揺らいだ。幼い子供……ではあるが、転送装置の後に現れた以上、彼女は『異世界』の存在と考えるのが自然だった。
「何、この可愛い女の子⁉︎ アジュカちゃん、どう言う事⁉︎」
「……世界と世界を繋げた、つまり転送装置の穴を介して……やって来たと考えるのが自然、かな」
アジュカも初挑戦で異世界からの来訪者を見る事になるとは思ってもいなかったのでやや困惑気味であった。
「……と、突然の事態に混乱しているだろうけど、僕達の話を聞いてくれないかな?」
お互い困惑している。サーゼクスもよもや本当に異世界からの来訪者が現れるとは考えて居なかったし心の準備もまだして居なかった。こうなっては意識を切り替えて対話を試みる。
「……随分、拙い、次元跳躍。座標、は、1745,5278,8716.1547,3294,9761って所」
「えっと……?」
幼女は冷静にそう告げる。サーゼクスにはその言葉の意味は分からない。少なくとも悪魔の特性でもある言語は異世界からの来訪者である彼女にも伝わっている、様だ。
「初めまして‼︎ 私はセラフォルー・レヴィアタンよ‼︎ 貴方のお名前は?」
其処へセラフォルーが前に出て幼女の手を取り名前を名乗る。
「大気素性が、異なる。人間、では、長期間、保存、出来ない、だろう」
が、本人はセラフォルーの言葉をオールスルーして周囲を観察している。セラフォルーも眼前に居ると言うのに此処まで綺麗な無視をされるとは思ってもいなかった。
「……ん?」
其処で幼女はサーゼクス達の存在概念に気付いた。
「人間?いや、違う……」
「や、やぁ。君は自分の世界に呑めり込むタイプらしいね。此処が何処だか分からないだろう? お互い、分からない事だらけだろうし……話をしてみないかい?」
幼女はサーゼクスが人間では無い事を初見で看破した。口調は辿々しい程に幼いのにも理解出来ない状況である筈なのに物怖じしない。サーゼクスも目の前の幼女は唯の幼女では無いと考えて相対する。
「状況、把握。受けて、立つ……‼︎」
——言葉の使い方は微妙に違う気がするけど、少なくとも敵対する意志は無さそうだ。流石に幼い子供を殺す気にはなれない。
サーゼクスの提案に幼女は受けてくれた。こんな荒れ果てた有様と化した部屋から移動して来賓室に案内してサーゼクス達は自己紹介してこの世界の事について説明した。そして、アジュカの転送装置の実験により発生させた『穴』を介してやって来てしまった事を話した。
「成程、理解した。悪魔、冥界」
幼女は差し出されたカップを皿に置いて理解したと言う。顔は無表情のままであり喜怒哀楽の概念など無いと言って良い程に凍り付いている。
「……随分と、面白い、実に、興味深い」
幼くとも白衣を羽織って居る事から研究を是とする者と思われる。全くの未知の状況だと言うのに興味深いと言い恐怖の色は見えない。
「……薄気味悪い位冷静ね……。普通、元の世界に帰りたいと思うんじゃないかしら?」
「……研究、なら、何処でも、出来る。研究、対象、が、有れば……何処であれ、どんな、世界、であれ、構わない。元の世界、じゃ、出来ない、事も、別の世界、なら、出来る事もある。何故、気にする?」
「「「……」」」
サーゼクス達は思わず目を見合わせる。目の前の幼女の言葉は合理的。本人は目的の為ならば周りの事を考慮していない。異世界に来たとしても気にしない態度。
「そ、そう?そう言うモノかしらね……?」
「いや、転送装置自体壊れてしまった。アレを創るにも相当な時間が掛かる」
「……あんな、ゴミ。そんな、時間が、掛かるか」
「ブッ⁉︎」
アジュカが莫大な期間を掛けて造り上げた転送装置を幼女は『ゴミ』扱い。その言葉にアジュカは思わず吹き出してしまった。サーゼクスも唖然と言う顔になる。
「技術、速度の、違い、か。仕方ない」
——となると、彼女の元いた世界は相当、技術が進んで居るのか……?
「……え、えっと。君、コレからどうするつもりなんだい?」
差し当たって当面の問題はこの幼女の今後である。此方の都合が原因である為に流石に放置はマズいと考えた。
「……変わらない。研究、するだけ。さて、何を、研究、しようか? いや、悪魔と言う、モノを、初めて見た。それに、しよう」
幼女は獲物を見るかの様な目付きとなってサーゼクス達を見る。研究対象と言う同族以外のモノを見るような目だ。
「ま、マイペースなんだね。君は……」
「じゃあ、腕と、心臓と、脳髄と、子宮と、胚と、筋肉、……面倒、だから、全身、解剖、させろ。先ずは、身体の、細胞、単位、が、人間、や、血式と、どう、違うか、比較、参照、しなけれ、ばなら、ない」
「ちょ、ちょっと⁉︎ やる事がバイオレンス過ぎないかしら⁉︎ と言うか、力、見た目以上に強く無いかしら⁉︎ も、捥げちゃう‼︎ 腕が捥げちゃう⁉︎」
気付けば幼女はセラフォルーの身体を解体しようとしていた。体格差ではセラフォルーの方が上であり尚且つ魔王級だ。対するは人間?の幼女なのだが、力勝負では完全に幼女が勝っておりセラフォルーの腕を根本から捻り切ろうとして居りメキメキと不吉な音が響いて居る。
「ま、待ってくれ‼︎ 流石にちょっと待ってくれ‼︎」
「何を、躊躇う? 魔王は4体、1体、減らしても、問題、無い、だろう?」
「そう言う問題じゃないから⁉︎」
単純な計算。魔王は4体である為に1体、消えた所で支障は出ないと言う合理的な判断。減ったとしても代わりの者を立てるまでに崩れるとは思えない。それで崩れるならばその程度の組織体制であると言う証明だ。
「ふぅん。悪魔、に、仲間意識……。新しい、発見……。思えば、血式、にも仲間、意識があった、のは、当時として、も誤算、だった」
——彼女に取っても僕達『悪魔』は未知なる存在、好奇心を掻き立てるんだろう。何から何まで知ろうとしている……。
サーゼクスが止めた事により幼女はセラフォルーの腕を捻り切るのを止めた。
「……う、生まれて初めて、腕を根本から捻り切ろうとする幼女を見たわ……‼︎ 人は見かけに寄らないわね……」
「……人? ふぅん、君達、ボクが、
——外見上はね。少なくとも人間には見えないかな。悪魔を名乗っているんだ、人の姿をした別種の者なんて多数存在している。きっと彼女も幼女の姿をしていて本来の姿は全く異なっていても驚きはしない。
「ふむ。研究、するには、身近で、観察する、のも、悪くない。決めた、暫く、此処に、滞在、しよう。研究対象、は近くに、あるのが、良い」
「あ、あはは……研究対象、か。其処は友人って言って欲しかったな……」
幼女の中では研究対象かどうかの認識でしか無いのだろう。
「と、所で貴方の名前はまだ聞いて居なかったわ」
「名前? レーキュ、いやギルガメシュ……まぁ、好きな、方で、呼べば、良い」
「……レーキュ?ギルガメシュ?」
——どう言う意味だろうか? 二つの名前を持っている、と言う事かな?
「じゃ、じゃあ、レーキュって呼ばせて貰うわね‼︎」
「……そ。レーキュ・ウェィメレン・ツィオーネ。其方が本名……」
幼女はレーキュと名乗った。一先ず彼女は暫くは冥界に居るつもりらしい。悪魔を研究すると言うが見た感じかなり荒っぽい真似をしそうで不安にもなる。
「……君の話も聞かせて欲しいね。その異世界の事とか、ね」
「面白く、無い、話。話す、価値は、無い……」
「……いや、君がそう思っても私達にとっては興味深い話になるかも知れない」
アジュカは異世界の存在について興味深々でありその生き証人であるレーキュの話を聞きたいのだ。そもレーキュ本人は短い交流ではあるが余り自身の事を話そうとしないタイプにも見える。
「唯の、御伽噺。それだけ」
レーキュはそう告げて立ち上がる。
「ちょ、何処に行くんだい?」
「言った筈。研究、は、何処でも、出来る」
「いやいや冥界と言っても貴族達の領土がある‼︎ 其処で派手にやらなくとも問題になるからせめて、指定した場所でやってくれないか⁉︎」
セラフォルーに対する行動からして自分で研究対象を調達(と言うか殺害)しかねない。魔王を腕力で抑え込めるのだから並の上級悪魔でも分が悪くなる。そもそもレーキュは唯の人間とは思えない故にまだまだ何かを隠していると考えて当然だ。
「……人間、みたいな、事を言う。面倒、な事。悪魔、名乗る割、には、人間、臭い……」
レーキュは興味深そうにサーゼクスを見ている。まるで人間の様だとも評した。
「いや、普通……そうだと思うのだけどね」
——彼女、どんな環境で生きて来たんだ⁉︎
その後、サーゼクスの説得で取り敢えずはサーゼクスが用意した地域に滞在する事を納得してくれた。そして悪魔であるが故に眷属としても勧誘したのだが。
『ボクは、流浪。1箇所の、世界に、留まる、つもり、は無い。
との事で断られた。レーキュはこの冥界に定住する気は全くなくコレまでも同じ理由で渡り歩いて居る様だ。サーゼクスやセラフォルーも自身の妹の眷属候補と考えたが、本人が認めない上に何れはこの世界から去る事は既に決めていた。つまり、レーキュは自力で他次元に渡る術を持っていると言う事。引き留める事は不可能だと判断したサーゼクスはその間は味方であって欲しいと願い出た。
『その程度、なら、良い。研究、出来れば、構わない』
その返答を聞いて安堵し一先ず引き退る事にした。何はともあれ、味方は多い方が良い。そう、サーゼクスは判断したのであった。
一先ず、アジュカはSS級戦犯。